真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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説明部分を加えたため前半と後半では人称が変わっています。
あと、組み込むはずだった決闘は次回に持ち越させていただきます。
申し訳ありません。


『友の罵倒 決闘の始まり』

入学式から一週間も経ったある日のこと。

俺は2-Sではなく1-Cに居た。

 

理由は一年生との交流。

由紀絵さんという顔見知りが居る為にやりやすい事から一年生交流の本拠地にこのクラスを選んだ。

 

「あの、何で先輩は一年校舎に入り浸っているんですか?」

 

一人の女の子が話しかけてくる。

 

確か名前は……大和田(おおわだ)伊予(いよ)ちゃんだったかな。

 

格好は後ろで髪の毛をまとめている。

背丈は由紀江さんに比べて

可愛い子ではあるがベイス好きで勝敗によって機嫌が左右されるのが玉に瑕だ。

まあ、性格が悪いとかではないから問題ないんだけどね。

普通に誰だって自分の好きなスポーツでやな事があれば機嫌悪くなるのは普通だろうしな。

 

「何でって……そりゃ後輩とかとも仲良くしたいからだよ」

 

理由なんて単純なものだ。

人脈を作るには己から行動するのが定石。

一年校舎に入り浸っているのは去年の間に今の三年生はほぼ全員関係を作っておいたからだ。

 

「でもここ以外の他のクラスに行ってるのは見ませんよ」

「それは別の休み時間か放課後に行っているからだね、昼休みはもっぱらここさ」

 

大和田さんの指摘は軽く受け流す。

放課後の時間も利用して作っている。

別の休み時間も利用している。

もっぱらここに来る理由は本拠地にしているから。

そして……『友達百人計画』を立てている由紀江さんが心配だからだ。

腹話術はしなくなっているがいかんせん人との関わりあい方が下手なんだろう。

大和田さんと話せるようになったのも俺が訪れてきっかけが出来てからだ。

もう一つ大きなきっかけさえあれば良いんだがな。

 

「あの、キョーヤさん?」

 

俺がうんうんとしているのを見て不思議に思ったのだろう。

由紀江さんが声をかけてくる。

 

「大丈夫だよ、ちょっと考え事をしていただけさ」

 

『あんたの友達関係がぎこちなくて頭を悩ませてる』など言えるはずも無い。

俺はごまかす為に考え事と言って席に座る

その時に『頑張れよ』というのと『気にするな』の意味合いを込めて由紀江さんの肩を叩く。

 

そんな時音を立てて扉が開く。

入ってきたのは……

 

「1-Sの武蔵小杉か……」

「知っているんですか、先輩?」

 

体操服にブルマーの女の子。

体育の授業ではなかったはずだが……

いかにもきつい性格をしている奴だと言う印象を受ける。

 

「俺はもう調べて今年の一年は名前も顔も全員把握しているんだ」

 

大和田さんが言ってくるが俺は当然のように返す。

人脈を作りたければ基本的に考えて名前と顔の一致はしておくべきだ。

趣味やそいつの嗜好も当然調べ上げていくがまずはそれが最優先だからね。

 

「初めまして、澄漉先輩」

 

武蔵が俺の目の前に来て話しかけてくる。

ただその話し方には何か挨拶以外の意味合いを込めたニュアンスが有った。

 

「どうも、初めまして……何かただ事じゃあないようだね、その目を見ると」

 

礼儀の良さとは裏腹に睨みつけてくるような視線。

それを見たらただ事ではないと分かる。

感情としては怒りというのが妥当だけれど、俺はコイツに怒られるような真似はしていないはずだが?

 

「貴方は恥ずかしくないんですか?」

「何がだい?」

 

いきなり変なことを言ってくるが一体どういう事なんだ?

どういった理由でそのような言葉を問いかけているのかを知りたい。

 

「所属しているのがS組という特別なクラスなのに普通極まりないC組に出入りして誇りは無いんですか?」

 

なるほど、そういう事か。

こちらからすればそれはS組の価値観であって俺には関係が無い。

 

「逆に聞くが、誇りなんてもので人との繋がりをどうにかできるのかい?」

 

誇りでそれができるならありがたいものだ。

 

それにS組に対して言うのならトーマだって人脈を増やしてはいる。

あいつにも言うべきだろう。

ただ、コイツの場合は俺が目に付いたからだ。

それにトーマに言えば女性の人達からめちゃくちゃに言われる。

だからリスクの少ない俺の所に来たんだろう。

 

「それでも守るべき一線はあるでしょう」

「それはなんなんだ?」

 

守るべき一線なんてこちらとしては無いものだと思っている。

例外的には親友の件が有る。

それにどうしても困っている奴がいたら見捨てられない。

だから俺としては答えが見付からないのだ。

 

「劣等とまじわらないって事ですよ、先輩」

「お前……人を貶めるのはどうこういっても仕方ないが言うに事欠いて劣等だと?」

 

今の俺はきっと青筋を立てているだろう。

S組の選民思想。

またはS組に限った事ではないが差別的な思想が俺は気に食わない。

だからそういう言葉にはことさら敏感なのだ。

 

「そうです、貴方と友達でいようとする九鬼先輩や葵先輩の頭を疑いますよ」

「テメェ……」

 

聞いた瞬間ダメだと感じた。

抑えられない。

俺個人への批判ならまだ良かった。

でも英雄とトーマ達のことを言われてはもはや我慢は出来ない。

 

「端的に言うと貴方1人がS組の恥をさらしているんですよ、そんな先輩に引導を渡してあげます」

 

意地の悪い笑みを武蔵がしてくる。

そしてそのまま武蔵の奴がワッペンを叩き付ける、川神名物『決闘』か。

つまり売られた喧嘩ってわけだ。

 

「どうせやる勇気も無いんですよね、せんぱ……」

 

間髪入れずに叩き付ける。

こちらを甘く見すぎだ。

こちらが戦えない人間だとでも思っていたのか。

 

「あとでごちゃごちゃ抜かすなよ、お前は俺を怒らせたんだからな」

 

睨みつけて言ってやる。

やる勇気はあるさ。

ただ、一年生で勝てる相手なんて居るわけがない。

二年生、三年生でも『たられば』あってこそのものになってしまうだろう。

だから今まで基本的に決闘はしてこなかった。

 

「キョーヤさん!!」

「香耶先輩!!」

 

由紀江さんと大和田さんが心配そうな声を上げる。

由紀江さん……あんたの剣を回避した人間がそう簡単に負けるわけが無いだろうに。

まあ、優しい人間だから心配するのも無理はないか。

 

「ふふ……威圧しようたってこのプレミアムな私には通用しないわ」

 

少々武蔵が苦い顔をしてそんな言葉を言う。

 

威圧?

この程度で?

鼻で笑ってやりたくなるな。

俺の威圧はまだまだこんなものじゃあない。

コレは憤慨によるものであり、戦いの時に出すものとはまた違うのだから。

 

「ルールはどうするんだよ、何がご希望だ?」

「『戦闘』による決闘でいかせて貰いますよ、先輩」

 

馬鹿な奴だ。

まだ別のもので勝負したほうが勝ち目があるだろうに。

井の中の蛙だというのを思い知らせてやる。

大体身体的に考えて差が有りすぎる。

 

179cmの身長と84kgの体重という俺に対して、武蔵の奴は調べ上げた情報によると体重こそ分からなかったものの身長は161cmとなっている。

 

つまり体重差は不明だ。

と言っても10kgほどは開いているだろう。

そして身長差は実に18cm。

 

その差を埋めるものは確かに有る。

 

『鍛錬の量』

『実戦経験』

『才能』

『相性』

 

……きっと武蔵が勝てているものがあるのならば『才能』ぐらいだろう。

しかしそれだけでは勝てるわけが無い。

それこそとてつもない類の『才能』の持ち主で無ければ。

こちらが何年も積み重ねた努力や経験は超えられないだろう。

 

「OK、ルールや日程はお前が決めた上で先生方に伝えとけ」

「S組に相応しくないって事を知ってもらいますよ、先輩」

 

そう言って出口へと向かっていく。

見たところ少々手汗をかいているな。

やせ我慢をしたところで見抜けるものだ。

この程度で怖がる奴が俺に勝てるはずも無い。

 

「試合当日、無様にも這()い蹲(つくば)らせてやりますよ」

 

そういって武蔵が出て行く。

……おっと、ふたりが驚いているって事は凄い顔になっていたかもしれないな。

 

「先輩、幾らなんでも頭に血上らせすぎなんじゃ……」

「大和田さん、俺はね……自分の悪口は許せても友人の悪口は許せない口なんだよ」

 

大和田さんがちょっと恐る恐る声をかけてくる。

確かに傍目から見て間髪いれずに叩きつけ返せばそう思うだろう。

いたって普通の反応だと俺は思っている。

売られた喧嘩を買ってやっただけだ。

 

「でも一年生をしめているんですよ、それに先輩って強いんですか?」

 

その質問に対して微笑で返す。

聞かなくても戦う時に明らかになるから待っていて欲しい。

 

「キョーヤさん、それで勝算は?」

「心配無用さ、それに相手が売ってきといて断ってもまたなんか流布されそうだしね」

 

手を振って大丈夫だと示す。

それに今言ったようにああいった奴は噂を立てたりする場合がある。

それをさせないためにもあの場では即受けが良いのだ。

 

「それに断ったらここまで飛び火するかもしれない。そうなったら由紀江さんと大和田さんにも迷惑だろ?」

 

ただ親しくしていただけで由紀江さんや大和田さんを巻き込むのはこちらはゴメンだ。

だったらやはり断るというのは間違いである。

 

「それでも自分がやるなんて……」

「そんなに心配しなくても良いよ、死ぬわけじゃああるまいし」

 

心配する声を上げるが問題はない。

慢心ではなく純粋に負ける気がしない。

殺すほどの度胸があるとも思えない。

あの程度の怒りに手汗をかいているようではまだまだだ。

 

「……それなら止めませんけど、くれぐれも気をつけて」

「大丈夫、大丈夫」

 

ようやく納得してくれたのか由紀江さんも引き下がる。

俺は心配させないように軽い口調で大丈夫だと示した。

 

そう言った後、俺は軽く返して1-Cから出て行った。

 

.

.

.

 

香耶が決闘の受託をしてから数時間後。

 

夜の帳が落ちる頃、二人の人間が見合っていた。

 

一人は香耶との戦いによって敗れたカワハラであった。

 

ロードワーク中に目を引くような人間を見たからこそ再び野試合を仕掛けたのである。

 

もう一人は今まで見た存在ではない。

 

九鬼英雄でもない。

風間翔一でもない。

島津岳人でもない。

師岡卓也でもなければ澄漉香耶でもなかった。

 

その男は大きい。

背丈はガクトを越えている。

およそ2メートル弱。

そして重さもまたそれに比例しているだろう。

見た目だけではおおよそ120キログラム。

それによる見た目の表現は威圧の二文字で十分である。

 

腕は長く太い。

大木がそのまま引っ付いたような印象を受ける。

足も同様に長く太い。

大木がそのままと言ったが訂正しよう。

コレではまるで大木を人の形にしたかのようだ。

 

「デカイな……お前」

「……」

 

カワハラの問いかけに答えはしない。

全く興味が無いのか、あちらこちらに目を彷徨わせている。

 

「お前の名前は?」

「逢間雁侍」

 

カワハラの問いかけに答える。

流石に名乗る程度の礼儀はあったのか、低く重い声が響く。

その名前を聞いてカワハラは青ざめる。

その上の名前は自分にとっては聞きなれたもの。

かつてのランキング2位の男と同じだったのだ。

 

「あの男の弟か?」

 

カワハラは聞いてみる。

仮に当たっていたら言葉で釣れる。

そう考えて質問をしていた。

 

「あの男……まさか兄さんの事を知っているのか!!」

 

先ほどまでとは打って変わって感情をむき出しにする。

コレは良いぞと思ったのだろう。

次の瞬間、カワハラは構えて言葉を発していた。

 

「知っているとしても教えてやらないけどな、勝てたら別だが」

 

カワハラが不敵な笑みで言う。

それが戦いの合図だった。

 

コレが戦いといえるものかどうかは人の判断によるのだが……

 

まずカワハラが仕掛ける。

構えた拳から拳が放たれる。

 

左アッパー

右ストレート

右フック

左フック

右アッパー

左ストレート

右フック

左アッパー

 

数える事八度。

絶え間なく打ち続ける。

スタイルから予想外の場所を突き何度も拳を叩きつける。

 

カワハラの拳が雁侍の顔に、腹に、膝に、脛に、側頭部にめり込んでいた。

しかしカワハラは全く違う感覚に囚われていた。

 

めり込んだはずの顔も、腹も、膝も、脛も、側頭部も人間を叩いた感じではなかったのだ。

 

そのイメージは堅牢な城。

外部は石垣で出来た門。

その内部は更なる固さを秘めている。

 

どうあがこうともカワハラでは壊せない。

 

しかしそれでもカワハラはめげない。

何度も拳を雁侍に打ち込む。

己の拳を信じて打つしかない。

 

「……」

 

それに対して雁侍は何も言わずに進む。

カワハラの攻撃を歯牙にもかけずに進んでゆく。

ただ真っ直ぐに。

気持ち良いほどに最短距離を進んでゆく。

 

「フン!!」

 

気合と共に拳を突き出す。

 

その拳はカワハラのガードを突き破っていた。

肉体が堅牢な城ならばこの腕はまるで大砲。

体の中で衝撃が爆発する一撃。

そんな無慈悲な一撃がカワハラを壊していた。

 

カワハラが叩き込んだ数は優に五十を超えるだろう。

しかし雁侍が叩き込んだのは僅か一撃。

 

長く太い丸太のような腕がカワハラにめり込んでいた。

その一撃は単純に突き出しただけのもの。

しかしその威力たるや一撃必殺。

奇しくも兄と同じ様に相手を昏倒させていた。

 

「この『川神』に居るのなら見つけてあげるよ……兄さん」

 

そう言って雁侍は空を見上げる。

一人、また武士が川神へと降り立った。

 

.

.

.

 

所変わって親不孝通り。

ここでは一人の女性と長枝が話をしていた。

 

女性の格好は黒いズボンに黒いブラウス。

黒い上下で揃えていた。

その姿に冷たい眼差しにあいまった蒼い毛が輝く。

対照的な白いブーツと手袋が印象深い。

 

女性らしい膨らみを持ちながらあくまでスレンダーな女性であった。

 

「九鬼での生活はどうだった、更正できたか?」

 

長枝が問いかける。

あの飛行機事故の前に依頼で送り届けた女性。

その女にこの一年での経過を聞いていた。

 

「あんな辛い所に送るなんて悪魔ね、もしくは鬼よ」

「鬼でも悪魔でも結構。調査結果の上でお前をメイドとして送るように言われていたからな」

 

女性の睨むような視線を受け流す。

いや、厳密に言えば効かないのであろう。

今まで長枝が戦っていた相手はこれ以上の殺気を放ってきた。

それに慣れた人間に効かないのは普通の事。

 

それどころか笑みを浮かべながら女性に言葉をかけていた。

 

「『紅い靴の女王』と呼ばれていたお前を更正する為だ、自業自得って奴だな」

 

結論付けた言葉を言う長枝。

しかしそう言われたから、『はい、そうですか』という聞こえの良い相手ではなかった。

 

「ええ、おかげさまで三つ指立てて出迎えするほどに品行方正になったわよ」

 

できるだけねっとりとした声で嫌みったらしく聞こえるように皮肉をきかせる女性。

しかしこういった言葉はこの男には何の意味も無かった。

 

「ククッ、そりゃあ良かった」

「それで?」

 

皮肉も通用せずに平然と笑う長枝。

この男の雰囲気に呆れたのだろう。

女性はつっけんどんに用件を聞いていた。

 

「何の用で呼んだのかと聞きたいのならいってやる、お前は学生になれ」

「はっ?」

 

女性が口をあけてほうける。

無理も無いだろう、そんな大事な事ならば上から直々に言われるものである。

上の奴らが長枝に対して『お前がつれてきたからじきじきにお前から言え』と言ってきたのだ。

本来はあちらの依頼で連れてきたって言うのにと、少々いらだったが仕方なく引き受けたのだ。

 

「聞こえなかったのか、お前はこれから二年間の間他の奴らに混じって学生になるんだ」

「いや、いきなりそんな事を言われても困るわ、年齢とか、用意とか……」

 

女性の方は当然のように拒否してくる。

流石に行きたくないというのも有るだろう。

しかし残念な事にその言葉を言うのを予測していたのか。

女性の上の人達は完全に用意をしていたのだった。

 

「学生服などの用意も出来ていて、おまえの年齢が調べ上げられているというのに?」

「グググッ……」

 

長枝が意地の悪い笑みで断れる理由を無くす。

年齢が分かるのは契約の時だけではない。

九鬼財閥の力を持ってすれば例え詐称をしてもばれてしまう。

情報網も医療部門もそこらとは格が違うのだから。

諦めて学生になったほうが吉というものだ。

 

「コレは老人連中からのご達しだぜ、断ったら老人連中から言われるが良いのかな?」

 

そういうと女性の顔が歪む。

九鬼財閥の老人は基本的に恐ろしい。

 

特に『武神』川神鉄心に並ぶ実力者である『序列零番』ヒューム・ヘルシング。

 

彼に目を付けられて武力行使をされては体がいくつ有っても足りない。

 

それ以外にもきっと断れば徹底的に礼儀を叩き込むであろう『序列三番』クラウディオ・ネエロ。

口うるさく説教をしてくるであろう『序列二番』マープル。

 

「分かったわよ、やりますよ!!」

「よく言った、従者番号三十三番『エーリン・アマレット』」

 

それを察したのか、投げやりな言葉で返すアマレット。

それに対して揺れることなく返す長枝。

 

そして一日が過ぎていく。

 

一人の武士。

一人の武士娘。

 

今宵新しい強者たちが『川神』に降り立ったのであった。




今回は予定していたものを詰め込もうとしていたのですが多くなりそうでしたので分けました。
オリキャラの方はこれから先ちゃんと関わっていきます。
何か指摘ありましたらお願いします。
個人的にオリキャラの序列が高すぎるんじゃないかと思い、修正しました。

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