「むむむ……。なかなかやりますね」
激しい戦闘の末、ジュードたちはついに謎のセイバーXを打ち倒した。
荒い息をつきながらも、全員の瞳には安堵の色が浮かんでいる。だが、膝をついた少女――その様子は、決して敗北を認めた者のものではなかった。
「多勢に無勢とはいえ、私が後れを取るとは……。やはり、水の精霊たちをベースにしただけのこの体では、力を十全に発揮できませんか」地面に膝をつきながらも、セイバーXは妙に調子の外れた声で呟いた。「……というよりこれ、本当に私の体――というか、意志が介在してるんですかね? 口調はおかしいし、やたらテンションが高くなってる気がするし、それどころか、奴が勝手に喋ってる気がしないでもないしで。前はこんなんじゃ……」
「先ほどから何を言っているのだ? 貴様は」
様子のおかしい少女に、ミラが鋭く問いかける。
「おっと、これは失礼。なに、あなたの気にすることではありませんよ」セイバーXはあっさりと言い逃れると、話題をすぐさま切り替えた。「それより、結局あなた方は、何でラ・シュガル王に狙われてるんです? しかも国家反逆罪って……」
「それは僕達に言われても……」
ジュードは言葉を詰まらせる。思い当たる節などない。しかし――。
その横で、訳を知るであろうミラは平然とした声を響かせた。
「それはこちらが聞きたいものだな。我々はただ研究所に忍び込んだだけだというのに」
当然のように嘘を吐き、胸を張る姿は、堂々としているどころか清々しさすらあった。
「ふむ。忍び込むこと自体は犯罪ですので、もう少し態度は改めて欲しいところですが……」
「そりゃ、ごもっとも」
アルヴィンが肩をすくめる。
「?」
ミラが首を傾げるが、本人に悪びれる様子はまるで無い。
「……しかし。それが本当だとするならば、やはりナハティガルは何かを企んでいると考えた方が良さそうですね~」
「ほう。貴様らも一枚岩ではないようだな」
「そりゃまぁ。流石にあの男が裏でコソコソしてるのは知っていますので。隠しきれているつもりかどうか知りませんが」
軽口のように語るセイバーXの声に、場の空気がわずかに重くなる。
アルヴィンは苦笑し、皮肉を込めて口を開いた。
「そう思うんなら、ジュードたちにかかった嫌疑も無かったことにして、そのままこれっきりの縁ってことにして欲しいところだけどな」
「それは流石に高望みというものでしょう。火のない所に煙は立たぬと言いますし、そもそも彼らが研究所に侵入したのだって、何か後ろ暗い理由あってのことだったのでは?」
「それは……」
ジュードは思わずミラへと視線を向ける。しかし、彼女の横顔には一片の曇りもなく、ただ毅然とした誇りが宿っていた。
「……ま、何にせよ、です」
セイバーXは軽やかに肩を竦め、口調を一転させる。
「即、抹殺の方針は変えていいとしても、捕縛対象であるのは変わりませし、ナハティガルは未だあなたたちを諦めるつもりはないようですからね。いずれ真実が明るみになった際には、また会うことになるでしょう」
「厄介な話だな」
「そう思うのなら、さっさと投降してくれると楽できていいんですけどね」
「それはできん。私にはなすべきことがあるからな」
「そうですか。――まぁ、あなたならそう言うとは思っていましたが」
ミラの仲間だったら当然だと思う発言を、何故か理解していたという謎のセイバーX。
「む? どういう意味だ? 何で私を知っているかのように……」
おかげでそれにはミラが鋭く目を細めるも――瞬間、セイバーXの表情が僅かに崩れる。
「どういう意味って、そりゃ……って、やばっ。意識乗っ取ってたのバレちゃいましたか。こうして喋れるのが嬉しくてつい」
「?」
先程から口にする数々に理解が追いつかず首を傾げるミラ。
「……ま、なんにせよ。またいずれどこかで、ってことで……これで勝ったと思うなよ!!」
一方、誰にも理解されないと知っていながらも、気にせず発言をし続けた謎のセイバーXは宣言と同時に姿がぐにゃりと歪むと、水滴がこぼれるように輪郭が崩れて最終的には体の全てが水と化し、キジル海瀑の水たまりの中へと消えていった
「なっ!? 水になった!?」
アルヴィンの叫びと共に、残されたのは、地面を濡らす水たまりだけだった。
「どうやら水の精霊術を使った擬態であったようですね。当人もそのようなことを話していましたし」
マシュが周囲を見回しながら静かに言う。
「マジかよ。そんな精霊術まで使えるとか、流石は騎士王(セイバー)様ってか。……いや、違うんだったか?」
アルヴィンが頭をかきつつぼやけば、ジュードも首を傾げた。
「結局どっちだったんだろうね?」
「さぁな。とはいえ、奴の言葉を聞く限りでは、これから先、奴が積極的に我らを襲うということはなさそうだ」
ミラは武器を収めつつ淡々と結論を下す。
「かも知れないね」
「おたくはおたくで変わらないねぇ。重要な話題をさぁなって」
アルヴィンが呆れ顔で笑った。
ジュードは気を取り直し、ふと思い出したように問いかける。
「それよりもアルヴィン達、どうしてあの人と?」
「突然、襲われたんだよ。ただこの辺を歩いていただけなのにさ」
アルヴィンは肩をすくめるが、その調子は冗談めいてもいた。
「とはいえ、理由は明白ですが。彼女も仰っていましたし」
「だろうな」
ミラが短く頷く。
「ったく、報酬に目がくらんだのが運の尽きってね。って訳だから、俺たちもあんたらと行くよ」
「え?」
「どういう訳だ?」
ジュードは目を見開き、ミラも怪訝そうに尋ねる。
「どうもこうも、離れてても一緒に居ても狙われるんなら、一緒に居た方が色々楽だろう? 特に行きたい所もねぇし」
「楽って……」
「一国の兵士たちを相手取るにしては、我々は各々の数が心許ないですが、数を合わせれば何とか――ということです」
マシュが補足するように淡々と告げる。
「なるほど。……どうする、ミラ?」
「……いいだろう。貴様らの腕前はよく知っているし、やはり私自身の手で恩は返さねばならないとは思っていたからな。長老に返されてしまった分を私の手で返す機会を得たとしよう」
「真面目だね~。ま、今後ともよろしくってことで」
「よろしくお願いいたします」
「うん。よろしく、二人とも」
握手こそしないが、互いの目を合わせたその瞬間、空気がどこか柔らいだ。仲間としての信頼が芽吹いた証だろう。
「そういや、おたくもついてくることにしたのな」
改めて仲間に入ったアルヴィンが、ちらりとジャンヌへ視線を向ける。
「はい。私のお役目は我が主の力となること。恐れ多くもそれを果たすべく供をさせて頂いております」
ジャンヌは一歩進み出て、静かに頭を下げた。
「そうかい。そんじゃあ、おたくもよろしくってことで」
簡単なやりとりののち、アルヴィンは再びミラに顔を向ける。
「……それで? 今後の行き先は?」
「一応、海停経由でイル・ファンに行きたかったんだけど……」
ジュードが口を開くが、すぐに言葉を濁した。
「どうした? ジュード」
「あ、いやね。この様子だと既にラ・シュガルにイル・ファン行きの船を抑えられてるかも知れないな~って思って」
「確かに。用心するなら船からのイル・ファン行きは諦めた方がいいかもな」
アルヴィンが顎をさすり、苦い顔をする。
「となれば、どうすればいい?」
「う~ん……山脈越えは難しいから、ア・ジュールからの陸路の線はないだろうとは思うけどよ……」
「であれば、サマンガン海停からカラハ・シャールへ向かうべきではないでしょうか?」
マシュの冷静な提案に、ジュードも頷いた。
「まぁ、今の状態じゃ、そのルートしかないよね」
「そうか。ならば、その案で行こう。正直、何を言われても私には分からないからな」
ミラがあっさりと了承すると、ジュードは少し苦笑しつつも返事をする。
「了解。とはいえ、まずはハ・ミルでラ・シュガル軍の動向を探ってみなきゃだね」
「まだ居りゃいいけどよ……いや? 居ない方がいいのか?」
「それは行ってみればわかることかと」
「そうだな。では出発するぞ」
そうして彼らは足を揃え、一路ハ・ミルへと向かうことを決めた。
戦いの余韻を振り切るように、仲間たちの歩みは力強く前へと進んでいく。
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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