もどってきた二人   作:天ノ羽々斬

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ねがいはきっと、叶えてみせる。


08.ほらキミの魔法を掛けて

 ウェールズ殿下。彼女(おはなばたけ)を愛していながらも愛では無く国に殉じ、しかし死体を弄ばれた悲劇の王子。そんな、彼率いる“アルビオン残党軍”としか呼べない彼らは、硫黄で「自爆できる!」と喜んでいた。その光景は、何度見ても痛々しいとサイトは思った。

 

 そして、ルイズ達は王子の部屋へ。

 

「……宝箱でね」

 王子の笑みは何処か悲痛だった。サイトは見てられなかった。ルイズも顔を伏せた。

 

「これが、姫からの手紙だ」

 

 王子は愛おしそうにその手紙を指でなぞり、開き、一度読み返した。そうして瞑目すると、躊躇いも無く引き裂き、暖炉に放り込んだ。バラバラになった手紙が燃えさかる暖炉でただの灰になっていく。

 

「これでこの通り、手紙は処分した」

「ありがとうございます」

 

 戦いに勝ち目はあるのか? そんなことはもう確認することは無い。地球にはたった三百の戦士が二万もの損害を出した事があったし、サイトはたった1人で七万の軍勢を足止めした。だが、ここに居るのは貴族が多く……いかに抵抗したとしても、五万を跳ね返せるとは思えなかった。

 全員生き残って欲しい、などとは思わない。そんな甘い言葉ですまされる訳がないのは解っている。だが、せめてこの男には──彼女の思い人には死んで欲しくない。そう思った。

 

「殿下、お話があります」

 

 

 翌日、イーグル号に非戦闘員を乗せて脱出する。そんな話を聞いた後、パーティーが始まる。相変わらずワルド子爵がルイズに粉をかけていたが、サイトは努めて気にしないようにした。

 

『おう相棒、左手(ルーン)光ってんぞ? 武器も持ってねぇのにおでれーた』

「っと、いけねぇ。……己の肉体だって武器だろ。原初の闘争は拳をぶつけ合うんだよ」

 

 努めて、気にしないように、していた。言うまでも無いが感情が高ぶれば高ぶるほど使い魔のルーンの輝きは増していく。

 

 ……今なら、あの時の王子の言葉が少し分かる。王家の義務。ハルゲキニア統一を計画するレコン・キスタにたいして、少しでも損害を与えるため、そして少しでも足止めするため。いわば捨て石。自ら、防波堤になろうという算段だった。

 実に高潔な話だが、サイトはやっぱり死の恐怖を誇りが上回る、なんてのは嫌だった。命を失ったからこそ、余計にそう思う。大切な人の死は、誰かを悲しませる。だってルイズを二度も悲しませた。三度目は絶対にない。

 

 そして、ワルド子爵は殿下へあの提案を出していた。この場で剣を抜きそうになったが我慢した。静まれ俺の左手(ガンダールヴ)、とかバカなことを考えて心を静めた。

 

 

 

 

 

 夜。ルイズとサイトは2人で夜道を散歩していた。

 

「サイトはどうするの?」

「どう、って?」

 

 ルイズは手を繋ぎながらそう聞く。

 

「……ま、イーグル号には乗らないさ。一応、布石も打った」

「え、何?」

「タバサにな」

「なるほど、そういうことね」

 

 言葉にせずとも、伝わる。以心伝心。きゅっと、柔らかい小さな彼女の手を握った。

 

「俺は、このままお前を連れて帰りたいんだけどな。タバサが追いつくかどうかなんて賭けだし」

「うそ。本当は私と子爵が見せかけでも結婚式をするのがイヤなんでしょ」

「ばれたか。うん、やだ」

 

 二人は笑う。本当にいざとなれば、世界扉(ワールド・ドア)で逃げることが出来る。本当に、いざとなればだが。ワルドを倒せば詠唱時間等を考えても余裕だ。そこに悲痛感は無かった。かつての(わだかま)りもない。二人は見つめ合うと、何をいうでも無く口づけを交わす。そっとふれあう程度に。

 

「何か甘いな」

「クックベリーパイよ、きっと」

「ちげぇねぇ」

 

 なんだかおかしくて、二人で笑ってしまう。だって戦争が目前に迫っているっていうのに、月が二人を祝福するかのように輝いていて。まるで、自分たちには関係ないって言っているようだった。

 

「上手くいくかなぁ」

「上手くいくわ。だって私とサイトが揃えば無敵なんだから! ね、馬鹿犬?」

 

 ルイズの信頼と愛情の籠もった笑みに、しょうがないなぁとサイトは照れ隠しに頭を搔く。惚れた弱みというのは互いに特攻。虜になってしまった以上、お願いや信頼には弱いというわけだ。

 

「へいへい、ご主人様の仰るとおりでございます」

「分かれば良いのよ、わかれば!」

 

 二つの月は、冷える空で暖をとるかのように。二つの影が、そっと重なった。


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