夢も希望もない魔法少女を描いてみたくて   作:のうち

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第2話

「それじゃ――止まってもらうわね」

 

声が響いた直後、全ての色が薄くなった。

空気が止まり、音が消え、埃の粒子さえ宙に浮かんだまま。

魔法少女《アワーグラス・ノクターン》。

自分以外のすべてを静止させる“時間停止”の能力者。

 

かつて、彼女に逆らえた者はいない。

誰もが理解する前に、沈黙の中で殺される。

だが――

 

「へぇ。なるほど、本当に“止まる”んだ」

 

その場に、たった一人、動いている者がいた。

 

青みがかったローブを翻し、無表情のまま立つ魔法少女。

足元には霜が広がり、彼女の周囲だけが、音を持っていた。

 

「……あなた、動けるの?」

 

「うん。動けるよ」

 

彼女はそう言って、小さく頷いた。

 

「結論から言うね。あなたの“時間停止”って、たぶん“分子運動の停止”なんだと思う。

空気も、埃も、重力も“止まってる”わけじゃない。あなたが対象にしてるのは、“他者の体内運動”だけ」

 

「へぇ、よく喋るわね。どうしてそんなことがわかったの?」

 

「初動が遅すぎたのよ、あなた」

 

彼女――コードネーム《グレイ・ウィドウ》は、目を細めた。

 

「さっき、止まった直後に私は動けなかった。でも、空気が冷えていく感覚は残ってたの。

だから試した。“止まってる”間に、体温を限界まで下げる。そしたら、動けた」

 

彼女の足元で氷がひび割れた。

静止した空間に、白い霧がにじみ出る。

 

「冷気ってのはね、分子の運動エネルギーを奪う力なの。

あなたの“時間停止”と本質的に同じ方向を向いてる。だから、重ねて上書きできた」

 

「……ふぅん」

 

アワーグラス・ノクターンは初めて、その表情から余裕を失った。

 

「そんな推理ショーごっこをやるほど、あなたに余裕あるの?」

 

「あるよ」

 

即答。そして、踏み出す。

氷の靴音が、止まった世界に反響した。

 

ノクターンは再び杖を掲げる。

 

「もう一回、止まってもらうわ」

 

だが、グレイ・ウィドウはもう立ち止まらない。

 

「同じ手は通じないよ。あたしの体温はもう限界ギリギリまで落としてる。

生きてるけど、ほとんど“止まってる”。あなたの能力は、それ以上止められない」

 

氷の刃が手に形成される。刃は細く、白く、鋭い。

 

「氷点下の論理で、あなたを切る」

 

「クソッ――!」

 

アワーグラス・ノクターンは杖を回し、時間停止の波動を叩き込む。

しかし、グレイ・ウィドウの動きは止まらない。

むしろ氷が音を立てて床を走り、彼女の足元まで迫る。

 

「“止まる”という幻想を、冷気で壊す」

 

吹き荒れる冷風。霧が、ノクターンの視界を奪う。

その一瞬――

 

「……見えたっ!」

 

氷の影が前方から突き出た。

ノクターンの杖を持つ腕が凍り、動きを奪われる。

 

「このっ、クソッ――」

 

彼女が叫び、逆の腕で魔力をこじ開けようとした瞬間。

グレイ・ウィドウの足が、霜を蹴った。

 

跳ぶ。氷の踏み台を連続して生み出し、空間を駆け上がる。

そのまま――

 

「これが、あなたの終わり」

 

氷の刃が、空気を裂いた。

 

ノクターンが視線を向けた時には、すでに遅かった。

 

氷の音とともに、彼女の胸元に白い一閃が走った。

 

 

数分後。

時間は動き出し、世界は再び息を吹き返していた。

 

グレイ・ウィドウは、静かに床を歩く。

彼女の背後には、血も涙も凍りついた、元・魔法少女の死体。

 

「……魔法は、理屈で殺せる」

 

呟きは、白い息となって消えた。

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