「出て行けよ、疫病神!」
「ん? あれは……」
ハ・ミルの村に足を踏み入れたジュードたちの目に、信じがたい光景が飛び込んできた。
「あんたなんかいるからっ!」
人垣の中心で、小さな少女が必死に頭を抱え、「きゃっ……。やっ……」と村人たちから投げられる石に怯えている。その傍らでは、宙に浮かぶぬいぐるみが、必死に声を張り上げていた。
「やめて、ヒドいことしないで! お願いだよー!」と。
その小さな訴えも、怒号と石つぶてにかき消される。
「……あの子! 前に助けてくれた」
「そのようだ。しかし、あのぬいぐるみ、言葉すら解するのだな。空を飛んでいるのも珍しいのに」
「いやいや、呑気に話してる場合じゃないよ!」
ミラの言葉に呆れつつ、ジュードはすぐさま人垣をかき分けて駆け寄る。
「お前っ!?」
驚く村人たちを無視して、ジュードは少女の前に立ちふさがった。
「大丈夫?」
しかし声をかけた少女の方は、特に反応もせず怯え続けている。
そのとき、家の一部を貸してくれた村長が前に出てきた。
「お前たち……お前たちのせいでこっちは散々な目じゃ!」
皺だらけの顔には以前のような優しさはなく、険しい怒りが浮かんでいる。
おかげでそんな老婆にアルヴィンが問いかける。
「あん? どういうことだよ?」
「どうもこうもない。見ての通りじゃ!」
言われて村人たちの姿を見渡せば、傷を負い、疲弊した者たちが大勢いるようだ。
「これは……」
「お前さんらがラ・シュガルの兵を傷つけたせいで、儂らはお前たちの仲間だと疑われこのありさまじゃ!」
「傷つけたって……」
顔を合わせる面々。
「……もしかして、あのニ・アケリアを出る時に倒した兵のことを言ってんのか?」
「ふむ。しかし、それは我らがやった訳ではない」
「やろうとはしてたけどね」
「そんなのどうだっていいわい!」村長が憤りを露にする。「兵を傷つけたってことが問題なんじゃ!」
「なるほど。そう考えれば、確かに我々は少し兵士への対応を粗雑にしすぎていたかと。だからと殺すのは憚られますが」
「うむ。そう言われるとそうだな」
マシュの言葉にミラも頷く。
「そうじゃろう! ジャオ殿が追い払わなければ、今頃はもっと酷いことに……」
「ジャオ……? 誰だ?」
ミラが眉をひそめる。
「う~ん……あの髭の大男じゃね? 兵士を追い払えるぐらいだってんなら」
アルヴィンの予想に、村長がその予想は正しいと返事をする。
「そうじゃ。ジャオ殿がおらなんだら、もっと酷いことになってたかもしれん」
「そもそも、そのジャオって奴が原因なんだが……それで? そのジャオ殿は今どうしてるんだ?」
「知らんわ。そこの小娘を任せると言って、どこかへと行ってしもうたわ」村長は吐き捨てるように言葉を続けた。「じゃが、ジャオ殿があの娘を連れてきたから我らは災難続きじゃ。去るのなら、そこの娘も連れて行けばいいものを……」
「ちょっと、そんな言い方――」
ジュードが口を開くが、村長は聞く耳を持たない。
「よそ者は二度とゴメンじゃ。関わるとロクなことにならん! すぐに出て行け! よいな!」
村長の一喝で、村人たちは蜘蛛の子を散らすようにその場を後にした。
「ったく……やつあたりかよ。大人げねぇな」
アルヴィンが肩をすくめる。
「村長さん……まるで人が変わっちゃったみたいだ」
そのとき、少女は恐怖に駆られるようにジュードたちの脇をすり抜け、走り去っていった。
「あっ! ちょっと! ……行っちゃった。――どうしよう?」
迷うように呟くジュードに、ミラは冷静に言い放つ。
「どうしようも何も、我々は先を急ぐ身。あの少女に構っている暇はない」
「それはそうだけど……」
言葉を飲み込むジュードを、ミラはしばし無言で見つめた。やがて小さくため息をつき、言葉を継ぐ。
「……そういえば、ラ・シュガル軍の動向を探るという話であったな。長居するつもりはない。それを忘れるな」
「……! うん。わかってる。ありがとう、ミラ」
そう答えると、ジュードは少女の後を追って駆け出していった。
走り去る背を見送り、アルヴィンがにやりと笑う。
「……おたくもちょっとは丸くなったってことかい?」
ミラはわずかに首を振った。
「そんなつもりはない。だが、あの少女には多少なりとも恩はある。これがお前の言う、気を遣うというやつだろう?」
「う~ん……それを口にしなければ百点満点だったんだけどね~」
肩をすくめるアルヴィンを横目に、ミラは歩みを進める。
「では、話を聞くとしよう」
淡々と告げる声を背に、彼らは村の奥へと姿を消した。
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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