フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

100 / 116
謁見 後編

「生きるのに迷う……?」

 ジュードの胸に、彼の言葉が黒い染みのように広がる。

 

「そうだ。生き方がわからなくなった者は、その苦しみから抜け出せずにもがき、より苦しむ。故に民の幸福とは、その生に迷わぬ道筋を見出すことだと俺は考える。俺の国では決して脱落者を生まぬ。王とは民に生きる道を指し示さねばならぬ。それこそが俺の進む道……俺の義務だ」

 

 謁見の間に響く声は揺るぎなく、重々しい石壁さえ共鳴させるようだった。

 

「義務……なすべきこと……」

 

 ジュードは無意識にその言葉を繰り返す。心に刺さる響きがあった。

 

「なるほど。力でア・ジュールを統一したあなたらしい答えですね」

 

 Xが皮肉めいた笑みを浮かべる。その声音には飄々とした調子を残しながらも、どこか尊敬の色も混じっていた。

 

「ちなみに貴様は何と成す? 騎士王(セイバー)よ」

 

 ガイアスの視線がXを貫く。

 

「いえいえ、ですから私はしがない正義の執行者なのであって、そのような素敵な二つ名を頂くような者では……」

 

 軽口を返しつつも、額には汗がにじんでいた。

 

「……まぁいい。だから俺は民が迷わぬように、非道をもってその道を失わせないためにも、ラ・シュガルやアルクノアなどという外敵は排除せねばならん。そのために必要な力があるというのなら、全ての民を守るためにも力は全て、俺に集約させ管理する」

 

 ガイアスの声は鋼鉄のごとく揺るぎなく、謁見の間を圧倒する。

 

「なるほど。力に対抗するために力を欲するか。実に人間らしい答えだが……」

 ミラが応じる。その声音は氷の刃のように冷たかった。

「それはただの独占にすぎない。結果、お前も、守るべき民も、槍の力が災いし、身を滅ぼすだろう。諦めろガイアス。あれは人が扱いきれるものではない。人は世界を破滅に向かわせるような力を前に、己を保つことなどできない」

 

「俺は滅びぬ。弱きを導く、この意志がある限りな」

 

 雷鳴のように響く声。その瞳には一片の揺らぎもない。

 

「……お前はひとつ、重要な事実から目を背けているぞ」

 

 ミラの静かな言葉が、鋭く突き刺さる。

 

「なに?」

 

 ガイアスの眉がわずかに動いた。

 その声は低く唸り、広間の空気を震わせた。

 

「お前がいくら力ある者であっても、いつかは必ず死ぬ。ならば、その後はどうなる? 人の系譜の中で、お前のような者が何度も現れ、お前の目指す覇道を引き継ぎ続けていけると?」

 

 ミラの言葉は鋭い刃のように突き刺さる。

 

「……!」

 

 ガイアスの瞳に、わずかな揺らぎが走った。

 

「残された者たちは過ぎたる力を持て余し、自らの身を滅ぼす選択をする……それが人だ。人は変わらないと歴史が証明している。なにせ私は、二千年以上見てきたのだからな」

 

 その言葉には精霊としての悠久の時間が重みを与えていた。

 

「……ならば俺が、その歴史に新たな道を標そう」

 

 ガイアスがゆっくりと立ち上がる。椅子の軋む音すら威圧となり、謁見の間に圧倒的な存在感が広がった。

 

「な、なんて迫力……」

 

 ジュードは喉が乾き、声を絞り出す。心臓が強く打ち、足が自然と後ずさろうとする。

 

「こ、怖ー!」

 

 レイアも冗談めかして言うが、その声は震えていた。

 

「……ガイアス。やはりお前も人間だな」

 

 ミラが静かに告げる。その瞳は決意を帯び、恐れはない。

 

「ふ、そうだ。人間だからこそ俺には、リーゼ・マクシア平定という野望がある。お前は、ただの欲望と捉えるのだろうがな」

 

 ガイアスの声は炎のごとく燃え上がり、広間の壁に反響する。

 

「最後だ、ガイアス。この件からは手を退け」

 

「退かぬ!」

 

「……ならば仕方あるまい。この手でその傲慢さを理解させるまでだ!」

 

 ミラの言葉が空気を裂く。

 

「本当、荒事が好きなマクスウェル様で」Xが肩をすくめ、皮肉を挟む。「ま、私なら楽勝なので別に――って、そうでは無かったですね。全然本調子じゃないですし、聖剣も持ってないですし」

 

「陛下、我々も……」

 

 ウィンガルが前に出るが、ガイアスは手を上げて制した。

 

「お前たちは下がっていろ。これは俺に課された試練。ひとりで踏破できなくて何とする」

 

「……はっ」

 

 ウィンガルは無念を飲み込み、一歩退いた。

 

「僕たちはどうしよう……」

 

 ジュードの胸に迷いが渦巻く。王と精霊、二つの大きな力がぶつかろうとしている。自分にできることはあるのかと。

 

「いやいや、ミラの足が本調子じゃないんだし、手伝わなきゃ!」

 

 レイアの叫びがその迷いを吹き飛ばす。

 

「だ、だよね」

 

 ジュードも頷き、拳を握り締めた。

 

「構わん、全員で来いっ!」

 

 ガイアスが吼える。その声音は嵐の咆哮のごとく響き渡り、玉座の間の天井を震わせた。

 

「では遠慮なく――行くぞ!!」

 

 ミラが前へと踏み出す。その一歩に呼応するように、仲間たちの視線も決戦の舞台へと向かう。

 

 謁見の間は、もはや戦場だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 鋼と魔力が交錯し、謁見の間はすでに戦場と化していた。玉座の間を覆う荘厳な装飾も、いまや火花と衝撃音にかき消される。

 

「くっ! 強い!」

 

 ジュードの腕が痺れる。打ち合った剣の衝撃が全身を突き抜け、膝が沈み込む。

 

「うへ~、流石は王様だよ~!」

 

 レイアも額に汗を浮かべ、必死に防戦を続けていた。

 

「ああ、たいした強さだ」

 

 ミラの声は冷静だったが、その表情には疲労の色が濃い。片足の不調もあってか、動きにわずかな鈍さがある。

 

「お前たちも、精霊の主の付き人なだけはあると言っておこう」

 剣を構えるガイアスの目には、敵への敬意すら宿っていた。だが次の瞬間、その声は鋭さを増す。

「だが! クルスニクの槍は必ず手に入れる!」

 

「そんなことはさせん! あれは絶対に破壊して――」

 

 緊迫した戦いが続く最中――ミラの叫びを、唐突に割る声があった。

 

「し、失礼します!」

 

 場違いなほど慌ただしい兵士が駆け込んでくるが、戦場さながらの謁見の間に足を踏み入れ、どう動けばよいかと右往左往していた。

 

「構わん。何かあるのなら報告しろ」

 

 ガイアスは即座に剣を収め、声を張る。まるで戦闘など最初から無かったかのような落ち着きぶりだった。その振る舞いに、ジュードたちもつられるように臨戦態勢を解く。

 

「はっ! ハ・ミルがラ・シュガル軍に侵攻されました」

 

「なんだって!?」

 

 ジュードが声を上げた。胸の奥が冷たい手で掴まれたように縮む。

 

「村民の大半が捕らえられ、ラ・シュガルへ送られた模様。殺害された者も多数おります。そして、その場には大精霊の力と思わしき痕跡が多数ありました」

 

「大精霊……?」ガイアスの眉が動き、鋭い視線がミラへと注がれる。「四大精霊は二十年前から、召喚できなくなっていたはずだったな」

 

「……バカな」

 ミラの表情が凍りつく。胸に走る戦慄は、戦闘の疲労を凌駕するものだった。

「四大が解放されていれば感知できるはずだ。それとも、本当にクルスニクの槍の力……ナハティガルは新たな『カギ』を生み出したというのか!?」

 

「新たな『カギ』か……」ガイアスは短く考え込むと、決然とした声を放つ。「全ての部族に通告しろ。宣戦布告の準備だ。我が民を手にかけるものは何人たりと許しはしない!」

 

 その言葉は玉座の間を震わせる雷鳴のようだった。彼は迷わず踵を返し、背を向ける。王として次に成すべきことを、誰よりも早く見据えているのだ。

 

 ジャオも無言でそれに従った。

 

「あ、ちょっと!?」

 

 レイアの抗議の声も虚しく、二人の背は扉の奥へ消えていく。

 

「行ってしまいましたね……」

 

 マシュが静かに呟く。

 

「助かったと言えば助かった訳だけど……どうする? ミラ」

 

 ジュードが不安げに振り返る。その視線を受けたミラもまた、「うむ……そうだな」と答えを探すように瞳を伏せた。

 

 だが、その静寂を破ったのは別の声だった。

 

「……さて。あなたたちはもう用済みになってしまったが……陛下が精霊マクスウェルを得たとなれば、反抗的な部族も従わざるを得ないだろうか」

 

 ウィンガルが鋭い眼光を向けてきた。

 

「あら、それは楽しそう」

 

 プレザが唇を歪め、愉快そうに笑う。

 

「なっ?!」

 

 新たな戦いの気配にレイアが驚き、ミラが歯噛みする。今の身体では長く戦えないのにと。

 

「……これより、撤退行動に移ります」

 

 するとその場に響いたのはマシュの冷静な声。彼女は素早く懐から小さな球を取り出し、床に叩きつけた。

 

 瞬間、白い煙が爆ぜるように広がり、謁見の間を覆い隠す。

 

「なにっ!?」

 ウィンガルの怒声。

 

「ちょっと、何よこれ!?」

 プレザが視界を奪われ、苛立ちを露わにする。

 

「いいぞ、マシュ」

 ミラが感嘆の声を漏らす。

 

「とにかく逃げよう!」

 ジュードが皆を促し、白煙の幕の中へと駆け出す。

 

 こうして、ジュードたちは再び追われる身となったのだった――。

 

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

  • 1000文字以内
  • 1~2000文字以内
  • 2~3000文字以内
  • 3~4000文字以内
  • 4~5000文字以内
  • 5000文字以上
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。