呪具メイカー、キヴォトスへ。   作:エヴォルヴ

3 / 9
グダグダでごめん。


3.借金って秤君の元カノがやらかしてたね

 平和だ。

 

 呪霊が現れないというのは本当に平和だ。一応、本当に何もないのか調べたけど、マジで残穢の一つもない。呪力探知は得意な方だから、ある程度近付けばすぐに分かるんだけど……巧妙に隠しているのなら、その痕跡が残る。怪奇事件みたいな感じのものも無いみたいだし。

 

「九十九さんはこういうのを目指してたのかなぁ」

 

 天目家歴代当主の中にも、呪霊の生まれない世界を作ろうとした人がいたみたいだけど、結局は机上の空論で終わっている。同じ考えを持っていた人と議論も交わしていたようだけど、結論は出なかったみたい。

 

「……でも、その代わりに人間同士で戦ってる」

 

 そもそもヘイローを持っている女の子達は人間なのだろうか? 肉体強度やら何やら諸々がおかしなことになっているし……フィジカルギフテッド? 真希さんや伏黒さんみたいな。……そういえば伏黒さんは何をしているんだろうか。最後に見たのはいくつかの呪具を買いに来た時だ。元気にしているならそれでいいが……いや、ダメだな。伏黒君のことちゃんと面倒見てくれ。

 

「……【骨箱】、手入れ道具ちょうだい。あと……あれも。先に直しておきたい」

 

 骨箱から取り出されたのは、僕達天目家が呪具の手入れに使う諸々と、破損した呪具。【砂面】と【砂脚甲】も直しておきたいんだけど、それよりもこれらを確認してからにしたい。

 

「皆ボロボロだねぇ……」

 

 取り出したのは鈴が付いている双剣、梵語が彫られた斧槍、太鼓と撥などの呪具達。これらは僕よりも前の天目一箇が打った、生涯最高の傑作、特級呪具達だ。双剣の銘は【呪詛神楽(のりとかぐら)】、斧槍の銘は【象牙の斧槍(ガネーシャ・マハーバーラタ)】、太鼓と撥の銘は【閻雷太鼓(えんらいだいこ)】。

 

 この呪具の他にも歴代当主が作った呪具が骨箱に入っているけど、壊れていないので今回はこれらを査定する。

 

「……げっ」

 

 凄い時間使うじゃん……一つ『五十年』……領域展開してトントンに……ならないよなぁ。

 

「……うーん、どうしようかなぁ」

 

 他の呪具を砕いて時間を捻出しよう。そう決めた僕は、自分が打った呪具を見る。……一番長いので十五年、一番短いので二年。……でもこれらを砕くと僕の作品がほぼ全て消える。さすがにそれはいただけない。……五十年かぁ……

 

「……ま、百年修理だってやったことあるし、なんとかなるでしょ」

 

 金槌と呪具を重ね、呪力を吐き出す。僕の領域展開は他の領域展開と違う。昔から────本当に昔から変わらない、天目家の術式に付属していた領域。僕の代で領域を縛りでいじくり回したせいで違うものになっているけど、これを使うまでに何年も修行を重ねた。

 

 息を吸い、吐く。そして、呪力を形にしながら声高らかに────

 

「『領域展』────」

 

「何してんのよ、あんた」

 

「っとと。やぁ、黒見さん。おはよう」

 

 展開しようとしたら黒見さんが僕の借りている教室に入ってきた。彼女はいわゆるツンデレ? というやつらしいね。十六夜さんが言っていた。似てる人がいたかと言われるとちょっと分からないけど、いい子だと思うよ。

 

「おはよ。で? また半裸になって何やってたのよ」

 

 一週間も一緒にいればそういう反応になるよね。……僕のこと、露出狂とかって思われてないよね? 違うよ? 仕事場は確かに半裸になっていたし、骨箱を使うには上を脱がないといけないだけだからね? 

 

「呪具────んんっ、武器の修理でもしようと思ってね。道具は全部【骨箱】に入れてるから」

 

「逆に面倒じゃないの、それ」

 

「慣れると便利だよ。食べ物も入れておけるし」

 

「へー……って、そうじゃなかった。ちょっと来てくれる?」

 

 敬語とか使わなくていいよ、と言ったからなのか、奥空さんと十六夜さん以外は皆敬語を外してくれた。奥空さんと十六夜さんは……多分癖? 

 

 にしても何かあったのだろうか。ここのところ、カタカタヘルメット団の襲撃はないから比較的平和だと思うんだけど。砂嵐とかは時々来るけど、比較的軽めのものばかり。四級呪具【クリーン&ヒーター】で普通に過ごせるくらいだ。吸い込んだ砂から微弱な正のエネルギーが生じていたから、あとで調べるとして……それ以外で何か問題があったのかもしれない。

 

 この一週間、全力で掃除や修繕をしていたお陰で綺麗になってきているアビドス高校の廊下を歩いて、とある教室に入る。

 

「連れてきたわよ」

 

「やぁ、おはよう皆さん。どうかしたのかな」

 

「ん、おはよう、タタラ」

 

 軽くサイクリングをしてきたのか、水分補給をしていたのは砂狼シロコさん。特徴は水色の瞳に白と黒のオッドアイ。趣味は銀行強盗シュミレーション。中々世紀末な趣味だね。

 

「おはようございます、タタラさん☆」

 

 語尾に星が付いていそうなベージュの女の子は十六夜ノノミさん。いいとこのお嬢さんらしく、作法が凄く丁寧だ。

 

「おはよ~、タタラさん」

 

 眠たげな声を上げたのは小鳥遊ホシノさん。僕のことをちょっと警戒しているようだけど、様子見してるのかな。もう少し警戒してくると思ったけどそこまでだね。

 

「おはようございます、タタラさん!」

 

 そして最後に奥空アヤネさん。元気に挨拶を返してくれるとこちらとしても元気になるね。

 

「それで、どうかしたの? 皆が揃ってのお話ってなると……余程大事なお話みたいだけど……」

 

「うへ、さすがにちょっとね~。『大人』の声も聞いておきたいなって」

 

 なるほど、子供だけでは厳しい問題でも生まれたのかな。この学校、人が全然いないし、教員も見ていない。……となれば勉強のことかな? 自慢じゃないが僕は一応大学を出ているんだ。ある程度の勉強は教えられるぞ。知識って、術式の解釈を広げてくれたりするから大事なんだよね。

 

 術式の解釈と言えば……伏黒君の術式解釈は広がったのかな。切り札を奥の手にするなとか、自爆は切り札じゃないとか、領域に必中効果を付けなくても大丈夫とか説明したりしたけど……まぁ、鹿か虎まで調伏できていれば上々かな。牛を調伏できてるんだから行ける行ける。

 

 あと、釘崎さんの簪はもっと強くなると思う。共鳴りと簪の併用炸裂をすることができれば、魂にすら大きな傷を付ける強力な一撃となるはず。魂の知覚については多分虎杖君ができてるから、虎杖君から学んでね。

 

 虎杖君は……術式を求めるよりも、そのフィジカルを活かした戦い方がいいね。あと、ちゃんとした施設で体を鍛えな。真希さんが使い方知ってるから。そうすれば君は呪術界のトップに君臨できるレベルのフィジカルモンスターになれるよ。背中に鬼神を宿そう。僕や七海さん、五条さんも背負ってるから。

 

「何か分からないところでもあった?」

 

「勉強じゃないわよ。この学校のことについて」

 

「学校? 人がいないことについてとか?」

 

「ん、大体そんな感じ」

 

 あ、当たった。

 

「タタラさんは借金とかしたことある?」

 

「知り合いの元カノがやらかしてたね。それに、僕は仕事で売る側だったし」

 

 いやー、秤君から相談された時はビックリしたね。秤君って意外と借金しない人だから。……それはそれとして。借金かぁ……僕はしたことないなぁ。借金……ローン……そういうのは呪具関連で貸し出したり売ったりしてた身ではあったからやってたけど。

 

「で、借金がどうかしたの?」

 

「実は……私達アビドス高校は借金を抱えていまして……」

 

「へぇ……キヴォトスって奨学金制度あるんだ」

 

 ちょっと意外だ。結構な銃社会だから、そういう制度があっても踏み倒されるだけ……みたいな考えで採用されてないと思っていたよ。

 

 そんなことを考えていると、黒見さんが口を開いた。

 

「違うわよ。学校が借金を抱えてるの」

 

「学校が?」

 

「本当は大人に言うべきなのか迷ってたけど、形振り構ってられない。それに……タタラは悪い人じゃないと思うし」

 

 うーん、いつ聞いても嬉しい言葉だ。この一週間で勝ち取った信頼は、僕の自信と自尊心に繋がっている。信頼、信用……素敵な言葉だと思う。

 

「そっか。それで、その借金というのは────」

 

「九億です」

 

 …………おっと? 僕の聞き間違いかな? 特級呪具並みの金額が聞こえたような気がするんだけど。

 

「……九千万じゃなくて?」

 

「九億だよ~」

 

 聞き間違いじゃなかったかぁ…………うーん……九億……九億の借金かぁ……

 

「うん、なんで?」

 

「ん、その反応にもなる」

 

 頷くアビドス高校の面々に対してちょっとした驚きを感じながらも、九億という借金がどうして生まれたのかの説明を聞いてみると、なんとなく納得はできるものではあった。

 

 アビドスの自治区を襲う自然災害。それに対する対策をし続けているうちに借金が増えていき、いつの間にかこれだけの借金が生まれていたのだという。利子も……結構高いね。というかこれ、違法なレベルの利子じゃないか? 当主として確定申告とかやってたし、担当の税理士さんとかにセミナーをやってもらったりしていたから分かるけど……ここまでの利子は普通じゃない。

 

「この利子について確認は取った?」

 

「え、あ、はい。これくらいが普通だと────」

 

「違う違う。借金をしている側への確認じゃなくて、税理士さんとか、利子に詳しい人達にってこと」

 

「……して、ないね」

 

「そっか。……うーん……借りてから何年経ってるのかにもよるけど……利子はもう少し少ないんじゃないかなぁ……」

 

 取り出した算盤でパチパチと計算して、大体の金額を割り出してみる。一応変動するタイプのやつも株価とか調べているからできるし。そんなこんなで計算して割り出すと……やはり奥空さんから聞いた利子は多すぎる。何%だよ。

 

「月々に返すお金がこれくらいなら、利息は……うん。普通なら400万はあり得ないね」

 

「うわっ、凄い減ってる!?」

 

 そりゃ驚くよね。というかこの借金もしかして闇金か何か? だとしたらこんな利息も分かるんだけど……いや、それでも分からないね。子供の経済力なんかたかが知れてるのに。

 

 あとで調べてみようかな。下手をすれば闇企業ってやつとアビドス高校が繋がってしまっているかもしれないし。

 

「僕の呪具を売ればすぐに返せるけど……うーん……それは納得しそうにないし……」

 

「うへ、タタラさんの武器って、そんなに高いの?」

 

「ん? うん。一番高いのだと二十億だったかな?」

 

「「「にじゅっ……!?」」」

 

 特級呪具【天ノ羽々斬弍式】。遥か昔、両面宿儺と居合わせた天目家当主が撃破した特級仮想怨霊八岐大蛇。それから手に入れた素材を使って打った呪具なのだが、大きすぎて使えなかったので打ち直したのだ。ただの鉄の塊みたいな大剣が、気付けば大太刀になっていたけど、威力は変わっていない。これに関しては虎杖君の中にいた両面宿儺からお墨付きをもらっている。

 

 昔の当主、どうして宿儺に殺されなかったのだろうか。気に入られたとか? 分からないけど、彼、僕と話してる時結構機嫌が良かったし……今となっては聞けないけれど、聞いておけば良かったかな。

 

「ま、それの価値を分かる人がキヴォトスにいないから二束三文で買い叩かれるのが落ちかな」

 

「あら……それは残念」

 

 よく言うよ小鳥遊さん。そんなんじゃ納得できないくせに……ちょっと前まで子供をやってたから分かるよ。大好きな居場所を奪われたら嫌だもんね。

 

 ────よし、切り替えていこう。そして、お兄さんが一肌脱ごうじゃないか。若人が青春を謳歌するには借金なんて暗いものは邪魔になる。さっさと返済して青春を謳歌してもらうのが一番だ。

 

「本題に入ろうか。借金返済のためのアドバイスぐらいはできると思うからね」

 

「おお~、まともな大人って感じだ~」

 

 小鳥遊さんの言葉にトゲがある気がするけど、期待の裏返しだと信じたい。

 

「借金返済のための案って、どれくらい出てるのかな?」

 

「えーと……参考にならないものもありますけど、一応リストアップだけはしてます」

 

「優秀。そういうの、助かるよ」

 

 参考にならないと思うものから思わぬ道が開けたりするからね。初代当主天目一箇神に『とりあえず北へ全力疾走しろ』、という言葉がある。お陰で天目家は北へ爆走する呪具メイカーの集まりになっている。

 

 さてさて、アビドス高校の彼女らはどんな案を……おっと、いきなりマルチ商法……これは却下。次は……強盗? マジで? これも却下かな。んで……バスジャック……うーん……拉致は良くない。で、懸賞金稼ぎ……これはアリ。……でも一番アリなのは────

 

「アイドルデビューは多分アリだね」

 

「わぁ、採用されちゃいました!」

 

「た、タタラさん!? 血迷いましたか!?」

 

「いや、至って正気」

 

 アイドルデビューという案は、結構アリだと思う。アビドスの女の子達は凄くビジュアルのレベルが高い。歌って踊るだけがアイドルじゃないし、まずは動画配信をして、そこから下地を作れば行ける。編集は趣味でやっていたし、配信環境とかも作れなくはない。行けると思うんだよなぁ……

 

「ねぇタタラさん、アイドルって結構裏があれって噂もあるんだけど……」

 

「あー……よくあるね週刊誌でそういうの。犯罪だからダメだよねぇ」

 

「うんうん。おじさんとしては、可愛い後輩達がそういう目に遭う可能性は避けたいな~って思うんだよ」

 

 週刊誌にすっぱ抜かれるとかね。酷いよねあれ。普通にプライバシーの侵害だと思う。でも……そっかぁ……借金返済のためにアイドルデビュー、なんて週刊誌にとっては格好のエサか。

 

「んー……となると懸賞金稼ぎかなぁ。……よし」

 

「どこに行くの?」

 

「ちょっとお出かけ。懸賞金のこと、調べてくる」

 

 お仕事探しはお兄さんに任せなさい。居候させてもらっているからね、これくらいはしなくちゃ。

 

「二日くらい留守にするけど、大丈夫?」

 

「二日って……確かにタタラは強いけど……」

 

「ん、ちょっと心配」

 

「大丈夫。僕、結構強いから」

 

 サムズアップと共に笑顔を見せる。それに……僕が留守にすることで、アビドスの皆が借りてる教室で色々調べることもできる。信頼はされているかもだけど、まだ本気で信じていいのか迷ってるところもありそうだし、ぜひ調べて僕のことをある程度信用できるようになってほしいな。

 

 っし、そうと決まれば早速行きますか。懸賞金については────連邦生徒会? とヴァルキューレ? に聞けばいいのね。こういうメモは助かるなぁ……

 

「あの、タタラさん」

 

「ん? 何?」

 

「泊まるお金とか、あるんですか?」

 

「んー……まぁ、稼げばいいでしょ。大丈夫大丈夫。なんとかなるよ」

 

「無計画過ぎませんか!?」

 

 思い立ったが吉日。思い立ったら北へ爆走。天目家はそういう人間の集まりなのさ……あ、お金を渡そうとしないで奥空さん。大丈夫だからね? 大人が子供の女の子にお金を貰うとか凄く酷い絵面だからね? 

 




他人からの評価

五条悟
「間違いなくこっち側の人間だよ。歴代天目家当主の中でも最強なんじゃないかな。鑪がいれば大丈夫なとこ、結構あるし。僕に何かあればあいつに頼ればいいって憂太達にも言えるくらいには頼りにしてるよ」

虎杖悠二
「宿儺が機嫌良く話をする人。んで、めっちゃいい人! アドバイスもしてくれるし、飯も奢ってくれるし。タタランが紹介してくれるラーメン屋っていっつも当たりなんだよな」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。