おっさん冒険者はTS美少女で食っていきたい   作:赤髪のシャンクス

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迷宮と疾走とお風呂事情

 

 

 

 一日挟んで翌日。

 

 俺達は迷宮『星の大井戸(アステール)』の入口の一つへと辿り着いていた。

 

 まるで王城の物のような豪華な扉を開けば、地下への階段が現れる。『星の大井戸(アステール)』の入口はだいたいこの形式だ。

 

 

「改めて確認しますが、今回の短期探索(スピードダイブ)の目安は最大6日。それ以降は食料や安全性の保証が出来なくなります」

「それは構いませんが……6日。やはり短いですね」

「ヨモツヒラサカの方じゃ違うんすか?」

「私はあまり詳しくありませんが、迷宮というのは数週間潜るのが基本なのでは無いんでしょうか?」

「どうなんすかジュリエちゃあぁん!?」

 

 こいつ俺のこと隠す気ねぇだろ。

 もうここ最近で何回ヘットの腹に肘入れたか覚えてないぞ。

 

星の大井戸(アステール)は比較的構造が単純ってのもありますね。まぁ、単純だからこそ簡単に奥に進めてしまい、奥のトラップやモンスターにやられることが多いんですけど」

「……なるほど。生き物に例えるなら、確かにそちらの方が理にかなっている」

 

 迷宮が何なのか、今の人類がわかっていることは少ない。

 

 だがひとつ言えるのは、迷宮は間違いなく人間が出入りすることを望んでいるのだ。

 わざわざ丁寧に宝箱に入った財宝やセーフポイントが生えてくるし、下の階層に行くための階段もどう見たって人工物だし、あながち迷宮を巨大な植物とするトンデモ学説だって間違いでは無いと思うほど。

 

「とりあえず、今回はその比較的単純な構造を利用します。素早く奥地まで向かい、素早く探索を済ませ、帰還する。リスクを最小限まで減らした探索方法であるという点を留意してください」

「今更貴方達の考えに異論はありません。改めて、此度はよろしくお願いします」

「任されました。では行きましょう」

 

 そう言って、俺とヘットは軽く準備体操をしながらあれこれを確認し始める。

 

「ヘット、強化魔術の準備は?」

「使い捨ての礼装は全部使うっすね」

「OK、さすがわかってるな」

「え、これ全部使うの? まだ入口なのにもったいな〜い♡無駄撃ち♡」

「俺が世界で二番目に嫌いな単語は無駄っすよ。一番は努力」

「なんでこの人商会連合(スカベンジ)の構成員になれたんですか?」

「運じゃないですかねぇ」

「なんか俺への当たりキツくないっすか?」

 

 馬車で運んできた荷物の大半を使い、ヘットが手際よく俺達に強化魔術をかけていく。ここまでしても劇的な効果が得られるほどでは無いが、これで格段に移動がしやすくなる。

 

「さて、じゃあ準備も出来ましたし行きましょう」

「まずは急いで下層に向かう、ですね」

「そうっすね。ひとまず10層まではダッシュ。そこから20層辺りのセーフポイントに拠点を作りたいって感じっす」

 

 短期探索(スピートダイブ)では、まずは素早く探索目的となるエリアの近くまで降りることが大切になってくる。

 

 つまりどういうことかと言うと、だ。

 

 

 

「へい強化魔術完了! 全員ダッシュダッシュダッシュ!」

「はいよーいどん!」

「え?」

「へ♡」

「2人ともダッシュっす! この強化あんまり時間持たないから!」

 

 一瞬呆気に取られながらも、ハリさんとギメルも走り出して俺達は全力ダッシュで迷宮の中に突撃していく。

 

「あ、ジュリエさんこの先モンスターが……」

「あれは星河の使徒(アステリア)っすね!」

 

 目の前に現れたのは鉱物型の人型モンスター。

 動きは緩慢だが鉱物で全身ができていて非常に固く、力も強いため掴まれたりしたら一大事。こいつによってよく新米冒険者が体の一部を失ってたりするが……。

 

 

「無視! 横を走り抜けるぞ!」

「無視ですか!?」

 

 

 驚きながらもハリさんはしっかり星河の使徒(アステリア)の抱擁を躱し、俺たちにちゃんと着いてきている。最後尾にヘットもついて来ているし、遅れるような心配はないだろう。

 

「え、これガチ走り♡迷宮内走るのって普通に危ないよね♡正気?」

「正気なんだなこれが」

 

 迷宮内のモンスターってのは、どれだけ浅い層でもそこそこ強い。真面目に戦えばそれなりに消耗するし、迷宮というのは広いのだ。慎重に行動なんてしていたら、一層降りるのに一日使ってしまう。

 

 加えて、迷宮内には基本的に魔術の触媒になるものは転がっていないため、最大効率で魔術が使えるのは地上になる。

 

 つまり、地上からしばらくはダッシュで接敵を無視して降りてしまうのが一番効率的ということになる。もちろん、迷宮内で走るのは不意のモンスターやトラップなどのリスクはあるが、トラップに関してはそんなもの踏んでからでもどうにでもなるし、仮にも元金星等級の冒険者である俺にとって、深層のものでもない初歩的なトラップなんて余裕で見分けられる。

 

 そして、モンスターに関しては今回はギメルもいる。

 

「っ! この先左方向♡巨大な蛇が口を開けてる♡すっご♡でっか♡」

「ステラサーペントだな! ウォォォォォDXウルトラハイパーキャノンソードォォォォォ!!!」

 

 剣の柄から出した炎でステラサーペントが怯んだ隙に、俺達はダッシュでその横を走り抜ける。

 

 迷宮知識に長ける俺と、自慢の耳で大抵の代物は聞き分けるギメル。あと万が一の時の盾であるヘットという完璧な布陣。

 このまま何が起きようとも、ある一点だけ注意しておけば基本的に何も問題ない。

 

 

 

 問題ない……はず! 

 

 

 

「なにあの羽が生えた馬! なんで馬に羽が生えてるの!? 画蛇添足♡」

「あれは……ヘビリンゴホース!」

「それはヘビなのかリンゴなのかウマなのかなんなんですか?」

「リンゴの仲間っす! 羽で羽ばたきながら回転して突っ込んできて、当たったら当然死ぬんで走り抜けるっすよ!!!」

「果実なんだ……きっも♡」

 

 

「あれはモノアイサーペント! 執念深いし眼球を破裂させると有毒な体液を撒き散らすので、迂回!」

「そっちの道にも同じのいる♡」

「いや、あっちはコブコブラっすね! ただのでかいコブのついてるヘビっす! 牙の毒に触れたら一瞬で骨まで溶けるのでそこだけ注意っす!」

「そんなに凶悪なら命名なんでコブの方に寄せたんですか!?」

「毒くらいみんな持ってるからですかねぇ……」

 

 

「あれは……ダイヤモンドキャンサー!」

「え、可愛い名前♡」

「超硬質の老廃物を全身の排泄孔から弾丸のように飛ばす凶悪なモンスターっすね」

「ここほんとに迷宮? さっきから出てくるのがモンスターと言うより攻城兵器♡」

 

 

 なんかこういう時に限って厄介なモンスターばかりと出会うな。

 

「別に、あの程度のモンスターなら倒して進んでもいいのではないでしょうか?」

「んー、それはそうなんですけどねぇ」

 

 ダイヤモンドキャンサーとかは外殻が硬すぎて、今の俺だと外殻を砕いてとか出来ないから、必然装甲の隙間から殺す必要が出てくる。

 

 つまり、時間をかける必要が出てくるのだ。時間がかかれば、当然怪我や疲労のリスクも増える。地形やモンスターが面倒になってくる深層に、初手の万全の強化が残っている状態で入りたいというのもあるし……。

 

 

「……つまり、時間をかけなければ良いのですね?」

「それはそうですけど、申し訳ないですが俺達では解決できない問題で……」

「何も、皆様に任せるためだけに着いてきている訳ではありませんからね」

 

 ハリさんはそう言いながら腰に差していた剣を抜く。

 東方由来の細身の片刃剣は、武器と言うよりも美術品のようなおごそかな雰囲気があり、それを構えるハリさんの姿も、迷宮には似つかわしくない神聖なモノがある。

 

「一応聞きますが、ダイヤモンドキャンサーに毒の類は?」

「内臓は食べたら腹を壊しますが、皮膚にかかって問題のある体液はありません」

「なら問題ありませんね」

 

 何が問題ないんだろう、と問いかける前に、ハリさんは素早くダイヤモンドキャンサーの前へと飛び出した。

 

「ちょ……」

 

 俺達からしたら彼女は雇い主にして護衛対象。その身に万が一のことがあってはならないため、可能な限り彼女が安全なように動いている。

 

 だと言うのに、彼女の方から前に出られては困るのだ。

 商人魂からか、俺よりも素早くヘットが動くが、既にダイヤモンドキャンサーがハリさんを認識してしまっている。どうやっても間に合わない。

 

 

 

「───なるほど。この程度ならやはり、押し通る方が早い」

 

 

 

 ハリさんが剣を振り下ろす。

 

 同時に、彼女の倍以上の体躯を持つダイヤモンドキャンサーが()()()()になる。

 

 銀星等級の冒険者ですら、装甲を壊すことは難しい為に避けて通る。

 男の時の俺だって、それなりに本気で叩いて、どっちかと言うと殴り砕くようにしてようやく仕留められるような硬さだけなら一級品のモンスター、それがダイヤモンドキャンサーだ。

 

「すっご♡筋肉の動きに無駄がない♡無駄が無さすぎで、動きが読めないや」

「えー、これ護衛必要なんすかねぇ……?」

 

 二人ともさすがに今の一撃は予想外だったようで驚いているし、俺だってかなり驚いている。

 

「どうでしょうか? 道を切り拓くのは得意なので、多少無理してでも押し通る、というのを選択肢に入れてみては」

「はぁ……わかりましたけど、その判断は俺たちがするので勝手に前に出たりはしないでくださいね」

「もちろん。押し通ることは得意ですが、迷宮については皆様の方が詳しいですからね」

 

 わざわざ東方からここまで来るのだから、そりゃあただのお姫様では無いと思っていたが、多分単純な強さなら金星等級の冒険者にも食い込むだろう。向こうの王族ってみんなこんな感じなのかな。

 

 とは言え脳みそまで筋肉では無いのは助かった。

 準備の段階から言えることだが、ハリさんは基本迷宮のことは俺達に任せてくれるので、こちらとしても動きやすい。

 

 強行突破の選択肢が取れるようになったし、これなら本日中には20層付近のセーフポイントへと辿り着けるだろう。

 

 

 ……ただ、強行突破が可能になるとそれはそれで問題があるんだよな。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、俺達は23層にあるセーフポイントまで辿り着いた。

 迷宮突入から半日程。途中で休憩を挟みつつ強化魔術も入れてだが、それでももう体力はほぼ限界に近い。

 

 とはいえ予定より深くまで来れたし、全員ほぼ無傷でここまで来れた。

 悪いことなんてひとつもないはずなのだが、俺を含めた女性陣は素直に喜ぶことが出来なかった。

 

「……くっさ♡」

「臭い、ですね……」

「まぁ体液はそりゃあ臭いよな……」

 

 モンスターを切れば、当然モンスターも出血する。

 それ以外にも胃液などの体液は飛び散るし、当然飛び散ると多少なりとも服にかかる。

 

 ただでさえ走り続けて汗などが気になるような状態なのに、モンスターの体液が合わさってベトベトするとなると、もうこの世の終わりくらいにキツイ。

 

「うぅ……申し訳ありません。こういうこともあって強行突破はしなかったのに、私の安易な考えと驕りが……」

「いや、この階層まで来れたのはハリさんのおかげですし、明日から探索に使える時間が増えて、良い事の方が多いですよ」

 

 それは事実だが、やっぱり辛いものは辛い。

 男の時はあまり気にならなかったのだが、この体は嗅覚が良いからか、それとも感覚の変化が俺にあるのか、正直もう帰りたいくらいテンションは下がっている。

 

 

「まー、こういうこともあろうかと、いいもの持ってきてるんすよね、俺」

「なんだ、トランプか?」

「ジュリエちゃん俺に期待して無さすぎないっすか? これ、商会連合(スカベンジ)でも一部の人間にしか持ち出し許可が降りないレア物なんすからね?」

 

 やたらともったいぶってヘットが鞄から取り出したのは、小さな女神の像だった。

 素材もなんなのか分からないし、象っている女神にも見覚えがないあたり、恐らくは迷宮遺物だろう。

 

「ジュリエちゃんからでいいっすね。ちょっとこれに魔力込めてみて。結構ガッツリ持ってかれるっすけどそこは我慢で」

「え、なになに。怖いんだけど」

「いいからいいから。悪いようにはしないっすから」

 

 悪いようになったらこいつの信用問題になるし、ヘットは仕事中にふざけて悪い状況を引き寄せるような馬鹿でもないし、とりあえず言われた通りに像に魔力を込めてみる。

 

 すると、ヘットが言った通りに結構な魔力が持っていかれる感覚がした。俺みたいな魔術を使わないやつならまだしも、少しでも魔力を使うような戦い方するやつは結構キツイくらいの量だ。

 

「───ぅ、おいヘット、これなん……!?」

 

 ここまでならさすがに事前に何か言って欲しかったと文句を言おうとしたが、その言葉は思わず飛出てしまった驚きの声に押し潰されてしまう。

 

「気づいたっすか……そう、その迷宮遺産はとんでもない優れものっすからねぇ……」

「これって……マジかよ……!」

 

 俺は自分の腕や髪の毛を確認し、その確信を得るとさらに驚いてしまう。こんな恐ろしい遺物が存在したなんて、これを表沙汰にしたら世界が揺らぐ程の存在だ。

 

 

「体が……風呂に入りたてみたいになってる……!」

「体だけじゃないっすよ。衣服や鎧も洗いたての状態にしてくれるんすよね、この遺産」

 

 いやマジでこれは冗談抜きにとんでもない額の金が動く代物じゃないのか!? こんなものが存在するなんて、遺産記録の中でも見た事ないぞ!? 

 

「お風呂に……入りたてに!?」

「まさか……この匂いもベタつきも落ちるのですか!?」

「落ちるなんてものじゃない……肌の保湿までしてくれているぞこの遺産!」

「ヘットさんそれ幾ら!? 幾らで買えるの!?」

「それを我が国に持ち帰ればもうそれで目的達成できそうなのですが!? え、幾らで買い取れますかそれ!?」

「悪いけどこれは売り物じゃないんすよねぇ。まぁ皆さんがこれからも俺と良い取引相手でいてくれるなら、また利用できると思うので、そこんところよろしくお願いしますっすね〜」

 

 商会連合(スカベンジ)は独自のルートで、とんでもない遺産を聖愛教会(ラプチャー)の監視をかいくぐって所有すると聞いたことがあるが、まさかここまでの代物だったとは……。

 

「お前、こんなものここで使って……紛失とか、強奪とか考えないのかよ……」

「そりゃあ、ジュリエちゃんや皆さんはそんなことしないって信頼してるっすからね。……もっと信頼してくれたら、もっと良いことがあるかもしれないっすよ?」

 

 

 ヘットのおかげで一つの問題が解決した。

 だが、こいつとつるんでいたらいつかケツの毛までむしり取られるんじゃないかという不安が、俺の背筋を冷たく撫でた。ケツに毛なんて生えてないけど。

 

 

 








・今日のジュリ知識
迷宮内には『崩壊』以前の人工物が取り込まれたりして結界や砦としてモンスターが侵入できないエリアが存在する。そこはセーフポイントと呼ばれ、浅い層のセーフポイントならそこで暮らす人が居るほど安全。
ただしトラップがあるので、結構な数の冒険者が油断してトラップで死んでいたりする。



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