シェアハウスのオーナーだけど、入居者が揃いも揃っておかしい   作:鳩胸な鴨

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ただし見習い


おっさんのケツ叩きに負けた神様

「……十万五千か、今月」

 

やばい。シェアハウスの条件が怪しすぎて、稼ぎが出てない。

正社員時代よりもちょっと少ない。…そう考えると、前の会社碌でもねぇな。

入居者をもうあと3人、いや、5人くらい増やしたいものだが。

そもそも、15人くらいの入居を考えて作ったクソデカシェアハウスに、3人しかいないのもまずい。

流石に条件を見直してみるか。

そんなことを思っていると、ぴんぽん、とインターホンが響いた。

 

「はーい」

 

入居希望者かな。

ロクちゃんの前例もあるけど、この際イロモノでもいい。

頼むから、人増えてくれ。

月収十万五千円はやばい。もろもろ引かれるから、もっと低いけど。

私のそんな祈りは、届かなかったのだろう。

扉を開くとそこには、普通の男性と、その娘であろう童女が佇んでいた。

 

「すみません、隣のシェアハウスに入居したいのですが…」

「……ああ、はい。

入居前に簡単な説明だけさせていただくので、どうぞお上がりください」

 

見たところ、親子か。

子連れの場合も、一律三万五千円で通してるから、2人分のお金は取れないなぁ。

まあ、人が来ないよりはいいか。

そんなことを思いつつ、私は2人を家にあげ、リビングへと案内する。

2人をテーブルに座らせると、私はその向かい側に座った。

 

「入居したいとのことでしたが、身分証明書と申請書はお持ちでしょうか?」

「あ、はい。2人分あります」

「では、確認させていただきますね」

 

ふむ。男性の名前は、堂島 マサユキ。今年で16歳の男子高校生。

……どう見ても28歳のおっさんくらいの貫禄があるんだけど。

私が前職で世話になった先輩にそっくりだ。一年経ったら転職してたけど、元気にしてるかな。

そんなことを思いつつ、私は童女の方の資料に目を通す。

名前は天目 チサ。同じく今年で16歳の高校生…。

 

「…年齢詐欺?」

「「マジです。これ、学生証」」

「手慣れてるね。…谷島中央高校か。

入居理由は、学校が近いのと、家賃が安いから?」

「違いま…」

「はいっ!そんな感じです!」

 

男の方。今、誤魔化したな?

黙ったまま余計なことされるのも面倒だし、今のうちに聞き出しておこう。

私は前職で培った「明らかブチギレてます」とアピールするように眉間に皺を寄せる。

 

「本当のこと言ってみ?」

「あ、いやぁ…、そのぉ…」

「犯罪者でーすとかでもOKだから」

「それいいんですか!?」

 

いいわけあるか。でも、そのくらいなりふり構ってられないんだよ。

月収十万五千な上、住んでるのがイロモノばっかなんだぞ。

選り好みしてられる立場じゃないんだよ。

最悪、やべーサイコパスでも、魔王、勇者、アンドロイドが居ればなんとかなるだろう。

そんなことを思いつつ、私が圧を送ると、天目さんが口を開いた。

 

「大家さんもこう言ってるんだし、隠す必要ないわよ」

「や、でも…」

「大家さん、驚かないでね?」

 

天目さんが笑うと共に、めぎっ、と何かがはち切れるような音が響く。

私がそれに疑問を抱くや否や、天目さんの体が解けるように、姿を変えていく。

大きさは人に近いものの、そのシルエットはまるで別物。

びっしり並んだ鱗に、爬虫類を彷彿とさせる鋭い目。

牙の間からは、蒸気のような呼吸が漏れた。

 

「私、ここの土地を管理してる龍神なの」

 

その姿は、まさしく龍だった。

嘘だろおい。ついに神様来ちゃったよ。

私が呆れか驚愕かもわからない感情に苛まれていると、天目さんは続けた。

 

「なんか、やたらめったら龍脈を掻き乱す輩がいるって報告が上がっててね。

その調査のための拠点が欲しかったの」

「…………」

 

めちゃくちゃ心当たりある。

魔王、勇者、アンドロイド。

どれかはわからないけど、確実にあの3人のうちの誰かなのはわかる。

…いや、最悪の場合、全員かもしれない。

アンドロイドと魔王なんて、並行世界の監視とか言ってやらかしたばっかだし、龍神様の地雷原でタップダンスをかましててもおかしくない。

どう説明したものか、と考えていると、マサユキくんが口を開いた。

 

「住人の方には迷惑をかけません。

どうか、住まわせてくれないでしょうか?」

「……わかりました。入居を許可します。

部屋を壊すようなことはしないでね?」

「もちろんです」

 

だめだ。考えたけど、思い浮かばなかった。

面倒なことになったなあ、と思いつつ、私は書類に印を押した。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「どういうこと!?

あそこにいる全員が龍脈めっちゃめちゃにしてんだけど!?」

 

翌日。私の家に押しかけた天目さんが、ばんっ、とテーブルに手を叩きつける。

私は遠い目で、心に秘めた言葉を口にした。

 

「知らんがな」

「知らんがなて!!」

 

だって、本当に知らないし。

そもそもの話、魔王と勇者は無自覚でやってるだろうし、アンドロイドの方は仕事でやってる可能性が高い。

それを止めろと言うのもおかしな話である。

そんな態度が不服だったのか、彼女は声を張り上げた。

 

「大家としてガツンと言ってよ!

私が言っても、『なんかピーピー言ってるなあ』で終わるのよアイツら!!」

「そんなことで止まったら、こっちも苦労せんわ」

「アンタ人間よね!?

龍神にそんな口聞ける立場!?」

「種族の違い云々の前に、私はアンタが寝床にしてるシェアハウスの大家ですが」

「すみませんナマ言いました!!」

 

口論弱っ。神様がこんな無茶苦茶な理論で言い負かされんなよ。

綺麗な土下座をかます彼女を前に、威厳もへったくれもないなと思っていると。

側に控えていた堂島くんが、声を上げた。

 

「あの、すんません…。

龍脈がマジでしっちゃかめっちゃかになってて、このままだとまずいんですよ」

「まずいって?」

「えっとですね、会議が近くて。

ちょっとでも改善してなかったら、チサ様が上司から嫌味全開で詰められるんですよ」

「神様まで会社員システムなの?」

 

世知辛いなぁ、世の中。

異世界に逃げたくもなるわ。

…いや、異世界も碌なこと無かったんだった。世の中って本当クソ。

そんなことを思っていると。

唐突に、ばっ、と天目さんが顔を上げた。

 

「…どしたの?」

「…龍脈の乱れが、治ってる」

「えっ?……ホントだ。治ってる」

 

さっきまで『同居人のせいで乱れている』って取り乱しまくっていたのに?

そんな唐突に治るもんなんだろうか。

…いや、風邪じゃないんだし、勝手に治るとは到底思えない。

天目さんは困惑しながらも、シェアハウスの方を見やった。

 

「え?何が起きてんの?」

「取り敢えず、様子を見に行きましょうか」

「あ、うん…」

 

…そこはかとなく嫌な予感がする。

天目さんたちの後に続き、シェアハウスへと向かう。

玄関をくぐり、共有スペースの扉を開けると、そこには。

 

「ふとももひゃっほう!!ふとももひゃっほう!!」

 

奇声を上げながら、見せつけるように足を開いて自分のケツを叩き、リズミカルに動くふんどし一丁の筋肉だるまがいた。

 

「…………スゥッー…」

 

そっ、と扉を閉める。

アレは見間違い。見間違いだ。

疲れているんだ、私は。

私はそう言い聞かせ、もう一度扉を開いた。

 

「ふとももひゃっほう!!ふとももひゃっほう!!」

 

見間違いじゃなかったわ。なんだこれ。

変な儀式を私のシェアハウスでやるな。

情報量が多すぎる。こうも意味不明な状況あるか?

固まっている天目さんたちを押し除け、私は遠い目で珈琲を啜る仙谷さんに歩み寄る。

 

「…聖剣の精霊さん、なにしてんの?」

「……私らのせいでとっ散らかった龍脈を整理してもらってます」

「は!?あの奇声リズミカルM字開脚ケツ叩きで!?!?」

「はい」

 

嘘だろ。威厳もクソもねーぞ。

もうちょっと神秘的な儀式じゃないのか、そういうの。

昔の動画サイトでも見ないぞ、こんな圧のすごい絵面。

 

「………嘘でしょ…。あのケツ叩き、私が整理するより早いんだけど…」

「ああっ…!ケツ叩きに負けてチサ様が自信を失っておられる…!」

「絵面じゃ勝ってるから大丈夫だよ…」

 

少なくとも、天目さんが整理した方が絵面的にも精神的にもいいと思う。

これはダメだ。見てるだけで精神がゴリゴリ削られてく。

私たちが遠い目をしていると、儀式が唐突に終わり、精霊さんが立ち上がった。

 

「あとはそこの田んぼと道路だな!!」

「やめろォ!!」

 

夜中にふんどし一丁で奇声を上げて尻を叩く変態がいると噂が立つまで、あと一時間。




天目 チサ…見習い龍神。おっさんのM字開脚ケツ叩きに負けた。高飛車系のキャラのはずなのに、周囲がやばすぎて常識人枠に収まってしまった子。

堂島 マサユキ…チサの世話役。それ以外はガチパンピー。

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