鬼太郎誕生:ゲゲゲの異聞奇譚   作:河本勝之

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第十七話

先手必勝とばかりに不意打ちをしたことが合図となった。

 

 

「「「「ッ!!」」」」

 

 

テラスの鉄柵の上に佇んでいた裏鬼道の面々が、一斉に飛び掛かっていく。

標的とするのは、幽霊族と筆頭を殴った輩の二名。

手にしている得物を振りかざしながら叩き潰そうと試みる。

 

 

「神谷!」

 

「あいよ!」

 

 

ところが、そう上手くいく訳もない。

タイミングを見計らい、両者ともに最小限の動きで回避するなり、反撃に打って出る。

 

例えば、一番大柄な男が斧を振り下ろしてきた際に、持ち前の瞬発力なのか、神谷が腰を落として横に避けるなり、素早い身のこなしで一気に間合いを詰める。

躱されるとは思ってもみなかったのか、微かに狼狽えてしまうも、それが仇となってしまう。

 

というのも、気が付いた時には相手が懐に入り込んでおり、不敵な笑みを浮かべながら身構えていたからだ。

 

「おらぁ!!」

 

腹部に強烈な拳が加わる。

普通の人間ならば、あり得ないくらいの鈍い音が響き渡り、結果として真面に受けてしまったことからよろめいてしまう。

 

「隙だらけだぞ?」

 

早々に次なる一手が繰り出される。

右前隅に崩しながら、後ろ回り捌きで引き出し、体を沈めてから釣り手で固定しつつ、敵の肉体を持ち上げて投げる。

詰まる所、背負い投げを決め込んだのだ。

 

無駄な動きが一切なく、流れるような形で見事にこなす。

それにより、巨漢の構成員は硬い石畳の上に叩き込まれてしまい、背部に大きな衝撃を受ける。

破片が飛び散るほどの勢いもあってか、悶えるように苦しみ始める。

 

「ッ!」

 

対するゲゲ郎の方も、敗けてはいない。

出刃包丁を振り回しながら攻撃してくる一人に対し、受け流すようにしてから側頭部並びに片腕を掴むなり、体の軸を回転させる。

 

その速さは凄まじいもので、回されている敵の足元が地面から浮かび上がるほど。

極めつけは、近くにいる別の敵に向けて投擲する始末。

当然ながら巻き込まれてしまった者たちは吹き飛ばされてしまう。

 

「ッ!」

 

直後、殺気を感じ頭部を横へ傾けると、銃声音と共に素早い物体が一直線にすり抜けた。

石畳の一部に穴が開いたことから銃弾であることは容易だった。

 

でもって振り返ると、展望台の一番高い所にある鐘を鳴らす場所に猟銃を構えている者がいた。

般若の面越しに照準を合わせつつ、狙い撃ちしようとしていたが……。

 

 

「ふん!」

 

 

それよりも先に履いていた下駄を投擲する。

すると、意思をもって動く二つの下駄は狙撃手の元へと飛んでいき、宙を舞いながら翻弄させる。

 

勿論、自身の周りに飛び交う履物に狼狽えていると、隙をつかれて後頭部に突っ込んできたかと思えば、すぐさま顔面にもう一つが直撃する。

哀しいことに良い具合に当たってしまったようで、あっさりと意識を失ってしまう。

 

「おっと」

 

再び場面が切り替わる。

鎖を器用に使いこなしながら先端にある鎌で斬り伏せようとする屑が一人。

 

これ以上近づけさせないつもりなのか。

遠距離からの戦法で、安全かつ確実に仕留めようとする。

 

が、対峙している人物が悪かった。

 

 

「あらよっと」

 

 

引き戻そうとした矢先に、伸ばしていた鎖を掴まれてしまう。

加えて、物凄い力で引っ張られてしまい、自分の方から距離を縮める羽目になってしまった。

 

何とか逃げようとするも時すでに遅し。

胸部に強烈な一撃を与えられた挙句、脇腹辺りにも拳が入る。

 

遠慮などない絶妙な繰り出しに嗚咽してしまい、その上、下から思いっきり股間部を蹴られる。

人体の急所の中でとりわけ一番痛い所。

結果、情けない声を上げながら地に伏してしまう。

 

 

「ッ!」

 

 

改めてゲゲ郎に移り変わる。

裏鬼道の構成員の半分を請け負っている中、視界に入っている二名が唐突に足を止める。

 

何かを仕掛けてくると考察した時、一人目が抜刀している物を翳しながら突進してきたため、脚の軸を回転させつつ受け流す。

と、二人目が握っている鍬で脳天を目掛けて叩き潰そうとしてきたことから、瞬時に顎を狙って掌底で応戦しつつ、懐に入り込む也、胴体に肘打ちを入れる。

 

だが、それのみでは余り効果が無かったため、続けざまに両腕を掴み、真後ろに身を捨てつつ、釣り手側の足裏を腿の付け根に当てて、押し上げるように投げる。

日本の柔道の技の一つとされる巴投げ。

易々と受けてしまった輩は、弧を描きながら飛んでいき、バランスを崩していた仲間とぶつかる。

 

「ッ!」

 

すかさず飛び起きてから辺りを見回すと、何とか体勢を整えようと片膝立ちしている輩が居たため、即座に駆け出し、その片脚を踏み台にして膝上に乗り上がったと同時に頭部を狙って膝蹴りを繰り出す。

よって、受けてしまった人は何度目か分からない位に倒れてしまう。

 

「ぐっ!?」

 

次の瞬間、背後から接近していた敵による首絞めを喰らう。

大方、窒息死させようと考えているのか。

 

このままやられてなるものと言わんばかりに、即座に回してきた腕に手を掛けながら力を籠めると、握り返したことが功を制し、後ろにいた輩が雄叫びを上げ、絞めていた首を放す。

 

それを見逃さなかった彼は、思いっきり上へ動かしてから抜け出したのちに、反対に力一杯硬い床へと叩きつける。

またしても石膏の破片が飛び散り、敵の顔面がめり込む。

 

 

「ほらほら、どうした?そんな程度なのか?鬼さんこちら♪」

 

 

刹那、友が拍手をしながら大多数の面々を煽り始める。

まるで無様な連中だと罵っているかのように。

 

無論、馬鹿にされて腹立たしくならないはずもなく、怒り狂うように次々と駆け出す。

反面、神谷は間髪入れずに鉄柵に登り、そこから跳躍してから下の階のテラスに着地する。

 

高さがあるというのに平然と降り立っただけでなく、ガラスの窓を突き破り、屋内へと侵入する。

 

「ほぅ……大分お怒りのようですな?」

 

後から続いて入ってきた者たちの人数を数える。

薄暗い空間の中ざっと見た所、殆どが付いてきたようだ。

となると、上に残っているのは村長の長田を含めたごく数名だと把握する。

 

良い感じに分散することが出来たことへの悦びか。

自然と口角を上げる。

 

「さっさとかかって来いよ。へっぴり腰ども」

 

心置きなく相手してやるとばかりに、首を回して骨を鳴らす。

相対する構成員たちは、手元にある武器を翳しながら再度一斉に襲い掛かる。

 

「っと!」

 

恐れ戦くことなく、手始めに傍らまで寄ってきた一人の脇腹に向けて回し蹴りを放つ。

草履越しから喰らった攻撃に吹き飛ばされたのを見向きもせず、続けて駆け寄ってきた標的から少しばかり後退した後に、右足を高く上げた上段蹴りからの水面蹴りを行う。

 

体が一瞬だけ浮いてから倒れた所を見逃さず、序とばかりにかかと落としを決め込む。

何も言わずに淡々とこなすばかりか、蹲っているそれを球蹴りの要領で強く蹴り飛ばし、別の輩を巻き添える。

 

「ほいっと」

 

後ろから迫り来る気配に察し、振り向かないまま左脚を背後に向けて蹴り出すと、足先は見事に下腹部を捉え、吹っ飛ばしていく。

 

途端に、前方から別の般若が雄叫びを上げながらやって来たため、体勢を戻してから後ろ回し蹴りを決めて叩きのめす。

 

「そんなもんか?」

 

猛追は止まらない。

お次は、膝を伸ばしながら足刀による内回し蹴りで側頭部を攻撃したり、腕ごと折る勢いで横蹴りを放つ等をする。

 

壁にめり込んでしまったり、備品に追突した時に打ち所が悪かったのか、一人ずつ息絶えていく。

喋らせる暇すら与えない上に、下品な声を漏らしながらお面の隙間から血を吐き出したり、変にねじ曲がったまま動かなくなってしまう。

 

「ふん!」

 

他にもひらりと身体を回し、踵を顔面に当てる技を披露するほか、その場で宙返りをし、背後から接近していた雑魚の頭頂部に重い一撃をお見舞いする。

一切怯むことなく倒し続ける姿は、正に格好良いという言葉が似合うだろう。

 

気が付けば、約一名を除いて生存している構成員は見受けられない。

しかも激しい戦闘であったにも拘らず、当の本人は息切れしていないばかりか、汗一粒も流していなかった。

 

「ん?」

 

余裕綽々というように佇んでいると、最後に残っている屈強な阿呆が、面越しからでも伝わるほどの息を荒くしていた。

 

手に握りしめているのは斧。

即ち、あいつだと理解する。

 

「………」

 

何も言わない代わりとして、近寄りがたい雰囲気を醸し出す。

 

傍から見れば、恐怖を植え付けさせるような感じであり、でか物は僅かにたじろぐも、何とか気持ちを切り替えて得物を振りかざす。

 

反対に彼はというと動じることもなく立ち尽くし、振り下ろしてきた刃先を二本指で挟む。

 

「やれやれ……」

 

動揺しつつも必死に引き抜こうとするが、全くもって動かない。

そればかりか、軋むような音も鳴りだす。

嫌な予感がし、こうなればと握っていた武器を離し、拳で殴り掛かるが………悪手だった。

 

 

「あばよ」

 

 

最期に見た光景は、易々と突き出した拳を避けてから、軽々と目前まで跳躍し、手に入れた斧で横一線に振るう姿。

 

首から上が無くなったのは言うまでもなく、血飛沫を上げた後に力なく倒れる。

 

「……さぁてと」

 

誘きよせた馬鹿共を全員倒したものの、念には念を入れておかなければならない。

ひょっとすると息を吹き返す可能性もある。

 

だからこそ、まだ首が繋がっている面々に忍び寄る。

血糊が付着している道具を使って……。

 

 

 

――――

 

 

 

その頃、想い人である沙代をひたすら隠すようにしながら隅で事の顛末を見届けていた水木は、圧巻とも言うべき戦闘に見入っていた。

途中から傍らで縮こまっている孝三の存在を忘れかけてしまうほどの戦いぶりに思わず息を呑む。

 

現在は、内一名が陰陽師の一派で外法を操る裏鬼道という名の組織の構成員の大多数をおびき寄せて下の階へと移ったため、目先にいるのはゲゲ郎と残った敵だけとなっている。

 

といっても戦況は、彼の方に軍配が上がっており、打撃や投げ技などで瀕死の虫のような状態で蹲っている者がそこら中におり、残っているのは未だに鼻血を流している村長のみであった。

 

殴られた際に鼻の骨でも折れてしまったのか、押さえるように摘まみながら人相を悪くしている。

 

「さ……さしゅがは、ゆうれいじょく………それでこしょ、われらのじゅつもいひぃるというものです……!」

 

少々情けない風貌に陥ってしまっているものの、気にすることなく懐から何かを取り出す。

簡潔に述べると、謎の紋章が刻まれている頭蓋骨であった。

気味の悪いものを晒し出したことから、一体何をするのかと訝しむと……。

 

 

「おん!」

 

 

突如として頭蓋骨から禍々しい黒い影が放出され、段々と大きくなっていく。

やがて煙のような状態から姿形を具現化していき、遂にはその正体を現す。

 

 

「狂骨……」

 

「何!?あれが、狂骨だと?」

 

 

井戸にうち捨てられた骸が激しい怨念によって死霊化したものとされる妖怪。

般若に酷似している他、怨霊とも称えるべき悍ましい容姿をしたそれは紛れもない狂骨そのものだという。

 

「ただのひょうこつではありましぇんよ……よりひょうりょくなちひゃらをもっているのでしゅよ……!」

 

覚束ない口振りのせいで格好がつかない。

正直な所、場違いにも程があるが、治せない以上致し方ない。

悔しい思いと葛藤する中、解放された狂骨は、主の命令に従うように身構えている幽霊族へ襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

急いで左手首に嵌めている霊毛組紐を使い、反撃に移る。

 

 

「なっ!?」

 

 

けれども、驚くべき事態に遭遇する。

原因は不明だが、放った組紐が唐突に崩れ落ちてしまったのだ。

 

重力に従って落下したことから、ならばと履いている下駄を投擲するも、同じような形となってしまう。

その隙に、巨大な怨霊は口を大きく開きながら飲み込もうと接近する。

 

 

「ッ!!」

 

 

しかし、そう問屋は卸さなかった。

あと少しで飲み込まれそうになった瞬間、横から掠め取るように何者かが颯爽と救出する。

 

おかげで喰い損ねた物の怪は、今一度だけ上空を漂いながら体勢を変える。

因みに、食べられそうになった彼を救った人物が誰なのかというと……。

 

「か、神谷……」

 

「大丈夫か?」

 

言わずもがな神谷であった。

双方ともに大した怪我を負うこともなく、無事に五体満足のまま立ち上がる。

そして振り向きながら見上げるなり、こちらを見下ろしている怪物を確認する。

 

「……狂骨か。随分と悍ましい化け物を使役しているじゃないか。えぇ?長田さんよ」

「……ほんとぅに……あなたは、めじゃわりでしゅね」

 

丁度良いとの顔つきをしながら指示を下す。

あの男を先に殺せ……との念を送ると、浮遊していた狂骨が動き出し、狙いを変える。

 

先程と同様に口を開けながら突き進む。

降りてくる勢いも相まってか、周囲にいた水木たちが忽ち危惧する。

早く逃げろと叫ぶも、当人は微動だにしない。

 

このままでは喰われてしまうと誰もが思ったとき――――

 

 

「?」

 

 

誰もが目を疑う光景が広がる。

間近まで迫ったはずの狂骨が、突然止まってしまったのだ。

 

開けた口を塞ぐことなく、今にも飛び掛かりそうな態勢で宙に浮いているにも拘らず、一向に目の前にいる獲物を食べようとしない。

それどころか、何処となくしおらしくなってきているようにも感じた。

 

「どぉした、ひょうこつ!!なじぇ、いうことをきひゃない!?」

 

流石に焦りを抱いたのか。

手にしている頭蓋骨に霊力を込めるも、全然反応しない。

どうして言うことを聞かないのかと困惑すると……。

 

「良いことを教えてやろうか?長田さん」

 

その答えを教えるべく、彼が語り出す。

 

「実はな、俺の昔の知り合いに一風変わった術使いが居てな。そいつからあることを教わったんだよ。高い霊力を駆使して、妖怪やら幽霊やらを操る術をな」

「………はっ?」

「まぁ俺自身、教えてもらったとはいえ、滅多に使うことなんて無かったけどな。何せ、そういう機会が意外と無かったもんでな」

 

作務衣の裾に腕を通しながら振り返る。

背筋をちょっとだけ反らし、首を何度も傾けてから姿勢を正すと引き続き説明する。

 

「さて、ここで一つ問題だ。霊力が圧倒的に高い人物よる術が、ここに居る狂骨に効いてしまった場合……果たして、一体どうなると思う?」

 

問題が出題された際、脳裏に嫌な予感が過る。

そんな訳がないと頑なに信じようとしないものの、恐る恐る視線を向けると………。

 

 

「ッ!?」

 

 

使役していたはずの妖怪が、こちらに振り向いていた。

 

 

「ま、まて!!」

 

 

命乞いするも待ってはくれない。

 

 

「や、やめろぉおおおおおおお!!!」

 

 

因果応報とは正にこのことかもしれない。


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