お茶会もお開きとなり、それぞれが自由に過ごす時間となった。
仲間たちは思い思いに行動し、穏やかな館の空気に溶け込んでいる。手持ちぶさたになったジュードは、ふと視線を巡らせ、ローエンに声をかけることにした。
「ねぇ、ローエンさん」
「ローエンで構いませんよ」
落ち着いた声音で返すローエン。その余裕ある微笑みに、ジュードも少し緊張を解き、言い直す。
「それじゃあ、ローエン。クレインさんとは随分と歳が離れてるけど、どういう関係なの? 執事だって言ってたけど……」
「クレイン様とは、二年ほど前にお会いいたしまして、そこから執事としてお仕えしているのです」
「そうなんだ」
そこで、耳ざとく聞いていたミラが会話に割り込んでくる。
「しかし、何故奴が領主なのだ? まだ若いだろうに」
「確かシャール家の人は、5年前に粛清されちゃったんだよね。ナハティガル王の手で」
ジュードが答えると、ローエンの表情にわずかな翳りが差した。
「……はい。彼が王位に就いた際に、彼にとって目障りな者や六家の多くが……。おかげで、一族が滅んでしまった所もあります」
「そうか……」
短く呟くミラ。その真剣な声色に、場が重くなる。
しかしローエンは静かに続けた。
「ですが、クレイン様はそのことで怯えるのではなく、立ち上がり、今ではナハティガル王に対して真正面から立ち向かうことのできるお方へと成長なされました」
「ほう、見事な男だな」
「はい。まだお若いのに、民の自由と平等を重んじる、立派なお方です。……私が忘れかけていた情熱を、今も抱く尊敬すらできるお方なのです」
「ローエン……」
その語りに、ジュードは胸を打たれる。
だがローエンは、ふと肩をすくめ、声色を和ませた。
「……まぁ、ドロッセル様に甘すぎるのは玉にきずかもしれませんがね」
老執事らしい茶化しに、重苦しかった空気がやわらぐ。これ以上は聞くのも無粋だと感じ、ジュードは深く頷いた。
「聞かせてくれてありがとう」
そう礼を述べ、彼はその場を後にした。
◇ ◇ ◇
館の中を歩きながら、ジュードはドロッセルに近づくと、彼女はすぐにエリーゼとティポへと視線を向け、楽しげに声を上げる。
「エリーゼもだけど、ティポも凄く可愛いわね」
「あ、ありがとう……です」
恥ずかしそうに小さく返すエリーゼ。その横で、ティポは嬉しそうに身体を揺らした。
「えへへー。もっと褒めて褒めてー!」
その無邪気な様子に、ドロッセルも微笑んだが、ふと首を傾げる。
「……でも、なんでぬいぐるみが喋るのかしら?」
鋭い疑問に、ジュードは困ったように視線を逸らす。
「……ごめん。それは僕達にもわからない」
軽く苦笑しながら答えると、その場の空気は曖昧なままに流れていった。
◇ ◇ ◇
次にジュードが見つけたのは、じっと壺を見つめるミラの姿だった。
「熱心だね。骨董好きなんだ?」
問いかけると、ミラは目を離さずに応じる。
「いや、私が興味深いと感じるのは、美という抽象概念を、実用品にまで適用したがる人間の不合理性に対してだな」
「……難しいこと考えてるんだね」
「もちろんシンプルな思考もする。例えば、現在の我々の状況だが……。木を隠すには森の中、ともいえるが長居は無用だろう」
「そうだね。検問がどの程度の規模なのかを確かめるためにも、ある程度休息を取ったら、すぐに出発した方がいいかも」
互いに短く頷き合う。ミラの現実的な思考に、ジュードも改めて気を引き締めるのだった。
◇ ◇ ◇
さらに館の奥へ進むと、ローエンがジャンヌを見つめ、首を傾げている場面に出くわした。
「……」
「……?」
無言の視線に気付いたジャンヌが戸惑う。
「あの……何か私の顔についているでしょうか?」
「あぁ、これは失礼」
ジュードは慌てて問いかけた。
「どうしたの?」
首を傾げる二人に、ローエンは申し訳なさそうに笑みを浮かべる。
「いえ……以前、彼女とはどこかでお会いしたような気がしまして」
「そうなの?」とジュードが目を丸くする。
「さぁ、私には思い当たる節はなにも。そもそも、私には過去の記憶がございませんので」
「おや、そうでしたか」
「ちなみにどの辺で会ったとか、いつ頃会ったとか覚えてない?」とジュードは重ねて尋ねる。
「んー、どうでしょう。この歳になりますと、とんと記憶力が衰えてしまいまして」
ローエンは苦笑を交えながら肩をすくめた。
「そっか……まぁ、何か思い出したら言ってあげてね。記憶が戻るキッカケになるかもしれないし」
「承知いたしました。その際は必ず」
「お願いいたします。……」
ジャンヌは静かに礼を述べた。
◇ ◇ ◇
そうして全員に声をかけ終えたところで、ジュードはふと気付く。
「……あれ? アルヴィンとマシュは?」
問いかけに、傍らのジャンヌが静かに答える。
「お二人でしたら、共に外へと向かっておりましたが?」
「外に?」
その言葉に、ジュードは足早に玄関へ向かう。嫌な予感が胸をかすめていた。
屋敷を出ると、外の石畳の上でアルヴィンが鳥を使って誰かとやりとりしている姿が目に入る。そのすぐそばには、無言のマシュの姿もあった。
「あ、二人とも。こんなところに」
声をかけると、アルヴィンは振り返って軽く手を上げた。
「よ。どうしたんだ?」
「どうしたんだはこっちの台詞だよ。急にいなくなって……」
思わず詰め寄るジュードに、アルヴィンは肩を竦める。
「悪い。ちょっと野暮用っていうか、手紙が届いたんでな」
「また恋人からの連絡?」
「い~や、そんな綺麗な関係の奴じゃないさ」
薄く笑うアルヴィンの声音には、どこか影が差しているようだった。
「……」
ジュードが訝しげに首を傾げると、マシュが静かに切り出す。
「……アルヴィン。この際、ジュードさんたちにお話しするというのは如何でしょうか?」
「こいつらに?」
「どのような形であれ、彼を巻き込めるのであれば目的は達成できるハズです」
「それはそうだろうけど……」
ジュードは不安を募らせながら二人を見つめる。
「目的? ……えっと、二人は何の話を……?」
「実は……」
マシュは説明を始めかけたが、アルヴィンが息をつき、諦めたように言葉を引き取った。
「……ああ、わかったわかった。俺から話すよ」
その表情は普段の軽口とは違い、真剣そのものだった。
「……実は俺たちがラ・シュガル軍に追われてるって話を、クレインにしようかって思ってんだ」
「え?! どうしてそんなこと……」
驚くジュードに、アルヴィンは目を細めて説明する。
「あいつの噂、聞いたことねぇか? シャール家の当主は、このラ・シュガルのご貴族様の中で唯一、今の王様ナハティガルと対立しているって」
「そういえば、ローエンがそんなこと言ってたけど……」
「だろ? だからうまく行けば奴の協力が得られるかもしれないし、それにあの騎士王殿と対立しなくても済むかもってんで、相談してた訳」
「アルトリアさんと戦わなくていい?」
「奴さんがあの爺さんに騎士王殿のこと言ってたの、聞いたろ? あれはおそらく……」
ジュードの脳裏に、鋭い眼差しのアルトリアの姿が浮かぶ。
「そっか。確かにあの時に会ったアルトリアさんも、ナハティガル王のこと怪しんでたもんね。……ってことは、クレインさんとアルトリアさんは協力関係にある?」
マシュが頷く。
「断言はできませんが、どちらも現体制に思う所があるのは確かでしょう。ですので、内通している可能性は十分にあるかと」
「数少ない同志ってことでな」
「なるほど。確かにあり得る話だね……」
ジュードは考え込む。胸の奥にわずかな希望が灯るが、それと同時に選択を迫られる重圧も感じていた。
「……わかった。とりあえず、ミラに話をしよう。それでどうするかを決めて……」
その時、不意に屋敷の方から声が響いた。
「ジュードさん!」
ローエンだった。息を切らしながら駆け寄ってくる。
「ローエン? どうしたの?」
「実は、みなさんにお願いがございまして。ひとまず、どうか屋敷の中へ」
互いに顔を見合わせるジュードたち。重々しい空気を抱えたまま、彼らは再び屋敷へと戻っていった。
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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