足を踏み入れた途端、灼けるような熱気が全身を包んだ。
赤熱した鉱石が地面から突き出すようにそびえ、薄暗い洞窟内を不気味に照らしている。岩肌は黒く焼け焦げ、足元にはところどころ溶岩の痕跡のような赤い亀裂が走る。空気は重く、熱気が肌にまとわりつく。先へ進むにつれて視界の奥にゆらめく炎が見え、洞窟の深部から放たれる熱が音もなく押し寄せてくる。静寂の中に微かに耳鳴りのような地鳴りが混じり、ここが生きた大地の内側であることを実感させた。
「暑っ! 外なんか目じゃないくらい暑いし、むしろ熱いんだけど!?」
レイアが汗を拭いながら声を上げる。
先を行くアルヴィンが肩越しに笑った。
「そりゃあ、火山から直でマグマが流れてきてるしな」
「それでここを抜けると寒くなるんでしょ? あ~、それを考えると今から寒……くなる訳無いね! めっちゃ熱い!!」
大仰に騒ぐレイアにジュードは呆れてしまう。
「あはは……」
「ともかく、先へ進もう」
ミラは熱気に揺らめく空気を切り裂くように進む。
だが、その行く手に異様な気配が満ち始めた。
赤熱する地面の向こうから、唸りをあげる影が現れる。
突如、地を揺るがす咆哮とともに現れたのは、全身を業火に包まれた獣だった。漆黒の体躯は猛々しく、鋭く伸びた爪はまるで溶けた鋼のように灼熱の輝きを放っている。炎の隙間から覗く双眸は深紅に染まり、獲物を逃がすまいと鋭く光っていたと、その姿はまさに“炎の魔獣”と呼ぶにふさわしい。
その近づくだけで空気が焼け、肌が焦げるような錯覚に囚われる獣を前に、各々が警戒し身をこわばらせていた。
「おやおや? 何ですかね、あの魔物は」Xが目を細める。
「まさか……ファイアティグルか?!」アルヴィンの顔に険しさが走った。
「ファイアティグル?」ジュードが聞き返す。
「ああ。この辺りに生息してるっていう魔物だよ。……ったく、入った時に注意しとくの忘れてたぜ」
しかしミラは一歩も退かず、冷ややかに見据える。
「問題あるまい。戦力は充実しているのだからな」
「うん。気を抜かずに行こう!」ジュードが拳を握りしめた。
◇ ◇ ◇
戦いは熾烈を極めた。
牙が閃き、炎が洞窟を焼き尽くす。岩を砕く衝撃音が響き渡り、熱風が渦を巻いて押し寄せる。
ジュードは息を切らしながらも、仲間と連携し一撃を放つ。ミラの冷徹な指示、アルヴィンの銃声、レイアの果敢な突進――それぞれの力が火を纏う獣を追い詰める。
そして――最後の咆哮を残して、ファイアティグルは崩れ落ちた。
「敵勢力の沈黙を確認しました」マシュが淡々と告げる。
「ふ~。やれやれですね~」Xは額の汗を拭った。
「ま! こんな魔物、私たちの手にかかればへっちゃら――」
誇らしげに胸を張ったレイアが、勢いよく前へと踏み出す。
「待て、レイア!」ミラの声が鋭く響いた。
「え?」
彼女が振り返った時にはもう遅かった。奥の闇から金属の靴音が響き、数人の影が姿を現す。赤い熱気の中で甲冑の表面が鈍く光っていた。
「な、なんだお前たちは!?」兵士の一人が声を荒らげる。
「えっ!? なんでここに兵士が……まさか、私たちを追って!?」
レイアの顔から血の気が引いていく。
「追って?」兵士は目を細め、背後に控える二頭のワイバーンを見やった。
「……そうか! 後ろのワイバーンを見るに、貴様ら、カン・バルクから逃亡したという者たちだな!」
「あらら……もしかして今の、言わなきゃバレなかった感じですかね?」Xが苦笑する。
「あ、ごめん……」レイアは縮こまった声を漏らす。
「謝っている暇はないぞ!」ミラが叫ぶ。
「まずはこいつらを何とかせねば!」
灼熱の洞窟は、さらに不穏な戦火へと包まれていくのだった。
◇ ◇ ◇
「ふぅ……なんとか、なったけど……」
拳を下ろしながら、ジュードは肩で息をついた。焼け焦げた空気が肺を満たすたびに、胸の奥が熱く痛む。
「何故、先回りされていたのでしょう?」
マシュが冷静に問いを投げかける。その目は兵士たちが去った跡を鋭く探っていた。
「確かに」Xが首を傾げる。「後ろから追いつかれた、というならまだわかるんですけどね~」
「そうだよね」ジュードが眉を寄せる。「僕たちを追ってきたにしては兵士の人たち、レイアが口にするまで僕たちが逃亡者だって気付いてなかったみたいだし」
「はい」マシュは頷く。「どちらかと言えば、ここに立ち寄ったら偶然私たちと鉢合わせした――という風に見えました」
「だよね……」
ジュードは熱気に霞む天井を見上げ、小さく息を吐いた。
「とにかく、先へ進めばわかるだろう」
一方のミラは断言し、剣を鞘に納める。
「だな。なら、さっさとこんな暑い所から出ようぜ」
アルヴィンが汗を拭いながら苦笑する。
「うん……そうだね」ジュードも同意した。
仲間たちが足早に奥へ進んでいく。
その後ろで、ただ一人レイアは立ち止まった。
「……あ~、もう~、またやっちゃった……」自分の失言を思い出し、頬を押さえてうつむく。「……これじゃあ、助けるどころの話じゃないよ……」
小さな声は灼熱の空気に溶け、誰の耳にも届かぬまま、彼女は慌てて仲間の背を追った。
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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