ミリアのアトリエ~迷宮街の錬金術士~   作:タヌキ(福岡県産)

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 全人類レスレリアーナのアトリエをやってください



うには木の実、これテストに出ます

 

 

 

 娯楽を求めた神々が下界に降臨するよりも遥か古代の時代より、数多の怪物(モンスター)を産み出しては人類を存亡の危機に追い詰めてきた魔の大穴、迷宮(ダンジョン)

 神によって神の恩恵(ファルナ)を与えられ、誰もが英雄になり得る可能性と力を得た神時代となり、ようやく本格的な探索が始まったこの魔窟には、階層構造に一定の規則(ルール)が存在することが分かった。

 そのうちの一つが、発見した冒険者によって『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』と名付けられた安全階層(セーフティポイント)、第18階層である。

 日光から完全に遮断された地下だというのに、まるで地上にいるかのような温かな光が差し込むのは、この階層の天井に()()()水晶の仕業だ。

 地上の時間と連動(リンク)しているらしいこの水晶は、昼になれば階層全体を明るく照らし、夜になれば月明かりのように淡く光る。

 冒険者たちが潜り抜けてきた他の階層とは全く違う、穏やかで清浄な空気に満ちたこの空間は、正に楽園であった。

 ひょんな事から階層主(ゴライアス)との死闘を終えた私は、そんな楽園に訪れると同時に──。

 

「うっ、うにだあああああああッッッ!!!」

 

 ──お祭り状態となっていた。

 

「……レフィーヤ、あれ止められる?」

「いくらアイズさんの頼みでも、無理なものは無理です」

「ミリアが壊れちゃった……!」

「流石にゴライアスと戦わせるのはリハビリにしてもやり過ぎだったかしら……」

 

 私の背後で4人がドン引きしている気配がするが、そんなものに構ってはいられない。

 何故なら、私の前にはあの『うに』が──この世界に生まれてから探しても見つからなかったあのうにが、存在するのだから!!

 茶色くてトゲトゲで、少し割れた表皮の奥にはつやつやの実が覗くその形状(フォルム)は正にうにそのもの。

 素手で持つと表皮の鋭いトゲが皮膚に刺さって痛いが、喜びが勝る今はその痛みすら愛おしい。

 

「うへ、うへへへへ……」

「うわっ、痛そう」

 

 うにを両手で捧げ持ち、そのトゲトゲに頬擦りする私を見てティオナさんが顔を顰めている。

 首にかけていた『メルクリウスの瞳』を装着し、素材としての数値を確認してみれば、品質は120でとても新鮮、特性は『出来が良い』『高値+』『クリティカル』とこれも丁度良い塩梅の強さ。

 

「完璧……!完璧だよぉ、うに……!」

 

 今の私が素材として求める理想そのものなうにを前に、私はこの素材と出会うために今日ゴライアスを倒したのだと悟る。

 アイズさん、敢えて縛りプレイをさせてくるパワハラ冒険者とか思ってすみません。

 貴方が正しかった、貴方こそが地上に舞い降りた女神!

 とりあえず感謝の意を示すためにも、見つけた1つ目のうには彼女に献上しようと手渡そうとすれば、慈悲深いアイズさんは「え、いらない……」と遠慮してくださる始末。

 ありがたいその言葉に感涙しながら、うにを秘密バッグにしまい込む私へ、レフィーヤ先輩が不思議そうな表情で問いかけた。

 

「それ、栗じゃないですか?」

「レフィーヤ先輩の目は節穴ですか?」

 

 瞬間湯沸かし器のように沸騰し、はしたなくも私に掴みかかろうとするレフィーヤ先輩がティオネさんに押さえ込まれる中、うにを知らないらしい4人のために、私は杖を振り抜く(スイングする)ことで採取したサンプル(うに)を手に説明を始める。

 

「うにというのは木の実の一種で、こうやって茶色くてトゲトゲの表皮に覆われています。この表皮を杖やナイフで剥ぎ取ると、硬い実が数個ほど詰まっているのが特徴ですね」

「だからそれ栗じゃ……」

「うにです」

 

 ブーツで踏みつけたうにを杖で弄れば、剥がれた表皮の奥からコロコロとした実が出てくる。

 うにの本体だ。

 煮込んで良し、焼いても良し、炊いても良しと食材としても優れたうにを紹介すれば、レフィーヤ先輩は相変わらず頓珍漢な言葉を口にした。

 

「レフィーヤ先輩、何を言ってるんですか?くりは海で採れるものですよ?」

「……???いや、それが雲丹……」

「いや。アレはくりだったかもしれない、レフィーヤ」

「アイズさん!?」

 

 どうやらアイズさんは理解(わか)ってくれた様子で、私の手の上に置かれたうにを見ながら「うに。これはうに……」と何度も呟いている。

 

「古式錬金の調合素材としては植物カテゴリを持つので汎用性が高く、またうに自体を素材とするアイテムも多く存在するので調合によって千変万化する万能選手と言えるでしょう」

「へえ、うにって凄いんだね〜!」

「ティオナさん!?し、しっかりしてください!アレはどう見ても栗です!!」

 

 うにを火薬と一緒に袋に詰め込んで、爆発と同時にまき散らすという入門的な爆弾『うに袋』を始めとして、うに自体を固有素材とする調合アイテムは多数存在する。

 どれも攻撃アイテムとしては序盤のダメージソース、つまり大して強くはないものなのだが……今の私にとって、この効果の弱さがむしろ吉と出る。

 

「例えば、うにを使用する基本的なアイテムとして『クラフト』が挙げられますね。これは『うに袋』から少し発展させた構造の爆弾でして、爆発と同時に中に詰め込まれた硬い種をまき散らすものなんですけど、そもそもの効果が高くないため、皆さんが危惧するような過剰火力(オーバーパワー)にはならないと思います」

「……基本的なアイテムなら、『学区』に所属していた時に作らなかったの?」

 

 ティオネさんの疑問は尤もだ。

 もちろん私も、古式錬金のことを知った当初は中和剤ループで品質を上げる傍らクラフトやうに袋を作るためのうにを探していたのだが……。

 

「それが、何故かうにがどうしても見つからなくて……。似た形の栗や雲丹ならかなり見かけたんですけど」

「ほらやっぱりー!栗と雲丹知ってるじゃないですか!絶対それただの栗ですって!ねえティオネさん!?」

 

 当時の悔しさを思い返しながら話す私の隣で、何故か興奮の度合い(ボルテージ)を上げていくレフィーヤ先輩。

 ティオネさんに同意を求める彼女だったが、話を聞いた本人は私に同情するような視線とともにゆっくりと頷き理解を示してくれた。

 

「そう……うにが見つからなかったなら仕方がないわね。基礎的なアイテムならもしかして、錬金術の練習にもってこいの素材なんじゃない?」

「そうなんですよ!だからようやく見つけられて嬉しくって嬉しくって!」

「ティオネさん!?あ、あれ……私がおかしいんですか!?」

 

 アマゾネス姉妹の2人も無事に理解ってくれたようだ。

 木の上に登って、うにの採取を手伝い始めてくれた3人に感謝しながら集まった沢山のうにを秘密バッグへ詰め込んでいると、何故か顔色を悪くしたレフィーヤ先輩が助けを求めるように周囲を見渡していた。

 変な人だなあ、うにを栗と見間違うなんて。

 

「無理もないわよ。うにと栗ってそっくりな見た目をしているじゃない?」

「うん。……私も最初、栗かと思った」

「言われてみれば確かに……ごめんなさいレフィーヤ先輩。先輩の目を節穴とか、失礼なこと言っちゃって……」

「……え、え、え?ううっ、私は……私は……」

 

 心の声が出てしまっていたのか、ティオネさんがレフィーヤ先輩を庇ったその言葉に、ようやく納得がいった。

 確かに、栗とうにはアトリエ初心者が見間違えるあるあるネタとしても有名だ。

 うにを見慣れてしまった私の感覚と、うにを初めて見たらしいレフィーヤ先輩の感覚では多少のズレが生じてしまうのも無理はないだろう。

 リヴェリア様の『自覚を持ちなさい』という助言(アドバイス)を思い出し、レフィーヤ先輩へと素直に頭を下げると、何故か苦悶の表情を浮かべた彼女はレベル3の脚力を全開にして森の向こう──迷宮唯一の街である『リヴィラの街』へと走って行った。

 

「先に補給してきますううぅぅ……!」

「……行っちゃった。あそこの冒険者達いっつもガメついけど、ちゃんと交渉出来るのかなあ、レフィーヤ」

「ミリアに案内するのも含めて一度は寄る予定だったし、丁度良いかも」

「そもそもミリアがいるんだから補給の必要はないじゃない……。ハァ、心配だから追いかけましょう。うにの採取は後でいいかしら、ミリア?」

「あ、はい。大丈夫です!」

 

 なぜか暴走したレフィーヤ先輩を追いかけることになった私達は、一旦うにの採取を切り上げて『リヴィラの街』へ向かうこととなった。

 

 

 

「ここが『リヴィラの街』……」

「そう!冒険者が自分たちで資材を持ち寄って作ってる街なんだ〜!遠征の時の補給とか持ち切れないドロップアイテムの処分とか、よくお世話になるよ!」

「その需要を相手も理解しているから、足下を見られやすいのが難点ね。冒険者って事で荒くれ者も多いし、特にまだレベル2のミリアが1人でいると変なのに絡まれそうだわ」

「私たちから離れないでね、ミリア」

「りょ、了解です……!」

 

 木材と旗という、簡素な造りの(アーチ)に書かれているのは、この街の名前である『リヴィラの街』を示す共通語(コイネー)

 安定した気候と資源豊かな大森林を有し、数々の死線を潜り抜けてきた冒険者が一息つくことが出来る安全階層(セーフティポイント)に建てられた『冒険者の街』である。

 安全といってもやはり迷宮(ダンジョン)

 大量発生したモンスターたちの襲撃により何度も壊滅してきたリヴィラの街だが、諦めの悪い冒険者たちの手によってその度に復興してきた。

 ただ、その冒険者たちには『荒くれ者』が多く、物価は法外、時に地上では出回らない違法なブツですら取引されるという仄暗い一面も持ち合わせた場所なのだが……。

 

「──おい、見ろ!今回大手柄をあげた【剣姫】たちがおいでなすったぞ!」

「「「ウオオオオオ!!!」」」

 

 私たちがリヴィラの街に踏み入れた途端、【ロキ・ファミリア】では中々見かけない強面の冒険者たちが喝采を上げ、何故か両手を挙げての歓迎となった。

 もしかして、一級冒険者がたくさんいるパーティだから歓迎されるのだろうかとアイズさん達を見れば、彼女達も意外そうな表情を浮かべている。

 どうやら【ロキ・ファミリア】の実力者たちだから歓迎されているという訳ではないらしい。

 では何があったのだろうか、と一同揃って首を傾げていると、荒くれ者たちの間を縫うようにして疲れ果てた様子のレフィーヤ先輩が現れた。

 

「あ、アイズさぁん」

「レフィーヤ。……大丈夫?」

「怪我とかは無いんですけど……なんか、ゴライアスを討伐したのを斥候役の冒険者パーティに見られちゃってたみたいで……」

「えっ」

 

 餞別として渡されたのか、両手いっぱいにモンスターのドロップアイテムを持たされたレフィーヤ先輩から荷物を預かりつつ、私たちは先に街を訪れていた彼女から詳しい事情を聞くことにした。

 歓迎ムードの冒険者たちから愛想笑顔で離れ、リヴィラの街でも眺めが良いと評判らしい崖際の広場へとやってきた私たちは、回復したレフィーヤ先輩の話に耳を傾ける。

 

「その、私たちが討伐したゴライアスは次産期間(インターバル)よりも少し早く産まれた個体だったらしく、それを察知したリヴィラの街から、地上への報告役として斥候の冒険者パーティが出発した所で……」

「ちょうどレフィーヤ達が戦っていた、という訳ね」

「はい。それで『アイズさんがいるなら大丈夫だろう』と斥候の人達は早くに街へ戻ったらしく、その後に私達が来た事でゴライアスが倒されたと判断したようです」

「一番上の方とはいえ、ゴライアスも階層主だからね〜。倒すのにはそれなりの犠牲というか、労力がかかるだろうし、あたし達は渡りに船だったと」

 

 木陰で円陣を組むように座り込んだ私たちを、他の派閥(ファミリア)の冒険者たちが遠巻きに見守っているのを感じる。

 特に私は新参者ということで目立つのだろう、誰だコイツと言いたげな無遠慮な視線が数多く突き刺さるのが分かり、私は緊張で冷や汗を流した。

 

「……ん?……待って、レフィーヤ。ゴライアスはあの時、連絡路を背にするように戦っていたのに……どうして私がいるって、斥候の人たちは分かったの?」

 

 一方で、一級冒険者として注目されることに慣れているアイズさん達は視線を気にする様子もなく、レフィーヤ先輩との情報交換に勤しんでいた。

 あの時の戦いの光景を思い出しているのか、軽く眉根を寄せたアイズさんからの問い掛けに、レフィーヤ先輩は胃痛を覚えたような苦い表情で答える。

 

「それがですね……。ミリアの使った、突風を生み出すアイテム──『風繰り車』でしたっけ」

「風のアイテムなら、はい。そうです」

「あの場面を丁度見られたみたいで。ミリアの事までは見られてない様ですが、その『風』の規模からアイズさんがいると思ったみたいです」

「それ、1回目?それとも2回目以降?」

「私の詠唱が始まった辺りらしいので、1回目みたいです」

 

 先輩の言葉を聞いた瞬間、アイズさん達は一斉に安堵のため息をひとつ。

 何をそこまで安堵したのだろう、と不思議そうにしていると、私の事に気がついたティオネさんが捕捉してくれた。

 

「……あんたがあの切り札(ブリッツシンボル)でゴライアスを瞬殺してたら、それを(リヴィラ)の連中に見られてた可能性があった訳。土の魔法なんて私たちの誰も使えないから誤魔化しようが無かったし……色々と運が良かったわね」

「えっと……なにか問題でも?」

「問題しか無いわ!!」

 

 くわっ、と目を見開いて私の質問に反論したティオネさんは、体調が悪くなったのかお腹を押さえて唸ってしまう。

 慌ててホルダーから回復薬(リフュールボトル)を取り出そうとする私を押し留めたレフィーヤ先輩は、何故か慈愛に満ちた表情でティオネの肩を優しく叩くのであった。

 

「──ようこそ、胃痛組(こちらがわ)へ」

 

 レフィーヤ先輩の謎の言葉に対して言い返すでもなく、力なく項垂れたまま頷くティオネさんの様子に首を傾げてしまう。

 いったいどうしたのやら、と他2人の方を見ると、なぜか私が悪いかのようにジトッとした視線を返されて動揺してしまった。

 

「な、なんですか2人共……私は別に悪くないと思うんですけど……」

「いや、まあそうなんだけど……」

「……ちょっと、フィン達の気持ちが理解出来た、かも」

 

 なにか言いたげな様子のアイズさん達だったが、他の冒険者たちから何か探られる前に街を出ようということで足早にリヴィラの街を去る事になった。

 確かに景色の綺麗な場所だけど、それを楽しむよりもうにを始めとした素材の採取がしたかったし、街の中はいかにも治安が悪いですよといった雰囲気だったため、私としてはありがたい。

 連絡路に進む道中、水晶やうにといった調合に使えそうな素材を採取してホクホクの私は、たまにはアイズさん達に付き合ってもらって迷宮(ダンジョン)に来るのも悪くないかもしれないと考えを改めるのであった。

 

 

 


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