ようこそニ・アケリアへ
街道を抜けると、小さな村が視界に広がった。
緩やかな丘が広がる大地には、木と土で作られた独特な建物が点在しており、中心には渦を巻くような装飾が施された丸みを帯びた大きな建物がいくつも点在していたと、まるで自然と調和するように大地に根を下ろしているかのようだった。
空は晴れ渡り、遠くの空には鋭く尖った岩山が天を突き刺すようにそびえ立っている。山のふもとには青々とした森が広がり、命の息吹を感じさせると、静かな村の中には、人々の暮らしの営みが穏やかに流れており、どこか懐かしく、そして温かい空気が漂っていた。
「到着だ」
そんな村の入り口付近には、赤と白の布が風にはためく木製のアーチが立っており、その下をくぐるように村に入った先頭を歩いていたミラが、短く告げる。
「ここが……」
ジュードは、目を見開きながら村の様子を眺めた。
「へぇ。意外と普通の村だな」
「一体、どんな光景を望んでいたのやら」
アルヴィンの軽口にマシュが冷静に答えると、ジュードは気まずそうに「あはは……」と頬を掻く。
そんな彼らに構わず、ミラは村の老人に声をかける。
「すまない。イバルかジャンヌはどこにいる?」
「ん? イバルならマクスウェル様を追って……って、マクスウェル様?!」
老人は振り返り、ミラの顔を目にした瞬間、大げさなほどに驚き、次の瞬間には膝をついて深々と頭を垂れた。
「うむ。今戻った」
ミラが堂々と頷くと、周囲にいた村人たちもざわめき、次々と駆け寄ってはひざまずく。
「マクスウェル様!」
「マクスウェル様、お帰りなさいませ!」
敬意と畏怖の入り混じった声が、村の広場に響き渡る。
「やっぱ、本物なんだな~。ちょっと疑ってたんだが」
アルヴィンは軽口にように現状の感想を呟き、隣のジュードが苦笑する。
「まぁ、いきなり言われたら誰だってね」
ミラは静かに視線を村人たちへ向け、落ち着いた声で言った。
「緊張するな。普段のとおりにしていればいい。それよりもイバルは、今いないと言ったか?」
「は、はい! いつもより戻りが遅いと心配して……」
老人が慌てて答える。
「そうか。相変わらず短気だな。では、ジャンヌは……」
その時、甲高い声が割って入った。
「ミラ様!」
「ん? おお、ジャンヌか」
駆け寄ってきたのは、まだ年若い少女だった。
金色の髪はしっかりと編み込まれ、黒いリボンで結ばれており、華やかでありながらも、戦場に立つ者としての気高さと力強さを感じさせる姿の彼女。
額を覆う冷たい銀の仮面、鋭く光る青い瞳、全身を纏う深紫のローブ、装飾が施された胸当てや籠手、膝当ては、まるで夜の闇と月光を体現したかのようで、おかげで優雅さと鋼鉄のような意志が共存するその佇まいは、見る者の心を奪わずにはいられない。
その鋭く澄んだ瞳には、信念と覚悟、そしてミラに対する敬意と忠誠が宿っていたと、彼女は迷いなく膝をついて頭を垂れる。
「我が主よ。無事なご帰還、心よりお喜び申し上げます」
「残念だが無事とは言い難い」
「――と、仰いますと?」
ようやく帰ってきたミラの不思議な言葉に流石に顔を上げる少女――ジャンヌ。
「私は、これから社で四大の再召喚の儀式を行う」
ミラの口から告げられた言葉に、ジャンヌの顔が戸惑いの色で染まってしまう。
「四元(しげん)精来還(せいらいかん)の儀、でしょうか? 何故、四大様を呼び出す儀式などを?」
「すまないが、話は後だ」
一瞬だけ迷いを見せたものの、ジャンヌはすぐに頭を下げ、毅然と答えた。
「……承知いたしました。主の意向は我が意向。すぐに準備をして参ります」
「頼む」
少女は立ち上がり、裾を翻して走り去る。その背を他所にミ、ラが周囲に視線を送る。
「手を止めさせてすまなかったな。お前たちもお前たちの営みに戻るといい」
「はい。我らのことを考えてのお言葉、ありがたく頂戴いたします。それではミラ様」
ミラの言葉を受けた村人たちもまた深く頭を下げると、やがて散り散りに持ち場へ戻っていった。
「……うへ~。何か急に話が進んだな」
アルヴィンが頭をかき、ジュードも小さく頷く。
「だね。……ねぇ、ミラ? さっきの人って?」
「あいつはジャンヌ。私の巫子(みこ)だ」
「みこ?」
「確か、ミラのお世話をしてくれる人だよね?」とジュードが確認し、ミラが頷く。
「ふ~ん。まぁ別嬪さんの付き人が別嬪さんってのは悪くはねぇけど。さっき言ってたイバルってのも巫子な訳?」
「そうだ。イバルが最初の私の巫子。ジャンヌはその後の巫子だ」
「そっか。……って、マクスウェルのお世話係が一人な訳ないよね」
「それもそうだな」
他愛ない疑問のための言葉を交わし終えたところで、タイミングを計ったように再び声がかかった。
「ミラ様」
先ほど慌ただしく去って行ったジャンヌだ。
「準備ができました。後は世精石(よしょうせき)をご用意いただければすぐにでも」
「そうか」
ジャンヌの報告に頷いたミラは、ゆっくりと振り返り、ジュードたちへと視線を向けた。
「悪いが少し手伝ってもらえないか?」
「え? 僕たちで何か手伝えるの?」
突然の頼みにジュードが首を傾げる。てっきりこのまま、ジャンヌが何かをするのだと思っていたからだ。
「祭事には縁がないんだがなぁ」
アルヴィンは肩をすくめ、少しおどけた調子でぼやいた。
「そんなに難しいことはない」ミラは落ち着いた声で言葉を続ける。「村には四つの祠があり、そこには世精石という物がある。祭事用にと祀っているらしいが」
「それをすべて、ミラの言ってた社まで運べばいいの?」
「うむ。緊急事態だと言えば、快く譲ってくれるだろう」
ジュードの確認に、ミラは短く頷いた。
「ちなみに、その世精石ってのは何もんなんだ?」
アルヴィンが眉を上げて疑問を口にすると、マシュが即座に説明を引き継ぐ。
「霊勢の整った場所で、わずかな属性の偏りから生み出される物だったはずです。だからこそ、四大精霊召喚の儀式に適しているのでしょう。そのような目的でここに来ていたとは存じ上げませんでしたが」
「うん。とっても珍しいから、コレクターの間では高値で取引されてるとか。それが4つもあるとか流石ミラの産まれた場所だね」
ジュードも補足するように微笑んだ。
「へぇ~」
マシュとジュードの言葉を聞いたアルヴィンは、どこか考え込むような表情を浮かべる。
「……盗んじゃダメだよ?」
その気配を感じ取ったジュードが、すかさず釘を刺した。
「わかってるって。マクスウェル様を敵に回すようなことはしないさ」
「まぁ、それは……」
ジュードが歯切れ悪く返すと、マシュが淡々と続けた。
「とはいえ、可能性は無いとは言い切れないのがアルヴィンでしょう」
「フォウ!」
フォウまで同調するように鳴くと、アルヴィンは苦言を呈するように返事をする。
「おいおい、お前らなぁ……。だけど、それなら村の奴に頼んでもいいんじゃないの? 別に俺たちじゃなくても……」
「さっきのを見たろう?」ミラは冷静に言い返す。「巫子以外は日頃、私とあまり接してないからな。あれでは全く話にならない」
「ふーん。ま、力仕事は男の役目かね」
「そうだよ、アルヴィン」
ジュードが笑い、場にわずかな和やかさが戻った、その時だった。
「……我が主よ。少し宜しいでしょうか?」
沈黙を破ったのはジャンヌだった。彼女は、先ほどからミラと親しげに会話をしているジュードたちをじっと見つめ、表情に硬さを宿している。
「どうした?」
「その……先程からあなた様に対し、馴れ馴れしい態度を取っているそちらの方々は……」
「うむ。紹介しておこう。ジュードにアルヴィン、それにマシュだ」
「……あ、どうも……」
ジュードがぎこちなく頭を下げ、
「よろしく」
アルヴィンは軽く手を上げ、
「お初にお目にかかります。Ms.ジャンヌ」
マシュは丁寧に礼を取った。
「彼らは私の窮地を救ってくれた者たちだ。くれぐれも邪険にはしないでほしい」
ミラの言葉に、ジャンヌの目がわずかに揺れる。やがて彼女は静かに頷き、深く膝を折った。
「なるほど、そのような方々でしたか。委細承知致しました。全ては御身の御心のままに」
再び恭しく頭を垂れ片膝をつく彼女の姿に、ジュードは少しばかり戸惑いつつ話を戻す。
「それじゃあ、世精石を探そう。村の中にあるんだよね?」
「ああ、四つ集めて社に運んでくれ。ちなみに社は村を抜けた先だ」
ミラの言葉にジュードが頷くと、ジャンヌがすぐに口を添えた。
「では、私は先に社に行っておりますので」
「ああ」
ジャンヌと別れを告げ、ジュードたちは村に点在する祠を巡り、世精石を探すために動き出すのだった。
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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