真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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川神ランキング初戦です。
今度からは地上戦だけ書こうと思いました。
水中戦は非常に難しいと思います。



『初めての水中戦』

あれから一週間後、試合の日が来た。

俺の試合から五分後にグラウンドでモロの試合が始まる。

そして十分後には体育館でキャップの試合が始まる。

 

つまり俺が試合を早く終わらせれば第二試合は観戦できるというわけだ。

そしてそれは第三試合の観戦についても同じことである。

 

事前に言っていたようにルールが村上先輩の有利な形になっていた。

制限時間は無し。

それに伴い判定勝利も無し。

 

武器の制限は厳しく、素手以外禁止。

防具については特に言及はないが、正直場所のせいであまりメリットが感じられない。

なぜなら地上ではなく水中での戦いだからだ。

 

それ以外では目潰し・喉突き・金的蹴り・噛み付き・脊椎といった急所への攻撃、もしくは危険な攻撃の禁止。

 

今回における勝敗についてはこのように定められている。

 

続行不可能なダメージによるKO、ギブアップか気絶、または審判の判断によるTKO以外は特になし。

つまりダウンをしても続行可能な場合、特に問題なく進む。

 

「このルールでの対戦だが、おじさん聞いとくけど……まじでその格好でやんの?」

 

宇佐美先生が俺を見て言う。

俺の格好は赤いふんどしだけという必要最低限の衣服に身をまとっている。

一応ゴーグルも着用しているが水泳キャップはつけてはいない。

 

「着衣水泳やって勝てるとは考えてませんので、これでいいと思います」

 

服を着たままやっても勝てる可能性はあるだろうけども、初めての水中戦でなおかつ相手は水泳部の主将。

なめてかかってしまうと敗北する可能性だってある、特殊な条件下での戦いである。

 

「じゃあおじさんは止めないけど、お互いくたばる前にギブアップは言えよ、そんな事に発展したら面倒だからな」

 

そう言って腕を振り上げる、あの腕が降りたら試合が始まる。

村上先輩はプールの中央に陣取っている、俺はスタート地点の場所で待ち受ける形となっていた。

 

「試合初め!!」

 

その言葉と同時に俺は水を掻いて村上先輩に接近する、走るのではなく泳ぐ。

最短距離で早く到達するためにはクロールで一気に接近することだ。

 

「しゃあ!!」

 

その勢いのまま先輩に向かって拳をふるう、この急激な加速なら先輩にあたるだろう。

しかしこっちの思惑はいとも簡単に外れる。

先輩はするりとこっちの攻撃を潜水で避けてそのままカウンターで逆立ち蹴りをする。

 

「ちっ!!」

 

背泳ぎの形をとって蹴りを回避する。

よくよく考えればこの戦いは普段とは全く違っていて、潜るという回避方法があるため想定外の行動があるのだ。

 

「まだまだ!!」

 

そういうともう一度村上先輩は潜る。

潜った瞬間に足で頭を押さえつけたら勝ちだが、仮に足を引っ張られてしまったら立場は逆転する。

 

「つまり同じようにすればいいか……」

 

そう言って潜る俺を待っていたがのように村上先輩は一気に浮上していく、頭を押さえつけに来るのか?

そう考えていたら一気に方向を変えて泳ぎだしていく、俺はそれを見て浮上する。

 

「どりゃあ!!」

 

浮き上がってきた俺の胸に頭突きの一撃が入る。

息を吐き出しているとアッパーが入る、なるほど方向転換したのはプールの端からターンをして勢いをつけたかったんだな。

 

「もう一発!!」

 

裏拳を放ってきた村上先輩に対して水をかけて対処する、ゴーグルが有るとは言っても一瞬固まるだろう。

その一瞬の間にその太ももに足をのせて一気に踏み込む、先輩の体勢が一気に沈み込んだのを見逃さなかった。

 

「『猛虎』!!」

 

顔面に向かって八極拳の一撃を放つ。

ランキング戦では完全に出し惜しみをする気持ちはない。

これは挑発行為だ。

『全部の手の内をさらすがお前らには止められないぞ』と俺は示しているのだ。

ただ残念なことにここにいる面子の中にランキングでの要注意人物なんて思ったよりいない。

だって水中戦とか普通に考えて地味だし、グラウンドでやるならいいけどわざわざプールに移動してまで見たくないだろ。

現にグラウンドの方が人もいるし場所をとっている。

視線は三人分背中に突き刺さっている、遅かれ早かれぶつかるのだから観察しに来たのだろう。

 

港が、梨先輩が、川次先輩が三者三様の目で俺を見ていたのだった。

 

「勝者、澄漉香耶!!」

 

そんなことを考えていたら勝者のコールをされる。

どうやら先輩は鼻血をだらだらと垂らした状態で気絶しているようだ、これは医務室いきだろう。

結局、思ったよりは難しかったが、想像以上の苦戦はしなかった。

それどころか一撃で倒した為、一分もたたずに終わっている。

これでは不完全燃焼もいいところだ。

 

次の試合のために早く着替える、当然塩素を洗い流すシャワーも忘れない。

そうやって出て行った時にはかなりの多くの人がいた、それを掻き分けるように俺は進んでいく。

モロの試合という事もあってか、ガクトがセコンドにいるが特等席はユキがとっていたようで飛び跳ねている。

 

「お前ら、ユキに連れられたとはいえ冷たくない?」

 

準とトーマに近づいて俺は、モロだけじゃなくて俺の観戦だってしてくれたっていいじゃないか。

そういったちょっとした怒りを込めながら言ってみた。

 

「いや、だって一撃KOだと思ったしわざわざプールまで行きたくないじゃん」

 

準がそんなことを言う、やっぱりプールというのがだめだったか。

ただ、あっち方向で有名なクラスの男子が観戦していたのはやはりそういう事なのだろうか?

 

「場所をプールにしたのは俺じゃないからな、村上先輩だし」

 

そう言って準とトーマの間に入る。

トーマの周りにいた女子はなんで俺がここにいるのかを不思議がっていた。

まあ、普通に考えたらほっぽり出したって思うよな。

 

「そろそろ始まるけどどっちが勝つと思う?」

 

準が俺に対して聞いてくる。

そんなことは愚問ではないか?

 

「モロが勝つよ、絶対に勝つよ!!」

 

ユキが俺より早く答えを言う、しかもかなり食い気味にだ。

まあ、先輩がどう頑張ったところで相手にならないだろう、多く見ても三分以内に勝負は決まっている。

もしかしたら一撃KOだってあり得るかもしれない。

 

「試合開始!!」

 

そう考えていたら試合が始まる、審判は小島先生だ。

モロはまず相手から目線をそらさずにステップを刻む。

すると先輩が短く息を吐いて突進してくる、幾らなんでも直線的すぎる。

当たれば倒せるなんて方法では正直そこそこの順位には食い込めてはいないだろう。

あれはもしかするとただのフェイントの可能性がある、一気にブレーキをかけて相手の体を掴みに行くのではないのか?

しかしその予想は裏切られる。

先輩はその勢いのまま飛び上がって、体を空中で反転させると、モロに向かって蹴りを放つ。

 

側転でかわすタイミングを外されたのか、モロにその蹴りが僅かに掠る。

しかし一撃を喰らってもよろめくことはない。

着地した先輩に向かって蹴りを放つ、後ろを向く形になっている先輩はこれを卑怯とは言えない。

正直技を放った後の体勢を考えていないのは自業自得である。

 

先輩はその攻撃を転がって避けて距離をとる。

しかし一度射程距離に入ってしまえば、モロの眼差しから逃れることはできない。

当然煙幕などの目くらましや、一瞬目の前から消えて背後をとるという相手なら話は別だけど。

 

転がって避けたと思った次の瞬間、延々とモロの蹴りが縦横無尽に飛んでくる。

先輩が避けても、その避ける先を予測しては次の蹴りを繰り出していく。

まるで先輩が自分で蹴られに行っているかのように体に当たってダメージが与えられる。

とは言っても先輩は当たる瞬間に後ろに下がったりして、深く蹴られないようには対処をしている。

 

だが、このままではモロの優勢は揺るがない。

決めの大技を出さずに堅実に蹴りを繰り出しているのが分かるからだ、焦りもなく冷静な戦いを心掛けている。

相手にまだ明確な隙が見えてもいない間から大技などという行為ができるのは、実力差が著しく開いていて余裕のあるやつ。

もしくは俺や天神館の大友のような一撃必殺の攻撃など相手をすぐに倒せる火力持ちがすることだ。

 

先輩がこの状況を変えるためにモロを掴もうとする、随分と大ぶりな動きだ。

この瞬間、俺はモロの勝ちを悟った。

モロはその腕が到達する前に前蹴りを放って相手との距離を離す。

先輩の鳩尾に綺麗に入っていたのを俺は見逃していない、現に先輩はくの字の状態で体勢が整っていない。

するとこれで終わりだという様にモロは先輩に向かって駆け出す。

その走っていく勢いを止めずに跳躍をして回転して蹴り技を放つ。

それが顔面に当たって先輩はゆっくりと崩れ落ちていく。

どうやら意識は喰らって足を振りぬくまでの間に無くなっていたようで、すぐに小島先生が勝者の名前を呼んでいた。

 

「勝者、師岡卓也!!」

 

決めた技は跳躍をしてからの回転蹴りである『アルマーダ』、前蹴りは『ベンサォン』という技だったかな?

結局俺とモロの試合は二人合わせて三分もたっていない。。

キャップの試合が始まるまでおおよそ三分、そんなことを考えていたらモロが降りてこっちに来ていた。

 

「勝利、おめでとう」

 

俺はそう言って手のひらを上に出す。

その行動にモロは微笑みながら小気味いい音が鳴るように、勢いをつけて手のひらを合わせてきた。

 

「そっちこそ滅茶苦茶速かったじゃん、お疲れ」

 

まあ、試合開始して少し経ってからとかではなく始めから居たからな。

しかもユキや準と話す余裕まであったくらいだ。

 

「ありがとう、俺は今からキャップの試合を見るけどどうする?」

 

俺は試合が終わった直後のモロに提案をする。

場所こそ広いがキャップの試合ならもう人は多いだろう、だから後の結果だけでもそれは仕方のないことだ。

 

「行くだけ行ってみない?、無理なら諦めたらいいんだからさ」

 

そうするか、俺達はキャップの試合の観戦をする為に体育館へと向かう事にした。

俺とモロが話している為、トーマが先頭を切って歩いてくれている、すると女子生徒はトーマの微笑みを見ると嬉しそうな顔をしながら道を開けてくれる。

俺達は道を開けてくれた女子生徒に頭を下げて感謝する、体育館まで人で詰まることなくたどり着くことができた。

 

「本当、噂通りあって女子生徒の観戦の数の方が多いな……」

 

準が言った噂というのは『エレガント・クアットロ』と言われる川神学園の中でも持てるイケメン4人組のことだ。

三年の京極先輩、それ以外は顔見知りの三人。

俺達と今居る葵冬馬、今から試合をする風間翔一、そして最後の一人が源忠勝。

この女子生徒の観戦者の数を見たらそれも納得だ。

 

「とりあえず、前の方に掻き分けてでも入って行こう」

 

モロがそう言って掻き分けようとした瞬間、俺は止める。

女子生徒の体に触ってしまっていわれのない濡れ衣が出ることを考えたら賢明ではない。

さっきの観戦はまだそんなに人もいなかったし、男性生徒の場所だけを掻き分けることが出来たから良いがこれは難しい。

そんな事を考えていたら俺の腕を引っ張っていくやつがいる、この力強さはよく知っている。

 

「お前らもこっちの方通って来い!!」

 

その声に呼ばれてトーマや準、ガクト、モロ、ユキもその道を通っていく。

すると目の前にはキャップの試合が見れる、眺めがいい場所に俺たちはいた。

 

「よしっ、これで良いだろ」

 

そう言うと俺の手を離す。

俺はさっきまで腕を引っ張っていた人間にお礼を言った。

 

「ありがとう、タッちゃん」

 

「一子が皆で見たいって言ってたし、もしお前が居たら連れて来てっていうからだ、勘違いすんじゃねえ」

 

するといつものように自分からやったわけではないと素直ではない返答を返してくる。

別に俺は気にしないんだから素直に言ってくれて構わないんだけどな。

 

そう言っているとキャップの試合が始まろうとしていた。

セコンドには大和がいる、正直キャップのレベルならそこそこ強くないと頭脳担当のアドバイスは必要になることはない。

 

「試合始メ!!」

 

試合開始はルー先生の一言で始まる。

 

キャップは開始早々対戦相手の顔面めがけて飛び蹴りを放つ。

さっき、大技を隙も無いのに放つ奴について云々言ったが、例外がいるのを忘れていた。

まあ、開始直後は隙があるから仕掛けるタイミングが悪いとは思わないが、もう少し慎重にやってもいいだろうと思う。

ただ、外してもお構いなしに連発をしかねないのがキャップである。

 

先輩は避けるがその上を通り過ぎる形でキャップは着地する、着地した次の瞬間には跳び後ろ回し蹴りと大技の連発。

 

平然とよく仕掛けられるもんだ、先輩はもう一度避ける。

無理もないだろう、この二回の攻撃はいずれも相手をノックアウトする威力がある。

こういった技は相手は避けてカウンターをしようと考えるものだが、これから先延々と大技を連発されたらその機会をいつ見図るのか。

しかも相手の方がキャップよりも上。

格上が格下の攻撃を避け続けるという事は、後々大きく嫌なものとしてのしかかる。

それをしない為には一度攻撃を防御してから、攻撃を放つことでキャップに大技を出させない距離まで詰めるしかない。

 

「おらぁ!!」

 

着地したと思うとまたもや跳躍。

大きな声を出した後、そのまま空中で体勢を変えて蹴りを放つ。

先輩はかろうじて腕を交差して受けるが、次の瞬間目を疑う光景がそこにあった。

 

先輩の腕がだらんと下がっていたのだ、まるで腕がだるくなったような状態に見える。

あれは、まさか浸透勁か!?

キャップも誰かに技を教えて貰って、今まで牙を研いでいたのだろう。

着地する一瞬の間に気を練って足に宿して浸透勁の蹴りを放つ、しかも三連続でだ。

きっと最初の一撃を喰らわせていたらその時点で終わっていただろう。

 

こうなってしまうと勝負はついたようなものだ、先輩の腕はもう上がらないし仮に上がっても防御は間に合わない。

先輩はギブアップをしたほうがいいだろう、蹴り一本で倒せるほどキャップは弱くない。

 

「まだまだぁ!!」

 

先輩は気合を入れる為に大きな声で己を奮い立たせる、どうやらギブアップをする気はないようだ。

キャップはこう言った勝負事のクライマックスにおいて、相手をいたぶるような真似はしないのが気性で分かる。

次の一撃で間違いなく決めるだろう、先輩が避けられなければその時点で勝負は終わる。

 

「はあっ!!」

 

相手の腹に向かって前蹴りを放っていた。

駆け出すこともなく緩やかに射程距離に入って静かに放っていた。

今までの三発の蹴りと同じように、一気に駆け出してきて放ってくるといった決着の付け方を考えていたのだろう。

先輩はキャップのその動きに対応ができずに、棒立ちのままその蹴りを受けていた。

 

顔や側頭部に浸透勁が入ればそれで試合は確実に決まる。

まだ腹ならば相手が気に精通していた場合は、ある程度軽減できるだろう。

しかしキャップの相手である先輩はその世界までは到達していないのが分かる。

つまりこの時点で試合は終わり、先輩が白目をむいてうつぶせに倒れこんでいくのだった。

 

「勝者、風間翔一!!」

 

勝者であるキャップの名前が呼ばれる。

三人とも相手との戦いに三分以上費やさずに勝利。

 

俺は順位こそ上がらないだろうが、明日の新聞部の広報である程度下位からの申し込みはなくなるだろう。

次の試合では港や不死川たちの戦いも見てみたいものだ。

そう思って俺たちは体育館から出ていくのだった。




次回も戦闘を書くかもしれません。
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