【修正中2月25日】オラリオで聖者(アバタール)は何を導くのだろうか   作:Cran

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第8話

 

 ――あの子?

 そうね、あまり伝えたことはないけど、大切な仲間の1人で、それからわたしたちの恩人でもあるかしらね。

 あ、一応、ちゃんといってはいるのよ、わたしたちを、ファミリアを守ってくれてありがとうって。あの子がいなかったら、今ごろどうなっていたことかわからないもの。

 でもね、あの子、そういうの苦手みたいで。照れ屋さんなのよね。きっと。

 そういえば、街ではぐれちゃった子とお母さんをあわせてあげられたときもそうだったわね。本当、面白かったのよ。お礼をいわれたら顔を赤くしちゃって、あたふたしていたの。

 見た目もちーっちゃくてお人形さんみたいだから、ああいうのを見ると安心するわね!

 でも、これは内緒よ?

 多分、聞かれたら怒っちゃうもの。

 

 あ、でも、あれは不思議よねえ。

 単なる魔法とかじゃなくって、黒真珠とか薬草とか、秘薬ってあの子はいっているけどそれを使った奴よ。

 わたしも教わってやってみてるけど、10回中9回は失敗するわ!

 

 ……なに、輝夜、慣れてもいないのに最高くらいの術に挑戦するからそうなるって?

 いいじゃない、自費だし。

 んん、ブシューっていう煙が出る以外何も起きずにほうける団長を見るのは気が滅入る?

 

 ……。いうじゃない、じゃあ輝夜はどこまでできるようになったのよ。――え?

 

 ファイアーボール(Vas Flam)ができたって、うそぉ、本当? アストレア様、それ、ああ、本当なんですねわかりました。

 まだ全然そこまでいけないわよ、なんだかんだいって秘薬って高いもの。

 

 黒真珠なんて白いのと比べたらさっぱり売れないらしいからすっごいやすく買えるけれど、たとえばナイトシェードは夜にしか花が咲かないし、基本は沼地に生えるし、調達するとなると結構かかるのよねこれが。

 

 あ! 意外と考えているって思っていそうな顔してるわねっていうか「意外」って今まっすぐにいったわよね!? ……もう、これでも団長なのよ?

 

 そりゃあ、ライラとかと比べたら、出来が悪いにも程があるでしょうけどぉ?

 ああ、うん、別にいいの、足りないからみんなで集まって助け合うのがあうのが家族だもの。

 

 ええと、なんだったかしら。

 ああ、そう。

 

 あの子が作ってる菜園で大体はまかなえているけど、輝夜みたいにしっかりあの魔法を使いこなせる子が増えるならいいわね。

 

 ……って、何かしら、輝夜。

 

 えっ。黒真珠と硫黄の灰の調達が急務?

 

 ――あ、栽培できないから?

 ああ、用途はたくさんあるしって、それだけじゃなくって、ありったけをうちが買い占めた感じになってる?

 

 あー……。

 

 確かに、勝手に増えたりしてくれないわよねえ……。真珠だもの、海よね、真珠だもの。栽培……難しいわよねえ……。訓練用に買えるだけ買ったのはまずかったかしら……。

 

■□■□■□■□■□■

 

 さてさてそうしたわけで連れてこられて参りましたダンジョン。その目前でカテリーナさんが荷物袋を漁っている。

 

「あのー?」

「あ、そうですね。ご存知ないのは当たり前です。わたしは魔法に秘薬を使います」

「秘薬?」

「薬草とも呼ぶ場合があります」

 

 どこからどう見ても、一般的な薬草とは違いそうだ。秘薬と呼称していたあたり、医療系ファミリアが使うようなものに似ているのだろうか。

 少し黒真珠や何やらを弄っていた女性は指先につまんだ微量の粉末を見せてくる。

 

「これは、硫黄の灰です」

「灰、ですか?」

「これも秘薬の一つです」

 

 秘薬なら分かるけど薬"草"じゃないよね。とはいってはいけない気がしたベルは口をつぐんでいる。

 

「で、こうします」

「へ?」

 

 灰をつまんだ指先をかかげての一瞬の発語。

 

マジック・アロー(In Por Ylem)

 

 瞬間、砲弾のような力の塊がカテリーナの手から飛び出して、ダンジョン入口の壁を穿つ。硫黄の灰はさらさらと存在を喪って崩れていく。

 

「まあ、これがわたしの魔法と思っていただければ。他にも色々とありますが、サポーターとしては早々遅れは取らないかと」

「いえ……その、十分すぎます……」

 

 サポーターとして役割をあてるには定義が違うのではないかと思うものの、まあ、援護に徹する役割を担う役とするならば、といわれたものと受け取って頬をかく。

 

「?」

 

 首を傾げるカテリーナだが、彼女はあまり特別性を理解していない。

 オラリアの多くの魔法と比べて地味だなくらいに感じているフシもある。

 

 しかし、オラリオにおいては、マインドに加えて秘薬を消費するという欠点はあれどほぼ無詠唱で無数の魔法を行使できるというのは相当な利点である。

 

 また、まだベルは知らないが、使えるものには治癒や解毒の魔法も含まれているので、それはもう引く手数多という言葉では足りない。そもそも、魔法を発現している冒険者のほうが少数なうえに使えても1つだけというものが大半なのだから。

 

 なお、この秘薬魔法という技能がオラリオの常識から鑑みると相当に異常なものであるにも関わらず特に情報が伏せられてもいないことはいくつかの理由がある。

 

 まず、彼女がいわゆる“異世界転移”でこちらに来てほぼすぐに情報統制などもする暇もなく多数の目撃者の前で行使していたため、統制はとっくに手遅れと判断されたこと。

 

 そもそもとして、あくまで技術であり、個人差はあれど誰でも修練により使えるものであるため、例えばオラリオ以外からの来訪者が独自の業を伝えるのと遜色はないこと。

 

 次に、ファミリアの壁を超えて応援という名目で呼ばれて、頼まれたら断らないでホイホイといってしまう彼女であるが、そうやって色々と呼ばれるのはこの技能の万能性が相当数の冒険者達に利益をもたらすものであること。加えていえば、人格的に闇派閥に与するような人物とは判断できず、却って対抗するにあたって有用な存在であること。

 

 また、主神アストレアから「うちの大切な子を便利屋扱いしてないわよね」「下手なちょっかいもしてないわよね」と笑顔で神々にニコニコと凄むという、余計な手出しへの牽制がされていること。

 

 さらに、彼女の個人戦闘力も高く何かしらの悪意や利益を目当てで狙われる恐れが低いことなどもあるが、肝心の話題の中核である彼女は、そのあたりの大人の事情はあまり知らない。

 

 他にも、既に9つの魔法を操るハイエルフや理論上は無限の魔法を操るエルフなども存在しているため今更感もあることや、基本的には大規模破壊を起こせるようなとんでもないものがいることも理由に含まれているだろうか(えげつない使い方は可能だが)。

 

 と、諸々と理由をあげたが、みんないきいきと秘薬魔法を使いこなしながら“善行”をする彼女の邪魔はあまりしたくない。と、そう思わせてしまうくらいには誰も彼もから愛されているアバタールであるといったことも一因ではある。ただし、技術の不用意な拡散は闇派閥を含む諸々への情報漏洩にも繋がりかねないため、一定の制限は下された次第だ。

 




6/10
末尾での秘薬の魔法の制限部分の文章を追記修正しました。あと輝夜さんの使える秘薬魔法を変更。
「同じファミリアとはいえこの技能広めちゃってもいいの?」とかもつけようかと思いましたが、冗長になりすぎす気がしましたので今のところは入れていません。

オリキャラをあと1人くらい入れてもいいかなって思っていますが、いらないひともいるかなと悩んでいます。ストーリー上としては必須ではないですが、

  • 入れてもいいんじゃない?
  • ないほうがいいかな?

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