妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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間話-2

Garudaの計算していた通り3分で発信源である部隊を目視することができた。ネウロイの発するレーザーと比べてユニットが作り出す飛行機雲の数が圧倒的に少ない。

このままでは全滅は必至だろう。

戦況を一気に変えることは無理かもしれないが、ここの状況くらいは変えてみせる。

 

まず、一番初めに目に入った一人のウィッチを3機のネウロイが追いかけまわしていた。その後ろから味方と思われる奴が追撃しているがユニットが不調なのか追いつけていないようだった。

速度を一気に上げて追撃しているウィッチを一瞬で追い抜く。

さらに目の前に迫ったネウロイを射程圏内にとらえた瞬間

 

-発動-

すれ違うまでは約4秒。だがこの条件下なら問題ない。

まず一番左のネウロイに照準を合わせて発砲。

薬莢がスローモーションで落ちていくのを落ちていくのを視界の端でとらえながら次のネウロイへほぼすれ違いざまに続けて、撃つ。

両方とも命中したのは確認できたがこちらの速度が速い故、それ以上の事は確認できないままウィッチを追い越して前に出る。

そして体をひねりながら最後のネウロイに狙いを定めて

 

-発砲-

 

俺の撃った弾丸はネウロイのコアから若干右にずれた位置に着弾した。

最初の2機へはどこにあたったのか確認できないまま追い越してしまったため、まだ仕留めきれてない可能性を考え、奥のネウロイに銃を構えたその時、

 

ドドンッ!!

 

といういつもとは異なる音が俺に届いていた。

ネウロイの損傷具合を見てみると、どうやら着弾した銃弾はそのままネウロイを貫通し内部から破壊つくしてしまったようだった。

柔らかい?

昨日まで戦っていたネウロイとは明らかに装甲の厚さや強度が違った。これは好機かもしれないな。

コアの破損した先ほどのネウロイはそのまま高度を落とすと爆発して姿を消した。

驚き、慌てている二人のウィッチの無事を確認した俺はそのまま速度を落とすことなく別のネウロイに狙いを定めたのだった。

 

 

小型、中型九機ほど落としたくらいだろうか、その“声”が唐突に響いた。

 

『もう誰でもいい!!誰でもいいから私たちを助けてよ!!!』

 

その悲痛な叫び声は、まるで七面鳥撃ちだなと少し気分が高揚していた俺を一瞬で突き落とすほどの威力があった。

その発信源はすぐにGarudaに頼ることなくわかった。

ここからそう遠く離れていないところに銃口を下に下げてその場に浮かんでいるだけのウィッチを見つけられた。

その姿は、この敵のど真ん中で戦うことをあきらめてしまっているように見えた。

そして彼女を見つけたのはどうやら俺だけではなかったようだ。

中型のネウロイが高速で彼女の正面にまっすぐ突っ込んでいくのがレーダーでわかった。

おいおい、冗談じゃない!

援護として来ているのに、目の前で死なれるのは嫌だぞ・・・!

ユニットの速力を再び最大限にして一気に距離を詰める。

魔力を持っていかれる感覚を覚えたがどうせ回復するんだからと割り切り接近する。

だが少し俺の方が接近するのが遅かったらしい。

目視でネウロイがレーザーを発射しようとしているのが分かった。

なら、こうするしかないか。

俺はそのネウロイに狙いを定める。

ネウロイは進行方向左に13度。高度差は10m未満。進行方向は俺と交差するためかなり前方に狙いを定める。

 

 

-発砲-

 

 

俺が発砲するのと同時にネウロイもレーザーを放った。

「間に合え!!!」

ユニットの出力をほんのわずかな値を調節しぎりぎり最高のタイミングを狙う。

そして彼女とレーザーとの距離が15mを切った直後

俺はシールドを展開した。

シールドはレーザーに対して斜めに敷かれたため、打ち消すことはできなかったがそらすことは出来た。

そのまま継続して照射されていたらダメだったろうが俺の撃った弾丸が正しくネウロイのコアを貫いていたようで俺が彼女の前を通り過ぎた直後に煙を出して落ちていった。

 

俺はネウロイに殺される一歩手前だったあのウィッチのもとに向かった。

周辺を警戒しながらも振り向くと彼女は目をつぶり、涙を流していた。

そしてどことなく絶望しているような雰囲気をもまとっている気がした。

「え?」

そんな彼女はネウロイの響かせたあの音でようやく俺が目の前にいる事に気が付いたようだった。

今の俺は白迷彩服を着ている。

しょうもない理由でこれを着ているわけだが、今回はこの空の色と白色がミスマッチしていることで混乱している彼女も俺をすぐに認識してくれた。

「助けに・・・来てくれたの・・・?」

かすれたような声でそう俺に聞いてきた。

「あぁ。」

俺のその返答に混乱の表情が驚きに変わった。

「増援は、来ないんじゃなかったの?」

「ただの気まぐれみたいなもんだ。増援はまだ来られないだろうさ。無線を聞く限りあちらも手間取っているようだ。」

「そう・・・。」

俺の返答に再び少し落ち込んでしまう彼女。だが、俺はそんな必要はないんじゃないか、と思っていた。

「そんな悲観的になる必要はないんじゃないか?」

「え?」

「そんなに下ばっかり見ていないで顔を上げて周りを見てみろ。俯いていたら見えるものも見えないだろう?」

「回りって、なにを・・・・うそ。」

最初は視線だけを、次に顔を動かし、その次はその場でくるりと回るように周囲を見渡す彼女。

そしてあることに気が付いたようだった。

「ネウロイが・・・少ない・・・?」

「ほらな。少しは粘ってみるもんだろう?」

ここの空域のネウロイを一気にそれなりの数を俺やほかのウィッチが落としたおかげか敵が少なくなっていた。

ほかの空域に行ったのかそれとも一時撤退したのかはわからないが先ほどは上を見ても下を見ても左右をみてもどこにでもいたネウロイがその数を減らしていた。

敵を全機落とす事なんて到底できない。だが2,3割でも減らすことができればネウロイも戦略を改めざるを得ない。

戦力の追加か、撤退か。

今回は運がよかったのかそれとも敵の戦力に限りがあったためか撤退してくれたため、この場は何とか無事に切り抜けることが出来た。

周りを見てみても徐々に先ほどまではほぼバラバラで動いていたため各個撃破されかけていたウィッチたちが今では集まり始めて徐々に戦力の再編成を進めていた。

もうここは平気だろう。次、手助けが必要だとしたら海上のウィッチたちだろう。

まだあっちにはこの余波は伝わっていないようで激しい戦闘が続いている。

彼女の副官と思われるウィッチが話を始めたのを見計らって俺は海の方に進路を向けたのだった。

 

-????/??/??/??:??-

ダンケルク上空

「隊長!!」

私の副隊長がすぐ隣まで来てくれた。

「お怪我は?先ほどネウロイが隊長のそばで爆発しましたが・・・。」

「平気よ。あの人が助けてくれたから。」

「あの人、というのは先ほど隊長とお話しされたあの白色迷彩を着たウィッチの人ですか?」

「ええ。」

「遠くからしか見ていませんでしたが少し不思議なユニットを履かれている方でしたね。そういえばお名前は・・・。」

その時、普段では聞いたことも無いような爆音が響いた。

とっさにそちらを向くとさっきまでいたあの人がいなくなっていた。

慌ててその姿をさがして、ようやく見つけた頃にはすでに小さくなっていた。

「聞けなかったね。」

「え、ええ。ですが、相当腕が立つ方でした。すれ違いざまに一気に三機のネウロイを落としたんですよ?」

「三機も?」

「司令部にはあの方をなんて報告するんですか?」

「するしかないじゃない。あんな状況を一気に変えてくれたのよ?お礼の一つも言わないと。」

「そうですよね。地上部隊の撤退状況はどんな感じ?」

「80%が完了。残りもあと数時間です。」

「わかったわ。」

目の前を見ると先ほどではないが依然としてネウロイは残っている。一度にかなりの数が減り混乱していったん撤退したようだがまた戻ってくる可能性は十分に考えられる。

「ほかの中隊長と連絡して部隊を再編成しましょう。このままバラバラに動いたとしてもいい事なんてない。いったん、部隊をもう一度時間内で組みなおすの。出来る?」

「わかりました。やりましょう。もうだれも死なせないためにも。」

「ありがとうね。いつも世話欠けているわね。」

「それが私の仕事ですから。それと、ヒット&アウェイを徹底させましょう。新人ウィッチだとどうしてもそれを忘れてひたすら追いかけてしまう子がいましたから。」

「そうね。新人が多いチームにはベテランの人を何人かつけましょうか。私が他の隊長と連絡を取るから編成の手伝い、任せるわよ。」

「お任せください。なんとしてもここは死守しましょう!」

「そうね。」

一度はあきらめかけたけれど、誰かがくれたこのチャンス。絶対に無駄になんかしない。

そう心に決めた。

私の心の中にはさっきまであった虚無感はもうどこにもなくなっていた。

ありがとうね、どこかのウィッチさん。

諦めて何もかも捨てようとしていた私を助けてくれたあの真っ白のウィッチに心のなかでそっと感謝をしたのだった。

 

 

海上でも何回か戦っているウィッチの援護を行ったり2回の遭遇戦を行っているうちに持っていた弾薬の残りが少なくなっていた。

気が付いたら最後の弾倉にリロードしていた。

これ以上の戦闘は無理だな。この最後の奴はできる限り援護ではなく自分の身を守るために使用したい。どこか弾薬を補給できる場所を探さないとな。

通信を聞いている限り上空を飛んでいるウィッチ隊にも撤退命令が出ている。

この調子ならもうこれ以上弾薬を消費する必要もないだろう。残りの戦闘に関しても彼女らに任せてしまって問題ないはずだ。

撤退命令がでておそらく士気がその時だけは高いだろうから、たとえ疲弊していたとしても最後の戦闘ということできっと耐えられるだろう。

そのため現在、問題は俺自身にある。

先ほど銃弾の話もしたがほかのユニットや俺の体調のことも考えないといけない。

何の話をしているのかって?そう、補給に関する問題だ。

最初はいっその事、彼女たちについていこうかとでも考えたのだがやめた。

確かにそれが一番手っ取り早いかもしれない。俺の姿を見ているはずのウィッチが何人かいるはずだからあの空域でいったい何をしたかの説明は彼女たちがしてくれるかもしれない。

だが今の俺は身分、所属不明の不審者だ。

下手したら軍事機密を違法な手段で知った不審者、ということで身柄を拘束されユニットを没収されて二度と飛べなくなってしまう可能性もあるからな。

だから俺は軍に頼らずに自力で生き残る策を探さねばならないわけだ。

とは言ってこのままずっと飛んでいるわけにもいかない。

今日の戦闘でかなりの魔力を消費してしまった。

そろそろ集中力を維持させるのも限界だろう。

幸い、ここはダンケルク港周辺。

ここを守るために絶対にいくつかの航空隊基地が配置されているはずだと踏んでいた。

現に捜索開始から10分で見つけることが出来た。

滑走路1500m級が一本と小さな基地だが大きめの格納庫が2つあることからそれなりの人員がいたのだろう。

しかし撤退が完了した今となっては上空で周回しながら様子をうかがってみるが明かり一つついていなかった。

よかった。こんなところで助けを求められたり逆に俺に向かって銃を撃ってくるような奴がいても困る。

太陽はあと15分ほどで沈んでしまいそうなので早く着陸してしまおう。

 

着陸後、格納庫に向かいユニットを置く。

ようやく地上に降りられたことに正直ほっとした。

霧から晴れたときは自分の現在位置を見失っていてどこか不時着のことも考えていた。

まぁ、今は別の問題が発生しているが今はそれを置いておいて素直に生きて降りられたことを喜びたい。

しばらくしたらここも真っ暗になるはずなので何か明かりが欲しいと思い、ライトに灯をつけて格納庫のライトスイッチをいじってみた。

しかし、既に人々が撤退し終わっている場所に電気は通っているはずもなく明かりがつくことはなかった。

こういうところだからどこかに発電機とかもありそうなんだがな。

まぁ、ああいう目立つものがすぐに見つけられないということはここではなくどこか、おそらく地下にあるのだろう。

どうせ見つけられても動くかどうかの保証もないから探すのはあきらめるか。

仕方なく周りを見てみるとランタンが使えるようだったのでそれを頼りに移動することにする。

 

明かりを手にした俺はまずは格納庫の探索を始めた。

何もないだろうが、何か現状を把握できるようなヒントがあるかもしれない。

放置されているユニットは8、戦闘機はBf-109が5、D.520が2機、スピットファイアMk.XIIが5機。

少し調べてみるどうやらその様子はいつも伯爵や管野が壊しているような感じとは少し違った。

放置されているユニットを注意深く観察してみると破損している場所はそれぞれ異なるのだが、すべてのユニットからエンジンなど飛ぶのに必須な部品が取り外されていた。

おそらくここから撤退する時に使えそうな部品だけ取り外したのだろう。

これらを修理することはかなわないからせめて壊れていないものだけでも持っていこうと思ったのだろうか。

「なるほどね。確かにそれは合理的な判断だな。」

しかし、エンジンやその他主要部品が外されてしまいもう二度と飛べなくなっているとはいえここにドイツとフランス、イギリスの戦闘機がここに一堂にこの時代に並んで放置されているというのは色々思うところがあるな。

こんな調子だったら何か指令室か司令官室に書類が残されているかもしれない。 

焼却処分されていないといいんだが。

 

格納庫を出て目の前にここの基地で唯一、5階まである建物が目に入った。

おそらくあそこがここの基地の拠点なんだろうな。

広い入口から中に入ると中はかなり荒れていた。

ここから撤退するときにきっと大急ぎで支度をしたんだろうな。

一度ここを出発したら戻ってくることができないため、必要なものを、それも船での撤退のため、最小限にして後はすべて放棄したのだろう。

だからここの基地にはトップシークレットレベルの物は残っていないだろうがなにかそれなりに重要度が高い書類は物が残っているかもしれない。

エレベーターももちろん動いていなかったので俺は階段で5階に上り司令官室と思われる部屋に入る。

扉には鍵がかかっておらず中には容易にはいることができた。

ここもメインホールほどではないが地面には乱雑に散らかった書類が散らばっておりひどいありさまだ。書類は部外秘の印鑑が押されているのにも関わらず破れていたり、足跡が多数ついていたりして読めたものではなかった。

「はぁ。せめて散らかすならその本のままにしておいてくれればいいのに。なんでわざわざ封をきっちゃうのかな。あとで見る方が大変だろうが。」

地面に落ちてもはや読み物として機能できていないものは放置しておいて俺は机や棚に置いてあるまだ読むことができる書類をいくつかピックアップした。

 

-第25戦車中隊進行計画書-

-弾薬、銃器配備状況について-

-各部隊における人員消耗率について-

-大ビフレスト作戦進行状況について-

何個かの書類を流しながら見ていると、一つ目を引く書類を見つけた。

 

-ダイナモ作戦-

 

ダイナモ作戦?

それって、確かダンケルクからフランス軍、イギリス軍を一度に約40万人を撤退させる大作戦のイギリス側のコードネームだったよな。

まさかついさっきまでやっていたあれがあのこの世界におけるダイナモ作戦だっているのか?

俺は書類をめくりその概要を読み始める。

大ビフレスト作戦においてカールスラント軍の大半はちぇるべるす撤退作戦やハンニバル撤退作戦で撤退を完了させた。だが民間人の撤退を支援するためにいくつかの部隊はまだ欧州に取り残されていた。

またブリタニア軍も海外派遣した一部の部隊が撤退を行えていなかった。

それに加えて一か月前に陥落したパリから脱出しようとしていたガリア軍を主力とする部隊が、大半はヒスパニアやロマーニャへ撤退を完了したが北部方面に駐留していた部隊はネウロイによって分断され逃げることができなかった。

以上の3つの軍の総勢が40万人ということもあって決して無視できる人数ではなかった。

そのために立案されたのがダイナモ作戦だった。当初はカールスラント、ブリタニア、ガリアを三回に分けて回収する方法が立案されて一部実行された。

しかし予想以上にネウロイの抵抗が激しく回収のたびに護衛をつけていては戦力が足りなくなることが予想された。

そのため、一度に全部隊を一か所に集中させてそこでまとめて撤退させるという大撤退作戦が立案された。それがダイナモ作戦の概要だった。

そして今日がその作戦の最終日、全員を一人残らずダンケルク、そして欧州から撤退させたというわけだ。

作戦日程表によるとその最終日は1940年6月4日とある。

つまり、今日はその日ということで間違いないだろう。

今俺は1940年に来てしまったというわけか・・。

落ち込むのは後にして、とにかく現在位置と現在時刻が分かったことは大きな収穫だ。

なら次に考えるべきことは何をすべきだ。

前に落ちた時と違って今の俺は怪我をしていないしユニットは破損していない。

少なくとも最悪ではない。いいように考えればずっと前に起きたタイムトリップがまた起きたというだけだ。あの1945年に戻れる確証はなかったがそこまで慌てる時間じゃないと思うようにした。

これ以上の収穫は望めないだろう。

未来のエースウィッチを召喚してこの戦局を変えさせるための計画、なんてものが出てくるのならば話は別だがな。

そんな元あってたまるかって話だ。

銃を手に取りランタンを腰にぶら下げる。

ふと窓の外を見てみるともう太陽は沈んでしまっていた。今持っている時計を見ても21時になっているがこの時間もおそらく間違っているはずだ。

どこかで時計調節できる場所も探さないとな。

格納庫かどこかにパイロットが時間合わせに使っているはずの時計があるはずだ。

あとで探しに行こう。

 

1階に降りると食堂を見つけることがあった。ここは他の場所とは異なりかなり綺麗だった。

料理人には綺麗好きが多い気がする。

おそらくそいつのプライドが再びここに戻ってきたとき、すぐに再開できるようにできるだけ綺麗にしておいたんだろうか。

少なくともそいつらのおかげで今俺はすぐに食事にありつけた。

と言ってもコンロを触ってみても火が付かなかったので残っていた缶詰をそのまま食べることになった。

不幸中の幸いなのか缶切りが残っていたので気合で開けるなんてことにはならなかった。

そういえば、まだ倉庫の探索をしていなかったな。

あちらの方に持ち出せずに放棄したものが残っているかもしれない。

まだ見ていないが何個かは残っているだろう。もしかしたら何か調理用のコンロか何かが残っているかもしれない。

ずっと冷たい保存食を食べていてはたぶん一週間後には飽きている事だろう。

しばらくしたら暖かいものが恋しくなるだろうから明日辺りから見つけたら持ち帰るリストにでも追加しておくか。

食事を終える事には先ほどまではわずかに明るかった空も完全に暗くなっており星々が光り輝いていた。

地上にいる時にここまで暗いのも久しぶりだな。

夜間哨戒の時はいつもこのような感じだが、基地にいる時は必ずどこか街には明かりが灯っていたので基地全体の明かりが消えているのは久しぶりな気がする。

これほど暗いとランタンで照らしながら倉庫を探索しても絶対に何かを見落としてしまうだろう。

倉庫の探索は明日以降の太陽が昇ってからにしようと、俺は決めて今日は寝てしまうことにした。

 

1940/6/5 1日目

目が覚めたのは日の出直前だった。いや、丘に隠れているだけでもう太陽は日の出を迎えているかもしれない。

オラーシャほどではないがガリアの朝というのも随分と寒い。

冷えた体を温めるためのストーブなんてものもここにはないので(あったとしても動かないので)体を動かすことにした。

俺は体を起こすと駆け足で誰もいない建物を走り、宿舎を漁ることにした。

昨日の戦闘で硝煙や海上を低空で飛行した際に跳ねた海水のせいで俺の来ている服はかなり汚れていて着替えたかった。

軍事基地ということもあって服装にも困らなかった。汚れた服を捨てて新しい服に着替える。

一応、白迷彩の服のストックがあったからそちらを選択した。

服の色が変わってしまうと“あちら”に戻ったときにきっ伯爵やジョゼに遠くからだと間違えられてしまうからな。

ストックがあればできる限りはこの白迷彩にしておくとしよう。支給されていた白色迷彩服とは着た感じ

が若干異なる。

体感だがこちらの方が、素材がいいような気がする。

この服を作ったのがまだ深刻な素材不足の時ではなかったため今よりはいいものを使用して作れたからだろうか。

とにかく、着心地はこちらの方がいいな。

 

予想外にいい服を着られたことに少し嬉しくなった俺は、今日はダンケルクの街を探索することにした。

なぜかというとやる事がなくなってしまったからだ。

人類がこの地から撤退してしまった以上、もはやネウロイはこのような小さな港町などに用などないだろう。

もはやここはネウロイの勢力圏内だ。

必要が無い限り飛ぶのは控えるべきだ。

別に戦えということになったとしても現状は負ける気はしないが、下手したらネウロイを怒り狂わせてしまい俺が死ぬまでネウロイを投入して追いかけてくるだろう。

まぁ、包囲されたら速度差を生かしてまたどこかへ逃げるだけだが、現状は弾薬が心もとないから安定して供給できるルートを発見できない限りは控えるべきだな。

とにかく下手に空に上がれない以上、やれることは限られてくる。

どこかに移動しようにもこの基地にはスクラップ同然の機体と車両しかない。だが幸いにも近くにまだ使えるはずの車両が大量に放置されている場所がある。

そう、昨日人類が撤退し終わって誰もいない町、ダンケルクだ。

ダイナモ作戦には物資の回収に関する記述はなかった。

史実においてもイギリスは大量の物資をそこに放棄してしまうことで深刻な物資不足に悩まされたと聞いたことがある。

つまり、まだそこには使うことが車両や武器弾薬が残っている可能性がある。

ダンケルクまでは直線で30km。

壊れていない基地内移動用の自転車があったのでそれを使えばきっと今日中に行って帰ってくることができるはずだ。

朝食でコーンとコンビーフを食べた俺は早速ユニットから端末を取り出し、自転車に乗ってダンケルクの街へ繰り出したのだった。

 

空から見るとあんなに小さな町だったのにいざ自転車できてみるとそれなりに大きいんだな。

舗装されていない道に四苦八苦しながらもなんとかダンケルクについた俺はこの街を見ながらそう思った。

俺の読み通り、あちこちにまだ使えると思われる車両が放置されていた。

これは良かった。移動手段が確保できたでも幸いだ。どこに行くかは決まってないが。

燃料もほかの車両に入っているものを移して残りをタンクにでも入れればかなりの距離を移動できるはずだ。

牽引式のミニトラックも見つけられたから多少燃費は落ちるだろうがここに予備燃料でも積めばしばらくは安心できるかもな。

だが想定外なこともあった。

弾薬や医療品関連がほとんど残っていなかったのだ。ダンケルクの街自体がそれなりの大きさがあるとはいえ、物資を集積している場所は限られている。

昨日発見した作戦計画書にもその記述が書かれていたため、今日は3か所あるうちの一つ目を探索したわけだ。

とりあえず12.7mm弾100発、薄殻魔法榴弾も15発回収できた。医療品も応急処置パックがかろうじて3つ、見つけられた。

Mg34などの銃弾はそれなりにあったのだが威力がある12.7mm弾は昨日と一昨日の戦闘でほとんど使用されてしまったのだろう。

医療パックなどは銃弾なんかよりもさらに需要が高いためほとんど使用され使われなかったものはそのまま持っていかれてしまったのだろうな。

おそらく今日調べた物資倉庫らしきところにはこれしかなかったがもっと探せばほかにはあるだろう。

ここに来る途中に何か所か対空銃座を見つけていた。

だがこの街にある多数の銃座を、一つずつ探索をしていると今日中に基地に帰れなくなってしまうだろう。

俺はそこらへんに放置されている中で一番状態のよさそうな牽引車両付きトラックを選んで燃料の残量を確認する。

よし、とりあえず基地へ戻ってまたここダンケルクに行けるだけの燃料は残っていた。

「今日はこれくらいにしておくか。」

今日の目標であるダンケルクの街に到達して何が残っているかの確認という2つが達成できたから今日はもう十分だ。

12.7mm100発と薄殻魔法榴弾15発はそれ単体だけでもそれなりの重量があるため複数回に分けて何とか搬入した。

一応、弾薬が500発ほど残っていたのでMg34一丁とその弾薬も貰って帰ることにした。

もちろん来るときに乗ってきた自転車も後ろに載せて行きと比べてはるかに楽な帰りに俺はついたのだった。

 

 

行き苦労して行ったためかかなり時間がかかるイメージだったのだが帰りにはそれほど時間がかからなかった。

基地に到着してもまだ太陽はそれほど沈んではいなかった。だがもう一度行けるか、となると話は別でもう厳しそうなので街の探索は明日にする。

トラックを格納庫のそばに置き後ろの牽引トラックに苦労しながらユニットの搭載を完了した。

やはり魔力を発動させると筋力もそれなりに強化されるので何個かに分けて載せて再び組み立てるという少し面倒くさい方法をとったが、これで後ろの牽引トラックからもユニットを履いて後ろが直線であれば発進できるようになった。

ちょっとした移動型ユニット発進基地の出来上がりだ。

メイヴを固定して布をかぶせてようやく終わったと一息ついたその瞬間、

 

パリン!

 

背後で何かが落ちて割れる音が聞こえた。

俺はすかさず姿勢を低くして銃の安全装置を解除する。

ただ自然現象に従って落ちたのだったらいいのだが、これが誰かがぶつかって落ちたとなれば話はまったく変わってしまう。

撤退とやらに置いていかれた奴が正気を失った状態でここの基地に迷い込んだ、なんて最悪の事態じゃなければいいが。

音は倉庫の中から聞こえてきた。そういえば昨日から倉庫の中を探索するのを忘れていた。

もしかしたら誰か昨日からそこからいたのかもしれない。

端末には今日なにも警報が入らなかったということはユニットをいじられたということはないだろうがもし人が、それも俺に敵対心を持っているような奴がそこ似たとしたらかなり厄介なことになりそうだ。

最悪、銃撃戦も覚悟しないといけない。

わずかに開いたドアを足で蹴って開ける。ここも同様に電気がついていないため中はわずかに太陽の光がさしているだけでほとんど真っ暗だった。

手元のランタンの明かりを頼りに倉庫内に入る。

10mほど歩いたところでほんの少し明るくなっているところを見つけた。どうやら倉庫内の小部屋のようでそこから明かりが漏れていた。わずかに薄いが影のようなものも見える。

先ほどの音はそこからか?俺はランタンを足元に置いて拳銃の安全装置を外す。

ゆっくりと足音を立てずに小部屋の扉の前についた。

心の中でゆっくりとカウントダウンをする。

3,2,1…,0!

そして俺は力いっぱいに扉を開けて低姿勢のまま突入した。

 

「動くな!」

「ぴゃ!」

 

・・・ぴゃ?俺が想定していたのと明らかに違う声が聞こえた。

視線を下に動かすとそこには・・・

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

そう俺に謝りながら怖がる少女がいた。

 

なぜだろう、もしかしたら俺はこの子を救うためにここに呼ばれたのではないだろうか?

この子とはここでこの日に会うべくしてあったのではないか?

そんな風に考えてしまった。

 




気が付けば2月・・・。前回投稿よりもう5か月・・・。早いものです。
帰ったらしようと何度も繰り返しているうちにここまで来てしまいました。
これからも頑張って更新はしていきたいです。

ご指摘、ご感想、誤字訂正があればよろしくお願い致します。

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