王と音 作:リル
アルフィアは準備を整えてベルと別れを済ませた。
とはいえ約2週間ほどで帰れるのだが。
クロノス、ジン、アルフィアはオラリオの外へと出た。
しばらく歩くとクロノスから今回の目的を話された。
「今回、私はアルテミスを救わねばならない?」
「アルテミスを救う?話の意図が読めないぞ。」
「そうであろうな。ジンは知っているが私は時間の神であり、この外界でも少し先の断片的な未来を見ることが出来る。」
ジンはそうだなと頷いているが、アルフィアにとっては初めての話なので驚いている。
「クロノス…貴様、未来が見えるのか!?」
「断片的によ。それも都合の良いものでは無いぞ。見たいときに見たいものを見れるものではない。眠っているとき断片的な未来が見えてしまうことがある。」
「今回は何を見た?」
ジンの問いにクロノスは少し複雑そうな顔をしていた。
それほどまでに今回の未来は良くないものだったらしい。
「アルテミスを知っているだろう。」
「ああ、知っている。」
神アルテミス…オラリオの外で活動する【アルテミス・ファミリア】の主神で、モンスターを相手にした狩猟を生業としている。
弓矢とナイフの名手で、神でありながら自身も眷族の【アルテミス・ファミリア】のメンバーと共に前線で戦っているものである。
「アルテミスは太古の蠍型魔獣『アンタレス』に喰われてしまい、魂と能力のほとんどを奪われていた。そして、アンタレスは『神の力』を行使し、空には無数の魔法陣で作った『アルテミスの矢』を下界に向けて発射しようとしているのを予知した。」
「大事だな。アルフィアを呼んだのも納得のいく話だ。ということは今向かっているところにアンタレスがいるんだな。」
「ああ、アルテミスがやられる前に止めねばならん。それにそれ以上の未来は見えなかったからどうなったかは分からぬしな。止めねばならない必ず!」
いつになく真剣な表情をしているクロノス。
それほどまでに今回のことは重要だとアルフィアとジンは悟った。
「場所はエルソスの遺跡。そこにアンタレスは封印させれている。」
三人はアルテミスを守るためにエルソスの遺跡へと向かった。
ーーーーーーーーーー
一方のベルは輝夜と訓練していた。
二人共、剣を持ちぶつけ合っている。
「ベル、レベル2とは思えないくらい強いぞ!」
「あ、ありがとうございます!」
しばらく、打ち合うと二人は休憩を始めた。
ベルは輝夜に後ろから抱きつかれている。
「あの…輝夜さん…その…この体制は///」
「嫌か?」
「嫌じゃないですけど…その、僕、汗かいてますし、臭うかも…」
少し照れているベルに輝夜は微笑ましいと思う。
そして、ベルの匂いを嗅ぎ出した。
「特に匂わんぞ。それに汗をかいているなら私もだ。なんなら、匂うか?」
「い、いえ!結構です!」
「なんだ、なんだ。私は臭いと言うことか?」
ベルに悪気は無いと知りながらも少しからかうように言う輝夜であった。
ベルはからかわれてるとも知らずに必死に弁明するのであった。
「い、いや違います!その…女性の匂いを嗅ぐなんて少しためらうっていうか…」
「私は気にしないぞ。」
「で、でも…」
「あ~あ、ベルはそんなに私の匂いを嗅ぎたくないのか。少し傷ついてしまうぞ。」
いかにもわざとらしく言う輝夜。
しかし、ベルは本当に輝夜が傷ついてしまうと思い輝夜の匂いを嗅ぐ決意をした。
「わ、分かりました。その…失礼します。」
クンクンとまるで犬のように匂いを嗅ぐベル。
輝夜は命じておいて少し恥ずかしくもなっていた。
それと同時にベルがとても可愛く思えている。
「どうだ?」
「とてもいい匂いです。なんというか、お義母さんと違ってどこか気持ちの良い匂いです。」
正直な感想を言うベルに輝夜はとても恥ずかしくなり、柄にもなく顔を赤くしている。
ベルも発言したあとに自身がとても恥かしいと言ったことに気づいて顔を赤くしている。
「そ、そうか///」
二人は少しの時間くっついた状態で過ごすのであった。
それを見たリューは羨ましがるのであった。
次の日、アストレアとヘスティアは神会へと行っていた。
『神会』
それは神々の情報け共有の場であり、ファミリアやギルドが提携して都市全体を巻き込む催しである。
そして、今日は冒険者の二つ名を決める場でもあり、ヘスティアは覚悟を決めた顔をしてやってきた。
だが、その場は混沌としており、ヘスティアは隣りにいるアストレアと神友のヘファイストスと共に呆れていた。
「さて、次は命名式の時間やで!資料は行き渡ってるな!トップバッターはセトの所のセテュっちゅう冒険者からや!!」
お手柔らかにと言うセトを無視して神々たちは酷いセンスの二つ名を与えるのであった。
神々から与えられた二つ名とは強さと名声の象徴であるが、神々のセンスはとても酷いものである。
「決まった。セトのところの子は【暁の整竜騎士】!」
『イテェェェェェ!!!』
そして次から次へとレベルアップした冒険者たちの痛々しい二つ名が決まっていった。
アイズ・ヴァレンシュタインの二つ名も好き勝手に決められると思いきやロキのドスの効いた声に神々たちはビビリそのままにしておこうということになった。
「次が最後やな。二つ名決める前になぁ、ちょっと聞かせろや!約一週間で『恩恵』を昇華させるちゅうのは一体どういうことや?」
「(ギクッ)」
ヘスティアとは仲が悪いロキは詰めいるようにヘスティアに言った。
ヘスティアもレアスキルのことを言うわけにはいかないと黙っている。
それからもロキの問答は続いたがアストレアと珍しくフレイヤが庇ったことにより事なきを得た。
フレイヤは場を収めて出て行った後、ベル・クラネルの二つ名【リトル・ルーキー】が決まった。
数日後、ベルはアリーゼ、ライラ、リリルカと共にダンジョンへと向かった。
本当はベル、アリーゼ、リリルカだけで行く予定だったが、ベルに何をするのか分からないのでライラが見張ることになった。
「ったくよ…団長、ベルに変なことはするなよ。」
「しないわよ!」
「変なことって何ですか?」
ベルは本当に分かっていないらしく、ライラは教えようか教えまいか悩んでいた。
教えれば後でアルフィアに怒られるのは確定であり、教えなければベルが知る前にアリーゼ、輝夜が襲う可能性がある。
ちなみにリューは暴走してそれ以上のことをする可能性がある。
故にライラはとても悩んでいた。
「今度…アルフィアさんにでも教えてもらえ。私の口からは言えねぇ。」
「そ、そうですか。」
四人はダンジョンへと向かおうとするが、ガネーシャ・ファミリア団長のシャクティ・ヴァルマに引き止められた。
「ちょうど良かった。アリーゼ、ライラ少し手伝ってくれないか。下水道に謎のモンスターが出ていると通報が入った。ガネーシャ・ファミリアの団員たちは出払っていてアストレア・ファミリアに要請しようと思っていたところだ。」
「そういうことなら分かったわ!ベル、リリルカ、あなたたちは一旦帰ったほうが良いわ。」
「大丈夫ですよ、そんなに深く潜らないですから。」
ベルの強さならほとんど問題無いだろうと考えた二人はベルとリリルカだけでダンジョンへ行くことを許可した。
「くれぐれも無茶なことはしないようにね。」
「はい!」
それからベルとリリルカはアリーゼたちと分かれてダンジョンへと向かった。
ベルの成長スピードは目を見張るものがあり、上層のモンスターなど敵ではなかった。
ダンジョン中層に入るところで一人の男がソロで戦っていた。
不器用ながらも必死で戦っている男だったが、モンスターに後ろを取られた。
避けるのが間に合わず、ダメージを負うところをベルが庇いモンスターを倒した。
「悪い、助かった。」
「いえ、怪我が無いようで良かったです。僕はベル・クラネル。ヘスティア・ファミリアです。」
「同じくヘスティア・ファミリア所属のリリルカ・アーデです。」
「俺はヘファイストス・ファミリア所属のヴェルフだ。」
自己紹介が終わり、話をした三人はパーティを組む話になった。
ベルとリリルカは特に問題なく、ヴェルフも願ったりかなったりの事だった。
「いや~助かったぜ。ここから先一人で進むのはしんどかったからな。それよりもベルの剣は誰が作ったものなんだ?」
「これはお義母さんが買ってくれたものだよ。確か…3億ヴァリスしたとか…」
「3億ヴァリス…すげぇな。」
それから3人は先へと進んだ。
進んだ先にはタケミカヅチ・ファミリアの者たちがモンスターに囲まれており、ベルたちを見つけると『怪物進呈』を仕掛けてきた。
ベルたちがモンスターの相手をしているうちにタケミカヅチ・ファミリアの者たちは地上へと逃げた。
普通ならベルたちは全滅してしまうが、ベルたちは全滅していない。
逆にモンスターたちが全滅した。
「お前ら…めちゃくちゃ強いな。本当にレベル2とレベル1か?」
ヴェルフはベルの強さとリリルカの強さに感服していた。
特にベルはモンスターたちを瞬殺しており、下層でも問題無いと思えるほどだった。
「大げさだよヴェルフは。」
「リリはともかくベル様の成長スピードは恐ろしいです。」
ベルとリリルカはアルフィアに訓練という名の地獄を味合わされており、そこら辺の弱いモンスターに負けることは無い。
3人はそのまま18階層へと向かい休憩をした。