生かす価値の無い世界   作:らっきー(16代目)

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8話

 準備は整った。

 

 世界的歌姫となったウタによる大規模なライブ。それは当然映像電伝虫も駆使して全世界に届けられる。

 

 身も蓋もない事を言ってしまえば、私が耳栓でも付けてライブが開催された瞬間にウタの首を刎ねてしまえばそれだけでもかなりの人数を新時代へと連れて行くことは出来る。

 

 当然そんな事はしない。それでは流石に連れて行ける人数が少なすぎるという理由が一つ。もう一つは、ライブに確実に巻き込みたい人間が居るから。念の為に明言しておくがシャンクスではない。どちらかと言えば来ないで欲しいぐらいではある……が、来ないように細工等は特にしていない。そもそも四皇相手に何かができる気もしないが。

 

 ウタの新時代の到来を告げるライブが始まる。これでもう、現実世界での私の役割は全て終わりだ。眠気に身を任せ、ウタウタの世界へと招かれる。ライブが盛り上がるまでは観客Aで構わない。

 

 ルフィによるウタの出自……シャンクスの娘である事の暴露による反応は少し予想より大きかった。『海賊に悲惨な目にあわされた島』へと映像電伝虫を運び、ウタの力でそういう人達もエレジアに連れてきていたからかもしれない。そのためエレジアのサイズは現実より大きくなっている。冗談みたいな話だが、人を多くこの場に集めるための単純な解決策がこれだったのだから仕方ない。

 

 ウタのライブは進んでいく。なんとかという海賊団の乱入と、それを守るルフィ達。そこにビッグマムの息子達も乱入してきて……ウタに鎮圧される。

 

 それに留まらずルフィの仲間……麦わらの一味達も。ウタを助けたとかなんだとか、そんな事は海賊を憎む民衆にとっては関係の無い話なのだろう。

 

 ルフィとウタが争うことに思うところが無い訳では無いし、ルフィと久しぶりに言葉を交わしたいという気持ちはあったが……よそう。今の私の姿を、ルフィには見られたくない。到底他人に誇れるような生き方は出来なかったから。

 

 ウタに扇動された民衆による海賊狩り……は正直どうでもいい。重要なのはトットムジカの楽譜をウタが手に入れてくれること。

 

 そして……天竜人の乱入。ウタの世界では権力なんて何の役にも立ちはしない。部下に命じて撃たせたところで銃弾は届かないし、使えない部下を撃ち殺そうとしてもこの世界でなら一瞬で治せる。

 

 海賊達にしたように天竜人を磔にしたところで、観客達に動揺が広がり……帰りたいと、1人の観客が声を上げた。天竜人に手を出したゴタゴタから一足先に逃げようとした……というのは、流石に悪意のある見方過ぎるか。

 

「ウタ、ちょっとだけ逃げといて。ついでにルフィを探しといてくれたら嬉しいかな」

 

「シトリー? うん、分かったけど……」

 

「大丈夫、みんなが帰らないようにしておくからさ。……ああ、あとそれと、例の人達の移動だけお願い」

 

 事前に映像電伝虫を広めて増やしておいたこの世界に引き込んだ天竜人共をステージへ、観客席の最前列の方に非加盟国の民衆達を。

 

「さて、お集まりの皆様方。お帰りになる前に私の話を少しだけ」

 

 民衆に必要なのはパンとサーカス。

 

「ご覧の通り、ここでは天竜人に何をしても報復はありません。海軍大将は来ないし、偉そうに引き連れている護衛も居ません」

 

 お手本にするべきなのはホーミング聖の末路。

 

「私は天竜人が罪も無い民衆を傷つける様を散々に見せつけられました。……皆様の中にも、似たような人が居るのでは?」

 

 ぽつりぽつりと、同意の声が上がり始める。妻を奴隷として連れていかれた。子供を面白半分に殺された。それですら生易しく聞こえるような事の数々。段々と声は大きくなる。

 

「さあ、今こそ復讐をしましょう! 私達が苦しめられた1万分の1でも味あわせてやりましょう! 大丈夫、この世界で何をしても海軍は動きません……いえ、動いたとしても救世主が何とかしてくれます! だから……ほら、この通り」

 

 別にどの天竜人でも構わない。1番近くにいた天竜人の足を刺してやれば、実に良い声で悲鳴をあげてくれた。

 

「この声が届けば、少しは死者の魂も慰められると思いませんか?」

 

 怒りは貧者の娯楽だ。簡単に火がつき、簡単に広がり、1度激しくなればもう自然には止まらない。

 さあ、新時代を作ろう。誰も傷つかない、優しい世界を。

 

 そこに、こんなクズ共は要らない。

 

 

 

 扇動した私ですらもはや暴動は止められない。こうなってしまえばもう私がここにいる必要も無い。民衆の怒りが収まるまで……つまりは無期限に。今までのツケをその身で払ってもらうとしよう。殺すのは、もう少しだけ後でいい。それまで精々、遠くから眺めさせてもらおう。

 

「シトリー……!」

 

「……ウタ。見るべきじゃないよ、こんなもの」

 

「なにを、させてるの……?」

 

「新時代の禊、かな。楽しいことを受け入れるためにはまず、心の中の怒りを発散しないと」

 

 分かってもらえなくたって構いはしない。迷ってくれればそれで十分。数時間もしないうちにネズキノコでウタは……死ぬのだから。

 

「ウタ!! ……シトリー……!? お前も居たのか?」

 

「……ルフィ、会いたくなかったよ。ウタ、ルフィの相手、任せていい?」

 

 ウタを止める為に、当然ルフィは姿を現す。私達の求める新時代と、ルフィが作ろうとしている新時代は、きっと相容れないから。

 

 純粋な戦闘で私やウタがルフィに適うはずは無い。そして私はルフィに合わせる顔なんて持っていないし、交わす言葉も持ってはいない。どうせ私の役割はあと一つだけだ。それ以外は、どうでもいい。

 

 ルフィをウタに任せて……ルフィから逃げ出して。のらりくらりと時間を過ごす。今頃、シャンクスや大将達がエレジアに来た頃だろうか。だとしたら、もうあと少しだ。

 

 あと少し。助けたかったはずの人の心を追い詰めて、私は何を達成感に浸っているのだろうか。一番死ぬべきな屑は、きっと私だ。

 あとほんの少し。そうしたら、咎は受ける。

 

 ルフィ以外の仲間達、海賊達が駆け付ける。追い詰められたウタは、唯一切れる札を切るしかない。

 

 トットムジカが、起動した。

 

 この時を、ずっと待っていた。

 

 観客達が居たステージは、ウタが配慮したのだろうが戦地からは離れている。映画では諸共海の底だったが、こうなってくれた方がありがたい。

 

 観客たちはどうでもいい。ただ、トットムジカの力でウタの世界と現実が繋がってくれればそれで良かった。

 

 トットムジカが現れたせいで暴動は止まっている。流石に民衆の怒りも、この世界の異変への戸惑いを上回る程では無かったようだ。

 

「観客のみんなは、アレに絶対に近寄らないように」

 

 まあこれは別に言うまでもないだろう。進んであんな化け物に触れようとする一般人がいてたまるかという話。

 

「そして天竜人の皆様、どうぞこちらへ」

 

 海軍中将の肩書きが持つ人物が、自分達を他と違う所へ案内しようとしている。特権意識を当然のものとして持ち続けてきた人間が、それへ違和感を持つはずが無い。

 

「集まってくれてありがとうございます……それでは、死んでください」

 

 首を刎ねる。首を刎ねる。首を刎ねる。首を刎ねる。首を刎ねる。

 

 1人でも多くの腐った神を殺す。現実とウタウタの世界が一つになった今だからこそ、この行為に意味が産まれる。

 

 現実世界で天竜人を殺すなんて不可能に近い。ウタウタの世界で殺すだけでは何一つ意味は無い。夢の中で死んだ人間が現実で死ぬかというのと同じ話。

 

 だが、今この瞬間だけは違う。夢での死と現実の死が等価になった今だからこそ、この行為に意味が産まれる。

 

 これで天竜人が根絶出来るわけでは無い。それでも、これから起こる悲劇の数を減らすことぐらいは出来ただろう。天竜人の狗として悲劇を撒き散らし続けてきた私に出来る、せめてもの罪滅ぼし。

 

 本当に、何一つ無価値な人生だった。ウタは救えず、罪なき民衆を守ることも出来ず、天竜人の根絶も出来ず、世界を変えることすら出来はしない。

 

 トットムジカ──魔王は主人公達によって倒された。ああいう人間を、英雄と呼ぶのだろう。

 

 現実で目が覚めて、ウタも救世主としての道を選んだことを知った。結局、何一つ助けられなかったな。

 

「……シャンクス」

 

「お前……シトリー、か?」

 

 きっとこれが誰かと関わる最後の相手だろう。誰だか分かって貰えず面倒な会話をすることにならなくて良かった。そんな気分には到底なれない。

 

 自分の髪を切って、シャンクスに渡す。

 

「お願い、これを、ウタと同じところに」

 

「シトリー、お前……」

 

「自分のやった事の責任は……とれすらしてないけど。何一つ出来なかったけど……」

 

 産まれるべきでは無かったのだろう。もしくは、無意味で無価値な自分を受け入れて、何もするべきではなかったか。気づくのが遅すぎたな。

 

「ウタ、寂しがり屋だからさ。独りには、出来ないでしょ」

 

 何か言おうとしていたシャンクスは置いて、それ以上は何も言わずにその場を離れる。きっと意図は汲み取ってくれるだろう。願い叶わずその辺に打ち捨てられるなら、それはそれで仕方ない。

 

 

 

 もう誰も居なくなった島で独り、首に得物をあてがう。

 

 最後に残った屑も、これで死ぬ。最期に言い残す言葉があるとしたら……

 

産まれてきて、ごめんなさい

 

 願わくば、ウタと同じところに──なんて、贅沢すぎる望みか。

 

 





これにて完結です。

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