蒼穹の銀翼   作:ミヤモゾン34239

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(._. )( ・_・)(・_・ )( ・_・)なにか書こうと思ったけど話すことねぇべ。


第二章 ロングランス部隊

第二章 航空遠征打撃群設立

 ジリリリリリリリン、新しく綺麗な部屋にマッチしていない古風なデザインの黒電話のベルが鳴る。これだけは昔から好んで愛用している。

「はい、八丈島基地司令の城戸です。」

『…』

「はい、やはり引き抜きですか、志願者を48時間以内に米海兵隊太平洋基地…つまり岩国へ…わかりました、伝えておきます。」

 ため息をつきながら黒電話の受話器を置き内線電話の受話器を取る。

「もしもし城戸だ、4人を呼び出してくれ…え?2機上がってる?新しく入ってきた2人…そうか、帰ってきてからでいいよ。」

 また受話器を置き、ソファに座り込む。

「こんな悪天候なのによく飛ぶなぁ。」

 窓の外はグレーに染まっている。目の前に広がる西山すら見えない程の濃霧だ。

「大反攻作戦なんて、上手くいくのかねぇ。」

 テーブルの上に無造作に投げ出された書類には『航空遠征打撃群』の文字があった。

『オーケー!君は丸見えだ明、覚悟してくれ!』

「マジかよ、こっちは何も見えねぇよ!」

 霧に包まれる機体、真っ白な世界にエンジン音だけが響き渡る。そこにもうひとつのエンジン音、後方からだ。水滴の付いた風防の後ろを見渡す。霧の奥深く、霞んだ真緑の機体が見える。

「来たな。」

 機体を右へ左へジグザグに飛行させ相手の照準に捉えさせないようにする。しかし向こうも離れまいと着いてくる。息がかかりそうなほどの距離でいたちごっこを続けるがそれが狙いだ。スロットルを絞り、フラップを展開し反転降下する。ルーは急な動きに対応できず前に押し出された、すかさずスロットルを戻し追いかける、攻守逆転だ、速度性能では勝っているので余程やらかさない限り負けることは無いだろう。相手の動きを全てコピーするように追従する。常に上下左右へ変化するGに耐えながら追いかけ続けているとついにルーの機体を照準器の中に収めることが出来た。

「勝った!」

 そう確信した時、目の前の機体が突如上に跳ね上がる、宙返りだった。目で追いながら操縦桿をめいいっぱい引き自分も宙返りで追いかける。宙返りが終わっても状況は変わらない…はずだった。しかし状況は全く変わってしまった。宙返りが終わり水平飛行に移った時、ルーの機体は目の前から消えていた。上下左右どこを見渡しても見えない。まさかと思い後ろを見る、嫌な予感は的中だった。自分の真後ろ、自機の尾翼と相手機のプロペラがぶつかりそうなほどピッタリと後ろにルーが付いている。

「まじか、負けたよ、まさか左捻り込みを覚えるなんてな。」

 スピットファイアの風防を開け手を振りながら無線を起動する。するとルーの乗った零戦は自分の真横に付けて同じように手を振った。

『一か八かでやってみたらほんとにできてしまったよ、それに綺麗に決まってしまった。でも明が強引に押し出してきた時は正直負けたかと思ったさ。』

 どうやらぶっつけ本番で日本海軍伝説の技である左捻り込みを使ったらしい。左捻り込みとは宙返りの頂点から少しだけ左に旋回することで通常の宙返りよりも速く小さく回ることが出来る技なのだが高難易度が故に出来る人間は少ないとされている。

「もうちょいスピーディに出来たらそのまま勝てたかもしれねぇと考えると悔しいな。」

『どうだった?そいつ(スピットファイア)は?』

 ルーは楽しそうに愛機の感想を聞いてくる

「贅沢に出来たいい飛行機だ。良く曲がるし速い。パワーがあるから強引に旋回戦に持ち込めるのが使いやすい。」

『零戦とどっちがいい?』

「俺が零戦に乗ればスピットファイアなんかには負けねぇよ。」

『言ってくれるな、零戦も凄く良い機だ、怖いほど曲がる、だからあんな芸当ができたんだが。』

「今度良かったら教えてくれよ。」

『構わない、明ならすぐ覚えるだろう。』

 2人で楽しくなっている所で管制塔から無線が入る。

『上空の2機、すぐに帰ってくるんだ、司令部から直々に命令が入った。』

「了解した、直ちに帰投する。」

 そう言って無線を切る。

「…勝手に出てったから叱られるかと思った。」

『同感だ、だが司令部からの直々って何なんだろうな。』

「帰ればわかるさ。」

 高度を落としながら帰路に着く、霧は少しづつ晴れて光が差し込んでいた。

 機体をハンガーに押し込んだ後司令の元へ駆ける。

「高飛 明、参上しました。」

「ルー・フィン、参上しました。」

 呼び出された執務室に入り敬礼をする。

「おお、来たか。あんな濃霧なのによく飛ぶ気になったな。」

 頭を掻きながらボソボソと喋る司令はいつもよりも元気がない。

 ソファには既に明日子と里緒が座っている。

「座ってくれ、でもあまり時間が無いのですぐに本題に入る。」

「はい…」

 何を言われるのか分からず少しうろたえながらもソファに座り腰を落ち着かせる。

「はぁ…」

 司令がa4サイズの封筒を取り出してため息をつく、余程嫌なことを話すのだろうか。

「…君たちに新しい任務が下った。」

「マジか…」

 ソファに座って足を組んでいる里緒が驚いた顔をしてもたれていた体を起こす。

「あぁ、長距離強襲打撃群、通称ロングランス部隊に入ってもらうことになった。これは米空母2隻によるレジスタンス6個飛行隊の72機と日独米英軍のジェット戦闘機部隊72機を運用して各戦線を点々とし各地での戦局打開を狙う。もちろんレジスタンスの中でもエースが選ばれるのだが…君たち全員採用という訳らしい。」

 司令は資料をテーブルに投げ捨て文字通りお手上げだと言って両手を広げた。

「一度出撃したらずっと海の上か補給基地の小島とかだろうな。それに連戦が続く、常に戦火に身を晒し続ける危険な任務だ。強制はしないそうだが時間が無い、今この場で決めてくれ。」

「…」

 今までとは違う危険な任務、その事実に全員が沈黙した。

「俺は行くぞ、俺の家族なんて今となっちゃ誰も居ない、失うものなんてねぇし俺を失って悲しむ人間も居ない。だったら最後の最後まで人類に尽くしてやる。」

 覚悟の決まった目つきで司令を見つめながら話す。

「…明が行くというのなら私も行こう。腐ってもレジスタンスの中で最優のパイロットなんだ、それに…」

 ルーが立ち上がり司令の方を見つめる。

「それに?」

 里緒が不思議そうに聞くと、

「明の死んでも構わないというスタンスが気に食わない。」

「はい?」

 理解が追いつかないがルーはソファに前かがみに座ってこちらを睨みながら続ける。

「自分が死んでも悲しむ人間が居ないだって?だからいつ死んでも構わないと?」

「あ…うん、はい。」

 ルーの希薄に少し押されうろたえている。

「そんな理由で明みたいな人が死んではダメだ!」

 ルーの気迫は本物でこちらを怒鳴ってくる。

「い、いやまだ確実に死ぬと決まったわけじゃ。」

「いや、そういう考えのある人間はいつか確実に死ぬ、ある程度の所での死に場所を探しているからだ。この際だからはっきり言おう、私は明に死んで欲しくない、出会って日も浅いが優秀な仲間として誇りに思っている、今後も明と一緒に空を飛びたい。だから私は明が死なないようにするために着いていく。」

「…そこまで考えたのか。」

「当たり前だ、明とならやっていけそうだとやっと見つけたんだからな。だから私の傍に居てくれ。というか傍に置いておいてくれ。」

 少し口角を上げてニヤリとこちらを見下ろしながら言い放った一言はある意味とんでもない優しさのような重い愛のような物だった。

 重い腰を上げて立ち上がるそして今までにない優しい眼差しをルーに向けた。

「わかったよルー、俺を…死にたがりの俺を助けてくれ、俺も…お前を離さないから。」

 こんな気障ったらしいセリフを吐く日が来るとは思わなかった。でも自分とルーの間が何か固い物で結ばれたような実感がある。

 足を組んで2人を眺めていた里緒は思う。

(すげぇなこいつら、互いにとんでもない方法で告白して愛し合ってるのに、多分無自覚だぞ…だがお互いにこれは恋とか愛じゃねぇと思ってやがる…でもちょっと面白そうだな。あ〜良いもん見れたわ、眼福 眼福。)

「よし、俺も行こう。そもそもとして奴らに復讐するために訓練受けて、実戦経験も重ねてここまで来た、きっとその力を発揮するべきなのは今なんだ。」

 なるほどなと言って司令は頷いた。

「いいだろう、教え子が手元を離れるのは寂しいが行ってこい。」

「ゑ?」

 意外なことに明日子を含めた三人が目を点にしている。

「どういうこと?」

「あぁ、そういや言ってなかったな。こいつは俺が訓練生時代の教官なんだ。」

 まさかの事実を聞いて一番驚きを隠せないでいるのは明日子だった。口をポカンと開けて呆然としている様子だ。

「こいつって言うなよ。」

「いいだろ別に」

「面白い事聞けちゃったなぁ〜」

 明日子が嬉しそうに呟いた。

「それで最後は明日子だ…強制はしない、行かなくてもいいんだぞ。」

「いやぁ、ここで行かないって言えないよ。それに…」

「それに?」

 明が聞き返す。

「私がいないと里緒はダメだからねぇ〜」

「お前な…」

「だって毎朝里緒を起こしてるのも私だし、私は凄腕指揮官としての里緒を守るのが仕事だからね〜、それに里緒の下で戦ってる時が一番楽しいもん。」

「ふふっ、そこまで言ってくれるのか、光栄だな。」

 少し口角を上げて里緒が微笑む。

「若いなぁお前ら…よし、行ってこい!世界救って、全員生きて帰れ!これは命令だ!」

 司令は4人に喝を入れて送り出す事を決意してくれたらしい。

「よし、そうと決まったら早速荷物をまとめてくれ。」

「え?」

 いくらなんでも速すぎる。時間が無いと言っていたがこれ程だとは思わなかった。

「48時間以内にお前らを岩国基地へ連れていかんとならんのでな、本当に時間が無いんだ。」

「まじか…」

「空で遊んでる場合じゃなかったな。」

 司令の執務室を飛び出して各々自分の部屋へ向かう。

と言っても持っていく物は対してない、数着の私服と少ない現金、友人から貰ったトランプとコインくらいなものだ。

 まとめると小さなバックパックひとつに収まってしまう。だが今はこれでいい、これから持ちきれない程の物を抱えることになるだろうから。

 短い付き合いだった部屋を後にする、兵舎の入口で3人が待っていた。

「揃ったな。岩国基地までは700キロだ、だいたい2時間、武器弾薬は満載して行く。空母への搭載作業は到着した機から行うらしいから早い者勝ちだ、なるべく早く行こう。」

 手元の端末を確認しながら里緒が歩き出す。ハンガーに到着するまでは今後どんなパイロットと出会えるのか、空母でどんな生活を送るのかと言った希望について語り合っているとあっという間にハンガーの目の前にたどり着いた。

 ハンガーには完璧な状態に整備された機体が4機並んでいた。

「早朝に飛んでから数時間も経っていないのにすごく綺麗だ…驚くなこれは。」

 排気の汚れも綺麗に落としてある、エンジンの快音から完璧な整備具合がわかる、以前のような破裂音は全く聞こえない。

「短い間でしたがありがとうございました、今までで最高のコンディションに仕上がってますよ。」

 整備兵に一礼して機体に乗り込む。右側の3機の方を眺めるが3人がどのような形でお別れを言っているのかは分からない。

 そして出発の時が来た、誘導路から滑走路に移動し機体が並んだ時、兵舎の屋上を埋め尽くす程の人影が見えた。皆帽子を手に持って振っている。

『皆さん、ご武運を祈っています!』

 エンジン音を突き抜けてそう叫んだのが聞こえてきた、思わず4人も手を振り返す。

『蒼穹隊へ離陸の準備が整った、離陸を許可する。4人の空に幸運があらんことを、行ってらっしゃいませ。』

 管制官も無線で出発を称えてくれた、その事実に感動しながらもスロットルを押し込む、機体が加速しついに飛び上がった。揚力を受け止め、高度を上げていく。4機は上空で編隊を組むと数分間上空を飛び続け別れの挨拶を告げて西に向かった。

 時速400キロで北西に飛び続ける。和歌山県、徳島県、愛媛県を飛び越え穏やかな瀬戸内海を少し進んだその先に基地はあった。

「あれだ、米海兵隊岩国基地、空母航空団と飛行大隊が駐留してる。」

『あぁ、もう着陸の許可は貰ってるから燃料の少ない奴から降りろ。』

「すまない、私から降りさせてもらう、もう燃料が半分を切った。」

『了解』

 ルーのスピットファイアは航続距離が短く1400キロ程、片道700キロの飛行でもかなり厳しいというのが現状だった。

 その後も里緒の三式戦、明日子のコルセアの順で着陸、明が管制塔からの誘導を待っていると突如基地に空襲警報が鳴り響いた。上空500mだがかすかにサイレンの音色が聞こえ、上空を見渡す。すると燦々と輝く太陽の中に黒い点が見えた。太陽を背にまっすぐ降りてくる、急降下爆撃機だ。形からしておそらくヘルダイバーだろう。

『上空の零戦!奴を撃ち落としてくれ!このタイミングで基地に被害が出たら取り返しがつかない。』

確かに今は格納庫にも駐機場周辺にもかなりの機体が並んでおり少しでも被弾したら引火、誘爆を引き起こしかねない。

「了解した。」

 スロットルを全開にし降下してくるヘルダイバーに対して真正面から立ち向かう。撃墜のチャンスは1度きり、この機会を逃せば爆撃を許してしまう。ヘッドオンの形になりヘルダイバーが20ミリ機関砲を撃ってくるが放たれた弾は零戦の上側を掠め、もろに食らうことは無かった。

 すぐに離脱できるように機体を逆さにしてから13ミリと20ミリを撃ち込む。すると敵機はエンジンから黒煙を吹き、右翼からは火を噴いた。衝突する寸前に操縦桿を思いっきり引き落ちてくるヘルダイバーを回避する。しかしヘルダイバー姿勢を崩しながらも強引に爆弾を投下するだがその爆弾は何も無い滑走路横の草原に落ちた、ヘルダイバーは引き起こした後空中分解しながら錦川へ墜落した。

その一部始終を地上から眺めていた米海兵隊の兵士やパイロットから歓声が上がる。

「零戦でヘッドオンして勝ちやがった!」

 空戦よりも実弾を使ったエアショーといった方が良いようなアクロバティックな撃墜を見て里緒も驚きを隠せずにいた。

「危なかった…」

 冷や汗を拭い安堵する。

『こちら管制塔、感謝します名も知らぬパイロット。交代でレーダー装備のEA-18Gをあげるのでそれまで待機していてくれ。』

「了解。」

『心から感謝する、帰投後出頭し報告されたし。』

 管制塔からの無線を切ったところで新たな無線が入る。ルーからだった。

『ナイスキル、それと怪我はないか?』

「うん、俺も機体もなんともないよ、心配させたね。あんなこと言ったのにすぐこれだよ。」

 5分後、交代の電子戦機と入れ替わりですぐに着陸した。

「は〜、まだ心臓バクバクだわ。」

 ぶつくさと独り言を言いながら機体を止める、そして整備兵に引渡す。この後はどうやら着艦フックの取り付けを行うそうだ。

機体を降りて周囲を見渡した時、やっとこの異常な光景に気がついた。

「すげぇなこれ。」

 格納庫も駐機場も最新のジェット戦闘機から第二次大戦機まで多種多様な機体で埋め尽くされている。そんな中さらに機体が着陸しようとしていた。

「なんか懐かしいな…これは。」

 デビスモンサン飛行場、通称飛行機の墓場の出身である明は大量かつ多種多様な航空機を見て感傷に浸っていた。

「3人はどこ行ったんだ?」

 もう一度辺りを見回すが3人は見当たらない。

「先に報告してから探せばいいか…」

 命令通り司令部に出頭し報告を済ませる。

「敵ヘルダイバー爆撃機の奇襲を迎撃するために管制塔からの指示で交戦しました。」

「なるほど、レーダーでは確認していたのだが完全に偵察だと思い込んでいた、本当に助かったよ。もう下がってくれて構わない。」

「失礼しました。」

 軽く頭を下げてから部屋を出る。

「なんか懐かしい顔に似てると思ったら明ご本人じゃねぇか。」

 聞き慣れた声が廊下に響く。声の方向を見るとやたらと強面でガタイが良く、白人だが黒色のロン毛をオールバックでまとめている男が飛行服を着てこちらに向かってきていた。

「うおっ、ローマンじゃねぇか!いつぶりだ?デビスモンサン出た以来だから3年振りくらいか?」

 思わず駆け寄って名前を呼ぶ。

 彼はの名はローマンレイクス、兄のような存在で親父に続いて多くの事を教えられた。モスボールの旧型機で空戦を習ったこともあった。

「生きてて嬉しいぜ、手紙もねぇからくたばったかと勘違いしそうだったぞ。」

 ハグを交わすアメリカンな方法で互いの生存を喜んだ。

「ここにいるってことは航空遠征打撃郡に参加するのか?」

「そうだ、各国からエースが集まってる、それでもちろん俺にも招待状が来たってわけだ。」

 ドヤ顔を決めながら自分がエースであると語る。確かに空戦でローマンの後ろを取れたことは片手で数えられる程しかない。

「やっぱりF14で飛ぶのか?」

「あたりめぇだ、今更ほかの機体に乗れって言われても乗らねぇよ。」

「相変わらずこだわりが強いな。」

「褒め言葉として受け取っておくぜ、しかし3年経ってまた再開するとはな…そういや彼女出来たか?」

「いいや、そんな余裕なかったよ。」

 首を横に振りながら答える。

「お前はナイスガイなんだからもったいねぇよ、早くいい女探すんだな。」

 ローマンがでかい体で明の肩を抱きながら言った。

「俺だって頑張って探すから。あ、そういえば。」

 3人のことを聞いてみようと思い、対して無い語彙力で容姿を説明する。

「ん、どうした?」

「えーと、金髪をポニテでまとめてる女と、黒髪のウルフカットの女と飛行服の上から革ジャン着てた女の3人組見なかったか?」

 それを聞いた瞬間ローマンがにやける。

「…なんだよてめぇ、いっぺんに3人も狙ってやがったのか…」

 冗談半分とはいえ容赦なく後ろから首を絞められる。

「いててて、違う違う、同じ隊なだけだよ。」

「んだよ、それだけかよ。」

 締め上げていた腕をパッと離され、明は地面にへたり込む。

「あ〜久しぶりに死ぬかと思った。」

「まぁそいつらならレストランの近くで見たぜ。」 

「まじか、サンキュー。」

飛び起きて駆け出す。

「ケビンにもよろしく言っといてくれよ。」

「おう、良かったら今日の夜7時から海軍基地の方のレストランで会おうぜ。」

 廊下を飛び出して周囲の人間にレストランの場所を聞きながら向かう。

「あぁ、やっと見つけた…」

レストランの近くでレストラン前で3人を発見する。

「やっと見つけたぞ明、どこに居たんだ?」

ルーが駆け寄って来る。

「降りてすぐ司令部に報告に上がってた。機体ごと居なくなるからちょっと焦ったよ。」

「こっちは降りてすぐ機体を格納庫に入れろと言われてな、それで上空からは見えなかったってことだ。」

 里緒がご丁寧に説明をしてくれる。

「それにしてもすごい暴れっぷりでしたね。急降下爆撃機相手に真正面から向かうなんて中々出来ることじゃないですよ。」

 今度は明日子が称賛の声をくれる。

「あと、明日の10時に作戦参加の将兵が全員集まって大規模なブリーフィングを行うそうで、それまで好きにしていていいとの事です。機密のため基地内だけですけどね。二人一部屋ですけどちゃんと部屋もあてがわれました。」

と言って鍵を2つ見せつけてそのうちひとつを明に手渡す。

「なるほどねぇ」

「どうする?私たちはこの後基地内の映画館とデパートに行くが…」

 ルーが首を傾げて聞いてくる。

「うん、暇だし荷物持ちで良ければついて行くよ。」

 少し微笑みながら返答する。

 その後午後6時まで基地内の観光を堪能した後3人を宿泊先のホテルまで送り届けると…

「それじゃあ俺はちょっと用があるから行くね。」

 ルーに部屋の鍵を渡し足早に駆けていく。

「どこに行くんですか?」

 明日子が聞いてきたがドヤ顔でこう答える

「男の約束だよ。」

 言われた通り海軍基地のレストランに行くとそこはレストランというよりバーという方が近い様子になっていた。未成年の自分が入ってもいい物なのかと少し悩んだが酒を飲まなければいいと折り合いをつけ一歩踏み込む。中はDJのビートに合わせて踊る男女や酒に酔って叫んだり暴れたりしている人でごった返していた。そんな中ローマンの姿を探す。少し長い髪をオールバックにまとめているがたいのいい男、案の定すぐに見つかった。

壁際に置かれた3人がけのテーブルでもう1人の男とサイコロで遊んでいた。

「やっと見つけたなよ。」

「おっ、来たな。」

 後ろから声をかけるとローマンは振り返りニヤニヤしながら座るように促す。

「おっ、明じゃねぇか。何年ぶりだよこの野郎。」

 ローマンと向かって座っていたこの男はケビン・ミトニック、ローマンのF14の後席で火器管制装置やレーダーを見ている男だ、やたら注意力が高く空の上でも地上でも勘と注意力でローマンの相棒であり続けた男だ、そして明が幼少期の頃に良くしてくれた人物の一人である。

細身で少しほほがこけている黒人、髪型は短めのパンチパーマだ。

「まぁ座れよ、今道端で会った日本人のおっさんから聞いた新しいのをやってんだ。」

 木製の硬い椅子に座りケビンの話を聞く。

「丁半博打って言うんだ、サイコロを2つカゴの中でシャッフルして出目の合計が偶数か奇数か賭ける、簡単だろ。」

「なるほどな」

「シンプルだがそれが故に面白い。まぁ百聞は一見にしかず、100回の教練より1回の実戦だ、やろうぜ。」

 ケビンは2つのサイコロを小さなカゴに投げ込み、テーブルの上でカゴは伏せたまま手前と向こう側に押し引き三回繰り返す、これでシャッフルしているらしい。

「さぁ、丁か半か!」

 そう言われてもはっきり言って賭けなので分からない、なので己の勝負勘に従う。

「丁だな。」

「半だ。」

 ローマンが腕を組み背もたれに身を預けながら言い張る。

「俺も半だな。」

 ケビンもニヤニヤしながら『半』を選ぶ、チップは無いので各々現金を5ドルずつ賭ける。

「よし、勝負!」

 そう宣言してカゴを上げる。出目は5と3の合計8なので丁だった。

「5と3の『丁』だ!」

「まじかよ、お前の勝負勘も結構良いじゃねぇか。」

 ケビンが悔しそうに15ドルを手渡してくる。

「今日の運は昼間の迎撃の時に使い切ったと思ったんだけどな、まだ残ってたらしい。」

 気づいたら周りには人集りができておりどうやら緊迫した賭けを眺めていたらしい。

「良かったら俺も参加させてくれないか?」

人集りの中、一人手を挙げた男が居た。

「いいぜ、ちゃんと賭け金持ってき…」

 ケビンとローマンが手を挙げた男の顔を見て絶句したので、明も振り向いて顔を確認する。その男はこんなパーティ会場でも気を抜いていないのか飛行服を着用していた。

「キャメロン少佐!?」

その場にいた全員が思ってもいなかった人物の登場に驚きを隠せなかった。

彼は航空遠征打撃郡航空隊の隊長でありこの多国籍かつ多種多様な機体が揃っている隊をまとめあげる人物だ、何百という実戦を乗り越え、いくつもの部隊を率いた本物の英雄。

「今は少佐と呼ばなくていい、ただの仲間だと思っていてくれて構わない。」

「わかりましたっ!」

 空いている席から椅子を取って並べ、キャメロンがそこに座る。

「ルールはもう知っている、早速始めてくれ。」

「了解しました。」

 ケビンが待ってましたと言わんばかりにカゴにサイコロを投げ込み先程と同じように振る。

「君は確かレジスタンスのパイロットだったな。昼間上空で暴れていた…」

 キャメロンが明の方を見つめながら問う。

「はい。」

「よくあんな危険な飛び方ができるな。」

 しかめた顔でキャメロンは続ける。

「ヘルダイバーの正面武装は20ミリ機関砲二門、急降下中だったから速度は600キロ近く出ていただろう。それに対して不利な位置でなおかつ低速状態からのヘッドオン…お前自分の命が惜しくないのか?」

 ケビンもかご振りを止めて聞き入る。

「はっきり言って、今日から死にたくはないと思うようになりました。」

「今日から?」

「はい、生きる理由を見つけました、でもあの時は同時に基地に被害を出させないという戦う理由がありました。それが死にたくないという感情に勝っただけです。」

「…なるほどなよくわかった、だが今後俺の部下になってからはあんなことは絶対にさせん、何時いかなる時も隊の人間全員で対応し、全員で背負うそして全員の命を全員で守る。」

「…わかりました、貴方に従います、キャメロン少佐。」

 そう言って胸ポケットから取っておいた100ドル札を取り出し、丁半に賭ける。取り巻きのどよめきや囃し立てる声が聞こえる。

「ほぉ、面白いな。」

 キャメロンも同じように100ドルを賭ける。それに釣られる形でローマンとケビンも

「ここで乗らなきゃ男じゃねぇ。」

「同感だ。」

 ローマンは50ドル札を2枚、ケビンも100ドル札を賭ける。

「さぁ!丁か半か?」

 ケビンが威勢よく勝負開始を宣言する。

「丁だ!」

 酒が回っているのかローマンが大声で宣言する。

「半かな。」

 明は何の根拠も勘もなく適当にそう呟いた。

「半だ。」

 キャメロンは腕を組み静かに唱える

「じゃあ俺は丁だ。」

 ケビンがいつも通りニヤニヤしながら最後に宣言する。

「よし!勝負!」

 そう宣言してカゴを上げる。中のサイコロは4と3を示していた。

「どうやらまだ運が強いらしいな…」

 キャメロンが明の方を見ずにそう口にした。

「多分悪運ですよ。」

 深く考えずにそうぼそっと言葉を発した。

「なんか奢ってやる、ノンアルで良ければな。」

「じゃサラトガ・クーラーで。」

 これはノンアルコールカクテルで、酒の飲めない親父がよく飲んでいた物だ。ライムジュースとジンジャエールを混ぜたフレッシュなカクテルだ。

 その後2時間ほど日常生活や思い出話に花を咲かせ夜9時頃になると疲労を理由にホテルへ帰った、だがこのバーは夜が開けるまで全員で飲んで騒いでするのだろう。

広い道路をひとりゆっくり歩いてホテルへ向かう。チェックインを済ませてバーにいる時にメールで送られた番号の部屋に向かう。ドアをノックしても反応はなく、意外なことに鍵すらかけられていなかった。ゆっくりドアを開けながらルーに忠告をする。

「さすがに鍵をかけることをおすすめするぞ、アメリカは治安悪いからな、ここも米軍基地なんだから実質アメリカみたいなもんだし例外じゃないぞ…あれ?」

 部屋を見回してもルーの姿は無い。

「尚更鍵かけろよなぁ。」

 運び入れてもらった荷物から就寝用のTシャツを取り出しベットの上で着替えようと着ているシャツを脱いだ時ドアが軋みながら開く音がした。

「ぇ?」

ー・ー・ー

 私はホテル内の売店で飲み物を買って部屋に帰ろうとしていた。自室の114号室のドアには鍵がかかっておらず、戸締りを忘れていた事を悔やみながら部屋に入った。

「あ」

 いつもの自分からは想像がつかない気の抜けた声が出る。

 そこには着替えるために上裸になった明がベットに座っていた。しかし体は縫合痕、切り傷や火傷の痕が全身に刻まれていた。よく見ると腕や足には射創も生々しく残っていた、でもその姿に少し自分の心拍数が上がるのがわかった。でも多分自分が異常なのだろう。

「ごめんごめん、すぐ着るよ。」

 明は適当に笑いながらTシャツを着る。

「てっきりしばらく帰ってこないと思ってたんだ。油断してたよ。」

 Tシャツを着ていても両腕の傷跡は隠せていない。

「いや、無警戒に部屋に入った私が悪かったよ。」

 ほぼ無意識で明が座っているのと同じベットに座る。でも少しだけ間を開けていた。

「「・・・」」

 互いに気まずくなったのか5秒程沈黙が流れる。

「やっぱ気になるよな。」

「いや、まぁそれなりに。」

「色々喧嘩とか、事故とかマフィアに捕まったりもした時の傷もあるかなぁ。」

 明が頑張って場を和まそうと話しているのに内容が頭に入らない。あぁ、何故私はこんなに顔が熱いのだろう、きっと赤面しているのだろう、それに明の方を見ることが出来ない、ずっと目を逸らしてしまう。

「んどうかした?もしかして傷見るの嫌だったかな?」

「い、いや。」

 否定しようとするが全く声が出ない。

 明がTシャツの上からさっきまで来ていたシャツを着直す。

「顔赤いよ?熱でもあるのか?」

 私のことを心配して明が近づいてくる。

「い、いや違っ…」

 何を言おうとしても全く上手く喋れない、今までどうやってこの男と話していたのか分からない。そんなことを思ってる間にも明は平然とした表情で近づいて額に手を当てた。

「熱は無いんだよ。別に…」

 もう感情が爆発しそうで仕方がない。だがいっその事全て爆発させた方が楽なのかもしれない。どうするのが正解かはっきりは分からないが何をすれば自分が満足するかは予想が付いた。

「うん、そうかじゃあ何かあったのかな?一人にした方がいいかな?」

 配慮全開で語りかけてくるが私は聞く耳を持たない。完全ノープランで私は実行に移っていた。

「あっ」

 明の気の抜けた声が響くと同時に二人はベットの上に倒れていた。私は勢い任せで明に抱きつきその勢いでベットに倒れ込んだ。

「え?ごめんけどなんか悪いことしたかな。」

 抱き合っていて顔は見えないが声色からかなり困惑しているのがわかる。この状態でずっと思っていた事を打ち明ける。

「好きだった…」

「!?」

「初めて会った時から、あの八丈島に降りて握手をした時から。」

「そっか…俺は一番最初、並んで飛んだ時ゴーグルとキャノピー越しにルーを見た時から好きだったよ。」

 意外な回答が返ってきたので少し驚いてしまった。

「だから今朝、ずっと一緒に居てくれるって言ってくれた時も今こうやって告白してくれたことも嬉しいよ。」

 その言葉を聞いたら嬉しさからか何故か涙が零れた。

「ふふっ、嬉しいなそう言ってくれて。」

ー・ー・ー

 その日見たルーは今までとは全くの別人だった。そこに居たのは強くまっすぐなエースパイロットとしての姿ではなく一人の恋する乙女としての姿だった。

 傷だらけの両腕と咄嗟に着たシワだらけのシャツでルーをそっと抱いている、それが今までの人生で一番充実して幸せなのだと分かる。

「…これは何がなんでも死ねないなぁ。」

 冗談半分にそんなことを口にしてみる。

「ずっとその気持ちでいて欲しいな。」

 ルーがだんだん正気に戻ったのか少し落ち着いてくる。

「ありがとう、私の気持ちを受け止めてくれて。」

「落ち着たかな?」

「うん、急に押し倒したりしてすまなかった。」

 ルーは体を起こそうとするが俺はホールドした腕を解く気は無い。

「いや、も、う大丈夫だ…」

「やだ、まだ離したくない。こんな可愛い物手放してたまりますか。」

 向こうが先に仕掛けてきたのだ、このまま大人しくやられっぱなしになる訳には行かない。

「…朝までこれでも構わないぞ。」

 少し嬉しそうに声を出してまたルーが体を預けてくる。こうしてゼロ距離で密着しているとルーがすごくスタイル抜群だったことがよく分かる。腰は細く、片手で抱き込める、倒された時に触れた足と腕は鍛えているのか柔らかいが筋肉が付いている。そして何よりも気になって仕方ないのはさっきからずっと押し付けてきている豊満な胸部だ。今までは飛行服で厚着していたので気づかなかったが彼女はかなり着痩せしていたらしい。今は薄いサラッとした寝間着だけなので大きさと柔らかさがダイレクトに伝わるので良く言えばすごくありがたいのだが正直すごく対応に困る、どう受け入れれば良いのか分からない。

「すごく可愛い…」

 ぽつりと言葉が漏れてしまったがルーからの反応はない?

「ん?寝たのかな。」

 起こさないようにゆっくり腕をのばし部屋の電気を消す。少しだけ抱きしめておきたいだけだったのに結局はそのまま寝てしまうことになった。少し頭を撫でてから自分も目を瞑る。少し苦しいが問題なく眠りにつく。

 その頃隣室にて

 里緒はベッドには入ったが全く眠れずにいた。

(あいつら同じ部屋か、なんか発展してねぇかなぁ、一緒に寝てたりしてたら実に面白い。あ〜考えるだけで面白い。)

 ブランケットを被り直し、妄想に終止符を打ち目を瞑った。 

 そのまま何事もなく朝を迎えた…と思っていた。カーテンの隙間から光が差しているのに気が付き目が覚める。ルーは昨夜と変わらない形で寝ている、塞がっていない左手でスマホを取り時間を確認して驚愕した。時刻は午前10時7分を示していた。普段ならこれくらい驚かないが今日は違う午前10時からこの航空遠征打撃群に関する大規模なブリーフィングが行われているからだ。

「は?」

 まだすやすやと眠っているルーを揺さぶり起こす。

「ルー、起きて!大遅刻だぞ!?」

「んん?」

 ルーがゆっくりと体を起こす。

「今10時8分になったぞ、もっかい言うが大遅刻だ。」

「・・・あ!」

 昨夜のラブストーリーの余韻に浸る暇もなく飛び起きて着替えを済ませ部屋を飛び出す。

「いやもう始まってるぞこれ!」

「ふたりが心配してるだろうな。」

 大規模ブリーフィングの会場までは700m、その間休まずに死ぬ気で走り続ける。

「明!」

 ルーが走りながら声をかけてくる。

「ん?」

「昨夜の言葉、嬉しかったよ本当にありがとう。」

いきなりそんな事を言われて走っていた足の力が抜けそうになる。

「いや、俺もすごく嬉しかった、勇気を出して告白してくれてありがとう。でも今は急ごうか。」

「うん!」

 基地の司令部施設の中にある劇場のような場所に作戦に参加するパイロットが集まり粛々とした雰囲気で今回の作戦の総指揮を受け取ったカール・クレメンス中将の演説を聞いていた。

「どのタイミングで入るべきか。」

 ドアの隙間から中の様子を確認しながら小声で話し合う。

「どうせ演説なんかに戦略的に重要な価値は対してない。演説終わりの拍手の雑音に紛れてそっと入ろう。」

「全く同意見だ。」

 小中学生が校長先生の話をまともに聞かないように明もルーもこの類の話を聞くのはあまり好きではないらしい。その後思惑通り演説が終わり拍手の音で会場が埋め尽くされる。

「今だ!後ろの方にコソッと座るぞ。」

 ルーに小声で耳打ちしてから人が少ない後ろの方の席に着く。しかし席に着こうとした時明がステージの方を見ると…

(あっ)

 ステージを降りようとしていた中将と目が合った。

「多分バレた。」

「…まぁ遅刻くらい多めに見てくれるだろ。」

 ルーもだいぶいい加減だった、そっと座席に着くと今後の大まかな予定、戦闘の構想の発表に移った。既視感のある人物が資料を持って登壇する。

「あ、昨夜の人だ。」

「昨夜の人?」

 ルーが聞き返す。

「うん、昨夜仲良くなった。」

 マイクを構えキャメロンが話し始める。

『私は航空遠征打撃郡隊長のキャメロン・ビッカースだ、今後は私が説明を務めさせてもらう。』

 そう言ってプロジェクターを起動し世界地図を写した。

『現在人類が『星の官軍』相手に抱えている戦線は3つだ。ノバヤ・ゼムリャ島に大規模基地を構えている敵と日夜戦略爆撃機を送り合い続けているロシア、北欧戦線。

 極寒の猛吹雪と強力な防空陣地と防空戦闘機により幾度となくNATO連合の攻撃を跳ね除けたアラスカ北部基地。

 そして最後がマダガスカル戦線、ここでは日々大規模な制空戦闘が続けられており我が軍が僅かに劣勢に立たされている。我々はこの3つの戦線に急行しそれぞれを迅速に排除する。これが航空遠征打撃郡による反攻作戦の概要だ。まず最初にアラスカ戦線の打開に向かう。ここは大規模かつ現在が夏季であるため吹雪の影響を受けないが故に真っ先に攻略を行う。その後は各戦線の状況を見て順次決定する。』

「アラスカか!」

「前居たんだったな。」

「うん、かなりの数の爆撃機で攻めたけどそれでもダメだったのにどうするってんだ。」

 次に航空部隊の編成と配属の話に移った、どうやら空母二隻の内一隻に通常のジェット戦闘機の部隊。もう一方にレジスタンスのレシプロ機を詰め込むらしい。そしてレジスタンスを4機でひとつの小隊にまとめる、自分とルー達は元々同じ基地だったこともあり一小隊にまとめられた。

「午前中には横須賀を出航したジェラルド・R・フォードとロナルド・レーガンを中心とした空母部隊が沖合に到着する、指定された小隊から着艦、機体の収容が終わり次第日本とおさらばだ。時間は一刻を争う、着艦をミスしている場合じゃないぞ。…以上だ。」

 その時、会場内に重くゆっくりとした汽笛の音が飛び込んできた。大型の船舶の汽笛だ。どうやら我々を運ぶ艦隊が到着したらしい。

「どうやら、主賓がおいでなすったらしい、こんな説明会のためにお客様を待たせる訳には行かん、巻で話すからしっかりついてこいよ。」

 その後は艦隊編成や各指揮官の紹介があったがそんな事はどうでもよかったので…2人揃って居眠りをしていた。

 どうやら将兵に向けた質疑応答もあったらしい。

 その後終了後も離席せずに寝ていたところを叩き起され会場を追い出されホテルに戻りに荷物をまとめようとしていた。

「直接怒られた訳じゃなかったけどなんか圧が凄かったなぁ。」

「別に夜遅くまで起きていた訳でもなかったのだがな、今後はこういうことがないようにしないと。」

「まぁイロイロあったしあんま深く眠れてなかったんだよ。」

「…」

 昨夜のことに触れるとルーは黙り込む、どうやら彼女の中で完全に黒歴史と化したようだ。

「準備出来たか?」

「あぁ、万全だよ。」

 荷造りを完了し、たった一晩だがお世話になった部屋をを軽く綺麗にしてからドア前で待つルーの元へ向かう。

「よし、早く早速格納庫に行こうか!何しろ私たちが空母に降りるのは前から3番目だからな。」

 空母に四機小隊ずつ着艦、収容を行うのだが我々は3つ目の小隊らしい。

「え?初耳なんだが。」

 荷物をまとめて立ち上がりながら驚きを漏らす。

「まぁ大丈夫だろう、早く行こう!」

 忘れ物がないか確認して部屋の鍵をかけてからロビーに走る。鍵を返したらあとはもう格納庫に向かうだけ。ルーも自分も暑っ苦しい飛行服だが気にせず走る、荷物は2人ともあまり大きくないショルダーバッグひとつなので身軽だった。格納庫に着くと2人の機体は既にエンジンがかかっていた。

「もうエンジン回してるじゃねぇか!」

「いい音出してるな、それに尾翼の下辺りを見てみろ、着艦用のフックが取り付けられてる。他にも改造をしたかもしれんな。」

「多分機体強度向上、浮き袋の追加とかをしたんだと思うが、それで性能低下してないかが心配だな。」

 機体にを近くで眺めながら話し込む。

「その点も空母まで機体を持っていくまでにテストをしてくれとの事らしい。」

ルーが端末を確認して、教えてくれた。

「へぇ、それは楽しみだ。」

 思わず口角が上がる、機体が以前から少し変化しただけだと言うのに新しいおもちゃを手にした子供のように興味で頭を埋めつくされていた。明をその興奮から現実に引き戻すように二人の端末に呼び出し音が響く。

『空母への機体の収容は四機ずつ小隊規模で行う、蒼穹隊は3番目だ出撃準備し次の指示まで待機せよ。』

「了解」

「ラジャー」

 整備士から機体の説明を受けて乗り込み待機する。

『やっと来たか、遅かったな。』

 機体を滑走路手前まで動かすように指示があったので、従って誘導路へ進むと理緒と明日子が前に駐機していた。

「いや、寝坊してね。」

『…だからお前ら朝いくら連絡しても起きない挙句、遅れて会場に入ってさらに後半は寝てて話聞いてなかったろ!』

 少し考えた末に声を上げて理緒が怒る。

『バレてたのか…』

 ルーが小声で呟く。

『はぁ、でもまぁ2番目の部隊で着艦に失敗してドボンしたやつがいるらしいからな。回収作業のおかげでもう少し待ち時間があるらしい。』

「まぁたしかに、慣れてないと落ちるよなぁ。俺だって片手で数えれる程しかやったことないし。」

『経験があるんですか?』

 明日子が食いついて来た。

「うん、3回やったけど内1回は墜落しかけた。」

つまり今回の成功率は三分の二、だいたい66パーセントと言ったところだろうか。

『でも私は経験ないですから…』

『というか、三式戦闘機とスピットファイアに関しては着艦できるかどうか怪しいぞ、元々陸上機だからな。』

 里緒が気だるそうに不安要素を口にする。

『それは整備兵達が上手くやってくれているだろう。もしダメだったとしてもその時は私たちの操縦スキルでどうにか出来るかもしれないな。』

『簡単に言ってくれるぜ…』

 里緒が嫌味っぽく漏らす。

「ま、行けばわかるさ、今ここで気にしたってどうしようもない。」

 その後20分ほど蒸し暑い機内で待たされた後、やっと離陸の許可が降りた。

「これさ、空中待機じゃだめだったのかな?」

『思ってたけど口に出さないようにしてたんだけどそれ。』

 …里緒も同じことを思っていたらしい。

『蒼穹隊各機、機体を確認の後離陸せよ、離陸後は空母側の管制に移行する、君たちが着艦するのはロナルド・レーガン、コールサインはCVN-76だ。確認し復唱せよ。』

『こちら蒼穹隊隊長機、羽月里緒、離陸後は空母ロナルド・レーガン管制の元、着艦を行う。』

『よし、前の部隊のおかげで作業に遅れが出ている。各機手短に頼む。』

『羽月里緒、離陸する。』

 滑走路に並んだ四機の一番前、里緒の三式戦闘機が飛び立つ。

『二番機、三鷹明日子離陸します!』

 重々しい音を響かせてコルセアが離陸する。

『三番機ルー・M・フィン、テイクオフ。』

 次にスピットファイアがグリフォンエンジンの快音を奏ながら飛び立つ。

「四番機 高飛 明、テイクオフ。」

 離陸した四機は編隊を組み空母の上空に向かう。

「飛んでる感じ、重くなったとかそうう言うのはあんまり感じないな。ちょっと試して見てもいいか?」

『構わないけどぶつかるなよ。』

「ちょっと離れてやるから大丈夫だよ。」

 そう言って零戦は機首をぐんと上げ数百メートル上の雲の上へと消えた。

「…あんなジェット機みたいな機動…ほんとに零戦か?」

 それを見ていた里緒の口から驚きが漏れる。

「うーん。」

 バレルロールにインメルマンターン、左右へ全力で旋回してみたりとありとあらゆる機動を試してみる。

「…そんなに重くなってる感覚はないが…なんなら体感程度だけどパワーが上がってるような…最後に全力降下でもしてから帰るかね。」

 降下のため機体を上下反転させようとした時、後ろから一機近づいているのが見えた。

「ん?誰だ、空冷エンジンだから明日子かな?いや…」

 その機体は空冷エンジンによくある丸い機首をしていた。だがコルセアにしては羽の形も違うし胴体が細くスリムだ。

「んん〜?」

 だんだん近づいてくる機体を凝視する。機種を見分けたところで明の背中に悪寒が走った。

「あぁクソ!なんでここにいるんだよ!」

 怒りと呆れを言葉にして発散しながらすぐに反転降下で逃げの体制に移る。

 雲の中に隠れやり過ごす気は毛頭ない、真正面から受けて立ち実力で振り切る。

 相手の機種はフォッケウルフD-9通称ドーラ、最高速度と旋回性能に長けているドイツ最強クラスの機体だ、控えめに言って何をしても勝機は低い。

 雲を出て後方を確認した時、ドーラも同じ雲を突破、距離はさらに近づいていた。

「ヤバイヤバイ!」

 スロットルを全開にして機体を左右に振りながら逃げる。

「あれは確かロールは不得手だったな。だとしたら!」

 左右に全力で旋回してジグザグに飛行しドーラを前に押し出す。しかしドーラも同じように左右に旋回するので中々押し出せない。この繰り返しをシザースという。ロール性能の高い機体が得意とする機動だ。零戦五二型は翼端を切り詰められているためロール性能は旧型の二一型や二二型とは比べ物にならないほど向上している。しかしその分旋回性能が低下しているがそこはパイロットのスキルでカバーする。相手のドーラは翼が長くロール性能は低いはずだがこちらの軌道に難なく着いてくる。

「ほんとにしつこいなこいつ。」

 そう愚痴を漏らした時無線が繋がった。

『私を振り切るのにこんなに苦労するなんて腕が落ちたんじゃないの?』

「ほんとそうだ、自分が嫌いになっちまうよ。久しぶりだなアリス。」

『相当捜したんだから…絶対に逃がさないわ。』

 通信は切れ、同時にドーラの動きがさらに素早くなった。

「なんかさっきから爆音が増えたような気がしないか?」

『あぁ、後ろの雲の中だ。』

 ルーはここを飛んでいるスピットファイア、コルセア、飛燕の三機以外にも二つの爆音が聞こえる。

『耳がいいですね。一機は零戦の物でしょうけどもうひとつが何者なのか…』

『下手したらあいつが危ないんじゃないか?』

 助太刀に行くべきか悩んでいると二つの爆音はさらに近づいてきた。

「もうそろ出てくるぞ。」

 白い雲の中に黒い影が写ったと思った矢先、何かから逃げるように零戦が飛び出して来た。そしてその直後にもう一機、長鼻のフォッケウルフが飛び出してきた。零戦は三機を避けるために機体を滑らせながら真下を飛び抜け、その機動を寸分狂わずコピーするようにドーラが追従する。

「D型フォッケウルフ!?」

『よくあんな化け物から逃げ回れるな。でも敵ではなさそうだが。』

「…すまないが性能試験ついでに行ってくる。」

 ルーのスピットファイアが加速し編隊を離脱する。

『…まぁ好きにさせてやるか。』

 少し呆れているような声が無線に入るがルーには届いていない。

「クソッ、ほんとにしつこいな。」

 このドッグファイトが始まってから何度目か分からないセリフをこぼしながら後ろを見た時、ドーラの後ろにもうひとつの機影が見えた。それは最近やっと見慣れたスピットファイアだった。

「ルーか、助け舟だ!」

『何が起きてる?』

「鉢合わせしたよく分からんドーラに追われてるとしか。」

『なるほどな。』

『よく分からないとは失礼な!』

 アリスが二人の無線に口を挟む。

『ドーラのパイロット、誰だか知らんが私の恋人に手を出すとは度胸はあるようだな。』

「あっ、バッ、それを言うのか!」

 驚きで叫んだが闘争心むき出しになったルーには届いていないようだ。

『…へぇ、恋人なの…面白いわ、かかって来なさいな癇癪持ちさん。』

「…うわ」

 スピットファイアは英語で癇癪持ちという意味だがここまで明らかな挑発は久しぶりに見た。二機の間にとてつもなく黒い何かが見えた気がするのでそっと無線を切る。

『いいだろう、我が名はルー・M・フィン、騎士の末裔としてその決闘受けて立とう!』

『聞いた事あると思ったらイギリス出身のエース様じゃない、それ聞いて俄然やる気が出てきたわ。』

「とりあえずそっと見守るか、でもルーが負けたら嫌だしめんどくさい事になりそうだな…いや負けんだろ多分。」

 二つの機影が距離1000メートルから向かい合い衝突寸前で交差する。そのまま互いの後ろを取り合う巴戦(ドッグファイト)が始まった。相手の後ろに着くために同じ場所をずっとグルグルと回り続ける。すると旋回半径の小さい方が段々と相手の後ろを取る、そのために何十周もの間内蔵が押しつぶされそうなGに耐えなければならない。

 数十周程回ったところでじわりじわりとフォッケウルフがスピットファイアの後ろに付き始めた。

「まじか。」

 それを良しとしないらしいルーはすぐさまドッグファイトを止め機体を右へ左へ旋回させながら逃げる方法に変更した。それに大してアリスも負けじと食らいつく。

「…ヤベェなこれは。」

 傍観していた明にルーが負けるのではないかという感情が少し脳裏によぎる。

「そんなんじゃすぐにでも落としちゃうわよ。」

 アリスは逃げるスピットファイアを難なく追いかける。

(にしても、やたらフラフラ飛ぶじゃない、レジスタンスの中でもトップクラスのパイロットがこのレベルなわけが無い。あえて後ろにつかせてもらってるみたいで気持ちが悪い…)

 違和感を覚える自分を制しながらチェイスを続ける。

「もらった!」

 スピットファイアが一瞬で水平飛行に写ったのを見逃さずにサイトに収めようと機首を向ける。キル判定を叩き付けようとした時、スピットファイアは唐突に機首を引き上げ急上昇に移った。

「ん、何を見せてくれるのかしら?残念だけどいくらグリフォンエンジンでもこっちの方がパワー有利よ。」

 アリスもすぐさま機首を引き上げ追いかける。雲の中に入り視界が悪くなるがスピットファイアを目で追い続ける。雲を抜けるとスピットファイアはまだ正面に捉えていた。

「結局前後の位置は変わっていない、これで…YOU・k」

『全く、よく喋るな。』

「なっ!?」

 突然の返答に驚く、どうやら無線を切っていなかったらしい、今までの独り言を聞かれていことへの羞恥心で体が熱くなる。機体が不安定になったその瞬間、目の前を飛んでいたはずのスピットファイアが突如姿を消した。

「消えた…下か!」

 スピットファイアは失速による高度低下を利用してアリスの下方を通り後ろへ抜けていた。スピットファイア無駄のない動作で後ろに張り付く。

『敵機、機銃の射程内。YOU・KILL』

 そのkill判定の声に人間性は感じられず、人口音声のような無駄のなさ、戦場で戦う事の全てを理解している人間では無いと発することの出来ない重厚感がその声にはあった。

「くっ…」

 この女にはどう足掻いても勝てないそうはっきり理解させられた。

 その一部始終を観察していた明はルーの空戦機動に魅せられていた。

「まじ、空飛ぶ宝石かよ。」

 こんな優秀なパイロットはなかなかいない、そこに希少性を掛け合わせた結果こんな感想が生まれた。

『それじゃあ、そろそろ空母に行こうか。これ以上遅れたら何言われるか分からないぞ。』

「あ、うん。」

 横を緩やかに飛び抜けるスピットファイアに追従し、空母へ向かう。ちらりと後ろを見ると途方に暮れているのか放心しているのか分からない。さすがにこのまま放っておくのは後味が悪いのでせっかくぶちのめしてくれたルーには申し訳ないが少し救いの手を差し伸べる。

「とりあえず空母に降りようかアリス、岩国で招集かけられて来たんならフック着いてるだろ。」

『そうね、元々あなた達の前に降りる予定だったけど雲に隠れて明を狙ってたのよ。』

「あ〜うん、そうか。」

 仕方がないのでエスコートするが、三機編隊の先頭であるルーがさっきからやたら速度を上げたり下げたり、急に左右へ機体を振っている。おそらく自分がアリスへの慈悲を持ち出したことが不服でささやかな抗議なのだろう。

(多分この2人はしばらく仲悪いままになるかな。)

 艦隊はすぐに見えた。空母二隻を囲うように大小様々な艦船が展開している。

「ロナルド・レーガン、右側の空母だ。」

『私は降り方を知らないのだがどうすればいい?』

「速度を下ろしつつ甲板の後ろ側にまっすぐ飛んで着艦の寸前に機首を上げる。んでスロットルを全開にする。」

『スロットル?ブレーキじゃないのか。』

 確かにわざわざ速度を落としたのになぜスロットルを開ける必要があるのかと思うだろうがこれは着艦フックがワイヤーを捕まえなかった時、つまり失敗した時に失速せず即時離脱を可能にするための処置である。

「ワイヤーが引っかかったらスロットルを戻して停止、意外とシンプルなんだよ。」

『そう簡単にシンプルって言われてもな。』

 珍しくルーが飛行技術に関することで頭を悩ませる。

「まぁ百聞は一見にしかずってやつだよ、降りるから見てな。」

『それで事故ったら面白いわね。』

 アリスが嬉しそうに呟く。

「撃墜してやろうか?」

『フフッ、冗談よ。』

 そんな冗談に聞く耳を持たずさっさと空母の後ろから侵入し着艦の体制を整える。フラップを開き速度を落としつつ空母の甲板上へまっすぐアプローチする。空母に近づくに連れて視界は海から空へと移る。

「よし、ここからが本番だ。」

 この時の速度は失速寸前の130キロ前後だ。高度は下がっているが機首は上を向いている不思議な状態になるがこれが甲板のワイヤーを機体の着艦フックに引っ掛けるための最適な状態とされている。高度をさらに下げると甲板は完全に見えなくなるがアプローチは間違っていないはず。尾輪が着地した軽い衝撃の直後、急制動がかかり機体が停止する。

「よしっ!久々だが上手くいった。」

 スロットルを絞り切りガッツポーズする。整備兵が走って機体に近づいて来るとワイヤーの取り外しと機体の収容を行う。数分ほどして着艦用の甲板が空いた頃。

「よし、無線である程度指示を出すから二人も降りてくれ。」

『それじゃあ私から行こうか。』

 ルーのスピットファイアが降下してアプローチに入る。

「オーケーオーケー、そのまままっすぐアプローチして。」

『了解した。』

「着艦時の速度は160キロ前後で。」

『つまり失速寸前まで落とせと。』

「うん、理解が早くて助かる。」

 ルーはエースパイロットらしく淡々とコツを掴んで空母への侵入を行う。もうスピットファイアは甲板の目前に迫っている。

「着陸の瞬間、スロットルを全開にするんだ。そうしないと失敗した時に海にドボンするから。機体が完全に止まるまでスロットルは絞らない様に。」

『了解。』

 ルーは明からの指示を完璧にこなしバウンドさせず普通の陸上基地に着陸するかのように着艦した。

「完璧だな。油断も隙もないな。」

『そう言って貰えて光栄だよ。』

 先程と同じように整備兵がスピットファイアを回収する。

「さて、次はアリスだ。」

 ちょっとした不安を「まぁ大丈夫だろう」というなんの根拠もない考えで押し殺す。

「着艦に失敗してフックがワイヤーを捕えなかった時は『ボルター』って叫ぶからそん時はスロットル全開で離脱して再アプローチしてくれ。」

『ちょっと!その説明さっきはしてなかったじゃない!そいつは失敗しないけど私は失敗しそうだって言いたいの?』

 無線に高い声で怒りの抗議が届く。

「アハハ冗談だよ、ごめんごめん。」

『フンッ!一発で決めてやるわよ。』

「オーケーオーケー、それじゃあアプローチしてくれ。」

 フォッケウルフが主脚を出してアプローチする。

「いいね、進入コース適性、そのまま維持して。」

 珍しく集中しているのか返事が返ってこない。

「速度が速い、もう少し落としてから進入して。」

 フォッケウルフのフラップが開かれ、風の抵抗が増えて速度が落ちる。

「うん、そのままゆっくり降りて来て。ちょっと機首上げて。」

 フォッケウルフは甲板のかなり前方に降り立つ。ギリギリの所でフックが最後のワイヤーを捉え落下寸前で機体は停止した。

「あっぶねぇ。」

 流石に肝が冷えた。スリリングなものを見れたと面白がっていた整備兵から歓声と拍手が響いていた。

「もう少し高度が高ければ度を回復させる時間もなく落下してたな。」

「まぁ成功したから良しとしよう。」

「ちょっと!おかげで墜落しかけたじゃない!」

アリスがフォッケウルフから飛び降りて、こちらに向かっ向かって走りながら抗議する。

「あんたがチキって高度落としきらないのが悪い。」

口をとがらせて言い返すとアリスは、うっ…と言葉が詰まった。

「まぁ無事に降りれたからいいだろ。」

「まぁ…そうね、そういうことにしといてあげるわ。」

 飛行帽を取りながら上から目線にものを言う、既に飛行帽からはみ出ていた美しい白、髪が風になびく、金色の差し色がりよろろ入った瞳にすごくマッチしている。目で追うと、どうやら膝上程の高さまで伸ばしているようだ。

「すごい長い髪だな、綺麗に整えてある。」

 ルーが少し目を輝かせて見入っている。ルーはパイロットが故に邪魔にならないようにと髪を短くしているので長くする事には憧れのようなものがあるのかもしれない。りる

「えぇ、4年切らなかったらこうなったの、上手くまとめれば邪魔にもならないから飛行には支障はないわ。」

「あの〜、すいません!」

 士官と思しき人が近づいてくるが米空母に似つかわしくない海上自衛隊の正装をしていた。

「あれ、日本人?」

「はい、実を言うとこのロナルド・レーガン、乗組員の半数が今回特別に海上自衛隊から抜擢されています。」

「なるほど。言われてみればさっきの整備兵の中にも日本人が居たな。」

「はい。みな気合いは十分、何時でも万全な状態に機体を仕上げさせておきます。」

「それはありがたい。」

「…それと…お二人と聞いていたのですが。」

 どうやら彼は先に降りていた里緒と明日子から二人来ると聞いていたらしい。

「あ〜それはえーと。」

 アリスを道端で出会って連れてきたなんて言えるわけないので言い訳を必死に考えていると、アリスが一歩前に出た。

「本来なら前日の深夜に岩国へ到着する予定でしたが、機体のトラブルにより遅れが生じて先程岩国へ到着しました、それで先程そのままこの空母へ向かうように指示され、たまたま居合わせた蒼穹隊の誘導を受けてここへ到着しました。」

「なるほど、元々は単機だったのですね、では一時的に蒼穹隊の五番機として編成に組み込んでおきます。その後新しく決定した編成を知らせます。」

 士官はメモ取ると去っていった。

「上手いこと誤魔化したな。」

「ここに居れるならなんだっていいわ。」

 明から目を逸らし虚空を見つめながら呟く。

「そういえば紹介すらしてなかったな。彼女はアリス・耀子・バーノン、ドイツにいた頃に知り合ったんだけど、それからなんか追いかけられているというかなんというか…」

 アリスの方を指し示してルーに誤解を生まないように説明する。

「んで、名前は聞いただろうからいいか…この前同じ部隊の所属になってから仲良くなったルーだ。今は蒼穹隊の三番機と四番機だね。」

(絶対仲良くなったってだけの次元じゃないわよ。)

「なるほど、ヨウコか。いいライバルになれそうだな私たち。」

ルーがそっと手を差し伸べる。

「まぁね、次は勝つから。」

 そう言ってアリスはルーの手を強く握り返す、その顔はここで再開してから初めて笑っていた。二人が握手をする姿を見て自分も安堵し笑っていた。

 その後およそ半日を費やし全ての艦載機の収容が完了した。とっくに陽は沈んだ深夜にようやく艦隊は出航した。これからこの艦隊は戦争をしに行くのだ、多くの仲間と世界最高の機体達を積んで。




 あちこち展開の持っていき方が強引だったかもしれん…でも書きたい部分がまぁ上手いこと書けたからいいかな。(圧倒的自己満)
 エスコンのBGM聞くとめっちゃ捗るわぁ()
 前回と同様誤字脱字あったら容赦なく言ってくだせぇ。
 
 追記 文字数不足で第二章機体解説が投稿出来なかったので三章投稿後に二、三章まとめて紹介します。
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