フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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四元精来還の儀

 世精石を全て集め終えたジュードたちは、ミラの案内を受けて村から少し離れた場所にある、ミラが生まれたという社へと足を進めていた。

 

 深い森の木々の合間、長い長い階段を上った先に現れたその建物は、ひっそりとした静寂に包まれながらも、確かに荘厳な気配を漂わせている。

 

 目の前に現れた丸みを帯びた重厚な建物。それは木々の隙間から差し込む柔らかな光に包まれており、建物の表面には、風と自然を思わせる滑らかな曲線が施されていたと、大地の神秘と一体となるような存在感を放っている。

 

 そんな建物を視界に入れつつ、荘厳な木製の門をくぐったジュードたちは、外界とは異なる空気を感じて気圧されたように息をのむ。

 

「この奥だ」

 

 一方、この光景には既に慣れたとミラが静かに告げ、先導する。

 

「ミラは、ここに住んでいるの?」

 

 周囲を見回しながら、ジュードが素朴な疑問を口にした。

 

「住んでいる、か。そう考えたことはないが、そういうことになるか」

 

 ミラは少し考え込み、あっさりと返答する。

 

「村以上に何も無いところだなぁ。ま、神秘的って言われりゃそうなんだろうけど」

 

 アルヴィンは肩をすくめ、社の質素な造りを見上げた。

 

「お待ちしておりました、我が主よ。既に準備は出来ております」

 

 扉が開き、ジャンヌが姿を現す。深く頭を垂れるその姿勢には、緊張と誇りが滲んでいた。

 

「分かった。では、儀式を済ませよう」

 

 ミラが頷き、社の中へと歩みを進める。

 

 中は、人が住んでいると聞かされていなければ信じられないほど殺風景だった。家具らしい家具はなく、円形の広間には、静寂が流れているだけ。奥には高く設けられた壇があり、左右には紫と金の装飾が施された布が垂れ、神殿のような荘厳さを醸し出している。

 

 背後の壁には巨大なタペストリーが掲げられ、その中央に描かれた文様は、まるで封印か祝福の象徴のように荘厳で神秘的で、左右に配置された炎の灯台がゆらゆらと揺れ、橙色の光が空間を優しく照らしている。

 

 天井から垂れ下がる布や装飾が風に微かに揺れ、静けさの中にも神聖な緊張感を生み出し、まるでこの場すべてが、何か重大な出来事の到来を待ち受けているかのような雰囲気に包まれていた。

 

 そんな中、四元精来還の儀など初めて目にするジュードたちは、ただ黙って世精石を規定の位置へと慎重に並べていく。

 

「これで、終わり?」

 

 準備を終えて、見てみたミラ。

 

「うむ」ミラは短く答えると、その場に胡坐をかき、深く息を吸い込んだ。「では始めるぞ」

 

 彼女が静かに目を閉じた瞬間、空気が震えた。社の中空に、赤・青・緑・黄の四色の魔法陣が現れ、互いに輝きを放ちながら回転を始める。

 

 直後、荒れ狂う風が吹き荒れた。

 

 ジュードたちは思わず手で身を守りながら、必死にその圧力に耐えている。衣服がはためき、床に置かれた供物までもが舞い上がる勢いだった。

 

 ――しかし、その直後。

 

「くっ!」

 

 世精石にひび割れが起き、同時にミラの体が弾かれるように床に手をつく。

 

「ミラ!」

 

「ミラ様!」

 

 中空からの圧力が消えたと駆け寄ったジュードがその体を支え、ジャンヌも慌てて傍に膝をつく。

 

 息を荒げながら身を起こしたミラは、苦しげに唇を噛みしめる。

 

「……っ、やはりダメか……」

 

 悔しさをにじませた低い声が、広間に落ちた。

 

「ミラ様!!」

 

 その時、社の扉が勢いよく開き、慌ただしい足音とともに、一人の男が社の中へ飛び込んできた。

 

 高く結い上げた、肩まで流れる銀白の髪。身にまとう白を基調とした装束には、深紅と墨のような黒が差し色となり、胸元や裾には複雑な文様が刻まれている。その意匠は装飾的でありながらも、戦士としての機能美を兼ね備えており、装束全体からは厳格さと格式を感じさせる。

 

 両肩には羽毛のような黒い装飾があしらわれ、まるで威厳を象徴するかのように首元を覆っており、そんな人間が突然社に入ってきたのだからと、ジュードたちは一体誰だと身構える。

 

「む? イバルか」

 

 一方、視線を上げたミラには思い当たる節があったと名前を挙げると、イバルと呼ばれた男は辺りに漂う異様な気配に眉をひそめつつ、真っ直ぐ彼女のもとへと歩み寄ってくる。

 

「ミラ様、心配いたしました」

 

 片膝をつきつつ言葉をかけるイバル。その声には動揺と焦燥が入り混じっていた。

 

「イバル。あなた今までどこへ行っていたのです? 割といつもの事ですが」

 

 すかさずジャンヌが問いただすが、イバルは鬱陶しそうに手を振る。

 

「うるさいぞ、ジャンヌ。それよりこれは何だ? 何故、四大様を呼び戻す儀式を行っているんだ?」

 

「それは……」

 

 ジャンヌは言葉に詰まり、視線をミラに送った。彼女自身、詳しい事情を聞いてはいなかったからだ。

 

「うむ。そういえば、説明がまだだったな。実は――」

 

 ミラが事の経緯を語ると、イバルとジャンヌの顔色が一気に変わった。

 

「まさか……四大様が……」

 

 ジャンヌが愕然と呟き、イバルは信じられぬとばかりに声を張り上げる。

 

「そんな馬鹿な! イフリート様! ウンディーネ様!」

 

 必死に名を呼ぶも、返答はない。

 

「……そんな。本当に四大様がいらっしゃらないなんて……」

 

 呆然とするイバルの顔に、深い影が落ちる。

 

「ちなみに精霊が召喚できないのって、そいつらが死んだってこと?」

 

 一方、何が何やらといった様子で、アルヴィンが口を挟む。

 

「バカが。大精霊が死ぬものか」イバルが睨み返し、続けざまに説明する。「大精霊も微精霊と同様、死ねば化石となる。だが、力は次の大精霊へと受け継がれるのだ!」

 

「もしかして、常識?」

 

 アルヴィンが横目でジュードを見ると、彼は苦笑しながら答えた。

 

「常識かどうかは人によるだろうけど、そう言われてるのはよく聞くよね。まだ誰も実証できてないから噂レベルだけど」

 

「ほ~ん」

 

 適当な相槌に、イバルは鼻を鳴らす。

 

「ふん。存在は決して死なない幽世(かくりよ)の住人。それが精霊だ」

 

「だったらやっぱり、四大精霊は、あの装置に捕まったみたいだね」

 

 ジュードの言葉に、ミラの顔が曇る。

 

「認め難いがな」

 

「バカな! 人間が四大様を捕らえられるはずがない!」

 

 イバルは声を荒らげるが、ジュードは静かに返す。

 

「けど、その四大精霊が主の召喚に応じないんでしょ? ありえないことでも、他に可能性がないなら、真実になり得るんだよ」

 

「何もない空間で、卵がひとりでに潰れた場合、その原因は卵の中にある……」

 

 アルヴィンが皮肉混じりに呟く。

 

「『ハオの卵理論』ですね」

 

 マシュが冷静に補足すると、アルヴィンは満足げに笑った。

 

「さっすが優等生。使うタイミングが絶妙な事で、反論のしようもない」

 

「ぐぬぬ……」

 

 言葉を失ったイバルが歯ぎしりする。

 

 一方で、ミラは深く息を吐き、肩を落としていた。

 

「四大を捕らえるほどの黒匣(ジン)だったというのか。どうやら私は……あの時にマクスウェルとしての力を失ったのだな」

 

「ミラ……」

 

 心配そうに声をかけるジュード。しかし、ミラは小さく首を振る。

 

「すまない。少し1人で考えたい」

 

 呆然としたその後ろ姿は、普段の毅然とした彼女からは想像もつかないほど脆く見えた。

 

「だそうだ! さぁ! 貴様たちは去れ!」イバルが大きく腕を広げ、ジュードたちの前に立ちふさがる。「ここからは、お世話係である俺の役目だからな!」

 

 しかし、その振る舞いにすぐさまミラが言葉を告げる。

 

「イバル、お前もだ。もう帰るがいい」

 

「は?」

 

 意気揚々とミラの世話を買って出たイバルだが、突然のミラの言葉に振り返りながら変な声を出してしまう。

 

 そんな彼にミラ。

 

「そうだな、有り体に言うぞ。――うるさい」

 

「な……ミラ様……」

 

 こうして、ミラに追い出されるようにして、ジュードたちは社を後にした。

 その背後を、肩を落としたイバルがトボトボと付いていく。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 静けさが戻った社の中。そこで立ち尽くしていたミラは、仲間たちの後ろ姿を静かに見送った後、視線を落とすと、胸元から黒く不気味な円形の物を取り出す。

 

 ――それは、「クルスニクの槍」と呼ばれた装置に組み込まれていた部品だった。

 

「四大を救い出すにも、これが無ければならない、か」ミラは小さく呟き、細めた瞳で手にした物を見つめる。「キジル海瀑の女も……ハ・ミルのラ・シュガル兵も、私を追う理由はやはりこれにあるらしい――ならば、私が成すべきことも決まっているな」

 

 決意を噛みしめるように、ミラは静かにそれを握り締めた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 一方その頃、社を出たジュードたち。

 

「貴様らがしっかりしていないおかげで、ミラ様があんなことに!」苛立ちを隠そうともしないイバルが、憤懣やるかたない様子で当たり散らす。「ちくしょう! 俺がついて行っていれば……!」

 

「マジで短気なヤツだなぁ」アルヴィンが呆れ顔を浮かべる。

 

「同じ巫子として、申し開きもありません」ジャンヌも呆れるように答える。

 

 そんな中、ジュードはどこか上の空で歩いていた。

 

「おい、貴様! 聞いているのか!」

 

「……あ、ごめん。何?」

 

 どうやら、イバルの怒声すら耳に入っていなかったらしい。

 

「チッ! いいか、これからもミラ様のお世話は俺がする。お前たちは余計なことをするな!」

 

「お世話って……」とジュードは思わず呟くが、イバルはそれ以上耳を貸さなかった。

 

「……さて! 早速ミラ様にリラックスしていただくべく、茶会の準備をせねば!」

 

 慌ただしく言い放つと、イバルは足早にニ・アケリアの方角へ戻っていく。

 

 やれやれと肩を竦め、アルヴィンがジュードに尋ねた。

 

「で? これからどうする?」

 

「……もう少し、ここにいるよ」

 

「んじゃ、俺は先に戻ってるわ。報酬の話とかもしなきゃだけど、今は色々立て込んでるみたいだしな」

 

 軽く手を振って去っていくアルヴィン。その背中を見送りながら、マシュもまた静かに歩き出す。

 

「では、私も一度失礼いたします」ジャンヌが軽く頭を下げると、自身もニ・アケリアに向かおうと歩き出す。「イバルがまた何かしでかさないよう見張ってないといけませんので。これ以上、我が主の心労を増やせません」

 

 そうして彼女も去っていき、そこにはジュードだけが取り残された。

 

 誰もいない境内の風が、涼しく頬を撫でる。

 

「……ミラのお世話、か」ジュードはひとりごちるように呟いた。「これからミラがすることは、たぶん……。だとするなら、僕が為すべきことは……」

 

 言葉の続きを探すように、ジュードは空を仰いだ。

 

 そこには、いつまでも変わらない淡い色が広がっていた。

 

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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