足立さんと早くくっつけ
寒い、寒い、寒い。
俺は心の底で意味もなく悪態つけながら寒波の中を歩いていた。
何重にも衣服を着込んで手袋もしてニット帽も被って耳当ても装着している。
なのに、寒い。
ロシアへとやって来て数年経つが"ふざけるな"と叫びたくなるぐらい寒い。
以前は濡れたタオルを振り回してカチカチにしたり、自然アイスキャンディーを作ったりして楽しんでいたがそれも飽きた。
やはり、旅行に行って"ずっとここに住みたいな~"と思うのはその場のテンションが織り成す幻想でしかないらしい。
一年で究極のホームシックになってしまう。
ソースは俺。
ただ、俺の場合はロシアの永住権取得のめんどくささを聞いてちょくちょく日本に帰ってるからギリギリ平気。
平気じゃないのは日本にいる間、携帯が絶えず鳴り響いて七色から"早く帰って来い"とのお達しがくるぐらい。
俺の母国は日本なのに………
まぁ、助手のスメラギに文句を言ってからその頻度も減ったような気がしなくもない。
今度帰る時は七色も日本に誘ってやろう。
アイドルである姉の虹架のライブ日に連れて行くのも悪くない。
なんせ、あの神崎エルザと合同ライブだ。
盛り上がるに決まっている。
俺は密かに計画を練ることにした。
が、丁度目的地に着いたので計画は後回しにする。
「ただいまー」
気だるく玄関を開けてこれまた気だるく声をかけた。
ロシアらしい赤レンガの二階建てで七色が激安で売ってくれたお得な物件。
暖炉の煙突があるのでサンタさんが訪れてもちゃんと入ってこれる仕様だ。
因みに、我が家にはエアコンと言う現代兵器があるものの、クリスマスの日には雰囲気を大切にして暖炉に火を灯している。
だがこれだと、寝る時間が深夜にまで遅れてしまった場合、煙突から入ってきたサンタさんが三匹の子豚の狼ばりの災難に見舞われてしまうという悲劇が起きてしまう。
黒焦げサンタさんがメリークリスマスと言いながら暖炉から這い出てくるなんてホラー以外のなにものでもない。
これぞ這い寄る混沌ニャルラトホテプ。
故にサンタさんが不法侵入してくるのが夜中であるのはその事が原因なのだ。
クリスマスの日に夜から朝まで火を灯していたらその年だけ我が家にサンタさんが来なかったんだから立証済み。
サンタさんが可哀想だから次の年からやらなかった。
「お帰りー」
そんな一年だけサンタさんが来なかった家から明るい声が返ってくる。
その声の主は跳ねるように玄関に顔を出した。
身長は多少伸びたが、童顔やその童顔に比例する子供っぽさは未だ抜けない愛しの嫁さん。
紺色のエプロンドレスが子供っぽさの一役を買っているのを本人は気づいているのだろうか。
「やっぱり似合うな」
「ありがとう!ほら、早く着替えて来てよ。ご飯が冷めちゃう」
俺に褒められたのがそんなに嬉しかったのか、世界一のお嫁さん木綿季は"にへらぁ"と笑みを溢した。
このエプロンドレスを作ってくれた神代さんに明日土下座してお礼を言おうと思う。
新妻エプロンドレスにロシアの家、作ってくれた料理はグラタン。
仕事の疲れが吹っ飛ぶどころか数日分のバフ効果まである。
世界中の非リア充よ………結婚生活は最高だぞ。
………ただしお嫁さんは木綿季に限る。
「そうだ。明日は木綿季達も開発室に来てくれないか?」
俺はこんがりと焼けたチーズにスプーンを差し込んだところで木綿季達に言った。
既にグラタンを口一杯に頬張っていた木綿季はリスのように咀嚼しながら首を傾ける。
"何で?"と言っているらしい。
………クソ、かわいいなそれ。
「試験運用だけど試作品ができたからさ」
『つまり!私達が遂に現実世界に展開できるということですか!?パパ!』
「まぁ、そんな感じかな。まだ試作品だしバグやら誤作動があるかもしれないけど」
俺は天井に設置されているカメラに視線を向けた。
実家と同じくここでもカメラをあちこちに設置してこの家の見取り図と同じ家を仮想空間に展開している。
カメラの視界を最大限に広げてどんな場所でも最低2つのカメラが捉えられるようにして、人間の目と似たような風に2つの映像をコンピューター内で3次元化させる。
これで奥行きまではっきりと記録されており現実での細かな変化がリアルタイムで仮想空間の家に反映されることが可能。
そして、この現実空間の家と仮想空間の家を複合することによって擬似的にアイ達は現実世界にいられるような体験ができているのだ。
でもやはりこれは一方通行の技術なのでアイ達からは俺と木綿季を触ることはできるが、俺と木綿季からしたら触られた感覚もなく、ましてや自分の娘がどこにいるかさえ聞かないと分からない。
それに向こう側から触れられるといっても体温やら質感は感じ取れず、物を触っている感覚に近いだろう。
しかし、今回の試作品は一方通行ではない。
こちらからも擬似的にだが干渉できるように設計されている。
数年掛けての大発明なのだからユイがはしゃぐのも無理はない。
『でも和人様。私達は研究室に行けませんよね?』
「行けないこともないけど、黙っとかないとな。ユイはメンタルヘルスプログラムだから無理矢理言い訳がつくけどアイとカーディナルは基礎プログラム事態違うからばれた瞬間に研究対象だ。ユイも感情を手に入れてるし娘が実験動物扱いされるのは死んでもごめんだ」
「七色ちゃんとか神代さんならともかく、他の人にばれたらねー」
木綿季はグラタンを飲み込んで苦笑いを浮かべる。
研究者は基本探求者なのだ。
未だかつて人類が到達していない領域を求める者なのだ。
それは天才と呼ばれる七色が長の研究室でも例外ではなく、寧ろ七色の元で働く研究者はひときは我が強い。
ノイローゼではないかと疑ってしまいそうな人や頭がいい馬鹿などが大勢いる。
そう、あそこは七色研究室
世界中の天才という名の問題児ばかりが集められた
言わば………
言わば、変人の巣窟である!!
201号室住人、かみ…………
馬鹿な妄想はよそう。
宇宙人やらマハラジャさんやアマゾネスに引きこもりのプログラマーに振り回される運命が買いまみえてしまった。
兎に角、あの場所にアイ達を連れていくのは危険なのだ。
「まぁ、どうにか理由をつけて持って帰るよ」
『『絶対ですからね!!』』
アイとユイは仲良く声を揃えて叫んだ。
そんな仲良し姉妹に俺と木綿季は微笑み合った。
そうだ、もう少しだ。
俺は木綿季と微笑み合う片手間、家族とのやり取りで夢に近づいていると実感し、高ぶった心の行き先をスプーンを持った手に集中させる。
スプーンが食い込んで痛いが知らんこっちゃない。
もう少しなんだ!!
テンションが高ぶってしまった俺はその後グラタンを一気に頬張った。
カーディナルも図書館にいないでここに来ればいいのに………ツンデレめ。
「ドーブらエ ウートら」
「ど、ドーブラエ エウートラ」
研究室の入り口で警備をしている人の流暢なロシア語に対して不出来なロシア語で挨拶を返す。
しかし、警備員の表情は顔が防寒具のせいで隠れてしまっていて読み取れない。
雪は降っていないが、恐ろしい程の寒波が吹き荒れている中なのだから仕方がないだろう。
多分、あの防寒用マスクとゴーグルの下の形相は"もっと勉強しろ"といった関西人が関東人の似非関西弁に対する怒りと同様の想いが籠められているに決まっている。
俺はこれ以上、寒波の中の警備でストレスが溜まっているだろう警備員に更なるストレスを与えないようにそそくさと研究室に入った。
お互いに干渉しない、これこそ現代のストレス社会において本当の意味のwin winなのである。
「和人ー、そろそろ慣れないと駄目だよ」
「イヤだって、いつも機械みたいに挨拶だけしてくるから怖くて………」
しかし、そんな持論を世の中が許すわけがない。
一緒に着いてきたモコモコ装備の木綿季が俺の持論を否定する。
研究室で七色と神代さんの3人で進めていく計画が楽しすぎて近所付き合いが疎かとなっている俺の代わりに地元民との人脈を広げていった木綿季の言うことなのでむげにはできない。
木綿季には人脈を広げる過程で得た流暢なロシア語と地元民の感性がある。
お陰で時折ご近所さんから食材などのお裾分けが届けられるが、ご近所さんの名前すら知らない俺には毒が入っているのではないかと疑ったりしたことがある。
その事を木綿季に言ったらマジギレされて人生初めての夫婦喧嘩………と言うより一方的に俺が悪いので喧嘩にもなっていない木綿季不機嫌期があり、死ぬほど辛くて死にそうなくらい死にたかった。
しかも機嫌を治してくれた要因は俺からではなく木綿季からで、木綿季がご近所さんを招いたホームパーティーを開き悪い人ではないと直接証明してくれたことで俺が謝ったから。
その時、俺は周りの人を悪い方に疑うのを自重するようになった。
木綿季の怒りが怖かったからではない、断じて。
「大丈夫だって、あの人和人の事を"いつまでも初々しいなー"みたいに父親が幼稚園児の子供を見る心境と同じ眼差しで見てるだけだから」
「え?優しい人なのはいいんだけど、俺ってあの人にとって幼稚園児ぐらいなの?」
若干………結構ショックだった。
七色研究室に入ると暖かい空気が防寒着の上から俺達を襲う。
俺達は暖房の効いた暖かい室内で防寒着を脱ぐと衛生上の問題で無駄に白く長い廊下を運動不足の足に鞭を打って歩いた。
長い廊下のせいで同じ研究者とすれ違い、すれ違う度に木綿季から一言もらう。
既に泣きそうな俺はやっとの思いで廊下の突き当たり、俺が所属する部署のドアを見つけた。
この部屋に入れば少なくとも他の研究者と言葉を交わす必要が無くなり木綿季からも注意されなくなる。
俺は"七色研究室長"と書かれたドアを力強く開けた。
バンッ!パンッ!
「ようこそ!七色研究室へ!!」
「ひゃう!?な、七色ちゃん!!」
すると、何故か待ち構えていた七色の放つ特大クラッカーが俺と木綿季を襲った。
普段の大型パソコン数台と書類の束の影は見当たらず、珍しく綺麗な白い部屋だった。
そこに煌めく特大クラッカーの色とりどりテープに鼻をつく火薬の匂い。
これは木綿季でも少々拗ねてしまうだろう。
俺は恐る恐る首を曲げた。
しかし、木綿季は嬉しそうに三角形のパーティーハットを頭に乗せた七色に抱き付きに飛んでいた。
俺は一言物申したい衝動を抑えて鬱陶しく全身に巻き付いたクラッカーの残骸を払った。
そして、七色ではなくその後ろにいる人に言った。
「なにやってるんですか………?」
「ごめんね、和人君。一応やめた方が良いんじゃいかって言ったんだけど………」
「その割には楽しそうですね」
神代さんは七色と同じくパーティーハットを頭に乗せて小さなクラッカーを持っていた。
控えめな笑顔からはどう見ても楽しんでるようにしか見えず、本当に止めたのかと疑問に思う。
俺が疑惑の目を向けると神代さんはクラッカーを鳴らして舌を出す。
「
「確信犯じゃないですか!!」
俺が人間不信なのはこの研究室が原因に間違いない。
老いを知らない美貌を持った神代さんは特に反論せず、もう1発クラッカーを放った。
「へぇー、これが和人の言っていた試作品ですか」
「そうよ。名付けて試作品1号君!!」
木綿季が手に取った機器をあらゆる方向からまじまじと観察する。
機器は太い三日月のような形で両先端部分は細くなっている。
色は灰色で目立った装飾品はなく、大発明にしてはパッとしない外見だ。
しかし、七色から試作品1号君という有難い名を貰っている機器は材質や色から何処かナーブギアを彷彿させる。
「ボクが素人だからかな?あんまり凄さを感じないけど………」
「まぁ、一見しただけだと俺にも何の機器だか分からないからな」
木綿季は難しい顔をして目を凝らす。
俺は意地でもどうにかして特徴を伝えようとしている木綿季の手から試作品1号君を取り上げた。
すると、木綿季は"あっ"と声を出した後申し訳なさそうに肩を落とす。
表情の気まずそうなしょんぼり顔からするに俺達に"失礼だった"とか考えているのかもしれない。
けど、こんなの初見で凄さが分かったりしたら逆に凄いことだ。
俺は肩を落としている木綿季の後ろに回り込み、チラリと見えるうなじに試作品1号君を当てた。
「和人?」
「神代さん」
「大丈夫よ。カメラの接続も良好で試作品1号君もオールグリーン」
試作品1号君の三日月の形は人間の首に確りと取り付けられるようにするため。
木綿季の綺麗な首に取り付けられた試作品1号君からは準備完了の合図としてゲーム機の電源のように緑色の光が小さく光る。
それを確認して先程試作品1号君と一緒に持ってきたパソコンを扱う神代さんと木綿季の前で自信満々に腕を組む七色とアイコンタクト。
俺達は今世紀最大の悪い笑顔を浮かべていた。
「これが俺達の発明品だ!」
木綿季に半ば強引に試験を引き受けてもらい、数項目のチェックを終えた。
システムは良好、バグの発生もほとんどなし、どうしても発生してしまうラグも補正機能で改善されている。
今からでも世界に発信できる水準に間違いは無かった。
しかし、七色が作り出そうとしている
システムの軽量化を進めなくてはならない。
「久し振りに会ったけど、皆変わらないね」
「まぁ、変わって欲しいやつもいるけど」
日本の都会では絶対に見ることのできない満天の星空の下を俺達は身を寄せ合いながら歩いていた。
長いマフラーを一緒に巻いて寒波に負けないよう腕を組んでいる。
しかし、やはり寒い。
俺達の足は自然と速くなってしまう。
愛の力とか非現実的なことなど関係ない。
寒いものは寒いのだ。
「七色ちゃんのこと?ボクは一緒にいて楽しいけど」
「研究室内だとうるさいんだよ。ちょっと自分がミスしただけで叫ぶし」
「あははは!」
木綿季は俺が苦い表情を浮かべると失礼にも笑った。
端から聞けば笑い話かもしれないが被害者である俺とかはたまったもんじゃない。
いつも突拍子の無いことを言い出すし実行するし、"今日の分は終わった"と伸びをしたら七色が更なる注文を押し付けてくるし。
しかもその内容が無茶苦茶で、スマホのデータをガラケーに移すみたいな地獄の所業だったりしたこともある。
あの時だけは流石に俺も怒った。
神代さんにやんわりと止められたけど俺は悪くないと今でも思っている。
「でも楽しそうだね」
「………楽しいよ」
俺は声を詰まらせて言った。
不服だが、そんな日常を楽しいと感じているのは事実だ。
七色に無茶を言われても心の底では嬉しく思っているし、神代さんと話をしている時は知識欲故か心が踊る。
七色研究室にある他の研究機関に見学に行けば俺の知らない世界中の知識が山ほどある。
楽しくない訳がない。
ただ、それを認めるのが七色の傍若無人っぷりで否定したくなる。
あいつ本当に酷いから。
「ふふ、ボクは自分の理性では認めたくないけど本能が認めてるから正直に認めるの和人が好きだよ」
「なんだそれ?」
流石、ALOではインプである木綿季だ。
小悪魔的な笑みを習得して俺をからかっている。
それがまた可愛いから困ってしまう。
いや、本当に恐ロシアですわ。
しかし、こちとら立派な日本男児。
負けるわけにはいかんぜよ。
「和人?………ッ!?」
俺からの返しが薄かったからか木綿季が顔を近付けてくる。
俺はその瞬間に手を木綿季の後頭部に当てて引き寄せた。
そのまま勢いを殺さずに、木綿季の唇を奪う。
「んっ………!!」
木綿季の唇はこの寒い中でも柔らかく温かい。
俺は驚いて一瞬震えた木綿季の体を空いていたもう片方の腕で抱き締める。
こうなればもう、俺が木綿季を襲っているようにしか見えないだろう。
実際、襲っているのだから文句は言わない。
冷たい風が吹き抜ける。
しかし、俺の身体はそんな風を気にする必要がないくらいに熱くなっていた。
(俺はどんな木綿季でも好きだ)
(………ずるい)
お互いの唇はお互いの唇で塞がっている筈なのに、そんな言葉が俺達の心の中にしっかりといつまでも響いていた。
「準備はいいか?」
『問題ありません!』
リビングの中央。
俺はソファーやらテーブルやらを木綿季と隅っこに寄せて作った広いスペースに立っていた。
重々しい雰囲気が漂う中、少し離れた所で俺を見つめている木綿季と頷き合う。
研究室から最終チェックと言う名の適当な言い訳で持ち出した試作品1号君を首に装着しながら、俺は各方向から自らを捉えるカメラに言った。
「カーディナル。システムの状況は?」
『異常はない。いつでも実行できそうじゃ』
『カメラも問題ありません!』
「そうか」
カメラから聞こえてくる次女のカーディナルと三女のユイの言葉に安堵しつつ、試作品1号君の電源を入れる。
すると、その瞬間に視界に数々のデータが表示される。
時間や日にち、体温から脈拍まで俺のあらゆるデータが視界端に写っているのだ。
これはまさにSAOやALO、GGOとほぼ同じ仮想空間の世界だった。
だが、今俺が見ているのは仮想空間ではなく現実の世界。
所謂、拡張現実と呼ばれるもの。
木綿季には昼間この拡張現実のチェックをお願いしていた。
これこそが現代の科学が踏み入り始めた新たなる空間なのだ。
「うん、視界良し、身体の違和感なし」
『では、始めるぞ』
そう言ってカーディナルはとあるソフトウェアを起動する。
このソフトは神代さんにも七色にも言っていない俺が家で密かに開発を進めていたものだ。
今、行っているのはこのソフトが正常の作動するかの試験である。
「頼んだ、………準備は良いか?」
『はい、和人様』
『5………4………3………』
カーディナルのカウントと共に俺の視界にノイズが混じる。
俺は一瞬冷や汗をかいたが、そのノイズは次第に薄れていき俺の目の前に人形の水色ポリゴン体を形成しいった。
ポリゴン体の向こう側は既に見ることが出来ず、まるで現実にそれがあるようなリアルさ。
実際、これが現実にあっても世界中誰でも何かのオブジェクトだと思ってしまうだろう。
でもこれは試作品1号君から送られてくるデータなのだ。
『2………1………0』
そして、ポリゴン体はドット数を徐々に減らしていき、遂に消滅した。
代わりに現れたのは1人の少女だ。
霧が晴れたかのように頭を振って綺麗なロングの銀髪を無造作に揺らす。
服装が白のワンピースなので思わず寒くないのか心配になってしまう。
が、彼女にそのような心配は必要ないんだと遅れて気付く。
もう、俺の目には綺麗な白い1人の少女がいるようにしか映っていないのだ。
俺はすぐに壊れてしまう飴細工でも触るように恐る恐る右手をその少女に近づける。
本来ならすり抜けてしまうであろうデータ。
仮想空間でしか触れ合えることは出来なかった。
しかし、触れた。
「やっと、触れましたね………!パパ!!」
俺は娘であるアイの頬に触れた。
俺の右手には確かな体温と柔らかな頬の感覚、アイが流す一筋の涙さえ現実と同じように感じ取れている。
「アイが………ここに………!」
俺は思わず膝を突いてしまった。
アイはそんな俺の頬を両手で包み混むように触れた。
ちゃんと、俺の頬にはアイの小さな手のひらの感覚がある。
「私はここにいます!!」
涙を流しながら笑うアイの姿がそこにあった。
俺はアイを抱き締めた。
「ここにいる!アイが………ここにいる!!」
「はい!!」
それと同時にアイも俺のことを抱き締めた。
仮想空間にいるカーディナルとユイはともかく、木綿季にはただ俺が何もない空間に何かがあるように抱き締めている変な姿が見えているだろう。
しかし、俺の世界にはアイがいる。
他からどう見られようが俺の中にはアイが俺を抱き締めているのだ。
「やっと、現実でパパに触れたよ………!!」
初めてアイと出会った日を思い出す。
初っぱなから毒を吐いて俺を驚かせ、一緒に過ごしていく内にそんなアイにも個性を見つけていった。
どんな時も俺の側にいてくれたアイ、妹想いで家族想いなアイ、時々見せる表情が可愛いアイ。
そんなアイが………
「アイがいる………」
俺の口から何度も同じ言葉が漏れる。
その言葉しか知らないのかと言われてしまいそうな程だ。
『お姉ちゃん!!次は私です!』
「和人!早く代わって!!」
『わしは最後でいいが、まぁ………できるだけ早くしてくれ』
すると、周りが俺とアイの邪魔をする。
俺とアイは一旦抱き合うのを止めてお互いの顔を見つめ合う。
もう、何を言いたいのか一目見て分かった。
俺達は笑って叫んだ。
「「嫌だ!!」」
俺とアイは笑い合う。
そうだ、俺は努力してきた、力を尽くしてきたんだ。
この小さな1人の………
今日も桐ヶ谷家は平和である。
数年後、この試作品1号君は改良を重ねて品質を増す。
これはその後の世界に大きな変化を及ぼし、文字通り世界を変える大発明品となった。
その発明品の名こそ、
遂に最終回まで辿り着きました!!
まぁ、今後の事やお礼などは活動報告の方で申します。
………ごめんなさい、その活動報告も明日の夜になるかもしれません。
今日の所は寝かして下さいお願いします。
そんな訳でこの度はこんな駄作を読んでくださりありがとうございました!!
では、評価と感想お願いします!!