夢も希望もない魔法少女を描いてみたくて   作:のうち

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第3話

空気に硝煙の匂いが漂っていた。

廃線跡の木造バリケード。銃痕の刻まれた壁。

その片隅で、ある魔法少女が地面に転がっていた。

 

拘束され、口を塞がれ、身体を縛りつけられている。

両手は折られ、足には弾痕。

傷は治っていた。魔法で何度も自力で修復している。

 

だが――痛みは消えない。

 

「ふふ……治るなら、まだ遊べるわね」

 

銃を構えるのは、別の魔法少女。

銀髪を束ね、軍服風のミニスカート姿。

SAAリボルバーを二丁腰に提げる、コードネーム《バレット・ミューズ》。

 

彼女は今日も、“遊び道具”を手に入れた。

 

「ねえ、ロシアンルーレットって知ってる?」

 

もう一丁のSAAを取り出し、カチリとシリンダーを開く。

弾は1発だけ。あえて残りは空にする。

 

「どこに当たるか分からない……でも、当たるとすごく痛い。ドキドキするでしょ?」

 

彼女は銃口を獲物の身体の上で滑らせていく。

腹、肩、胸、膝、太もも――どこを撃つか決めないまま、ゆっくり、なめるように。

 

獲物の呼吸が荒くなる。瞳孔が開く。

弾が当たる“かもしれない”だけで、肉体は緊張し、心は擦り切れていく。

 

「行くわよ――」

 

カチッ。

 

撃鉄が起きる音だけで、少女がビクッと跳ねた。

外れだった。バレットは微笑む。

 

「ふふ……まだ生きたいの?」

 

二発目。

銃口を肩に滑らせ、肘の内側で止める。

 

パンッ。

 

血が噴き出す。肉が裂け、少女が痙攣した。

魔法が反射的に傷を閉じていく。だが、痛覚までは修復できない。

 

「すごいわね……治るの、ほんとに早い」

 

三発目。

今度は腹。

発射。

呻き声がもれる。口枷を通じて聞こえるのは、喉を引き裂くような悲鳴。

 

治っても、傷跡は心に残る。

恐怖と痛みが、深く刻まれていく。

 

四発目。

ふとももに撃ち込む。悲鳴。涙。失禁。

 

五発目。

耳のすぐ横をかすめる。意識が飛びかけ、首ががくりと垂れた。

 

六発目。

心臓のすぐ上に押し当てて――引き金を引く。

外れ。

 

その時、少女の瞳から光が消えた。

 

「……あら。壊れちゃった?」

 

声をかけても、返事はない。

目は開いているのに、もう“中身”がいない。

 

笑うでも泣くでもない。

ただ、壊れた人形のように、心が死んでいた。

 

「ねぇ、治る身体って、便利だけど不幸よね」

 

バレット・ミューズは頬を撫でる。冷たい汗。震え続ける心拍。

肉体は動く。心だけが死んでいる。

 

「痛みって、命の証じゃない?

それを何度も感じて、それでも生きるしかないなんて……地獄よね」

 

彼女は銃をクルクルと回してホルスターに収めた。

そして、二丁目の銃を構える。

 

「最後は、ちゃんと撃ってあげる。もう声も出ないみたいだし、壊れてるだけじゃつまんない」

 

弾倉を満タンにする。

今度は、外れはない。

 

「安心して――すぐ終わるわ。

……もう十分、夢も希望もなかったでしょ?」

 

パンッ。

 

銃声が静寂を裂いた。

やがて、誰もいない線路跡に、また一人分の死体が転がった。

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