【柴犬?】の無双から始まる、冒険者科女子高生の日常はかなりおかしいらしい。   作:加藤伊織

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第89話 このドラゴン、可愛すぎるっ!

 ダンジョン前にいた人が、私たちに気づいてこっちにやってくる。

 にこやかに手を振ってるけど、この人がママに情報を教えてくれた人かー。

 

「柚香ちゃんと蓮くんだね、動画見たよ。最初は気づかなかったけどまさか、か……柳川さんの娘さんだったとは。大きくなったなあー」

 

 熟練冒険者っぽい身のこなしの中年男性だけど……あれ? この人、前に会ったことがある!?

 

「えーーーーーーーーと、前にお会いしてましたっけ?」

 

 大きくなったなあって言われるということは、小さい頃の私を知ってるって事だよね。

 

「ああ、ごめん、一方的にね。写真で見たことがあった程度だよ。小学校の入学式の写真だったかな。俺はお母さんの知り合いで毛利拓哉。LV64のファイターだよ」

「れ……べる……ろくじゅう、よんっ」

 

 ぜーはーしながら蓮がびっくりしている。私もびっくりだ。

 だって、寧々ちゃんのお父さんがダンジョンできた頃からやってる冒険者で、LV40クラフトマンでしょ?

 LV64って、日本でもトップクラスの人なのでは?

 

「毛利さん、凄い人なんですね! えっ、ママの知り合いなんですよね? 一体どういう繋がりが……」

「趣味仲間、かな」

 

 毛利さんがさくっと短く答えた。

 あー。

 なるほど、ゲーム繋がりかな。異様にママって顔が広いんだよね。金沢さんの奥さんとも友達だし。いろんなところに足突っ込んでるオタクだから、思わぬ人と繋がってたりする。

 

「確かにLVは高いし、日本の中でも上位の冒険者ではあるんだけど……アグさんのおかげの部分が大きいんだよなあ」

「アグさん?」

 

 ちょっとトホホって顔で毛利さんは言い、後ろにあるダンジョンの入り口を示した。

 ダンジョンの入り口は全部共通らしくて、よくあるRPGの洞窟みたいに、土がぼこっと盛り上がって人が出入りできる入り口がぽっかり開いている。

 数段の階段を降りると、土の地面で何も障害物がない第1層というのも共通。

 

「アグさんはフレイムドラゴンの名前だよ。もうマスターが引退しちゃったんだけど、そのマスターと俺は同じパーティーだったんだ」

「フレイムドラゴンと一緒は強いですね」

 

 羨ましそうに蓮が言う。うん、私も羨ましい。

 

「じゃあ、早速入ろうか。最初は君たちを紹介しないといけないからね」

「紹介……うわあ、ドキドキしてきた」

 

 ドラゴンに紹介されるなんてシチュエーション、人生にあるでしょうか!

 少なくとも、私はヤマトに出会わなかったらなかったと思う。

 

 若干ビクビクしてる蓮と、ワクワクが止まらない私、そしてテンション高めのヤマトは毛利さんに続いてダンジョンへと入った。

 

 うん、上級は初めて入るけど、初級ダンジョンと本当に1層は同じだね。

 ぐるっと見回すと、端っこの方に赤い塊発見!

 

「おーい、アグさーん!」

 

 毛利さんが呼ぶと、その塊はむくっと起き上がって首を伸ばし――でっかいな!?

 

「ギュロロロ~」

「うはっ、可愛い!」

 

 甘えた声を出しながらこっちにドスドス歩いてくるアグさんを見て、思わず声が漏れたよね!

 

 これが、フレイムドラゴンか……。

 全身赤くて艶々とした鱗に覆われていて、大きさは立ってる状態で4メートルくらいかな?

 小さめの前足と、ぶっとい後ろ足、そして太くて長い綺麗な尻尾。

 あと、翼! 立ち上がったとき一度バサッと広げてからまた折りたたんだけど、翼が大きかった。あれは飾りじゃなくて多分飛べる奴!

 

「凄え……」

 

 蓮がぽかーんと口を開けてアグさんを見上げている。

 アグさんは毛利さんに首をこすりつけてから、「だぁれ?」って顔でつぶらな瞳をこっちに向けた。

 

 もっと凶悪な顔をしてるのかと思ったけど、思ったよりずっと可愛いなあ。

 

「アグさん、この子たちも冒険者なんだ。従魔を鍛える手伝いをして欲しいんだって。今日も頼むよ」

「ギョワー」

 

 わかった、というようにアグさんが頭を上下に振る。これは、賢い!

 

「私が触っても大丈夫ですか?」

 

 毛利さんには馴れてるだろうけど、私は初対面だからどうだろう。でも触りたいな! と思って訊いてみると、毛利さんは当たり前のように頷いた。

 

「大丈夫だよ。もう何年もアグさんはここでテイマーたちの手伝いをしてるからね、人馴れしてるんだ」

 

 そっか……でもそれは、寂しいなあ。

 

「マスターさん引退しちゃったんだ。それは寂しいね。アグさん、よろしくね」

「グルグルグル……」

 

 私がアグさんを撫でると、アグさんは心地よさそうに目を細めて喉を鳴らした。

 か、可愛いーーーーっ! 人馴れしてるドラゴンがこんなに可愛いなんて!!

 

 しかも! しかも! アグさんはその長い首を伸ばして私の頭に自分の頭をすり寄せてくれた。これ、甘えてるんだよね? ふんふん匂いも嗅がれてるけど。

 

「アーギャス」

「君もアギャス族か……じゃあサンドイッチ食べる?」

「ギョロロロロロ……」

「わー、アグさん可愛いねえ。ヤマトとは方向性が違うけど。ドラゴンをテイマーした人羨ましいなー」

 

 お弁当に持ってきたサンドイッチを1切れ差し出したら、パクッと食べて凄く嬉しそうにしてる。なんかサンドイッチ多めに入ってたから、3切れくらい続けて食べさせてあげた。

 ドラゴンっていわゆるでかい爬虫類でしょ? こんなに表情があるの凄いな! かーわいいー!!

 

「可愛いっ! 可愛いっ! うちの子にしたい!!」

 

 私がアグさんの首に抱きつくと、アグさんが喜んでグルグル言ってるのが伝わってくる。わー、でっかい猫みたいだなあ。どうしよう、ドラゴン見つけたらテイムしたくなっちゃうかも。

 

「アグさん……」

 

 案内してくれた毛利さんが、そんなアグさんの様子を見ながら何故か悲しそうに呟いた。

 

「どうしたんですか?」

「いや、こんなに喜んでるアグさんを見るのは久しぶりでね。……きっと今まで寂しかったんだろうなあ」

「でも、従魔を鍛えにくるテイマーが今までもいたんですよね? アグさんはそのお手伝いをしてるんでしょう?」

「まあ、それはそうなんだけどね。柚香ちゃんみたいに可愛い可愛いってアグさんのことを甘やかす人はこの子のマスター以来で」

「それは……普通はそうでしょうね」

 

 むしろアグさんに抱きつく私が信じられない、みたいな感じの声。そういう蓮は渋い顔だ。

 それはつまり、私が普通じゃないって事!? なんで!

 

「だって可愛いじゃん! 確かにひんやりしてて爬虫類の手触りだけど、これはむしろでかい猫だよ!」

「俺、犬派だから」

 

 私がアグさんに抱きついてる隙にヤマトを抱き上げながら、蓮がスンとした顔で言う。

 ぐぬぬ……この可愛さがわからないとは、鈍い奴め!


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