フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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四象刃の戦い

 ラ・シュガル兵との激しい連戦を潜り抜け、疲労の色を隠しきれないままジュードたちはさらに霧深き沼地を進んでいった。

 その先で、不意に轟く衝撃音と鋭い怒声が混じり合い、戦場のざわめきが耳に飛び込んでくる。

 

 視界を切り裂くようにして、巨大な槌と精霊術が宙を舞った。

 

「……あれは」

 ミラの目が細められる。

 

「四象刃(フォーヴ)だ!」

 ジュードの声が緊張を帯びた。

 

 霧の中で躍動する影──ジャオとプレザだった。

 ジャオは血を求めるかのように荒々しく笑い、土を振るうたびに兵士たちが薙ぎ倒されていく。

 

「まだ増えるか……。アグリアは合流できそうにないのう」

 彼の言葉は嘆きというより歓喜に近かった。

 

「ああ、たまんない。じらさないでよ、ウィンガル」

 プレザは蠱惑的な笑みを浮かべ、手をしならせる。その頬には紅潮がさし、血と火花の匂いすら愉悦に変えているように見えた。

 

 一方で、ウィンガルの視線は冷徹だった。戦況を俯瞰するその双眸は、群れを統率する一点に鋭く突き刺さる。

「奥の赤い鎧……あれが指揮官だな」

 

「よし!」

 ジャオが咆哮と共に土を構えたその瞬間──

 

「敵は三人だというのに、何をしている!」

 赤い鎧の兵士が声を張り上げ、兵たちを奮い立たせる。

 

「気に入らないな、そういう姿勢は」

 ウィンガルは唇に冷たい笑みを刻み、矢のように駆け出した。

 

「またそうやって先走るんだから……嫌いじゃないけどね」

 プレザが甘い声で追随し、その後ろ姿を追いかける。

 

 しかし二人の突撃は、瞬く間に敵兵に囲まれた。鋼鉄の靴音が重なり、沼地の水飛沫が四方に散る。

 

「邪魔しないで」

 プレザは精霊術を行使し、迫る刃を弾き返す。

 

「女だ、女を狙え!」

 赤い鎧の兵士が叫んだ途端、兵士たちが一斉に彼女を取り囲もうとした。

 

「ぐおおおおおおっ!」

 その輪を破ったのはジャオだった。大地を揺らすような咆哮と共に、巨槌が唸りを上げる。人垣が崩れ、赤い血潮が霧に溶けていった。

 

「なにっ!?」

 驚愕の声を漏らす赤い鎧の兵士。

 

「久々に血が騒ぐのぉ!」

 狂喜の笑みを浮かべるジャオ。その姿はもはや獣に近い。

 

 その一瞬の隙を、ウィンガルは見逃さなかった。

「──王手(チェック)」

 風のごとく舞い上がり、赤い鎧の兵士の喉元に刃を突き立てる。

 

「ぐわっ!!」

 悲鳴をあげて倒れる兵士。その赤は血か、鎧か、もはや判別がつかなかった。

 

「失礼。王と呼ぶには、相応しくなかったな」

 吐き捨てるような一言に、静寂が戦場を支配する。その静けさを破ったのは、ミラの冷ややかな声だった。

 

「流石だな」

 

「来たか、マクスウェル」

 ウィンガルが霧の向こうから視線を投げる。鋭い眼光はまるで試すようにミラへと注がれていた。

 

「アル……」

 甘い吐息のような声で名を呼んだのはプレザだった。その視線の先にはアルヴィンの姿。

 

「よっ。元気そうで何よりだな」

 軽口を叩くアルヴィンの笑みは、どこかぎこちない。

 

「……気安く話しかけないでちょうだい」

 プレザの瞳は冷え切ってすぐさま視線をそらしてしまう。

 

「あっそ」

 一方のアルヴィンは、その顔に陰りを見せる。

 まるで彼女に罪悪感があるとでもいうように。

 

「あれ? アルヴィン君、プレザと知り合いだったの?」

 そんな二人の振る舞いに、怪訝そうに尋ねるレイア。

 

「知り合いじゃないわ。こんな奴」

 プレザは吐き捨てるように言った。

 

「だそうで」

 アルヴィンが肩を竦めると、レイアは困惑の眼差しをジュードへ向けた。ジュードもまた首を振る。彼にも事情はわからなかった。

 

 張り詰めた空気をさらに冷やしたのは、ウィンガルの低い声だった。

「戦場で出会った以上、貴様らを狩ったところでただの事故に見せかけられるが……」

 

「なっ!?」

 レイアが身を強張らせ、武器を握る。

 

「我々とやる気です?」

 Xが探るような口調で問いかけた。

 

「……冗談だ」

 ウィンガルの表情には笑みすら浮かばない。

「今、貴様らとやり合ったところで、こちらに利はない」

 

 その声音には、剣より鋭い冷徹さが宿っていた。

 

「クルスニクの槍はどこにある?」

 ミラが踏み込む。

 

「まだ情報は無い。だが、この戦況を変えるほどの兵器だというのなら、おそらくはこの戦場においてもっとも効果的な場所に配置するはずだ」

 

 そう言うとウィンガルは懐から紙片を取り出し、さらさらと何かを書き記してから無造作に投げた。湿った風に揺れながら、その紙はミラの手に収まる。

 

「これは?」

 

「丸印が今いる場所、そしてバツ印の場所が──」

 

「クルスニクの槍!」

 ジュードの声が震える。

 

「予想ではあるが、まず間違いない。他に戦況を一望でき、かつクルスニクの槍を据えられる広い大地は無いからな」

 ウィンガルの断言に近い言葉に、ミラが「そうか」と小さく頷いた。

 

「なら、急いで向かおう!」

 ジュードが声を上げると、ミラが応じる。

「ああ!」

 

 二人が駆け出そうとしたその時、プレザの声がジュードを引き留めた。

「気を付けなさい、坊や」

 

「え?」

 振り返るジュードに、プレザは意味深な笑みを浮かべる。

 

「アルはいつも誰かにすがって生きているの。母親のため、誰かのため──そう言いながら、結局は自分のために。今は……誰のために生きてるのかしらね?」

 

 その言葉は、鋭い刃のようにアルヴィンの胸を突いた。彼は口を開きかけたが、何も返せない。霧が流れる中、ただ沈黙が漂う。

 

「そう、私の時だって……」

 プレザの呟きに、アルヴィンの表情が歪む。

 

「問題は無い」

 ミラが静かに口を挟んだ。

「アルヴィンはこう見えて、可愛げのある、心根の優しい者だからな」

 

「おたく……っ!?」

 アルヴィンは顔を上げ、目を見開いた。ミラの無垢な肯定に、彼の胸の奥がかき乱される。

 

「ミラ……」

 ジュードもその言葉に心を打たれたように呟いた。

 

「ふ~ん……」

 プレザは退屈そうに鼻を鳴らす。

 

「さ、行くぞ。いいな、アルヴィン」

 ミラが背を向ける。

 

「……ああ、わかってるよ」

 アルヴィンは視線を落としたまま、仲間の背を追った。その瞳の奥で、プレザの言葉とミラの言葉がせめぎ合っていた。

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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