真剣で猟犬に恋しなさい!!   作:勿忘草

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次回の戦いが終われば川神運動会と川神戦役の予定です。
人間サッカーに変わる案を考えなくては……


『弓兵の怨みは儚く』

 

一週間後、あれから化勁や発勁の練度を高めていた俺は、常に坂本さんの蹴りをイメージする事で成功率を上げていった。

あれを喰らいたくなければ、あれと同じような一撃を喰らわずに済むには成功させなければいけない。

その考えをもって呼吸を落ち着かせて、気の量を調節しながらものにしていく道を辿っていた。

 

「大友の砲弾やクー先輩の全力投擲を今のように弾いたり、逸らせればそれだけで違う」

 

一撃の重みが凄まじいものとの戦いでは本当にこういった技術が必要になっていく。

武器による一撃でもその人の戦い方と鍛錬の賜物だからだ。

回避をしているだけではいずれ避けられない場面が出てくる、もしくは作られるだろう。

そんな時に逸らしたり弾ければ、距離を詰めたりしてこっちのペースを作る事が出来る。

 

「椎名の攻撃も全て逸らしたり、弾いたりして勝てたら、それだけで鍛錬の成果が見れる」

 

息を吸ってもう一度逸らすイメージを固めていく。

放課後までは集中を切らさない。

二桁最上位でもある10位の対戦。

 

油断をしていたら、港と戦う機会が巡ってこなくなる。

いずれは戦うべき相手と、今の場面で戦う事は悪い事ばかりではない。

なぜならばここで勝負をしておけば、このランキングにおいては再戦せずにその相手をスルーしやすいからだ。

次、挑戦しようにも相手との順位が開くのは考えられる。

 

「今日、椎名を倒して再戦する気概を奪う」

 

あの女は完膚なきまでにつぶさないと、今回のようなケースで何度でも挑んでくるだろう。

大方、負傷をこっちがしていてもお構いなしにやってくるタイプだ。

そういう考えは嫌いではないが、もし何度もやってきたらあまりにも鬱陶しい。

 

「この試合と明日の試合が終われば、マルギッテさんに少し話でもしよう」

 

10位になれば次の相手は絶対に一桁になる。

その後はもうあの人に挑戦できる舞台を作り上げる。

 

「あの人に異性として見てもらうためにも、同じ高みに立たないといけない」

 

今まで副官としてしか見られていなかった日々に終わりを告げる。

俺もそういった色恋沙汰に興味を持つ年齢である。

 

そして何より心から隣に居たいと願う人を思い浮かべるのであればマルギッテさんだろう。

ただ普通に好きだと言ってもあの人にはにべもなく断られてしまうだろう。

あの人に対して、一人の男だと認識してもらう事が始まりだ。

 

「あの日に気づいた恋心であれば、それを伝えなければ何の意味も持たない」

 

遅かれ早かれ、いつかは伝える者だった。

夏休みを超えたあたりに、整理がついていれば話をスムーズにできただろう。

だが、そこまで待っていて仮にドイツに帰国されたらどうするのか?

そう考えれば今の段階で伝えるのがベストだ。

 

「この考えは一度しまっておく、目の前の事だけだ」

 

勝負事に雑念として入ってしまう事もある。

それだけは避けておかないと、思わぬ所で隙を作ってしまう。

 

学業を行いながらも、集中をして高めていく中、俺はひたすら放課後になるのを待っていた。

放課後になれば、体育館で相手が待っているだろう。

弓矢がないのであればストレッチを行って体をほぐしているはずだ。

だが、こちらもその準備は怠ってはいない。

昼休みや休み時間の間に体をほぐしたり、一手一手を考えてイメージトレーニングを行っていた。

 

「さて……行くか」

 

放課後になると俺は体育館へと向かう。

予想通り、先に入っていて体をほぐしていた。

学生服という動きやすい恰好を選んでいるようだな。

やはり一番の武器である弓矢がなければ違和感がある。

 

「威嚇ですらないな、睨んでもそれで勝てると思っているのか」

 

そう言って俺は椎名と向かい合う。

正直、睨んで殺気を出しても、この程度じゃあ揺るぎはしない。

 

小島先生が審判という形で試合が始まる。

始めの声で椎名が一気に懐へもぐりこんできた。

 

「こいつ、始めっていう前から前に体重かけてたな……」

 

初手がそれであるならば次の一手へどうつなげるのか。

それを逸らしたり、避ければ俺の間合いだというのに。

 

「ふんっ!!」

 

アッパー気味に俺の腹を狙ってくる。

俺はその瞬間に気を練って手を下に、吐き出すように発勁をする。

拳が弾かれてしまったのをすぐに感じ取って間合いから遠ざかる椎名。

どうやらヒットアンドアウェイで戦っていくようだ。

 

「てりゃあ!!」

 

次は顔面に向かっての跳び蹴り。

こっちの攻撃が当てられない距離から延々とやるつもりだが、大技なのはKOで勝ちたいからだろう。

 

「はっ!!」

 

化勁で跳び蹴りの軌道を逸らすと、再び距離をとられる。

追い詰めるためのきっかけさえあればいいが常に一定の距離を保たれると面倒なことこの上ない。

 

「しっ!!」

 

髪留めを投げてきた。

それを難なく避ける。

すると次の瞬間、椎名の踵が俺のこめかみをとらえていた。

 

「せいっ!!」

 

こめかみを打ち抜かれて少し頭が揺れる。

すると次は地を這うような水面蹴り。

それも喰らって僅かに体勢が崩れると、容赦ない膝蹴りが顔面にめり込んでいた。

 

「で、これで勝てるとでも?」

 

平然と俺は体勢を立て直して、鼻を拭い、効いていないと言い放つ。

元々、打撃が本職ではない椎名の一撃は怖くない。

今までいろいろな相手がいて顔面を蹴られたりしたが、そいつらを含めても威力そのものは強くない。

意識を断ち切るようなキレもそれほどない、

これでは、モロが言葉を濁すのも無理はない、ユキの方がまだ強いからだ。

 

「はぁっ!!!」

 

効いていないならば何発でも叩き込む。

その結論に至ったのか、懐に飛び込んで何度も俺の腹や足に攻撃を叩き込む。

なぜ、これほど打撃で倒そうとするのか?

川神流の技の中には関節技だってあるだろうに。

痛めつけたいというのであれば、自分の打撃が大したことないと思ったらそういうものに変えても損はないはずだ。

 

「そろそろ、息切れ起こすんじゃないか……」

 

攻撃を延々と受け続けているが、ダメージ自体はそれほどない。

弾いたり、逸らしていれば威力はあまりないからだ。

それでも何発を叩き込まれると少しはダメージを負う。

 

しかし、それ以上に打っている椎名の方がダメージを負っていた。

と言っても打撃などのダメージではなく、呼吸や体を動かし続けることによる疲労の蓄積。

もしくは一向に効いている実感がわかない精神面でのダメージだろうか?

 

「ふぅ……」

 

しのぎ続けているとついに攻撃が止む。

息切れしたのだろう、もう一度こちらへ攻撃を仕掛けるために距離をとって立て直すようだ。

しかしそれを許しはしない。

後ろへ踏み込むよりも深く、椎名の懐に踏み込んで一撃を放つ。

 

「ぬっ!?」

 

何とか腕を交差して受け止めたようだが手応えはあった。

もうこれで椎名の腕は勁によりだるくなっているか、あるいは威力でしびれているだろう。

これでは残りは腕が動くようになるまで時間を稼ぐか。

もしくは蹴りを主体に攻めを継続してこちらに一撃を入れさせないように立ち回るかの二択だ。

 

「今なら『参った』は有効だぞ」

 

俺は構えて間合いを確かめながら椎名に言う。

相手を軽く見ているわけではないが、防ぐ手段がほぼほぼないのならこの場合は参ったも一つの手だ。

このまま続けても勝ち筋なんて回避し続けて、時間を稼ぐかカウンター狙いでKOするしかない。

 

「うるさい……お前は倒す、絶対に!!」

 

意地になっているのか、こっちの言葉に耳を貸さずに続行するようだ。

まあ、普段なら絶対に言わない一言を言うのはきっと椎名が弓矢の使い手だからだろう。

これが不死川やクリスお嬢様なら言葉をかけずに続行だ。

 

「そうかい、来いよ」

 

大和に良い所を見せたいのと、前回の大和との口論の恨みがあるのだろう。

それを持つのは構わんが、それで自分の体を壊すような真似をしていたら元も子もない。

 

「しゃら!!」

 

蹴りが飛んでくる。

腕で受け止めて距離を詰める。

次は逸らすか弾くかで間合いへ入り込む。

その後は俺の制空権だ、どのように攻撃をしてもすべて叩き落して一撃を入れてやる。

 

続いて拳が顔面に向かってやってくる。

それを頭を動かして避ける、しかし次の瞬間、後頭部に衝撃が走った。

 

「ぐッ!?」

 

頭が揺れて体勢を崩すと脛に蹴りを入れてくる。

どこまでも容赦する気がないか。

 

「威力が低いから、急所に集中させているが所詮は付け焼刃だな」

 

首をコキリと鳴らして今の攻撃は効いていないぞとアピールをする。

皮膚を切るような鋭さや、相手をうずくまらせる事が出来る重さがあれば勝負は決まっている。

その要素が椎名の場合は両方が中途半端なのだ。

その為、俺には通用していない。

急所攻撃に頼っていても、打点をずらしたり強靭な肉体があればそれほどの脅威ではない。

 

「素手ならキャップやガクトにも勝てないんじゃないか?」

 

キャップの場合は回避されてカウンター。

ガクトにはそもそも強烈な打撃や関節技ぐらいしか有効な手はない。

女性陣の徒手空拳の実力はモモ先輩以外、明確には分かっていない。

もしかしたら徒手空拳ならば大和の次に強いぐらいじゃないか?

 

「で、種は切れたか?、お終いか?」

 

ゆらりと相手に近づいていく。

間合いはもう近い、制空権まであと二歩。

 

「ぐっ!!」

 

拳が顔面へ向かってくるのを避けて、残り一歩。

やけくそ気味の一撃に内心溜息をつきながら呼吸で気を練り、一撃を叩き込む準備をする。

次は腹めがけての蹴り。

金的はあからさますぎて、審判の注意を受けるからしてこなかった。

だが、偶然を装う形でやればまだやりようはあったはずだ。

 

「その蹴りでは俺を飛ばす事も、倒す事もできないぞ」

 

蹴りを化勁で逸らしてついに制空権に椎名を入れる。

これで終わる、もうお前には何もさせない。

 

「はっ!!」

 

椎名が踏み込んで拳を放とうとするが、それよりも深く、速く踏み込んでいく。

引く事もできないタイミングで全力の『猛虎』を放つ。

その一撃は腹に当たり、白目をむいて椎名は座り込む。

勝負は一撃で着いた。

 

勝者の名乗りを受けて帰っていくが、今の勝ち方に闘志が燃えていたのか、去り際に一子とクリスお嬢様が視線を送っていた。

それ以外にもいくつかの視線はあった、敵意を持った視線や二人と同じように闘志を持ったもの。

それらを何とか無視して体育館を出ると、冷や汗が手に滲み出ていた。

まるで、隅々まで観察されたような、蛇に絡みつかれたような感覚が走る。

 

「やっぱり、俺と椎名の試合を観戦していたか……」

 

港が俺か椎名の対策の最後の調整のために試合を見たんだろう。

やはり情報を仕入れて入念な準備を怠らないあたり、厄介だ。

 

「明日はきっと今までのランキング戦で一番辛い戦いになる」

 

その気持ちは揺らぐ事はない。

同性の相手で今まで戦った相手で年上を除くといずれも格闘技の経験がない相手だった。

しかし、港は違う。

ガクトに決めた関節技から柔術、打撃からは空手の使い手という判断ができる。

しかしあの低空姿勢で足を取ろうとした動きから、レスリングの動きもできると読む。

 

「八極拳とレスリングの相性は悪いだろう…」

 

攻撃をする際に確実に震脚という足を上げる、予備動作がある。

その間、俺は片足になる。

つまりは、港が足を取って俺を転ばせる機会は常にあるのだ。

 

「しかし、今更別のやり方をやって勝てるほど甘い相手ではない」

 

つまりは、倒されてしまいかなりの痛手を負う事を承知した上で今までのスタイルを貫く。

 

「これに縋り付いてるが、これさえあれば戦える」

 

槍よりも信頼のおける己の最大の武器。

これで無理ならば、俺の力では叶わないという事だ。

これがあるから戦える。

貫き続ける事で負けるとしても、自分の中の『安いプライド』だ。

それがあれば、なんとでも戦える。

モモ先輩とだって、ヒューム・ヘルシングとだって。

 

「あいつを倒したければ、飛び込む瞬間に制空権に入れる事が重要になる」

 

間合いを潰されて、転がされるよりも速く相手を自分の間合いへ捉えて一撃を叩き込む。

それが出来ればレスリングの動きを通用しないと判断して、空手や柔術に切り替えるはずだ。

そうなったらこっちはやりやすい。

仮にそれでも変えないようなら、何度もその動きを繰り返す。

相手より速く、深く踏み込んでいく。

 

「って、結局やる事は変わらないわけだ」

 

結局は自分の武術を骨子として、それをもとに相手に一撃を叩きこむプランを考える。

相手の動きに気を付けていくだけだ。

 

「どんな策が来るかは知らないが、警戒は怠らない」

 

まだ誰にも見せていない技の一つぐらいはあるだろう。

それでなくてもガクトの腕を一度折ろうとしたあの姿勢。

どちらかと言えば一子や由紀江さんのようにまっとうな形ではない。

 

あずみさんや、俺やマルギッテさんのようになんだってするような相手だ。

必要とあらば、凶器や色々な搦め手を使って何が何でも勝つというような執念や決意がある。

 

まあ、俺の場合はナイフと銃よりも一撃を叩きこんで気絶させる方が楽だからあまりしていなかった。

頸動脈を裂いていたり、場所問わず打ち抜くのはしていたが、急所をうまく貫くとか、動く的を的確に打ち抜くのは難しい。

 

「しかしそれらの凶器は今回使用できないから、頭脳での方法が主な形になるだろう」

 

リング内だけではなく、盤外戦術などを仕掛けて揺さぶってくるはずだ。

こちらを飲み込むように、自分のペースへ引きずり込んでくるだろう。

それが一番懸念しなければならない部分だ。

相手が未知数なのに、自分の実力を存分に発揮できなければそれだけで負けに近づくのだから。

 

「俺の弱点が港に露呈しているのであれば、慎重に戦わないといけないな」

 

明日の戦いが今まで以上の激戦であり、楽しみになる予感を感じているのだった。


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