空気に硝煙の匂いが漂っていた。
廃線跡の木造バリケード。銃痕の刻まれた壁。
その片隅で、ある魔法少女が地面に転がっていた。
拘束され、口を塞がれ、身体を縛りつけられている。
両手は折られ、足には弾痕。
傷は治っていた。魔法で何度も自力で修復している。
だが――痛みは消えない。
「ふふ……治るなら、まだ遊べるわね」
銃を構えるのは、別の魔法少女。
銀髪を束ね、軍服風のミニスカート姿。
SAAリボルバーを二丁腰に提げる、コードネーム《バレット・ミューズ》。
彼女は今日も、“遊び道具”を手に入れた。
「ねえ、ロシアンルーレットって知ってる?」
もう一丁のSAAを取り出し、カチリとシリンダーを開く。
弾は1発だけ。あえて残りは空にする。
「どこに当たるか分からない……でも、当たるとすごく痛い。ドキドキするでしょ?」
彼女は銃口を獲物の身体の上で滑らせていく。
腹、肩、胸、膝、太もも――どこを撃つか決めないまま、ゆっくり、なめるように。
獲物の呼吸が荒くなる。瞳孔が開く。
弾が当たる“かもしれない”だけで、肉体は緊張し、心は擦り切れていく。
「行くわよ――」
カチッ。
撃鉄が起きる音だけで、少女がビクッと跳ねた。
外れだった。バレットは微笑む。
「ふふ……まだ生きたいの?」
二発目。
銃口を肩に滑らせ、肘の内側で止める。
パンッ。
血が噴き出す。肉が裂け、少女が痙攣した。
魔法が反射的に傷を閉じていく。だが、痛覚までは修復できない。
「すごいわね……治るの、ほんとに早い」
三発目。
今度は腹。
発射。
呻き声がもれる。口枷を通じて聞こえるのは、喉を引き裂くような悲鳴。
治っても、傷跡は心に残る。
恐怖と痛みが、深く刻まれていく。
四発目。
ふとももに撃ち込む。悲鳴。涙。失禁。
五発目。
耳のすぐ横をかすめる。意識が飛びかけ、首ががくりと垂れた。
六発目。
心臓のすぐ上に押し当てて――引き金を引く。
外れ。
その時、少女の瞳から光が消えた。
「……あら。壊れちゃった?」
声をかけても、返事はない。
目は開いているのに、もう“中身”がいない。
笑うでも泣くでもない。
ただ、壊れた人形のように、心が死んでいた。
「ねぇ、治る身体って、便利だけど不幸よね」
バレット・ミューズは頬を撫でる。冷たい汗。震え続ける心拍。
肉体は動く。心だけが死んでいる。
「痛みって、命の証じゃない?
それを何度も感じて、それでも生きるしかないなんて……地獄よね」
彼女は銃をクルクルと回してホルスターに収めた。
そして、二丁目の銃を構える。
「最後は、ちゃんと撃ってあげる。もう声も出ないみたいだし、壊れてるだけじゃつまんない」
弾倉を満タンにする。
今度は、外れはない。
「安心して――すぐ終わるわ。
……もう十分、夢も希望もなかったでしょ?」
パンッ。
銃声が静寂を裂いた。
やがて、誰もいない線路跡に、また一人分の死体が転がった。