剣戟と怒号が飛び交う戦場のただ中で、ジュードたちは必死に兵を押し返していた。
「ったく……なんだって、こんなにも兵士が湧いて出てくるかねぇ」アルヴィンは乱暴に剣を払うと、肩をすくめて悪態をつく。「おかげでさっきから全然前に進めやしねぇ」
「おそらく、旦那様を暗殺できなかった場合の保険でしょう。あるいは暗殺が成功した後に、屋敷を制圧するための部隊か。……いずれにせよ、ガンダラ要塞に兵士を集めていたのは、このためだったようですが」
「それより今は急がなきゃ!」ローエンの指摘にジュードは、クレインの止血の際に付いた血をそのままにしてしまっていた拳を握りしめ、強い眼差しを前へと向ける。「ミラたちが危ないかも!」
「確かにな」アルヴィンは口元を歪め、うなずいた。「こんな状況で大人しくしてるタマじゃねぇわな。お嬢様も、うちの大将も」
「ですね。急ぎましょう」ローエンの短い言葉が、全員の足をさらに速めた。
◇ ◇ ◇
走り抜けてたどり着いた街道で、彼らの目に映ったのは衝撃的な光景だった。
気を失っているミラやエリーゼ、仕方なしにと己の足で歩いているドロッセルたちが、今まさに馬車へと押し込められようとしている。
「お嬢様!」ローエンが思わず叫ぶ。
「ミラも!」ジュードも声を張り上げるが、馬車は彼らの声を振り切るように無情に走り去っていく。
その前に、なおも数人のラ・シュガル兵が立ちふさがった。
「邪魔なヤツらだ!」
こうして、兵士たちとの乱戦を再び繰り広げるジュードたちだった。
◇ ◇ ◇
倒しても倒してもキリがない。
それが兵士たちを何とか倒し続けていたジュードたちの現状。
「どうしよう……これじゃあ、ミラたちに追いつかないよ!」
おかげで既に姿が見えなくなって久しいミラたちに対し、焦りの表情をジュードは浮かべる。
「こうなりゃ、強引にでも突破して……」
破れかぶれとばかりにアルヴィンが銃を構え突撃しようとした瞬間、ローエンがその腕を抑える。
「お待ちなさい! これ以上は無駄に消耗するだけです!」
確かに先の戦いで、彼らの身体は疲弊していた。ここで無理に突破しようとすれば、全滅もあり得る。
ローエンは兵士たちに向き直り、毅然と声を張った。
「あなた方も退きなさい。目的を果たした後の戦闘は、ただの蛮行! 同じ国の民が、これ以上傷つけあってはなりません!」
その言葉に、兵士たちは互いの顔を見合わせた。
やがて、何かに畏れたように武器を収めると、彼らは静かに道を開けていく。
「わーお、本当に退かせちまいやがった」アルヴィンが口笛を吹く。
「すごい……」ジュードの瞳は驚きに大きく見開かれていた。
「彼らもまだ、兵士としての心を残していたのでしょう。……それか、兵士の士気が低いせいか。あるいは、被害状況を鑑みてかは分かりませんが」ローエンは小さくため息をつく。
「士気が低い?」
ジュードが問い返すが、老執事は首を横に振った。
「……まぁ、詳しい話はおいおいにでも。それよりも、まずは屋敷に戻りましょう。クレイン様のことやお嬢様のことで、話し合わなければならないことが多々ありますから」
「……うん、そうだね」
うなずいたジュードたちは、屋敷へと戻っていった。
◇ ◇ ◇
一時間後。
静まり返った屋敷で、ジュードとアルヴィンは落ち着かない様子で立ち尽くしていた。
そこへ、外出していたローエンが姿を現す。
「お待たせいたしました」
「……もういいのか?」アルヴィンが声をかける。
「はい。略式ではありますが、葬儀の手配も済ませました」
ジュードは拳を震わせ、悔しげに呟いた。
「本当……一体どうして、こんなことに……」
ローエンはその言葉に重く応える。
「旦那様を襲った矢は、近衛師団用の特殊なものでした。そして、タイミングを合わせたかのように動いた軍本隊の侵攻……考えられることは一つ。すべてはラ・シュガルの独裁体制を完全にするための作戦だったのでしょう」
「ナハティガルの野望、か……」アルヴィンが眉をひそめる。
「そのためにクレインさんを……でも、ミラたちは、どうして連れて行かれちゃったんだろう?」ジュードの声は震えつつ、理解できない敵の行動に首を傾げていた。
「おそらくですが、ドロッセルお嬢様を交渉材料に、カラハ・シャールの部隊に投降を促すためかと。カラハ・シャールの部隊を上回るほどの死傷者が、近衛師団に出ていたようですから」ローエンの言葉にアルヴィンが理解を示す。「なるほど。そもそも籠城戦は攻める側が圧倒的に不利って言うしな。そんなここを楽に攻略するには、お嬢様は最強にも近い切り札(カード)って訳か」
「はい。そして、ミラさんたちはそれの巻き添えを受けたか、バーミア渓谷での実験に類する何かに使用するために連れていかれたのでしょう」
「そんな! それじゃあ、急いで助けなきゃだけど……でも、どこに連れて行かれたかなんて――」
ジュードの悩みにすぐさま答えを出すローエン。
「おそらく、ガンダラ要塞でしょう。一個師団以下の手勢で、複数の街を同時に攻めるのは無理があります。つまり、サマンガン海停は襲撃を受けておらず、未だシャール家の勢力下と考えるのが妥当です。となると、兵はイル・ファンへとって返すはず。その帰路で駐屯できるのはガンダラ要塞しかありません」
「詳しいな」アルヴィンが感心したように目を細める。
「昔取った杵柄というやつですよ」ローエンは淡く微笑む。
「でも、そういうことなら急いで助けに行かなきゃ!」ジュードが身を乗り出す。
「そんな焦ってもしょうがねぇだろ。向こうは要塞。正面突破はおろか潜入だって簡単には――」
「いえ、チャンスは今晩だけでしょう」慎重に釘を刺すアルヴィンに、ローエンは静かに首を振る。「死傷者の数も相まって、兵の士気も高いとはいえない状態でした。私なんかの一言であっさり退いたほどですし。その上、作戦終了によって得られたようやくの休暇となれば……隙だらけのはずです。そしてこちらは、図らずも先手を打てています」
「そっか。先に潜入している味方がいるんだよね」ジュードが思い出したように頷く。
「ええ。まさかこのような形で利用することになるとは思いませんでしたが……今はそれを好機と捉えましょう。ともかく、すぐに発ちます。お二人もご準備を」
そう言い残し、ジュードと共に部屋を出ていくローエン。
だがアルヴィンは一人、その背中を見送りながら小さく呟いた。
「……何者だ? あのじいさん……」
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