フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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それは美しい人でした

 青緑の淡い光が漏れる建物の前。鋼鉄の鎧に全身を包んだ二人の人物が見張る中、ジュードは短い橋を渡って歩みを進めていく。

 

 普段なら決して足を踏み入れないその場所に、緊張の面持ちで近づく自分。全身を覆う無機質な光を放つ鎧の人物たちは、きっと怪訝な視線を向けていることだろう。だが、それでも聞かなければならないことがある――そうしてジュードは、表情の見えない警備員、あるいは兵士にそっと近づいていく。

 

「おっと、この時間はもう立ち入り禁止だよ」

 

 すると、ジュードを認めた無骨な鎧に身を固めたラ・シュガル兵の一人が声をかけてくる。

 

「えっと……ハウス教授がここに居ると伺って来たんですけど」

 

 慌てて事情を説明するジュード。しかし兵士は怪訝な顔で首を傾げる。

 

「ハウス教授?」

 

「はい。タリム医学校の……」

 

 ジュードの言葉にもう一人の兵士が手元の記録板をめくりながら「ハウス……ハウス……」と口の中で繰り返した。

 

「ああ、その先生ならもう帰ったはずだ」

 

「えっ、本当ですか?」

 

「あぁ、ほら」

 

 示された記録版を覗き込むと、確かにハウス教授の名は帰還者の欄に刻まれていた。

 

「ホントだ……。う~ん、入れ違いになっちゃったか……」

 

 困った様子で肩を落とすジュード。

 

「あの、ハウス教授、どこへ行くとか言ってませんでしたか? きっとまた、余計なことまで喋って……」

 

 藁にも縋るように尋ねたが、兵士は首を振る。

 

「さぁ? 特に何か言葉を交わしたってこともないからな」

 

「え……? ハウス教授と一言も?」

 

 思わず声を上げるジュード。

 周囲の患者が認めるほどにお喋り好きのハウス教授が、黙って去るなど考えられないと。

 

「ああ。だから我々は何も知らないが――どうかしたか?」

 

 問い返され、ジュードは曖昧に首を振った。

 

「……あ、いえ……本当に、何も喋らなかったんですか? 一言も?」

 

「ああ、間違いない」

 

「……そう、ですか……」

 

 納得できないものを胸に抱えるジュードだが、

 

「もういいかい?」と促され、彼は慌てて頭を下げる。

 

「あっ、はい。お世話様でした」

 

 門を離れ、研究所を背にして歩き出す。だが数歩進んだところで、ジュードは立ち止まった。

 

「う~ん……。あのハウス教授が何も喋らずにって、本当かな? 今日だって、『極秘』の研究だっていうのに極秘の部分、僕に言っちゃってたし。しかも、内容までは知らされていないってことまで漏らしてたのに。……なんかおかしいなぁ」

 

 ジュードは首をひねり、深いため息を吐く。

 

「とはいえ、それを兵士さんに問いただしたところで、きっと答えてはくれないだろうし……仕方ない。一度診察所に戻ってみるかな。もしかしたら教授、もう戻っているかもしれないし」

 

 そう結論づけると、残り続けていた拭いきれぬ小さな棘のような違和感を断ち切るように来た道を引き返し始める。

 

 ――すると。

 

「……ん?」

 

 ジュードは思わず足を止めた。

 街路を照らしていた街灯樹が、ふいにチラチラと揺れたかと思うと――次の瞬間、一つまた一つと光を失ったからだ。

 

「え?! 街灯樹がっ!」

 

 闇に沈んだ街並み。辺りでは戸惑いと悲鳴が入り混じり、ざわめきが広がっていく。

 

「何だろう……やっぱり精霊がおかしい? でも、今までこんなことは無かったのに……本当に、どうして……。……ん? あれは……」

 

 困惑の声を漏らしながらも、ジュードはふと別の光を感じて振り返った。

 川面に、淡い輝きが漂っている。

 

 そこに現れたのは――ひとりの女性だった。

 

「……ウンディーネ、頼む」

 

 闇に包まれた川の上。水面に浮かび上がる円形の光紋。その上に軽やかに降り立った彼女は、誰もいない空間に向けて言葉を投げかけながら静かに歩き始める。

 

 背中まで流れる長い金髪が、静けさの中にありながら吹く風に優しく揺らされ、波のようにサラサラと揺れ動く。その毛先は、淡く光る川面に映る光紋の光を受けて淡く輝き、おかげでその現実感のない、どこか異国的でミステリアスな雰囲気は、見た者の視線をくぎ付けにするのに十分すぎると、ジュードはそんな彼女の姿を呆然と見つめるしかできないでいた。

 

「感知したのは、この先か?」

 

 一方、一人で歩いているはずなのに、何かを問いかけるような言葉をつぶやく女性。

 

 川面は深い闇に沈んでおり、その中にうねるような水の音が響くだけ。

 ――返事などあるはずもない。

 

 だが彼女は頷き、川の上を歩き出す。

 

 そんな彼女の足元に浮かび上がる異質な光は、歩幅に合わせて新たな紋様がひとつ、またひとつと生まれ、橋のように連なっていく。その光の道は、まるで彼女のために作られた道のように、どこまでも続いていた。

 

「……そうか。分かっている。こうしている間にも精霊たちが……急がねば。光を消し、侵入に気付かれぬようにしてくれているうちにな」

 

 闇に包まれた川の上で、ただ一人、足音ひとつ立てずに歩む姿は、まるで何かに導かれているようで、彼女の周囲には静寂が漂い、川の水の音すら遠く感じるが、低く囁く声は、彼女の意志を確かに示していた。

 

「あれは……水の上を歩いてる? でも、そんな精霊術、聞いたこと無いよ。しかも今は四大精霊であるウンディーネの力を借りられない状態なんだし……。そもそもあの人、あんな所で一体何を……」

 

 ようやく喋れたジュードの驚愕をよそに、女性は川を渡り切ると、どこかの地下水道へと続く金網を前に立ち止まった。

 

 掌に小さな火球を灯し――次の瞬間、轟音と共に鉄格子を焼き砕いた。

 

「えぇ?! ちょっ……えぇぇ?! な、何してるのあの人!」

 

 ジュードが目を見開いた間にも、女性は破壊した隙間を抜け、迷いなく暗い通路へと進んでいく。

 

「って、入っていっちゃったよ……。でも、あの先って……確か研究所じゃ……? どうして、不法侵入なんて……」

 

 戸惑う彼の背後で、通行人たちが騒ぎ始めた。

 

「今度は何だ?」

「大きな音がしたぞ!」

 

「っ!? ど、どうしよう、人が来ちゃう! このままだと、あの人……あ~もう!」

 

 ジュードは勿論迷っていたが、次の瞬間には歯を食いしばって橋の上から飛び降りていた。女性の残した水の上に浮かぶ淡く消え始めていたあの光の足場へ。

 

「……はぁ、こんなんだから、みんなにお人好しって言われちゃうんだろうな~。……でも、こうする以上は、バレる前にあの人を連れ戻さなきゃ」

 

 決意を胸に、ジュードは光の軌跡の上を走り抜け、研究所へと繋がる地下水路へと足を踏み入れたのだった。




テイルズのリマスター、エクシリアでしたね~。
とはいえ1だけのお知らせだったので、賛否の内、否の方が多かったみたいですがw

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

  • 1000文字以内
  • 1~2000文字以内
  • 2~3000文字以内
  • 3~4000文字以内
  • 4~5000文字以内
  • 5000文字以上
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