フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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キジル海瀑での大騒動 後編

「……ふぅ。終わったな」

 

 湿った空気の中、倒れ伏す魔物の躯が岩肌に溶け込むように変じ、ただの瓦礫のように崩れ落ちていく。

 

「そうだな」

 

 剣を収めたミラの横顔は、戦いの余韻を微塵も残さぬ静けさをたたえていた。

 

「それにしても、魔物が岩に擬態してたのか。よく気づいたな」

 

 感心したように言葉を漏らすアルヴィン。その視線の先には、冷静に辺りを見回していたジュードが立っていた。

 

「昔、医学校に居た頃に勉強したんだ。魔物の生態を知っておけば、どんな事態が起きても対処できるって習ったからさ」

 

 彼の声には誇りというよりも、むしろ淡々とした実感が滲んでいた。まるで当たり前のことを口にしているかのように。

 

「それで、あのような魔物の知識まで?」

 

「うん」

 

「へ~、そりゃ勤勉なことで」

 

 軽口を叩きながらも、アルヴィンの瞳の奥には純粋な感心があった。まだ若いはずの少年が、ここまで状況を見極めて動けるとはと言わんばかりに。

 

「魔物があの女でなく、真っ直ぐお前たちに向かうとは考えなかったのか?」

 

「それでもよかったんだ。そうすれば、アルヴィンがあの人の死角に入れる位置だったからね」

 

「すごいな。あの一瞬でそこまで……」

 

 そうしてジュードの意外な才覚にミラ。

 

「大したものだ。改めて礼を言おう。ありがとう、ジュード。アルヴィンも」素直な感謝を口にしている。

 

「ど、どういたしまして……」

 

 真っ直ぐに向けられた感謝に、頬が赤く染まるジュード。素直に受け止めきれずに、目線を逸らしてしまうのはまだ少年だからこそだろうか。

 

「まぁ、俺は銃を撃っただけだけどな」

 

 一方、軽く肩を回しながら言うアルヴィンに対し、ふとあることが気になったと滝つぼに視線をやるジュード。

 

「って、そうだ。さっきの人は?」

 

「優等生。悪い奴まで気にしてたら、日暮れるぞ」

 

 しかし、既に彼女の姿は見受けられず、そもそもアルヴィンの言葉も最もだといえる。

 

「それはそうだけど……」

 

 とはいえ、それでもまだ諦めがつかないとばかりに滝つぼを見やるジュードにマシュ。冷静にジュードの心境を口にする。

 

「ジュードさんは医者志望だったとのこと。それ故の行動でしょうか?」

 

「う~ん……どっちかっていうと、ナイチンゲール先生だったら滝つぼに飛び込んで助けに行くんだろうな~って、思ったからかも?」

 

 口にした人物の姿を不意に思い浮かべ、どこか苦笑いしたような笑みを携えるジュード。

 

「ナイチンゲールって、あのファイザバードの天使?」

 

 一方、その人物に思い当たる節があったとアルヴィンが驚きながら問いかける。

 

「うん。本人はそう呼ばれるのは嫌ってるみたいだけどね」

 

「会ったことあんのかよ……って、まぁ、医学校に通ってればそいつの授業を受けることもあるよな」

 

 軽く驚きを隠しきれないアルヴィン。だが、ミラはただ真っ直ぐに問いを投げる。

 

「誰だ?」

 

「僕の医学校の先生だよ。二十年前に起こったラ・シュガルとア・ジュールの戦争を止めた、僕の尊敬する人」

 

 その言葉に、ミラの眉がわずかに動く。

 

「医者が戦争を止めただと?」

 

「そ。やべぇよな。津波で泥沼状態だった戦場に単身乗り込んできて、敵も味方もお構いなしに制した挙句、無理矢理停戦協定を結ばせてさ」

 

「津波……」

 

 津波という言葉が彼女の胸に何かを呼び起こしたようだが、すぐさまジュードが口にした言葉で掻き消えてしまう。

 

「そういえば――ちょっと、ミラに似てるかも?」

 

 唐突な一言に、ミラが目を瞬く。

 

「私に?」

 

「うん。自分のやるべきことに真っすぐなところとか」

 

「あ~、何となくわかる。おたく、あんな状況なのにあの女に屈しなかったもんな」

 

 それは謎の女性に拘束されていた際のミラの一言。

 

 そのなすべきことが未だ曖昧なれど、ラフォート研究所に無断で侵入したりするぐらいには彼女にとって大きい事柄の、そのためにはこの命なんか捨ててもいいと言わんばかりのあの振る舞いのこと。

 

「当然だ。私が折れる訳にはいかん。精霊の主として、リーゼ・マクシアを見守る者としてな」

 

 その言葉は強く、揺るぎなかった。

 ジュードは思わず小さく笑みを零しながら、しかし同時に自分の未熟さを痛感する。

 

「すごいな~。……僕にはちょっと無理かも。あんな状況でも自分を貫くことなんて」

 

「……ふむ。やる前から諦めていては、確かに君には不可能かもしれないな。……だが、やってみれば案外簡単に結果が出ることはあるものだ」

 

「ミラ?」

 

「だから、とにかくやってみればいい。そのままの君で。それで、君のなすべきことが見えてくるかもしれない。無論、今からでもな」

 

 彼女の言葉は叱咤でありながらも、温かな激励に満ちていた。ジュードの胸に静かに染み込んでいく。

 

「僕のなすべきこと……」

 

 小さく繰り返すその声は、まだ答えを見つけられない少年の弱さを孕んでいた。

 

「ま、いきなりマクスウェル様のようにはなれねぇだろうからさ。慌てなくてもいいんじゃね? それが若さっていう特権でもある訳だし?」

 

「若さって……ちなみにアルヴィンには、なすべきことってある?」

 

「さて、な。そもそも、あるって言ったら余計迷うだろ。ジュード君」

 

「え?」

 

「僕も決めなきゃ~ってな」

 

 軽口めいた言葉に、ジュードの顔がむっと強張る。真剣な問いを茶化されたことが、どうしても引っかかるのだ。

 

「――ふっ。まぁ、ほら、こんな所で長話もなんだし。先進もうぜ」

 

 表情を取り繕い、わざと軽い調子で促すアルヴィン。

 

「そうだな」

 

「――うん」

 

 そうして、一行は歩みを進める。水飛沫がの立ち込める海瀑を抜け、目指すはニ・アケリアだ。

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

  • 1000文字以内
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