引き籠もりの魔法使い   作:涙袋

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今回のお話では生前の事が出てきますのでご注意ください。




13話目*魔法使いと魔法使い

 

家へと帰宅した後、食事を終え私はあの崩れた迷宮の事を考えていた。

まず初めに、迷宮が崩れた原因はあの壁に刻まれた魔法式による物だろう。私が使う“数列型魔法”や“単一文字列魔法”とは違った“文章型魔法”。

 

数列型魔法は頻繁に使用する単一文字列型魔法に比べ、構築内容が細く発動にタイムラグが発生する。

だがその分効果やその内容がより鮮明に書き写せる。この森に張られている結界や魔術の使用などに最も適している。魔力消費においてもバラツキが無く安定している。

 

次に単一文字列型魔法。私が最も使う式がこの文字列型になる。発動速度が早く、構築内容も簡易的なものであり幅広い魔法を作る事が可能だ。

欠点を上げるとするならば、一文字のミスにより負傷する可能性がある事。数列型は発動せずに終わるが、文字列型は暴発もしくは魔力と共に生命エネルギーが消失していく。

そこさえ注視すれば最も使い易い術式だ。

 

 

そしてこれが今回の発見した術式。文章型魔法。文字列型と似たようではあるが、その本質は大きく変わってくる。

単一文字列型魔法は区切り区切りで繋げていくものだが、この文章型魔法は物語のように背景を書き記し、その内容や濃密さによって効果や効力が大きく変動する。

 

現状この文字を読み解く事は出来ないが、迷宮の状態や時代背景、内部構造に加えあの新種の竜とその奥に眠っていた金や宝石の類からして、架空神話もしくは超古代文明を題材とした内容なのだろう。

これは今の私が作ろうと試みても不可能な代物だ。こう言った類の魔法式には予め設定された言語のみで発動できる。

私の単一文字列型魔法も生前の世界の言語を基にしている。

 

「おや、これはこれは。中々に興味深い。エルフの使う言語に実に似ている」

 

文章の中にある一部の文字が、ゼーリエの使う魔法式に刻まれている字と酷似している。形は多少違うものの、言語体系は同じと言っても遜色ないほどだ。

 

「これならば時間を掛ければ読めそうだ」

 

 

◆◇◆◇◆

ゼーリエと暮らし始めてから千百年(転生してから千七百年)

 

迷宮の最奥に刻まれていた言語の解析を始めてから二百年が経過した。エルフであるゼーリエの協力の元、文章の内容と一部言語を理解する事ができた。どうやら中にはエルフの言語と違ったものも含まれてはいたが、二百年で済んだのは僥倖だ。

その内容は想像していた通り、架空神話を題材としたものとなっていた。その一部を切り取ろう。

 

 

“遠い時代 神へ至ろうと藻掻いた醜き巨竜は 神々の手により深き眠りへと堕ちり征く

永きに渡る眠りから覚める時 彼の巨竜は小さき世界にて憤怒する

されど巨竜はその世界より踏み出す事なく 幾千という永き時を再び闇の中にて過ごす

其れは喪った力を取り戻す為 其の力を再び神々へと奪われぬが為

巨竜は己に誓う 己が力を奪おうとする者を許さぬと 己が眠りを妨げる者を許さぬと 己の世界へ踏み入る異物を許さぬと

その高き塔に眠るは古の竜 神をも喰らう醜き巨竜である”

 

 

「でだ、これが解ったからなんだと言うんだ?」

 

「ああ。どうやら私は、神という存在から嫌われているようだ」

 

「神か。そんなものが存在していれば、こんな世界にはなっていないだろ。あれは架空の存在でしかない」

 

「どうだろうか。もしかしたら、神は私達に近い存在なのかもしれない。それこそ、君たちエルフに最も近しいだろう」

 

「相変わらずよく分からない事ばかり言うな。私はもう寝るぞ、最近はお前の所為でよく寝れていないんだ」

 

「それは申し訳ない事をしたね」

 

ゼーリエは目を擦りながら、フラフラと自室へと戻って行った。

 

さて、これで私も文章型魔法を使用出来ると考えるかもしれないが、そうもいかない。この魔法は私の持つ魔力では適合せずに拒まれる。

数列型魔法、単一文字列型魔法、想像型魔法の三種は通常の魔力で問題なく発動する。これは魔物であっても変わりはしないだろう。

しかしどうにもこの文章型魔法は違うようだ。試しに魔力を流し通しては見たものの、発動以前に魔力自体が消失する。

 

これの原因は明らかだ。あの塔から魔力は感じられず、それとは別の力を感じた。魔力の上位互換もしくは魔力とは全くの別物の何かしらだろう。

魔力の上位互換であれば言語同様に打つ手はある。だが全くの別物となれば現状のみならず、未来永劫不可能だろう。

なんとも悔しくはあるが、同時に素晴らしくも思える。唯一無二の現象力、それは魔法では無い未知の存在。

 

「あぁなんと…なんと素晴らしい事か。是非ともこの目に収めたい…」

 

私は高揚する。未知という果てしない迄の闇を、恐怖などという甘い言葉で覆いつくせぬ終わりなき深淵を、それを知りたい。

 

「その未知を私はーー」

 

「知りたいですか?。」

 

「…」

(魔力を感じられない。生命感知にも反応は無い。あの塔と同じ力を持っている存在か)

 

エトワールは机の上に置かれた万年筆を手に取り、そのまま手を離す……しかしそれは床に届くこと無く、宙に浮いたまま動かずにいた。

 

「停止、停滞、減速…一部空間を歪めその決められた範囲の時間を引き延ばしているか…ふむ、実に面白い。私のものよりも効果が強く出ている。これもその力によるものか」

 

人類種どころか魔物種ですら理解の遠く及ばない現象を目にしても、エトワールは戸惑うこと無く、その魔法を解析する。

 

「現在影響を受けているのはこの家だけか」

 

「正解と言えばよいですか?。」

 

それに対して彼女は、感情の見えない気持ちの悪い笑顔をで声を出す。

静かな音の無い世界で、二人は機械人形のように、顔色一つ変えること無く言葉を交わす。

 

「それならば嬉しい限りだ。あの迷宮の制作者は君で合っているようだね」

 

「はい。貴方を無くす為に創りました。」

 

「成程。異物的存在に居られては困ると」

 

「この(未来)の歴史に不備が起こりかねません。それはこの世界の調和を維持する者として見過ごすことは出来ません。」

 

二人は淡々と会話を続ける。何とも言葉にし難い冷たい空気がその場を包み込む。

 

「それは申し訳ない事だ。しかしそうか、私を生まれ変わらせたのは君では無い別のナニカという訳か」

 

「そうです。貴方の魂、肉体は別次元の世界からそのままの形でこちらへ飛んできました。これに神という存在の力も、あの“機械都市”も関与しておりません。」

 

「ほう。魂・肉体共に“別次元”から私は“飛んで来た”のか。魂のみが此方へやってきたと考えていたが、成程そうなれば理解出来る。私は自身の生前の容姿を覚えていない。その原因は記憶とは違い肉体データは魂に刻まれる事がなく、その容姿データは魂では無く肉体データに強く引かれ記憶から削除されていたという事か」

 

「理解が早くて助かります。この世界を維持する立場としては助かりませんが。」

 

この世界へと来た際、エトワールの容姿は生前と何ら変わりなく、身長・体重までもが同じモノで成り立っていた。

エトワール述べたように、容姿に関する記憶は肉体へと強く引かれすぎてしまい、記憶から抜け落ちてしまった。

しかし見たことの無い顔や身体を目にしても、そこに違和感を感じることは無かった。それはきっと、魂に僅かながらの小さなデータが残っていたからであろう。

 

「どうしたものだろうか。私はこの世界を壊そうとも、未来を歪めようとも考えてはいない。ただ魔法を楽しみたいだけの一魔法使いなのだが」

 

「貴方は、私の苦手なタイプです。人間らしさも無い、私と似た一精神性を“棄てた”、自身の決めた合理性の元行動する、嫌な魔法使いです。提案です。今から述べる事に誓ってくださるのでしたら、この世界で自由に生きてくださって構いません。」

 

「ふむ。未知のなんらかによる契約とは、とても面白い」

 

エトワールの目の前にいる“ソレ”は提案する。差し出された一枚の紙には、これらのことが綴られていた。

 

 

【1.この世界における魔法・魔道具の技術進歩に関与しない。(一部の魔法に加え個体名ゼーリエは除くものとする)】

【2.この先、魔王・女神を名乗る存在が現れた際に深く干渉しない。(相手から接触してき場合を除く)】

【3.人類種・魔物種の殺戮を禁止する。(一定数の許可、故意的殺戮では無い場合も同様に可とする)】

【4.人類種・魔物種の戦争が始まった際、どちらの味方にもならない】

【5.己がどのようにしてこの世界へとやってきたのかを詮索しない】

 

 

「…成程。いいだろう。これらの条件を受け入れよう」

 

「意外ですね。貴方は探求者です。最後の欄に書かれているそれを受け入れるとは思いませんでした。」

 

彼女の言葉通り、この世界へとどの様にして誰の手によってそこに何が関係しているのかを知るのは、エトワールの中での最重要事項でもあった。

この二千年近く、魔法の事だけではなく当然その事も研究し続けていた。

 

「私は初め、この世界は電脳世界だと考えていた。死んだ私の脳を電脳隔離維持装置に嵌め込み、その世界で生きていけるのかと言う実験対象になったのだと考えていた。なにせ多くの者達から煙たがれていたからね。実験対象としては打ってつけだろう。だが違和感を覚えた。私が生きていた世界の技術は確かのものだが、そのどれもが完璧とは言えない。科学者はよく口にしていた、完璧などと言うものは詰まらないと。そう嫌っていた」

 

エトワールの生きていた世界は、何処までも現実的であり、非現実的な存在である神・魔術・超能力と言ったことを全否定するような社会で構成されていた。

信じるべきは科学なのだと、誰もがそう言い張り続けている。エトワールが消えた今でも、其れは変わらずあり続けているだろう。

 

「完璧でないのならば何処かに穴がある筈だ。彼らは自尊心が強い。故に信念を曲げることがない。だと言うのに、この世界には不具合や欠陥ひとつ見当たらない。私は何処までも神秘を求めた。その中で科学的技術にも多く触れてきた。それで確信できた、この世界は紛れもない現実だと」

 

生前生きた年数は百にも満たない。それでもエトワールは自身の取り込めるあらゆる知識、技術を体験してきた。

その中にも、電脳世界に関する事にも何度も触れてきた。だがらこそ、こうしてこの世界が現実だと言える。

 

「では誰が私をこの世界へと飛ばしたのか。私は考えた、神なのか、魔法なのか、奇跡なのか、運命なのか、はたまた…」

 

「…」

 

「例えどの答えだとしても、私はそれに感謝を伝えるだろう。私が長年、生涯を賭けて追い求めた神秘を、この手に与えてくれたのだからね」

 

「そうですか。ではどうぞこの世界を楽しんでください。魔法使いエトワール改め、たった一人の神秘学者ーーー」

 

 

 

 

時間が止まったも同然の世界は、歯車の様に美しく動き始める。彼女の消えた部屋には、彼女の痕跡は残っていない。

何時もと変わらない積み重ねられた資料、開発途中の魔道具、その近くに開かれた本。

そして床に転がる一本の万年筆。エトワールはそれを優しく手に取る。

 

「ふむ。すっかり忘れていた。本当の名前を聞いたのは何時ぶりだろうか」

 

エトワールは足を勧め、椅子へと座り、万年筆を置く。

 

「実の所考えもしなかった。まさか君が私の夢を叶えてくれるとは。君が最初の友人(・・・・・)で、私は嬉しい限りだ」

 

ポツリと呟いたその言葉は、窓から吹き抜ける風に流され、消えていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

彼の求める魔法とは、イメージだけではなくあらゆる手段を用いてでも不可能を現実へと変えられる美しい魔法である。

彼女の求める魔法とは、人々の生まれ持つ強くも儚い素晴らしいイメージのみによって映し出される美しい魔法である。

互いに求める過程は違えども、行き着く先は変わることの無い美しい魔法。

魔法使いに異端も無ければ正統もない。魔法使いは皆平等に魔法使いなのだから。

 

遠い遠い北の最果ての、小さな石碑に長く刻まれた中に短く描かれた二人の“魔法使い”。遥か後の過去も遥か先の未来も、この二人を知る者は居ない。

だが魔法使いならば誰もが思うだろう。この石碑に描かれた二人の魔法使いが、何処までも魔法を追い求める愚者だという事を。

 

 




エトワール君が最後の方にちょっと感傷的になってるけどこれが最初で最後かもしれない…
因みにエトワール君はお友達が少ないです。。。

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