ゼロの使い魔〜Warrior of Light〜   作:ヒカセン

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ヒカセンがルイズに召喚されるn番煎じです。
諸兄の名作に中てられて過去書いたものを引っ張り出して手直ししました。
少しでもお楽しみいただけましたら幸いでございます。


第一章 ゼロのルイズ
プロローグ


 乾いた風に頬を叩かれて、彼は目を覚ました。

 視界に飛び込んでくるのは、焼け付く砂の海と、白く燃える太陽。蜃気楼が地平線を揺らし、遠くで砂がさらさらと鳴っている。吸い込んだ空気は鉄の粉のように喉を引っかき、吐く息は塩辛さを含んでいた。

 

 ──知っている。けれど、来たことはない。

 胸の奥で懐かしさと違和感が綱引きをする。ここは、何度もゲームで駆け回ったザナラーンの荒野だった。

 

「……嘘だろ」

 

 彼は慌てて自分の格好を見下ろした。灰色のジャージ。コンビニの棚から雑に選んだスニーカー。胸ポケットからは定期券と、くしゃくしゃのレシート。

 昨日まで日本で生きていた自分の姿、そのままだ。画面の中の鎧を纏った“光の戦士”ではなく、ただの日本人のままでここに立っていた。

 

「おい! こんなとこで寝てたら、サンドウォームの餌になるぞ!」

 

 砂煙を巻き上げて、天幕を積んだキャラバンの荷馬車が止まる。御者台の大男が、日焼けした腕で彼をぐいと引き起こした。

 

「妙な旅装束だな。……冒険者志望か?」

「え、いや、これは……」

「まあいい。どうせウルダハに向かうんだろ。乗ってけ。冒険者ギルドで登録すりゃ、その変わった服も笑われなくなるさ」

 

 この世界では、ジャージも“変わった旅装束”に見えるらしい。彼は言葉を飲み込み、荷台に身を預けた。車輪が砂を噛み、乾いた唄をうたいながら、黄金の都へと向かっていく。

 

 ウルダハ──砂塵の向こうから現れた城壁は、太陽を背負って金色に脈打っていた。門をくぐれば、香辛料と酒、革の匂いが渦を巻き、耳には商人の値切り声と吟遊詩人の笛が同時に飛び込んでくる。砂蠍旗が翻る広場では剣闘士が汗を飛ばし、路地裏では用心棒が柄に手をやり、子どもが笑って駆け抜けていく。画面越しにも感じられたそれらだが、体験してみるとまるで違う熱と雑音があった。

 

 冒険者ギルドでの登録は驚くほど手早かった。

「戦う術は?」と問われ、とっさに「剣」と口が動く。画面の向こうで繰り返していたメインジョブ──ナイトの手触りが、頭のどこかに残っていたからだ。

 

 渡された鉄の剣は、想像以上に重かった。汗で革巻きが滑る。それでもなぜか、構え方も、盾を向ける角度も“わかる”。ゲームで反復した動作が、脳の奥から筋肉へ伝わっていく感覚だった。

 

 体は追いつかない。腕は悲鳴を上げ、肺は砂を吸い込んだみたいに痛む。だがイメージが導いた。こうして彼は、ジャージ姿のままナイト見習いの“剣術士”として歩き出す。

 

 最初の依頼は、街道に出る小鬼の群れの退治だった。

 牙を剥いて飛びかかってきた奴の体当たりを、反射で盾の中心に受け止める。衝撃が肩から背骨へ走り、足が砂に取られてよろめいた。ゲームでは味わわなかった重さと痛みに思わず声が漏れる。

 

「痛っ……!」

 

 それでも、頭の中の“記憶”が俺の体を押し戻す。敵の肩越しに視線を切り、半歩外へ捌いてから、剣を下からすくい上げる。乾いた悲鳴に、砂塵が舞った。

 

 依頼を重ねるうちに、彼は街に根っこを下ろしていった。

 昼は依頼をこなして小銭を稼ぎつつ剣術士ギルドの稽古場で木剣を振り、夜は酒場で安酒を舐めながら他の冒険者の武勇談に耳を傾ける。安い宿の固い寝台でも、不思議と眠れた。剣を握って生きるということが、体に沁み始めていたからだ。

 そして、ある時仲間を盾で守ったとき、彼の中に生まれた想いがあった。

 それは、ただ見ていることしか出来なかった悲劇を変えたい、彼ら、彼女らを護りきると。

 今でも胸の奥で確かな熱量をもって燃え盛るその誓いは、彼を剣術士からナイトへと至らせた。

 

 だが、エオルゼアという過酷な世界でその誓いを果たすために立ち塞がる試練は無数にあった。

 

 炎の蛮神、イフリート。

 祭壇に降り立った瞬間、世界が熱で歪んだ。肌という肌が炙られ、呼吸は火の粉を吸うみたいに咳き込みに変わる。ゲームではただの演出だった炎が、今は肉を焦がす現実だった。

 恐怖で足が止まりかけたとき、背後から仲間の声が飛ぶ。

 

「立て! お前がいなきゃ、全員焼かれる!」

 

 その一言が、背骨の奥に火を点けた。彼は剣を振り、盾を掲げ、炎の壁へ踏み込む。仲間の詠唱が背中に落ち、矢が肩口を掠め、世界が一センチずつ前に進む。やがて、イフリートは炎と共に散り、彼らは生き残った。膝が砂に落ちる音のあと、胸の奥で何かが確かに“変わった”。

 

 続く試練は容赦もなかった。

 大地を殴るタイタンの拳に、景色ごと地面が割れて落ちる。

 ガルーダの刃の風は皮膚を紙みたいに裂き、雷の王ラムウの稲妻は心臓を逆撫でした。

 氷の女神シヴァの蒼い眼差しは一瞬で思考を凍らせ、竜王ニーズヘッグの咆哮は骨の髄まで震わせた。

 それでも彼は立ち上がった。というより、立たせてもらった。

 

「まだいける!」

 

 誰かの叫びが、いつも耳に残っている。その声がある限り、剣を握る手は勝手に力を取り戻した。

 

 やがて、彼は暁の血盟と出会う。

 アルフィノは理屈っぽく、時に鼻につくほどに正論を振りかざすが、間違いに気づけば真正面から謝れる強さがある。

 アリゼーは不器用なほど真っ直ぐで、危ないところへ真っ先に飛び込む。何度彼女の背中を盾で押し戻したことか。

 タタルは表で手柄を誇ることはなく、裏方で全部を段取りして俺たちの帰る場所を守ってくれた。

 ヤ・シュトラは冷静で博識、言葉は辛口だが、ふとした瞬間に救われる微笑みをくれる。

 サンクレッドは皮肉屋で軽口が過ぎるが、夜更けにひとりで哨戒に出るような男だ。

 イダは拳で語る天真爛漫さで、考えるより先に走る。パパリモはそんな彼女の横で呆れた顔をしながら、決して見捨てない。

 ウリエンジェは古語混じりの難解な物言いで皆を困らせるが、誰よりも遠くの脅威を見ていた。

 クルルは小柄な体で大きな荷を背負い、それでも人の手を握る時は必ず笑う。

 そして盟主、ミンフィリア。彼女の「お願い」を、彼は一度だって断れなかった。

 

 彼らと共に過ごす日々は、もう“ゲーム”ではない。

 安いパンを分け合い、くだらない冗談で腹を抱え、時に言い争い、そして同じ景色を見て涙を流す。誰かの命を預かるという現実の重さに、肩が沈む夜もあったが、翌朝は必ず誰かが背中を叩いてくれた。

 

 帝国との戦い。鉄と血の匂いが鼻腔に居座り、砲声の残響が耳の奥で鳴り止まない夜が続いた。瓦礫の下から伸びてきた手をつかみ損ねた夜は、洗面台で胃の底が空になるまで吐いた。英雄なんて言葉の裏側に、人の体温がいくつ消えていくのか、身をもって知った。

 それでも剣を置かなかったのは、置いた瞬間に守れなくなる顔が、あまりにも多かったからだ。

 

 そして、世界が反転する。第一世界。

 罪喰いが空を白で塗りつぶし、街は光に溺れていた。

 かの地で彼は、もうひとりの“光”──アルバートと向き合う。

 彼の剣は問う。「お前は本当に英雄なのか」と。

 血を吐くような沈黙の末、彼に頷くしかなかった。それでも行く、と。

 

 クリスタリウムで出会った“赤い瞳の青年”と過ごした時間は、長い夢のようだった。遠い昔と遠い未来が手を取り合い、ひとつの希望になっていく。エメトセルクは敵でありながら、誰よりも人間らしかった。彼が見せた過ぎ去った都のざわめき、呼びかける手の温度。幻だと知りながら、彼は手を伸ばしそうになった。失われたものは戻らない。だからこそ、今あるものを抱えて進むしかない。エメトセルクの背に消えない影を見送りながら、当たり前の残酷さを噛みしめた。

 

 最後の峠は暁月だった。

 星の終わりが歌になり、絶望が羽を持つ。エルピスの風は甘く冷たく、遠い昔の笑い声が耳の裏でほどける。

 孤独に沈んだメーティオンの囁きは、冷たい闇の中でゆっくりと心を濡らした。

「生きる意味なんてない」「痛みは尽きない」

 胸がざわつく。彼だって知っている。日本にいた頃、終わりのない残業帰りに電車の窓に映った自分の顔が空っぽで、家の灯りがただの四角い光にしか見えなかった夜を。

 けれど、今は違う。背後から声が聞こえる。

『まだ一緒に戦えるだろ!』

『諦めるな!』

『君は一人じゃない!』

 アルフィノの迷いも、アリゼーの怒りも、タタルの笑顔も、ヤ・シュトラの静かな眼差しも、サンクレッドの苦い冗談も、イダの拳も、パパリモの叱咤も、ウリエンジェの祈りも、クルルの小さな手も──全部が俺の中で合流して、剣を握る手に力を戻した。

 だから彼は言えた。「君は一人じゃない」と。

 その言葉は彼ひとりのものじゃない。“彼ら“のものだ。

 

 ……幕が下りたはずの舞台は、しかし静かに回転を続けていた。

 視界が白く泡立ち、足元の感触がふっと消える。浮遊感が内臓をゆっくり撫で、耳鳴りの向こうで誰かがページをめくる音がした。

 

「また転移かよ……」

 

 目を開く。

 そこは、見知らぬ石造りの城と、雲ひとつない青空。

 そして、目の前には小柄な少女がひとり。淡いピンクの髪が日差しで煌めき、震える指で掲げた杖の先が俺に向けられている。頬は強気に膨らんでいるのに、瞳は不安で濡れていた。

 

「アンタ、私の使い魔になりなさい!」

 

 変えられぬ現実に潰されぬよう、己を立たせるために磨き上げた想い。それを虚勢と呼ぶ者もいるだろう。

 

 だが、彼はそうではない。小さな少女に、確かに矜恃を見たのだ。

 だから、彼は笑って膝をつく。

 

「……了解。見ての通り俺は騎士だ。君の言う使い魔ってのが何を指してるかわからんが、盾になるのは慣れている。まずは、その儀式ってやつをやればいいんだな?」

 

 少女の瞳が一瞬だけ丸くなり、きゅっと結んだ唇がほどける。杖の先がわずかに震え、紡がれる言葉に光が重なる。

 

 ──瞬間、唇に触れた温もりは、遠い港町の乾いた潮風とも、砂漠の熱とも、豊かな実りをもたらす森林の木漏れ日とも違う、柔らかな人の温もりを感じる誓いの温度だった。

 

 光が弾け、新しい物語が始まる。

 ここがどんな世界でも構わない。高慢な貴族がいようが、いびつな規律が人を縛ろうが、彼は立ち止まらない。

 

 剣は錆びていない。心も折れていない。

 ──さあ、続きだ。新しい世界で、新しい物語を作っていく。

 

 ◇

 

 その日、ゼロのルイズと呼ばれた少女が呼び出したのは、ただ従順な使い魔でも、都合のいい怪物でもなかった。

 彼女の隣で笑い、時に叱り、共に進む、彼方の世界で英雄と呼ばれた男。

 

 彼はこの世界でもまた誰かと肩を並べ、誰かを護り、そして誰かに救われるのだろう。

 そうやって、何度だって──光の方へ。

 それこそが光の戦士だから。

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