真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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今回の最後にヒロインが次回出るような宣言をしています。
日常回ってやっぱり難しいです。


『仲直りへの橋渡し 友の言葉』

竜兵と喧嘩した次の日。

俺は早速月雄さんに引越ししたい人間について相談していた。

 

「で……部屋ってどれだけ空いてますか?」

「待ってろ、今名簿見るから」

 

そう言って青いファイルを取り出す、そこには『入居者名簿』と書かれていた。

 

「えっと、今居るのが麗一、サンパギータ、芹口、小西、シゲオ、戸叶、港にお前か」

 

それを聞いた瞬間驚く、まさかクラスメートが同じアパートにいたなんて思わなかった。

 

「一応いくらか部屋空いてるけど決めるんだったら早くするように言っといてやれよ」

 

笑顔で月雄さんが言ってくる。

それを聞いて俺は学校へと向かう。

 

行く途中に電話がかかる。

液晶に見た事が無い番号が映る。

俺は応答する為にボタンを押した、すると眠そうな声が聞こえてきた。

 

「坊や……朝早くから悪いね」

 

その声の主は亜巳さんだった、きっと俺が相談したのかどうかを速く知りたかったのだろう。

 

「はい、大家さんに相談したら部屋はきちんと空いているみたいですよ」

「そうか、有難うね……こんな速くに電話かけて悪かったね」

 

「そっちこそ疲れているでしょうから寝て下さい」

 

そう言うと電話を亜巳さんは切った。

あの人も昨日の深夜から仕事していたのに元気なものだ。

きっとこれも竜兵たちの事を考えての事なんだろう。

 

俺は学校へとゆっくりと歩きながら行っていた。

 

「おっ、初めてじゃないのか、朝に会うのは」

 

目の前から歩いてくるのは長枝さんだった。

すでに結構な距離をジョギングしているのか汗が滴っている。

 

「お早うございます、こんな朝早くからどうしたんですか?」

 

俺は気になって聞いてみる。

今まで夜の鍛錬に呼ばれるくらいだったのにこんな所で会うとは予想外だった。

 

「日課だよ、朝の5時からやっているんだ」

 

この人は健康面にも気を使っているのだろう。

そんな事を考えていたら少し引き締まった顔をして話しかけてきた。

 

「それはそうと最後の野試合の日程が決まった、金曜日の夜だ」

「コレが終われば……」

 

「一応野試合は終わりとなる、基礎的な体力等の底上げに力を入れていくことになる」

「なるほど、分かりました」

 

 

「足止めして悪かった、またな」

 

そう言ってまたジョギングを始める。

 

一子の時以上に重さか何か違和感を感じた。

重りをどれほどつけているんだ?

俺に指示しているが多分俺以上につけて体を苛め抜いているのだろう、それならばあの人外じみた強さも納得だ。

 

そして時間を見て急ぐ、始業時間まで残り少ないではないか。

空き部屋相談とか学校から帰ってきてからすればよかったと少しだけ後悔した。

 

あれから全力で走って学校には間に合ったがSのクラスメートには嫌な顔をされた。

そしてここ最近学校でつながりを持った男女から少し避けられている。

自分の中でそれなりに抑えているがいまだに苛立ちが残っているのだろう。

それが顔に出ているのか、皆が顔を見て避けていく。

笑顔を浮かべるが少し引きつっているのか、苦い顔で返されている。

 

「大丈夫ですか?」

 

そんな事を考えていると放課後になっていた。

トーマが俺のことを心配しているのか覗き込んでいた。

 

「何でそう思ったんだよ、俺は元気にやっているぜ」

 

俺が笑いながら言うとトーマが真剣な顔をして俺にこう言ってきた。

 

「キョーヤの雰囲気がピリピリとしていましたので気になったんです、何故そうなっているのか話してくれませんか?」

「流石にお前に隠し事はしないよ、実はな……」

 

こいつの第三者の意見を聞いておくのも悪くない、それに隠し事をするような後ろめたい間柄でもない。

そう考えて俺はあの騒動の事を話していた。

トーマは病院初めて会った時から分かっていただろう。

モロと関係が繋がった時からきっと今までのユキの問題は分かっているだろう。

 

俺の話を聞いた後のトーマは安らかに苛立ちもなく俺に語りかけてきた。

 

「確かに許せない事かもしれません、ですが……仕方ない罪でもありませんか?」

 

確かに小学生の気まぐれだといわれればそれまでの話。

ただたまたまその結果が余りにも残酷だったからこその怒りだろう。

 

「ただ言えるのはユキの事情を知らなかったのではなく知ろうとも大和君はしなかった」

 

それもまた間違いではない。

聞けば答えてくれただろう、ただ拒絶をしたから分からなかっただけ。

分かろうと思えば出来たはずだったのだ。

 

「誰しもが背負っている罪の中でも彼のものはあまりに看過できるものではなかっただけでしょう、しかし……」

 

トーマが淡々と言う言葉の中には重みがあった。

人は必ずしも『原罪』がある。

つまり生まれながらに背負っているものが有って、更にそこへ積み重なっていく。

俺だって軍人であるが故に大きな罪を背負っている。

 

「このままの関係で良いわけがないとも貴方は思っている」

 

それを言われると反応に困る。

確かにあのような騒動を起こしたが、そのまま終わって良いわけが無いと心の中では分かっている。

俺のわがままでユキの友達作りを邪魔してしまうのは良くない。

ましてやモロとの関係が険悪になったりしたらもはや目も当てられないだろう。

 

「俺を何故そこまでトーマは信じるんだ?」

 

そう俺が聞くとトーマが微笑みながら俺に囁くように、しかししっかりとした声で言ってきた。

 

「だって私や英雄が好きになった貴方はそんなに小さな人間などではないと信じていますから」

 

そう微笑むトーマの顔には確かに俺に対する信頼があった。

それを見ると俺も少し心が晴れやかになった。

 

そんな事を考えていると教室の扉が開く。

その方向へ振り向いたらモロとキャップが来ていた。

 

「行って良いですよ、気にしませんから」

「そうか、じゃあちょっと帰りついでに話してくるわ」

 

そう言って俺は立ち上がる。

トーマもカバンを持っているしどうせなら校門まで一緒にいくか。

 

「わざわざあんな事言ってくれて有難うな、トーマ」

「別にたいしたことじゃありませんよ、お礼を言われるようなことではありません」

 

トーマが笑顔で俺の方を向く。

昔、俺もトーマの夢の為に力を振るった。

夢の為に助けるというのはたいしたことではないとずっと自分の中では思っていた。

でも今にして思うと自分にとってはたいしたことではなくても他人にとっては重要な事なのだろう。

 

そんな事を考えていたらいつの間にか俺達は校門へと着いていた。

 

「話があるんだ」

「良いからついてきてくれよ」

 

校門の前でキャップとモロに誘われる。

それならばと思って俺はトーマと別れる為に声をかける。

 

「じゃあ、トーマまた明日な」

「ええ、また明日会いましょう、キョーヤ」

 

トーマに声をかけて俺は別の方向へと行った。

俺はモロとキャップは疑う必要もないと思ったのでついていく。

 

「わざわざ仲が悪いS組まで来るとか無茶するなよ」

「でもそうでもしないと話が出来ないでしょ」

 

モロとキャップに言っておく、喧嘩したり怪我したらしゃれにならない。

まあ、モロとキャップなら並み程度の奴には負けないだろうが心配だ。

 

「呼んでくれたらF組にいくぞ」

「大和と喧嘩されたらたまったもんじゃねえだろうが」

 

先日の騒動の事を考えればキャップの言う事も最もだ。

F組で暴れてクリスお嬢様、一子、タッちゃん、モロにケガを負わせた日にはしゃれにならない。

 

その様なやり取りをしているといつの間にか公園についていた。

俺は財布を見えないように取り出して自販機を目ざとく見つける。

 

「先に座っておけよ」

 

そういうとベンチに二人が座りに行く。

その間に俺は自販機で缶コーヒーを3本買う。

何故二人の前で買わなかったのかといえば自販機のものを見られた状態で買えば二人とも返してくるかもしれないだろう。

だからこそ見られないように先にベンチに座ってもらうように言ったのだ。

 

「ホラよ、何も無しで話すんのも面倒だろ?」

 

俺は缶コーヒーを二人に投げ渡す。

 

「有難う、キョーヤ」

「あんがとな!!」

 

二人とも難なく受け取る。

そしてプルトップを空けて飲むまでの動作が速い、そんなに喉が乾いていたのか?

勢いで缶コーヒーを飲んでいる時に俺に伝える用事を思い出したのか、キャップが話しかけてくる。

 

「今度の週末ぐらいにちょっとバーベキューしようと思ってよ、お前も一緒に来ないかと思ってな」

 

笑顔でそんな事を言ってくるがそれ以外の目的があるのに感づいてしまう。

俺は遠まわしには言わずそのまま思ったことを聞いていた。

 

「誘ってくれるのは良いんだが本来の目的はそれだけじゃないだろ?」

「そりゃあ、そうだ」

 

いつの間に缶コーヒーを飲み干していたのかゴミ箱に投げる。

空き缶は綺麗な放物線を描いて見事ゴミ箱へと入った。

それを見てガッツポーズをした後にそんな事を言ってくる。

昨日や今日の付き合いではないから次に言う言葉はなんとなく予感できた。

 

「大和と仲直りしろとか言うのか、キャップ」

「当たりだ」

 

やっぱりそういう事か。

大和以上に断りにくい二人だと俺も辛いものがある。

拒否するには強引に突っぱねるという方法が確かにないことはない、しかし流石に今さっきトーマに言われていたのにいきなり拒絶をするのは良い事ではない。

 

「別に俺はあいつが謝りさえすれば良いとは思う、ただ解せないのは仲直りには代理を立てずにアイツから誘うべきじゃないのか?」

 

ただ筋は通して欲しかった。

キャップやモロではなく大和本人が誘いにくるものではないだろうか。

まあ、目の前に居る二人が嫌だという意味ではないし、ここはありがたくその申し出に対して快い返事を返しておこう。

 

「まあ、誘いに来てくれた二人の顔を立てるという事でありがたく来させて貰うけどな」

「あの子も連れて来いよ、面白そうだしな」

 

不満はあるがモロやキャップが誘いに来てくれたのだ、この二人が来てくれたのに断るのは俺もあまり良い気分はしない。

それにユキにモロからの誘いを断ったなんてばれたら俺が蹴られてしまう。

流石に俺も蹴られてまで誘いを断るような人間ではない。

 

「分かってるよ、ちゃんとユキも連れてくるって」

「待ってるからな、河原にこいよ!!」

 

そう言われた後に別れて公園から去っていく。

 

暫くすると歩いているときに電話が鳴る。

 

「中将、どういった用件でしょうか?」

「ああ、マルギッテ……少尉についてなんだ」

 

それを聞いた瞬間に胸がざわめく。

一瞬携帯を落としそうになるほどに動揺してしまう。

もしかして重大な怪我でもしてしまったのだろうか?

それとも捕虜にでもなってしまったのか?

ただ冷静を装う事しかできない、俺は必死に声をつくろって聞いてみた。

 

「はい、一体何が有ったのですか?」

「クリスの為にも学校に転入させようと思ってな」

 

それを聞いた瞬間安心する、何の問題もなかったのだと胸をなでおろす。

そして冷静になった瞬間笑みが漏れそうになる、相変わらずお嬢様に甘い人だ。

 

きっと世話役だけではなく、軽い気持ちで男性が近寄らないようにする為の監視役としての役割を持った上で学園へと来るのだろう。

 

確かに異性という悪い虫がつかないようにするには適任だ。

異性の俺がその役割をやってしまい、嫌な方向にかんぐられると後々厄介になるだろう。

その事を考えた場合、やはり同姓のマルギッテさんが一番良いはずだ。

 

「クリスお嬢様の時のように私が川神の案内をするという事ですか」

「その通りだ、頼めるかね?」

 

頼めるかどうかといえば当然OKだ、断るという選択肢はすでに用意してはいない。

ただ時間的な余裕があるかどうかを聞いておこう。

 

「いつのご予定ですか?」

「今度の週末だな」

 

今さっきまで話していた日に被る可能性があるのか。

一瞬だけ心が揺らぐがそこは抑えて俺は冷静に承諾の言葉を言っていた。

 

「そうですか、それでは喜んで引き受けさせていただきます」

 

万が一この頼みとキャップたちとの約束の日時が被った場合があっても難しく考える必要はない。

マルギッテさんも川原に連れて行って一緒にバーベキューを楽しめば良いんだ。

俺はそれが両方成り立つ最善だと思ってこの頼みを了承する。

 

ふと考えればあの人が川神学園に入るという事はあの人とまた毎日のように顔を合わせられるという訳だ。

 

そう考えると意識せずとも頬が緩んで笑みの形となってしまう、しかしそれとは裏腹に心臓は喜びと興奮で早鐘を打つ。

俺は鳴り止まない心の高鳴りを落ち着かせる為に掌に人と書いて飲み込む仕草をしたり、深呼吸をしたりなど緊張を抑える為の行動をしていた。

 

それを繰り返して少しの時間がたった後、俺は僅かに高鳴りが収まった胸を押さえて家へと帰っていった。




今回は日常回とさせていただきました。
マルさん参加の後はオリジナル部分や東西交流戦といったバトル部分が増えるよていです。
ご指摘等がありましたらお願いします。
部屋の数に決まりがあれば新キャラを出す時に不便なので変更。

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