フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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頼りになるローエン

 緑に包まれた広大な大地。木々の間を通り抜ける風が、草原を揺らす音を奏でている。

 

 そこはクラマ間道。地面は少し湿り気を帯び、足元を軽やかに踏みしめると、土の香りがほのかに漂い、太陽の光が木々の間からこぼれ、柔らかな明かりを作り出している。周囲の岩場がその風景にアクセントを加え、草花がところどころに顔を覗かせているが、道は緩やかに曲がりくねっており、奥を見渡すことが難しい。

 

 辺りの静けさと、時折木々が揺れる音だけが耳に残り、まるで時が止まったような静寂に包まれているが、要件はクレインや町人の救出。故に、足を踏み入れた一行は、ひときわ緊張した面持ちで奥を見つめていた。

 

「この先にクレインさんが……」

 ジュードが息を呑む。

 

「はい、おそらくは。この先のバーミア峡谷に、いったい何があるのかはわかりませんが……っ!!」

 

 ローエンの言葉が途中で途切れる。視線が鋭く揺れ、次の瞬間、彼は声を張り上げた。

「──皆さん、下がって!」

 

 不意に木々の影から飛び出してきた影。牙を剥いた四足歩行の魔物の一団がジュードに迫る。

 

「えっ……うわっ!?」

 

「キャッ!」

 

「魔物だー!」

 

 ジュードとエリーゼが身を竦め、ティポの甲高い声が響く。

 

「ま、こんな人気の無い所だし、魔物にとっちゃ、居心地がいいんだろうな」

 アルヴィンが肩をすくめるが、その手はすでに剣を抜いていた。

 

「しかし、手を拱いている場合ではありません」

 

 ローエンが前に出る。老いた身とは思えぬ鋭さで剣を構え、魔物に冷たい眼差しを向けた。

 

「先を急ぐためにも──どいていただきますよ!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 やがて魔物が沈黙し、風が再び谷間を渡る。

 

「ローエン君、すごーい! こわい魔物たちもイチコロだね!」

 ティポが跳ねるように声を上げる。

 

「いえいえ。イチコロなど、とてもとても」

 剣を収めつつ、ローエンは穏やかに微笑んだ。

 

「それでも、実力があるのは確かだな」

 ミラが感心したように頷く。

 

「なに、昔取ったなんとやらというやつですよ。こう見えても私、昔はやんちゃしてましたので」

「やんちゃって……」

 ジュードが思わず苦笑する。

 

 だがローエンはすぐに真顔に戻った。

「それより、今は先へ急ぎましょう」

 

「ああ、そうだな。ナハティガルだか何だか知らんが、我々にとってもクレインは重要な鍵となるだろうからな」

 

 ミラの冷静な言葉に、ジュードも「うん」と力強く頷いた。

 

 全員が気を引き締め直し、足を進める。目的地──バーミア峡谷へ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 岩肌が切り立つ狭い渓谷の道を進むと、周囲の大自然が圧倒的な存在感を放っていたと、彼らは息を呑んだ。

 

「すごい……地層だね」

 ジュードが思わず声を漏らす。

 

 険しい岩壁は何百年もの時を経て風化し、異様に屈曲した形を成しており、まるで巨大なモンスターが立ちはだかっているかのように感じられ、あたりの静寂がその威圧感を一層強める。

 

 足元の土は湿り気を帯び、歩くたびにわずかな音を立てる。木々の枝が岩の隙間から顔を覗かせ、細い光線がその葉を照らすと、葉先で微かな風の音が響く。

 

 遠くまで続くこの道は、さらに深く岩の間へと入り込んでおり、まるで自然の迷路に迷い込んだような感覚を与えた。

 

「ここはラ・シュガルでも有数の境界帯ですから」

 その圧倒的な景観にただただ目を奪われながら語るジュードに、ローエンが詳細な話を口にする。

 

「きょーかいたい?」

 その訳の分からない単語にティポが首を傾げると、マシュが補足した。

「複数の霊勢がぶつかり合っている場所の総称ですね」

 

「……?」

 而して、それでも分からないとエリーゼの顔に浮かんだ疑問を、ジュードが優しく補った。

「えっと、簡単に言うとね。精霊たちの力が無意識にぶつかり合ってる場所、ってことだよ」

 

「なるほど」

 同様に人間の言葉が分からなかったミラが短く相槌を打つ。

 

「しかし、このような場所に本当にクレインさんがいらっしゃるのでしょうか?」

 

「確かにな。こんな場所にナハティガルは何の用があるってんだ?」

 

 ジャンヌが不安げに辺りを見回すと、同じくアルヴィンが眉をひそめる。

 

「だからこそかも知れません。人目を避けたいなら、こういう場所ほど都合が良い」

 ローエンの答えに、アルヴィンは「なるほどな」と頷いた。

 

「とにかく、クレインさんを助けるために頑張らなきゃ」

 ジュードが決意を込める。

「……ああ」

 ミラの声も静かに続いた。

 

 だが一人、エリーゼの瞳だけが「……」と不安に揺れていた。

 

「大丈夫。私がついていますから、ね?」

 傍らのジャンヌが微笑みかける。その柔らかな笑顔に、エリーゼは小さく頷き返した。

 

「ジャンヌ……」

 

 彼女の顔に、かすかな光が戻る。

 

「それでは、参りましょう」

 ローエンの一声で、一行は深い峡谷の奥へと足を踏み入れていった。

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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