ウェールズ殿下。
そして、ルイズ達は王子の部屋へ。
「……宝箱でね」
王子の笑みは何処か悲痛だった。サイトは見てられなかった。ルイズも顔を伏せた。
「これが、姫からの手紙だ」
王子は愛おしそうにその手紙を指でなぞり、開き、一度読み返した。そうして瞑目すると、躊躇いも無く引き裂き、暖炉に放り込んだ。バラバラになった手紙が燃えさかる暖炉でただの灰になっていく。
「これでこの通り、手紙は処分した」
「ありがとうございます」
戦いに勝ち目はあるのか? そんなことはもう確認することは無い。地球にはたった三百の戦士が二万もの損害を出した事があったし、サイトはたった1人で七万の軍勢を足止めした。だが、ここに居るのは貴族が多く……いかに抵抗したとしても、五万を跳ね返せるとは思えなかった。
全員生き残って欲しい、などとは思わない。そんな甘い言葉ですまされる訳がないのは解っている。だが、せめてこの男には──彼女の思い人には死んで欲しくない。そう思った。
「殿下、お話があります」
☆
翌日、イーグル号に非戦闘員を乗せて脱出する。そんな話を聞いた後、パーティーが始まる。相変わらずワルド子爵がルイズに粉をかけていたが、サイトは努めて気にしないようにした。
『おう相棒、
「っと、いけねぇ。……己の肉体だって武器だろ。原初の闘争は拳をぶつけ合うんだよ」
努めて、気にしないように、していた。言うまでも無いが感情が高ぶれば高ぶるほど使い魔のルーンの輝きは増していく。
……今なら、あの時の王子の言葉が少し分かる。王家の義務。ハルゲキニア統一を計画するレコン・キスタにたいして、少しでも損害を与えるため、そして少しでも足止めするため。いわば捨て石。自ら、防波堤になろうという算段だった。
実に高潔な話だが、サイトはやっぱり死の恐怖を誇りが上回る、なんてのは嫌だった。命を失ったからこそ、余計にそう思う。大切な人の死は、誰かを悲しませる。だってルイズを二度も悲しませた。三度目は絶対にない。
そして、ワルド子爵は殿下へあの提案を出していた。この場で剣を抜きそうになったが我慢した。静まれ俺の
夜。ルイズとサイトは2人で夜道を散歩していた。
「サイトはどうするの?」
「どう、って?」
ルイズは手を繋ぎながらそう聞く。
「……ま、イーグル号には乗らないさ。一応、布石も打った」
「え、何?」
「タバサにな」
「なるほど、そういうことね」
言葉にせずとも、伝わる。以心伝心。きゅっと、柔らかい小さな彼女の手を握った。
「俺は、このままお前を連れて帰りたいんだけどな。タバサが追いつくかどうかなんて賭けだし」
「うそ。本当は私と子爵が見せかけでも結婚式をするのがイヤなんでしょ」
「ばれたか。うん、やだ」
二人は笑う。本当にいざとなれば、
「何か甘いな」
「クックベリーパイよ、きっと」
「ちげぇねぇ」
なんだかおかしくて、二人で笑ってしまう。だって戦争が目前に迫っているっていうのに、月が二人を祝福するかのように輝いていて。まるで、自分たちには関係ないって言っているようだった。
「上手くいくかなぁ」
「上手くいくわ。だって私とサイトが揃えば無敵なんだから! ね、馬鹿犬?」
ルイズの信頼と愛情の籠もった笑みに、しょうがないなぁとサイトは照れ隠しに頭を搔く。惚れた弱みというのは互いに特攻。虜になってしまった以上、お願いや信頼には弱いというわけだ。
「へいへい、ご主人様の仰るとおりでございます」
「分かれば良いのよ、わかれば!」
二つの月は、冷える空で暖をとるかのように。二つの影が、そっと重なった。