魔法少女リリカルなのはの stay night   作:下野カズ

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その2 魔法少女と黒い英霊

 目の前の黒い怪物が後ずさる。

 それを確かめ、わたしはルビーの物理保護を解除した。

 背後にあるのは、トリコロールカラーの衣装に身を包んだ、ひとりの女の子。

 自分よりも2、3歳年下っぽいその子は、傍目に見ても神々しく映った。

 って言うか。

 

「ねえルビー! あの子の衣装、凄く厚手だよ!? なんでわたしのはこんなエチぃ格好なの!?」

 

『いやー、やっぱり魔法少女はきゃぴきゃぴした衣装でないと。むしろわたしの方が、なんであんな厚着なのか理解に苦しむところですよ』

 

(おふたりとも、今はそんなことを言い争っている場合ではありません!)

 

 ギャアギャア言い合うわたしたちに、例の()イタチが割って入ってくる。

 というかこのイタチ、一体何者? 喋ってるし。

 

『突然の初陣となりましたが、相手はどうもザコっぽいですし、イリヤさんの練習相手にはちょうどいいんじゃないですかね』

 

「ちょっとルビー、今はそんなこと言ってる場合じゃ……」

 

『ほら、来ますよ』

 

 ハッとして、物理保護から離れた方向を見やる。

 黒い怪物が、赤い目でこちらを睨んで……。

 来るかと思いきや、わたしたちの反対方向に飛んで逃げていった。

 

『あらら、逃げちゃいましたね』

 

「言ってる場合!? あんなのが人のいる所に出たら……!」

 

 あたふたと、わたしは焦りも隠せず、かといって何をすればいいのかわからない。

 

「わたしが追いかけます!」

 

 そう言ったのは、先ほどのトリコロール魔法少女。

 

 もう腰が砕けていただけの女の子じゃない。

 あの眼は、火がついた戦士の眼だ。いや、ノリで想像してみただけだけど。

 

 

 

『初めまして、新しいマスターさん。魔法についての知識は?』

 

「全然、まったくこれっぽっちもありません!」

 

『では私の指示通りに』

 

 タン、と足を空へ踏み出すと、ふわりと体が浮かび上がった。

 履いている靴からピンクのフィンが現れ、空中で姿勢制御する。

 

『利き手を敵の方向へ向けて、胸の中の熱をその手に集めるように念じてください』

 

「えっと……こう?」

 

 左手を前へと突き出し、意識を集中する。

 光が左手を包み込む。心なしか熱を帯び始めたような感覚を覚えた。

 

『撃って』

 

「え、えぇーいっ!!」

 

 左手の熱が(たま)となり、弾丸のごとく発射された。

 思った以上に大きな光の弾が、逃げた怪物を高速で追いかける。

 弾丸が、怪物を打ちのめした。

 

「や、やった!?」

 

『いいえ、まだです。ですが良い魔力をお持ちです』

 

 怪物は崩れるどころか、さらにその体をグネグネと動かしている。

 ちょっとグロテスクだ、と思った途端、その体が3体に分かれた。さらにグロテスクだ。

 

「手伝うよ!」

 

 背後から声がかかる。

 さっきの女の子だ。薄手の衣装で、ピンク色の鳥をイメージしたその姿はどこか儚げだけど、洗練されて見えた。

 

「中くらいの、散弾!」

 

 女の子が持つステッキから光の弾が放たれる。

 文字通り、一発の弾丸が無数の光弾に弾けて、逃げる怪物たちをまとめて打ちのめす。

 そして、間髪入れずに。

 

「極大のー、砲撃(フォイア)ーッ!!」

 

 ステッキに集まった光が巨大な球体となり熱を帯び始め、大砲のように撃ち出された。

 それが怪物の一匹に直撃する。

 怪物が断末魔の音響を吐き出しながら、消滅した。

 

「やった! まずは一匹!」

 

『ほらほら、そんなこと言ってる間に逃げられますよー』

 

 どうやら魔法少女とステッキが会話しているらしい。

 思えばわたしも変身した最初から、赤い宝石と喋っていた。

 

「えっと、貴方の名前は?」

 

『レイジングハート。今後はそうお呼びください』

 

「じゃあレイジングハート。さっきの光、遠くへ飛ばせない?」

 

『マスターが望むのなら』

 

 出来る、ということだ。

 

 高速飛行を徐々に下降させ、建物の上に着地する。

 そして、ステッキを怪物の方へと向けた。

 

 ステッキが、変形する。

 先端がより鋭角化し、トリガーが現れた。

 

 

 

(まさか、封印砲!? あの子、砲撃型……!)

 

 

 

 レイジングハートがセミオートで、逃げる怪物へと砲口を向ける。

 

『照準、合いました』

 

「発射!!」

 

 ステッキの先端に収束された光が、一閃の帯となって放射された。

 その速度はまさに光速。

 怪物の逃げる速度など物ともせずに追撃する。

 

 光が、怪物を飲み込んだ。

 

 その跡には、何も残らず。

 怪物は完全に消え去っていた。

 

 

 

(一撃で、封印した……)

 

 

 

 怪物が消えた跡に、何かが浮遊する。

 

「なに、あれ……?」

 

『ルビーちゃんにも分かりませんねぇ。まあご存じの方が近くにいるようですけれども』

 

 それは宝石のようだった。

 

「さっきの怪物の落とし物かな?」

 

『それなら相当に物騒な物ですよ。今ここでぶっ壊しますか?』

 

 と。

 

『待ってください』

 

 その声は上から聞こえてきた。

 見上げると、先ほど光の砲撃を放った女の子がふよふよと降りてくる。

 

『あら、貴方はそのトリコロール少女と一緒にいた……』

 

『レイジングハートと申します。よろしくお願いします』

 

 ルビーと違って頭を下げることは出来ないようだったけど、言葉は真摯(しんし)に伝わってきた。

 

「ルビーと違って礼儀正しい……」

 

『ルビーチョップ!』

 

 べしん、と脳天にルビーの羽が直撃。あいたたたー。

 

『これはロストロギア、ジュエルシードといいます』

 

「ロスト……ロギア?」

 

 トリコロール少女は知らないらしい。レイジングハートは知っているみたいだ。

 

『マスター、わたしをこれに触れさせてください』

 

「こう?」

 

 レイジングハートが宝石――ジュエルシードに触れると、それらがステッキに吸収されるようにかき消えた。

 

『ジュエルシード、ナンバー18、20、21回収完了。状況終了です。お疲れさまでした、マスター』

 

「ふえぇ……」

 

 トリコロール少女が、また腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。

 同時に魔法少女の衣装が解かれ、元の洋服に戻る。

 

「大丈夫?」

 

「あっ、はい。えーっと……」

 

「自己紹介がまだだったね。わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤって呼んで」

 

「高町なのは、です。さっきはありがとうございました、イリヤさん」

 

「いえいえー」

 

 くるくるとルビーが回る。

 

『予期せぬハプニング! 魔法少女たちの共闘! ワクテカが止まりませんねぇ!』

 

 ルビーが何やら高いテンションで興奮してるけど、見なかったことにしよう。

 と、それより。

 

「もう暗いし、どこかで休もう? お母さんたちが心配してるよ、きっと」

 

「あ、じゃあわたしの家に来てください。すぐそこですから」

 

「ホント? じゃあお邪魔しちゃおっかなぁ」

 

 ちょいちょいと、ルビーが羽でイタチを指(?)差す。

 

『あの小イタチさんを回収するのもお忘れなく。あの子、絶対わけアリですよ』

 

 

 

 

 

(あれはロストロギア……、過去の文明によって作り出され、埋もれた遺産です)

 

 わたしはフェレットくんとイリヤさん、それとレイジングハートにマジカルルビーさんを部屋に招いて状況の次第を聞いています。

 

「過去の文明? ……えっと」

 

(……あ、ユーノです。ユーノ・スクライア)

 

「ユーノ君はどうしてロストロギアのことを知っているの?」

 

(信じられないかもしれませんが、僕はこの世界の人間じゃありません。こことは違う世界で、埋もれた文明の遺産を発掘することを生業としています)

 

 ふわふわと浮かびながら、ルビーさんがフェレットくんの周りを飛び回ります。

 

『人間っていうより、小イタチですよねー。ひょっとして、僕はイタチじゃない! 人間だ! ってヤツですかー? 厨二病に罹患(りかん)しているならお早めの治療をオススメしますよー』

 

「人を詐欺同然で魔法少女にしたステッキがよく言うよ……」

 

 明後日の方向を向きながら、ぼそぼそと何やら呟いているイリヤさん。ルビーさんはそんなイリヤさんの周囲をくるくると回っています。

 でもそれを聞いたユーノ君は、というと。

 

(ああ、そうか。まだ僕の姿を見せていませんでした)

 

「え?」

 

 ほわーっと柔らかな光がユーノ君を包み込みます。それがそのまま人間の子どもくらいの大きさになって、現れたのは。

 

「え、えぇーっ!?」

 

『なんと! ホントに人間だったんですねー! しかもアダルトなお姉さま方にダイレクトアタックしそうなショタッ子だったとは! このルビーちゃんの眼をもってしても……!』

 

 ブツブツ言い始めたルビーさんは放っておいて、わたしはユーノ君を注視しました。

 

「これで納得してくれましたか?」

 

「う、うん」

 

 ユーノ君がフェレットじゃなくて、ホントは人間だったっていうのは驚きだったけど、さっきのレイジングハートもそうだし、不思議なことには案外慣れてしまうって感じで。

 だから、ユーノ君が人間だからどうだってことじゃなく。

 

「えっと、ユーノ君? わたしたちも同い年くらいじゃない? もうちょっとオープンに喋ってもいいんだよ?」

 

 イリヤさんがわたしの言いたいことを代弁してくれました。

 

「オープンっていうと?」

 

「堅苦しい喋り方じゃなくて、その、タメ口っていうか」

 

「ああ、じゃあお言葉に甘えて」

 

 コホンとひとつ咳をして、ユーノ君は続けます。

 

「さっきの怪物は、ロストロギアの異相体……簡単に言えばロストロギアの破壊意思が具現化したものなんだ」

 

「ユーノ君はそんな危険なものを発掘してるんだ……」

 

「丁寧に扱えばそんなことは滅多に起こらないんだけどね」

 

「じゃあさっきの怪物みたいな……ロストロギアが、なんでうちの近所に……」

 

「それは……僕のせいなんだ」

 

 ユーノ君、心なしか顔を(うつむ)いて、声色も少し曇った感じ。

 

「あのロストロギア、ジュエルシードは全部で21個。本来なら僕が手配した次元船で然るべき機関に預けることになっていたんだけど、その船が事故を起こしたみたいで……」

 

「で、この海鳴市に落ちてきた、と」

 

「うん、そういうことなんだ……。だから、僕の手で必ず回収しないと」

 

「なーんだ。ならそんな水臭いこと言わないで」

 

 イリヤさんが挙手しました。

 

「探し物なら人数があった方がいいでしょ? それにここにはふたりも魔法少女がいるんだから、多少危ないことがあってもなんとかなるよ!」

 

「ええ? でも、イリヤさんは別の探し物があるんじゃ……」

 

『そこはご心配なくー』

 

 くるくる回っていたルビーさんが羽をうねうねさせながら応えます。その仕草はなんだか滑稽(こっけい)でした。

 

『うちの案件は正式に受理した前マスターがいますからねぇ。そっちはそっちで勝手にやらせときましょう。代わりにイリヤさんが手伝った方がよっぽどおもしろ……心強いかと!』

 

「またおもしろそうって言った!」

 

『あや?』

 

 

 

 と。

 

 唐突に、ズシンと音がした。

 音だけじゃない。縦に大きく揺れた。地震?

 

 おかしいのは、がたがたと震えるような振動じゃなくて、なんだか……そう、巨人が歩いてくる一歩のたびに、ズンと地面がはずむような揺れ方……。

 

「ちょ、ちょっとルビー。一体何が起こってるの?」

 

『これは困りましたねぇ。よもやこんな結果を呼び起こそうとは』

 

「何が一体どういうことなの!?」

 

『さっきのジュエルシード……いえ、ロストロギアの異相体の影響でしょうか。強力なオドが現実世界に侵食しつつあります』

 

「ちゃんと日本語で話して!」

 

『現実世界が、割れます』

 

「割れる、ってどういうこと?」

 

『結果としては現実世界へそんなに影響が出る規模ではありませんが、要するに』

 

 ズシン。

 その揺れと共に。

 

 パキン、と何かが割れる音がした。

 

『鏡面界への入り口が、開きます』

 

 

 

 

 

 風が吹く。

 夜闇に紛れて、冷えた風が強く舞う。

 高層ビルの屋上にひとり、立つ。

 

『ミユ様』

 

「分かってる。サファイア」

 

 ズシン。

 巨人が歩くような、振動。

 

 そして、天に浮かぶヒビのような裂け目。

 本当なら、あり得ない現象。

 

 鏡面界に侵入するにはカレイドステッキによる鏡面回廊の一時反転が必須。

 すなわち、門を開く鍵はこちらにある。

 

 それが、向こう側から侵食してこようとは。

 

『これは異常事態です。一度退()いて、事態の推移を見てから行動した方が……』

 

「構わない。向こうから来てくれるなら、そっちの方が話は早いから」

 

 手にしていたステッキを、(くう)で切り裂くように振る。

 

「ライダーのクラスカードは今夜、回収する」

 

 タン、とビルの床を蹴り、住宅街へ向かって空に舞った。

 

 

 

 

 

 揺れが、治まった。

 

「あいたた……。みんな、大丈夫?」

 

「なんとか無事みたいです、イリヤさん」

 

「! そうだ、一般人のみんなは!?」

 

 慌てたようにイリヤさんが叫びますが、ユーノ君が優しく。

 

「大丈夫。あの現象が広がる前に結界を張ったから、一般人で巻き込まれた人はいないはずだよ」

 

『さすが、異世界のショタッ子魔法使い。そんな高度なスキルの持ち手だなんて反則もいいところですよー』

 

「えっと……、褒められてるのかな、それ」

 

 どこか照れ臭そうな表情で、そう応えました。

 でも……。

 

「ルビーさん、その……、鏡面界っていうのはイリヤさんの探し物がある所……なんですよね?」

 

『その通りです。しかし、難点はそこに強力な黒化した英霊が居座っているということですね。しかもわたしたちはそれを打倒しないといけません』

 

「わ、わたしも手伝います!」

 

 わたしの言葉に、イリヤさんは眼を見開きます。

 

「ナノハ!?」

 

「イリヤさんだって言ってたじゃないですか。魔法少女がふたりいれば、怖いものなんて何もないって!」

 

「いや、さすがにそこまでは言ってないけど。怖いものは怖いし」

 

 困り顔で応えるイリヤさん。

 

 でも決めたんだ。

 わたしの魔法が役に立つのなら、レイジングハートが手伝ってくれるなら、きっと何でもできるって。

 確かにわたしはまだまだ未熟者で、無力な子どもかもしれない。

 だからって、諦めたらそこまでなんだ。

 

 それに、さっきイリヤさんはわたしを助けてくれた。

 今度はわたしの番。

 そのくらいシンプルな方が真っ直ぐに進める気がする。

 

『とりあえず外に出ましょう。ここじゃいくら何でも狭すぎます。ただでさえ敵のフィールドなんですから、長居するのは得策でないどころか無謀だというものです』

 

 ルビーさんの言に、みんなで(うなず)いた。

 

「行こう! レイジングハートもそれでいいよね?」

 

『マスターの仰るままに』

 

 ガラリと窓を開ける。

 

 外は、もちろんと言うか何というか、真夜中の()只中(ただなか)だ。

 でも人の気配がしない。

 (あか)りという灯りはすべて消えていて、得体の知れない闇が広がっている。

 そこに潜むのは人ならざるバケモノ。さっきのロストロギアの異相体よりも、絶えず不気味さを放っているのをひしひしと感じた。

 

『狂化した英霊……この辺りにはいないみたいですね。手分けして探すのは危険ですから、固まってなるたけ広い平地に移動しましょう』

 

「そんな作戦で大丈夫なの?」

 

『狂化された英霊はその土地の、いわゆる御庭番みたいなものです。縄張りを荒らされれば(おの)ずと姿を現すでしょう。なんでしたら辺り一面根こそぎ焼き払って誘い出しますよ』

 

「発想が物騒!」

 

『ま、そのくらいやれば出てくる程度にしか頭が回らないってことです。数はこちらの方が上回っていますし、負けることはないですよきっと』

 

 レイジングハートがその宝石体を明滅させて。

 

『お言葉ですがマジカルルビー』

 

 横から耳打ちした。

 

『どうやら敵はそれを待ってはくれないようです』

 

 え?

 

 と、思った直後。

 黒い(くさび)のような影がわたしの顔面に迫っていた。

 

 

 

「! 物理保護全開!」

 

 咄嗟(とっさ)に、ナノハに迫った鎖の先端(せんたん)を展開した障壁で弾き飛ばす。

 危ない危ない。もう少しでナノハの可愛い顔に穴が空くところだった。

 

 鎖がジャラ、と音を立てて退(しりぞ)いていく。あの先に敵がいる、ってことか。

 

『不味いですね非常に。ライダー相手に住宅街の通路を戦場にするのは危険です』

 

「そうなの?」

 

『ライダーのクラスは名前の通り、乗り物の乗り手ですからね。突破力は他の追随を許しません』

 

「じゃあ、どうしたら……」

 

『逃げましょう』

 

「え?」

 

『さっきも言った通り、ライダー相手に直線の通路は敵の射程範囲内です。広い場所に出ましょう。幸運なことに相手は自分から姿を現してくれました。このままこちらのフィールドに引き付けてしまいましょう』

 

「う、うん。わかった」

 

 じりじりと、通路の正面を警戒しながら引き下がる。

 出来ればもっと早くこっちのフィールドに引き寄せたかったけど、敵の攻撃がそれを許してくれない。

 でも、上手くやればきっと――。

 

「! イリヤさん、危ない!」

 

 え?

 

 思わず体を後ろに()らした。というか尻もちを突きそうになるくらいの勢いで後ろ向きにへたり込んでしまう。

 その正面を真っ直ぐに、鎖の短剣が横切っていった。

 

『……あちゃー。我ながら見積もりが甘かったですねぇ。ルビーちゃん失敗失敗』

 

「な、何がどうなってるの?」

 

『敵は既にわたしたちを封じ込めていたようです。この住宅街という迷路に』

 

 『要するに』と前置きして、ルビーは続けた。

 

『高速で移動しつつ、あらゆる通路の先から短剣を撃ち込んでこちらの動きを制限する、という心積もりなんでしょう。これでは移動もままなりません』

 

「じゃ、じゃあどうすれば……!」

 

『あら、お忘れですか? わたしは大魔法使いに製作された超高性能魔術礼装なんですよ? さっき言ったじゃないですか』

 

 ルビーが胸を反らすような仕草をしながら簡潔に解説する。

 

『動きが制限されているなら……』

 

 カッと、ステッキが閃光を放った。

 

『周囲の建物ごと焼き払っちまえばいいんですよー!!』

 

「どええぇーっ!?」

 

 炎の壁がとぐろを巻くように周囲を焼き尽くしていく。

 っていうか、こんなことしたら――。

 

「――って、住宅街でやることこれ!? 一般人はどうなるの!?」

 

『だーいじょうぶ! 鏡面界での出来事は現実世界に干渉しません! 逆に言えばこの世界ではわたしたちのやりたい放題! ひゃっほう! 最高だぜーっ!!』

 

「もうムチャクチャだよこのバカー!」

 

 ひとしきり叫んだ後には、文字通り周囲の家屋(かおく)含めて跡形もなくなっていた。

 全面が焦土と化している。

 そうなって。

 

「あ、あそこ!」

 

 ナノハが一点を指差した。

 その先にはひとつの人影。

 腰を90度に曲げ、猛禽類を思わせるような手足。背まで流れる長い髪。

 両の眼はバイザーで覆い隠されている。

 

「あれが……狂化した英霊?」

 

『ええ。あれがライダーのクラスカード、通称、黒化ライダーですね。まあなんだか、リングの貞子も真っ青なねじれっぷりですねぇ』

 

 アッハッハと、ルビーのツボにどう(はま)ったのかはわからないけど、姿を現したのが好都合なのは変わらない。

 後はどう仕留めるか。

 そんな勝ち誇った半可通(はんかつう)がどうなるか、後で嫌になるほど後悔することになる。

 無意識のうちでそう考えるわたしがいた。


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