真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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一応今回で原作一年前が終わりです。
次回からようやく原作時間軸へと変わります。


『一年の終わり』

長枝さんから勧誘されて二ヶ月ほどすぎたある日の事。

 

基礎的な鍛錬をしている最中……

 

「お前は良いな、背が高くて」

 

ポツリと長枝さんに言われた。

 

「別に背が高いから強いってわけではありませんからね」

 

俺は腕立て伏せをしながらそう返す。

だって背が高くても長枝さんとの組み手では一度も勝った事がないからだ。

 

「それでもリーチが長いってのはかなり有利だと思うけどな」

 

そう言って羨ましそうに背丈を見ていた。

 

「そんな事言っていつも届く前に攻撃するじゃないですか」

 

その視線を受けながら反論する。

この人はリーチなんて関係なく平然と一撃を加えてくる。

 

「当たり前だろ、組み手は本気でやるもんだ」

 

反論に対して力強く答えてくる。

そりゃあ、手加減されるよりかは断然良い。

しかし、何時まで経ってもコレでは強くなっているのかが分からない。

 

「組み手だけでは何も良い事なんて無い」

 

俺を見て言ってくる。

どうやら俺の考えている事が分かったようだ。

 

「基礎の鍛錬を沢山やってこそ技が活きるからな」

 

そう言って踏み込んで技を放つ。

技を当てるような的は無い為、風だけが通り過ぎる。

しかし地面は踏み込まれた事で蜘蛛の巣のようなヒビが入っていた。

 

つまりは全力で放ったというわけだ。

何度見ても素晴らしいと感じる。

 

「コレ位の奴を放つにはやはり基礎がないと意味が無い」

 

構えを解いて息を吐き出して一言。

吐き出す息さえも熱気を帯びている。

 

「だから鍛える必要があるんだ」

 

そう言って再び構えて技を放ち始めていた。

この数ヶ月の間に何回も見た光景だ。

しかしそれでも目に焼き付けようと目に力を込める。

 

猛虎(もうこ)

裡門頂肘(りもんちょうちゅう)

鉄山靠(てつざんこう)

 

どれも素晴らしい技だった。

 

踏み込み。

速さ。

気の込め具合。

 

どれを取っても超がつく一流のもの。

 

今までの鍛錬の積み重ねが想像できる。

 

それを幾度となり繰り返す。

時折荒々しく何発も打ち込むような動作をする。

この人が一撃で倒せない存在が居るのだろうか?

鬼気迫るほどの威圧感をイメージとはいえ出させるような人が居るのか?

 

俺は腕立て伏せをしながらもその姿を見ている。

 

「まだコレじゃあ勝てはしないな…」

 

そう呟いたのが聞こえる。

勝つ事を真剣に考えていた。

しかし川神院の師範代を倒せる実力を持っている。

一体誰に勝つつもりなのだろうか?

 

「ハァ……ハァ…」

 

俺が汗だくになり腕立て伏せをしていると振り向いて声をかけてくる。

 

「もう座っておけ、十分やっている」

 

確かに少々筋肉が震えている。

筋肉痛を訴える手前で止められているが狙っているのだろうか?

 

「筋肉痛を無視してやってもオーバーワークだ、アイシングをしとけ」

 

確かにその考えは間違っていない。

回復を促してまた日にちをおかないと強靭な筋肉はつかない。

ただ、基礎練習は血の小便が出るまでやっても問題はない。

さっきも言っていたがそういった鬼気迫る基礎の鍛錬があってこそ活きるのだから。

 

「そう言えば来年からの予定なんだけどよ……」

 

長枝さんは座り込んできて俺に話しかけてきた。

 

「ちょくちょく野試合で誰かを狩ってみないか?」

 

いきなりとんでもない事を言い出した。

確かに考えれば長枝さん以外の実戦を積んでいくのは大切だろう。

しかしそんな簡単に俺たちと戦ってくれる奴が居るだろうか?

 

「誰をわざわざ倒しに行くんですか?」

 

俺は仮に戦ってくれる人が居たとして一体誰と戦うのかを聞いてみる。

 

すると俺の質問に対して対戦相手の目星は予めつけておいたのか淀みなく告げてきた。

 

「……戸叶と深道信彦って奴だ、ちなみに試合の数は四回は予定しているぞ」

 

そういうと長枝さんは立ち上がる。

そして俺に詳細は後日伝えると言って長枝さんは帰っていったのだった。

 

俺も家に帰ろうと思い立ちあがる。

腕の筋肉の震えもひいてきた。

 

公園を通り過ぎて帰っていこうとすると目の前に帽子を被った男が現れた。

肌の色は浅黒い。

タンクトップから覗く筋肉は素晴らしいの一言。

基礎鍛錬を積んで出来た努力の賜物だと分かる。

 

「あんたは何者だ?」

 

気になったので尋ねる。

 

「俺の名前はカワハラと言う」

 

名前は名乗ってくれたのだがこちらとしてはもう一つ聞く事が有る。

 

「一体何の用だ?」

 

一体どういう理由で道を塞ぐように現れたのか。

道を聞くような雰囲気ではない。

つまり怪しいのだ。

警戒はしておかなくていけないから聞いておく。

 

「確かによく見れば分かる、お前『八極拳士』の『澄漉香耶』だな?」

「確かにその通りだが……」

 

答えてくれなかった事に苛立ちを感じるがそれ以上に恐ろしい事が起こった。

武術だけでなく名前まで当てられた。

背筋に冷たいものが通り抜ける。

この人はストーカーか何かなのだろうか?

 

「アイツから情報が流れてきたが確かなものだったようだ、コレは良い」

 

相手が笑みを浮かべる。

どうやら情報を教えた奴がいるらしい。

俺は気になって聞いてみた。

 

「アイツとは一体誰だ?」

「それは教えられん、ただ……川神に住む武術家の情報を俺『達』は教えられた」

 

教えられる事は無かった。

しかし疑問が再び頭に浮かぶ。

俺ならばまだ分かる。

ただ、今この男は俺『達』といった。

つまり複数形だ。

俺はそれについて聞いてみた。

 

「待て、俺達だと?」

「そうだ、俺以外には稲垣、入来、パオ、馬場、マキハラ、原の六人居る」

 

先ほどとは違い答えてくれた。

この人を含めて七人も居たなんて……。

しかし気配は無い、一体どこにいるのだろうか。

 

「一体そいつらは何処に居るんだ、ここには居ないみたいだが」

「まあな、そいつらはアイツの調査で知った現在無名の武術家を襲撃しにいった」

 

なるほどそういう訳か。

俺の知らないところで二人新たに武術を習った奴がいるだけだ。

俺の考えでは確かに四人心当たりがある。

 

ユキ。

モロ。

準。

英雄。

 

「おい、場合によってはただじゃ済まさんぞ」

「お前を含めてそいつらを試せといわれた、弱ければ倒しても良いともな」

 

俺は怒りを剥き出しにして声を出す。

あいつらに危害を加えるならば全員つぶしてやる。

 

「ならば逆に返り討ちにされても文句は言えないわけだ」

「当然そうなるな、だが無理だ」

「何故かな、理由を言ってもらおうか」

 

睨みつけながらできるだけ冷静に言葉を搾り出す。

しかしそれをあっさりと否定される。

随分自信があるようだけどこちらとしてはどうでも良い。

倒さなければあいつらの安否を確かめられないのだから。

 

「俺の方がお前より強い、俺は完璧なのだから……」

 

そう言って構える。

こちらも抵抗の為に構えた。

 

風が通り過ぎる。

それが戦いの合図だった。

 

「ハメド・スタイルに沈め……」

 

そう言うと腕がいきなり消えた。

すると一拍置いてこちらへと迫ってくる。

 

「くっ!!」

 

腕を交差してなんとか受け止める。

追撃を予想して距離を取った。

 

「珍しいスタイルを使うな、あんた」

 

何処から飛んでくるか分からない拳。

この対処は見えてからでは遅い。

 

対処法として考えられるのは……

 

事前から受け止める事に専念するか。

距離を取って避けてその後に一気にいくか。

発勁(はっけい)で弾くか。

 

という三個の方法がある。

 

「悪いが俺の拳は対処できん」

 

そう言って拳が消える。

ステップを交えてきた。

どうやら今からが勝負のようだ。

 

「根性が無ければ無理だ」

 

そう言って一撃。

拳を再び受け止める。

 

「もしくは折る覚悟が無いとな」

 

相手が逆の腕で肝臓を狙う。

後ろに下がって距離をとる。

 

「少なくとも俺はそんな奴らと戦ってきた」

 

再び構えなおして一言。

 

「お前はそれほどの相手と戦ってきた事があるか?」

 

相手の質問に対して考える。

 

想像すれば目に浮かぶ。

 

マルギッテさん。

長枝さん。

そして大群の兵士。

 

まず目に浮かんだのは……

 

こちらを睨みつける瞳は絶対零度。

喉笛を噛み千切らんばかりの気迫。

まさしく猟犬の異名にふさわしかった。

 

速度。

技術。

腕力。

精神力。

 

相対した時、全てにおいて能力の高さに驚嘆した。

 

トンファーによる一撃は意識を刈り取る。

蹴りの一撃は平然と戦局を覆す。

 

豊富な経験から生まれた駆け引きの対決は遠く及ばなかった。

 

たった一度の戦いでそれを感じ取った。

二年経った今でも未だに覚えている苦汁の味。

 

一瞬でも敗北を予感した己を恥じた。

次は勝つと心に決めた相手。

 

それがマルギッテ・エーベルハッハである。

 

次に目に浮かんだのは……

 

こちらを見る目は猛禽類。

発せられる体中が粟立ってくるような気迫。

途轍もない熱気が真っ直ぐにやってくる。

それを目の当たりにすると人に有らざるものかと錯覚する。

 

組み手をした上で感じた事も当然ある。

 

拳の重さ。

体を覆う筋肉の鎧。

踏み込みの速さ。

技の流麗さ。

 

そこから見受けられるのはたゆまぬ研鑽。

何度も何年も積み重ねてきた努力の形。

 

しかし一番驚いたのはそこではなかった。

 

普通は攻撃の為に何かしら策を浮かべる。

しかしあの人に策は無し。

ただ最短距離を突き抜ける。

 

こちらの攻撃など気にせずただ進む。

技術も駆使した上で真っ直ぐに進んでいく。

一回でも失敗すれば致命傷になる。

しかしそんな倒される危険性も顧みず気持ち良いほど真っ直ぐに進む。

 

ただ相手を倒す為に。

勝利の二の字の為に。

茨の道をあえて選ぶ。

 

それが長枝さんなのだ。

 

引き金を引き、刃を振り、砲弾を放つ。

血を撒き、骸を踏みつける。

 

多くの兵士による圧迫。

人の海。

数の暴威。

 

自分達が血に飢えている事を隠して。

自分たちも同類であることに目を逸らして。

敵という免罪符を手に相手に死をたたきつける。

 

恨み。

悲しみ。

怒り。

喜び。

 

感情によって固まる敵を見たときに思った事。

それは戦いで生まれた一つの民族である。

 

大群になった兵士を見て思った事。

それは戦いで生まれた一つの武器である。

 

それが素直に抱いた感想であった。

 

……そんな人間とこちらも戦ってきた。

 

確かに俺には折る覚悟は無い。

ただ殺す覚悟は有る。

 

根性は有る。

負けたくないと言う意地も有る。

 

一撃で倒す。

無理ならもう一度放つ。

 

後ろに回れば首を折る。

武器を使うなら首を狙う。

 

紅い噴水を撒き散らしてもらう。

ついでに命も散らしてもらう。

 

俺は殺意と気迫を込めて構えなおした。

 

「何だ、この気迫は……」

 

相手が僅かに下がる。

少々笑みを浮かべる。

 

先ほどまで優勢で笑みを浮かべていた男が顔を崩しているのだ。

それを考えれば楽しくて仕方が無い。

 

踏み込む。

地面にヒビが入る。

自分を中心にした場所。

制空圏が瞬く間に出来上がる。

 

「この制空圏に踏み込んだら落とす」

 

そう言ってまた踏み込む。

相手との距離を縮める。

 

「くそっ……」

 

相手が毒づいて距離をとる。

無理も無い。

何故なら腕を伸ばせば制空圏に届く。

 

「ハッ!!」

 

俺が踏み込む。

 

「かあっ!!」

 

相手が逃げる。

 

この組み合わせの行動を何度となくやっていくと……

 

そのうち相手の逃げ場は無くなった。

当然の話である。

次にこちらが動けば確実に一撃を与えられる。

 

「チクショウ!!」

 

それを感じ取ったのか。

意地になって叫びながら拳を繰り出す。

しかしそれは悪手。

危ないと思ったら、攻撃の手段が無いのならば。

 

「フッ!!」

 

そこは素直に後退するか降参したほうが良い。

俺はハッケイで拳を弾く。

相手に隙が出来る。

 

「ちっ!!」

 

相手が防御をする。

 

しかし遅い。

俺は弾いた瞬間に動いていた。

すでに足を上げている。

 

「ハアッ!!」

 

一気に深く踏み込む。

地面にヒビが入る。

 

「くそぉ!!」

 

相手が防御しようと腕を交差する。

それより速く技を繰り出す。

 

繰り出す技は猛虎。

 

腕が腹に当たる。

相手がくの字に曲がる。

俺は大きく息を吐き出す。

相手が目を反転させて意識を手放した。

 

「勝負の最後はやはりあっけないもんだな……」

 

率直な感想を呟く。

 

相手を見据えて演技かどうか確かめる。

しっかり確かめた後、構えを解く。

最後に伸びをする。

 

そして俺は公園を出て行った。

 

風に当たる中で結果を反芻する。

 

とりあえずは勝利した。

この野試合という空気に慣れていなかった事。

死角からの攻撃を得意としていた事。

 

それを加味すれば強い相手だった。

仮に慣れていたり、あのスタイルと戦っていたらすんなりといけていただろう。

 

「野試合って奴も悪くない……」

 

自然と口の端が持ち上がる。

ただただ嬉しいと感じる。

新しい発見の喜びが体を突き抜ける。

ここにはまだまだ強い相手が居る確信が生まれる。

 

但し一つ疑問が残っている。

 

「アイツとか言っていたが一体何者だ?」

 

俺はその疑問を胸に公園を抜ける。

そして家に向かって歩き出すのだった。

 

これがとんでもないお祭りの始まりとは知らずに……。




今回でワンコとか京とかだって武術家もしくは武闘家なのに襲撃されて無いじゃんと思う方々へ。

川神院という場所が有名な事。
天下五弓という称号により査定する必要が無い。

その理由から

川神百代
川神一子
椎名京

は除かれています。

原作時間軸では無いのでこの時点ではいないクリスとまゆっちも除かれています。
鍛えていない大和と冬馬も除かれています。

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