フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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――そして彼女は揺るぎなき信念を示す――
決戦


 ──翌日。

 といっても、沈んだ朝日が昇ったわけでなく、ただそれだけの時間が経ったというだけのこと。

 

 濃い霧が立ち込めるファイザバード沼野は、まるで世界そのものが呼吸を潜めているかのように静まり返っていた。視界は白く濁り、足元さえおぼつかない。ぬかるんだ大地は踏みしめるたびにぐしゃりと音を立て、湿った空気が肌にまとわりつく。

 

 ジュードはしばらく黙って霧の向こうを見つめていたが、やがて吐息を漏らした。

「……思ったより視界が悪いね。敵がどこにいるのか、全然わからない」

 

 彼の言葉どおり、わずか数メートル先さえ霞んで見えない。何が潜んでいるのかもわからないこの濃霧は、敵兵以上に不気味だった。

 

 アルヴィンが肩をすくめる。

「迂回して、安全なルートを探すか?」

 

 ジュードはすぐに首を振った。

「ううん。直線に駆け抜けよう。それが一番早いと思う」

 

 その決断は、無鉄砲に聞こえるかもしれない。しかし今は、一刻を争う状況だった。

 

「大丈夫ですかねぇ?」

 軽口を叩くXの声音には、普段よりも張り詰めた色が混じっていた。

「な~んか、嫌な予感がするんですよね~」

 

 彼女の不安をかき消すように、レイアが声を張る。

「だ、大丈夫だよ。ジュードが言うんだもん」

 

 無理やりの笑顔。しかしその拳は小さく震えている。

 

「恐れるな」

 ミラが静かに言い放った。鋭い眼差しは霧をも貫くかのようで、その声音は胸にまっすぐ響く。

「今、最も恐れるべきは、人間と精霊の命が脅かされることだ」

 

「ミラ、かっこいい!」

 レイアの顔が少し明るむ。

 

 そのやり取りを鼻で笑い、背後から低い声が響いた。

「逸る気持ちを抑えられぬ者は、戦場では早死にすると相場は決まっているがな」

 

 霧を割って現れたのはガイアスだった。

 

 ミラは鋭く睨み返し、薄く笑う。

「なら、その相場を変えてやるとしよう。お前が以前、私に示そうとしたようにな」

 

「口の減らぬ女だ」

 わずかに口元を緩めながらも、ガイアスの眼差しは鋭さを失わない。

「──それより騎士王(セイバー)。貴様の本体はこちらへ来るのか?」

 

 Xは頭をかき、困ったように笑う。

「いや~、それがどうやら、ガンダラ要塞がナハティガルの息のかかった者たちに封鎖されちゃったみたいでして。こちらに来るべきか悩んでるんですよ」

 

「悩む?」ジュードが首を傾げる。

 

「ええ、まぁ。このままこっちに来れば、ガンダラ要塞の部隊がカラハ・シャールに向かいかねませんからね。今のドロッセルさんじゃ、とても対処できないでしょうし」

 

 その答えにガイアスの目が細まる。

「ほう? 聞いていた人物像とは少し違うな。奴は他者などどうでもいいと、我が道を行く者では無かったのか?」

 

 ジュードははっとした。

「あ、そういえば……」

 

「まぁ、その辺は色々ありまして……」

 Xは口を濁し、わざとらしく肩をすくめる。

「っと。アルトリアちゃんから余計なことを言うなって釘を刺されたんで、この話はここまでで」

 

「……ふん、まぁいい」

 ガイアスは鼻を鳴らし、背後の戦場を見やった。

「奴が来ないのであれば、勝機は我らにあると言っていいだろう」

 

「では我々は、このままクルスニクの槍を目指すということでよろしいですね?」とX。

 

「構わん。ただし、この視界の悪さだ。敵味方の判断を誤り、我が軍の襲撃や、流れ矢に遭う恐れがあるが……こちらとしてはどうしようもない。そちらで対処するがいい」

 

「うわ~、投げやり~。いや、この場合は投げ“矢”かな?」

 レイアが茶化すと、ガイアスは冷たい視線を投げかける。しかし彼女は怯まず、無視してジュードたちを見つめる。

 

「……それにしても、マシュは大丈夫かな?」

 ふと不安を口にするレイア。

 

「仕方ねぇさ。体調不良だってんだからな」

 アルヴィンの声はあくまで軽い調子だが、その眼差しはどこか怪しい色を映していた。

 

 ジュードが小さく呟く。

「……もしかしたら、増霊極の影響もあるのかもね」

 

「あぁ、なるほど」

 

「……」

 

 ジュードの言葉にレイアは頷くが、アルヴィンは顔を伏せている。

 

「……む? どうやら、戦いが始まるようだ」

 ミラの鋭く伸びる視線の先、霧の帳がざわめいた。

 

 次の瞬間、戦場は炎と叫びに包まれた。

 

 濃霧を裂いて進軍するラ・シュガル軍。その中に混じる黒匣の兵器が不気味な光を放ち、次々と精霊たちの悲鳴を生み出していく。

 

「くっ……ここからでも分かるほどに、精霊が死に絶えていっている……」

 ミラの声には焦りと怒りが滲んでいた。

 

「黒匣……」

 ジュードの胸に重い痛みが走る。

 

「なるほど、大した力だが……それほどの力に瑕瑾がないはずもない、か」

 ガイアスは冷静に戦場を見据えた。

 

「とにかく止めさせないと!」

 レイアが叫び、武器を握り直す。

 

「行こう、みんな!」

 ジュードの声が仲間たちの心を一つに束ねる。

 

「ああ──クルスニクの槍を破壊する!」

 ミラの叫びとともに、彼らは霧の向こうへ駆け出した。

 

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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