フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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ぬいぐるみの少女と大男

「ん? なんだ?」

 

 アルヴィンが眉をひそめて振り返る。

 

 ハ・ミルの村を後にしようとしていたジュードたちだったが、どこか空気がざわついていることに気付き、足を止めた。昨日来た時は穏やかだったはずなのに、人々の声が落ち着かず、妙な緊張感が漂っている。

 

 ジュードが目を凝らし、思わず声を上げる。

 

「あ、あれ!」

 

 彼の指差す先――村の入口には、鎧に身を固めた兵士たちの一団が立ち並んでいた。重々しい雰囲気をまとった彼らは、ラ・シュガル兵としか思えない。武器を携え、村の出入り口を封鎖するように陣取っていた。

 

 アルヴィンは苦々しく舌打ちする。

 

「マジかよ。もう来やがったのか。これ以上のんびりしてる訳にもいかなそうだな」

 

 マシュが冷静に周囲を観察しながら言葉を返す。

 

「しかし、国外捜査にしては色々早すぎませんか? あれからまだ日は経っていませんのに、もうア・ジュールに入国しているなどと。よほど危険な相手でしたら別ですが……」

 

「確かに」アルヴィンは肩を竦め、仲間を振り返る。「おたくらの罪状、研究所への侵入ってだけのはずだろ?」

 

「罪状って……まぁ確かにそうだけど」ジュードは気まずそうに答えた。

 

 胸の奥に不安が広がっていく。彼らがここまで早く動いているのは偶然なのか、それとも――。

 

「だが、尋ねるわけにもいかないからな。どちらにしても見つかる前に出よう」ミラは表情を変えずに断言する。

 

「ああ。村の西に出口があったな」アルヴィンが地図を思い浮かべるように目を細める。

 

「なら、急ごう」ミラが短く促す。

 

 ジュードたちは彼らの目を避けるように足早に村の西側へと向かった。

 

 胸の鼓動が速まる中、早くこの場を去ろうと気を配る。

 

 だが――。

 

 西の出口に辿り着いた瞬間、希望は打ち砕かれた。そこにも既にラ・シュガル兵の姿があった。武器を構え、まるで彼らが来るのを待っていたかのように。

 

「あらら……」

 

「向こうの方が先手だったようですね」

 

 アルヴィンが乾いた声を漏らすと、マシュが険しい目をする。

 

「どうすっよ?」アルヴィンが低い姿勢で兵士たちの視界から隠れていた仲間へ問う。

 

「無論、強行突破だ」ミラはすぐさま立ち上がり、揺るぎない瞳で敵を見据えた。

 

「マジで?」

 

「確かにこれ以上、集合される前に抜けるのも手だと思いますが……」

 

「今の僕たちの戦力でいけるかな?」

 

 ミラの言葉に各々の反応を示すジュードたち。

 

 しかし、「いけるかどうかではない。やるのだ」と、ミラの答えは変わらない。

 

「ミラ……」

 

「うわ~強引だこと。とはいえ、おたくの言う通りだな」

 

「了解しました。戦闘モードに移行します」

 

「が、頑張らなくちゃ……ん?」

 

 アルヴィンが苦笑交じりに腰を上げ、マシュも静かに盾を構えると、ジュードもまた覚悟を決めて立ち上がる。

 

 そうして戦いが避けられないとなった中――ふと、傍に気配を感じるジュード。

 

 振り返った先――そこには、この現場に場違いだろう小さな影が立っていた。

 

「あ、あの……」

 

 声を発したのは、まだ十歳を少し過ぎたばかりに見えるぬいぐるみを抱いた少女だった。

 

 淡い金の髪は波打つ糸のように肩にかかり、翡翠色の瞳はくりくりと大きく幼さからくる愛らしさがあった。紫と薔薇色を基調としたドレスは、柔らかなフリルと鋭角な飾りが共存する不可思議な意匠で、膝下まで伸びた衣の裾はまるで花弁のように揺れ微かにきらめいている。

 

 そして、彼女が抱くぬいぐるみ。小さく丸いその体は、紫と桃色のまだら模様に覆われ、胴体部分には菱形が整然と刻まれている。ちょこんと生えた耳、そしてくりくりとした瞳で構成された体は、人によっては愛らしいともとれるが、人によっては不気味さともとれる奇異さがあった。

 

 そんな少女が翡翠色の大きな瞳を不安そうに揺らしながら、ジュードたちを見上げていた。

 

「あれ? 女の子? いつの間に……」

 

 ジュードが思わず声を漏らすと、アルヴィンは顔をしかめた。

 

「ヤベッ。変なところを見られちまったな」

 

 軽口の裏に、警戒心が滲むアルヴィン。

 

「ですが、この方……町ではお見かけしませんでしたね」

 

 一方で、マシュが目を細めて少女を観察する。

 

「あ、あの……なにしてる……んですか?」

 

「うむ。邪魔な兵士をどうするか考えているところだ」

 

 而してミラ、やはりというか何というか、何を気にした風もなく言い切った。

 

「……直球だね」

 

「事実だけどな」

 

 ジュードが苦笑すれば、アルヴィンは肩をすくめて応じる。

 

 少女は小さな唇を結ぶと、抱きしめたぬいぐるみをさらに強く握りしめた。

 

「あの人たち、邪魔……なんですね」

 

 次の瞬間、ぬいぐるみが大きな口を開き、ふわりと浮かび上がった。

 

「えっ?!」

 

「ほう? あのぬいぐるみ、飛ぶのか」

 

 ジュードの戸惑いを他所に、ミラが感想を漏らすもどこかズレている。

 

「いやいや! 普通のぬいぐるみは浮かねぇから!」

 

 アルヴィンが即座にツッコミを入れるが、その声には動揺が隠せない。

 

「これは……」

 

 そうして、各々が違う反応を示す中、ぬいぐるみは宙を泳ぐように飛び、村の入り口を塞ぐラ・シュガル兵へと突進していった。

 

「うわ! なんだこれ!」

 

 兵士たちは慌てふためき、跳ね回るぬいぐるみに翻弄される。

 

「うわ~、効き目抜群~」

 

「だね……」

 

 兵士の様子を呆れて見つめていたジュードたちだが、安堵したのも束の間――。

 

「ここで何をしておる!」

 

 野太い声が響き、視線が一斉に声の主へと向かう。

 

 そこに現れたのは、力強く隆々とした逞しい体躯を持つ髭面の大男。極寒の大地に君臨する王のような風格、身を包むのは、金色に輝く厚手のコート。裾や袖口には白銀の毛皮があしらわれ、厳しい寒さをものともしない重厚な佇まいを形作っている。

 

 黒と金の模様が施された衣装は、彼の地位と誇りを示しているようで、豊かな黒髪と長い顎鬚は堂々と垂れ下がり、額には緻密な模様が刻まれた冠のような飾りを載せている。糸目であるが故、目は口ほどにも物は言わないものの、それでも見つめられた者が気圧される程度の恐ろしさだけは感じてしまう。

 

 そして、彼の手には、常人では到底扱えぬほど巨大な鎚が立てかけられている。その柄は太く長く、柄頭には装飾が施され、先端には岩のように巨大な頭(かしら)が据えられていた。力と威厳の象徴とも言えるその武器は、まさに彼がただ者ではないことを物語っている。

 

「こら、娘っ子。小屋を出てはならんというに」

 

 男の言葉に、少女が小さく肩をすくめる。

 

 大男は大きく嘆息しながら、憤然とラ・シュガル兵へと視線を投げた。

 

「まったく……ラ・シュガルもんもラ・シュガルもんよ。何故こんな辺境の町に来よったんじゃ? 勝手な真似をしおって。これでは娘っ子も安心して過ごせんではないか」

 

 そう言うなり、大男はジュードたちの前を豪快に通り抜け、兵士のもとへと向かっていった。

 

「あの人は一体……」

 

 突然の出来事に息を呑むジュードだが、その隙をついて、少女はぬいぐるみを手元に戻して抱きしめ直すと、慌てて村の方へと駆け戻ってしまった。

 

「あ……」

 

 ジュードは思わず呼び止めようとしたが、既に声が届かない所にまで走っていた。

 

 一方、大きな音が響き目をやると、すでに大男が大きな槌で兵士たちを薙ぎ払っていた姿があった。

 

「他愛ない」

 

 短く言い放ち、大男は悠然と戻ってくる。

 

 だが、そこに少女の姿はない。

 

「ん? 娘っ子は、どこに行った?」

 

 怪訝そうに問われ、ジュードは慌てて指を差した。

 

「えっと……広場の方に……」

 

「なに? い、いかん!」

 

 大男は顔色を変えると、慌ただしく駆けだした。

 

「お前たち、よそ者だな。なら、とっとと行ってしまえ」

 

 そう言い残し、大男は少女を追うように村へと消えていく。

 

「……よくわかんないけど、手間省けたみたいだな」

 

「確かに。我らの痕跡を残さなくて済みましたし」

 

 苦笑いするアルヴィンに、マシュも冷静に頷いた。

 

「だね……」

 

「何でもいい。それより、早く行くとしよう」

 

 こうして起きた事象にも、特にミラは変わらないとばかりに冷静に言葉を発すると、彼らは再びニ・アケリアを目指すべく足を進めた。

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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