魔法は希望をくれるもの――なんてのは、スポンサー向けの建前だ。
少女たちは救うためじゃない。
生き延びるために、他人を殺すために、魔法を使う。
世界のどこかで、神か悪魔か、退屈したなにかが気まぐれに始めたこの遊戯。
『魔法少女バトルロワイヤル』
少女の笑い声が廃病院のロビーにこだました。
天井は抜け、壁の時計は止まり、床には血の痕。
その中心に、脚をぶらつかせて座る少女がひとり。
浅倉かほ。コードネーム《ヴェノム》。
誰もが魔法少女らしい名を持ち、役割を与えられ、この殺し合いの舞台に放り込まれる。
「……つまんねぇ」
壁に凭れながら、かほは血のついたぬいぐるみを放り投げた。
ベンチに転がるその猫の玩具は、誰かの遺品かもしれない。どうでもいいことだ。
足音がした。
廊下の奥から、慎重に誰かが近づいてくる。
一歩ごとに床がきしむ音。息遣いが聞こえる距離まで来て、少女が現れた。
花飾りの衣装、淡いピンクの杖、怯えた目。
かほの目がそれを捉えても、何も変わらない。
「ねえ……あの……話せる? 戦うんじゃなくて、脱出方法を探さない?」
かほは、ゆっくりと腰を上げた。
片手を前に出すと、先端部にはコブラの頭部を模した装飾が施されている召喚ベノバイザーを取り出して先端部に内包されたカードスロットを引き出して腰のベルトについたカードデッキからカードを一枚引き抜いて無言でカードを差し込む。
《SWORD VENT》
音声が響いた瞬間、蛇の装飾が施された剣が出現する。
躊躇も逡巡もない。かほは、それを握って前へ出た。
「……アンタ、こっから出たいのか?」
「え……? わたしは――」
「だったら、あたしを殺すしかねえよ」
そのまま駆けた。
迷いも慈悲もない一撃。振り下ろされる刃。
対する魔法少女は、とっさに花弁の障壁を展開しようとする。
だがそれは間に合わない。
金属音。剣が衣装を裂き、血飛沫がまう。
転倒した相手を見下ろしながら、かほは剣を放り投げてもう一枚カードを引き出す。
そして、ベノバイザーへ。
《ADVENT》
音声とともに、空間に亀裂が生じる。
そこから現れたのは巨大な蛇。ベノスネーカー。
鉄と皮膜が融合したような機械生命体が、命令もなく動いた。
ただ、契約者の殺意に呼応するかのように。
噛みつき、跳ね飛ばし、廊下の壁が割れる音がする。
悲鳴は出たかもしれない。
だが、それが止むのも早かった。
残されたのは、一人分の血と足跡だけ。
かほはベンチに戻ると、またぬいぐるみを拾って座った。
「つまんねぇやつだったな」
何が面白ければいいのか、自分でもわかっていない。
ただ、退屈で、イラつくから、殺した。
それだけ。
「次は、どうかな」
視点は変わりそこは何台ものモニターが設置され、その一つには先程のかほの様子が映っていた。
「浅倉かほ、対象三人目排除を確認。」
「戦術行動に明確な戦略はない。ただ……本能的に動く分、行動予測が立てにくいな」
「問題ない。あくまでも我々が彼女に求める役目から外れていない。今のところ彼女の行いはすべて“正式な魔法の行使”だ」
「だが……いつか枠を超えるぞ。こいつは」
そんな不安を呟くものがいたがその不安が後に的中してしまうことを知らない。