フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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――ガンダラ要塞での戦い――
ガンダラ要塞での戦い 男子編


 鉄で築かれた異様な巨城が、ジュードたちの目の前にそびえ立っていた。

 

「鉄のお城……これがガンダラ要塞?」

 思わず漏れたジュードの声には、畏怖と驚きが入り混じっている。

 

 交易路を守る砦──その説明だけを聞けば質実な施設を想像していたが、現実は違った。

 

 岩山に埋もれるようにそびえ立つ、まるで時の流れに忘れ去られたかのように、鉄で築かれたであろうその要塞の外壁は、風雨に晒されて錆びつき、無機質でありながらも不気味な威圧感を放っている。建物の中央には、垂直にそびえる大きな扉があり、まるでこの要塞に挑もうとする者を拒絶するかのように立っている。

 

 明るい空とは裏腹に、差し込む光はどこか冷たく、灰色の鋼鉄で覆われた巨大な構造物を前に、ジュードはどこか委縮してしまっていた。

 

「確かに交易路の安全を守るって場所とは思えねぇな」

 だからだろうか。アルヴィンの茶化すような言葉に、ジュードも苦笑混じりに「だね」と返したのは。

 

「んで? どうやって内通者と連絡するんだ?」

 

 アルヴィンの言葉にローエンが静かに口を開いた。

「こちらへ」

 

 三人はローエンに導かれ、見張りの目を避けつつ要塞の壁際へと移動する。そこは、正面に居る数人の見張りからは見えない位置にあり、少し見上げると小さな通風口が口を開けていた。

 

「ジュードさん。あの通風口の内壁を──1回、2回、2回と叩いてください。その後、3回、1回と返ってきたら手筈が整っている合図です」

「了解」

 

 緊張で息を呑みながらも、ジュードは下に置いてあったコンテナのような物をのぼり、ローエンの指示通りにコンコンと拳を打ち付ける。乾いた音が静寂に吸い込まれた直後、言われた通りの返答のリズムが響いた。

「返事が返ってきたよ。大丈夫みたい」

 

 ジュードの言葉にローエンがうなずき、アルヴィンへ目配せをする。

「行きましょう」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 三人は通風口を抜け、ひんやりとした要塞の内部へと忍び込んだ。

 

 外から見たのと同じ、冷たさを感じる鉄のお城の内側。そこでは、鎧の音を殺しながら立つ一人の兵士がいた。

 

「急いで……!」

 小声ながら切迫した声。彼こそが、ローエンが手配していた内通者だった。

 

「ご苦労さまでした。助かりましたよ」

 ローエンが穏やかに応じると、兵士は少し頷くと、すぐさま話題をクレインのものに。

「カラハ・シャールの件は要塞内でも話に上がっています……。まさか、クレイン様がお亡くなりになるなんて」

 

 それにはアルヴィン。気持ちはわかるが急いでいると兵士をせっつく。

「慰めてやりたいが、こっちも急いでてな。中の情報を、かいつまんで教えてくれない?」

 

「は、すいません」兵士は頷き、すぐさま声音を戻す。「お嬢さまたちは二階の牢です。他にも囚われている者もおりますが……少々、問題がありまして」

 

 嫌な予感にジュードの胸がざわめく。

「問題?」

 

「囚われた者はみな、足に逃走防止用の拘束具――呪環(じゅかん)という物を取り付けられておりまして」

 

「なんだそれ?」

 アルヴィンが眉をひそめると、兵士は壁際を指さした。

 

「拘束具をつけたまま、あそこに見える呪帯(じゅたい)──あの精霊術で作られた赤い円を通り過ぎると、呪環(じゅかん)が爆発する仕掛けになっているんです」

 

 視線の先には、中空に壁のように浮かぶ赤い幾何学模様の何かがあった。まるで血のように不気味に輝き、通り抜けなくていい隙間すら無いように広がっていた。

 

「そんなものを……!?」ジュードは言葉を失い、震える声を絞り出す。「じゃあ、牢から助け出しても、それを何とかしないとここから出られないってこと?」

 

「ええ」

 兵士の表情は、絶望を隠しきれなかった。

 

 鮮血のように赤い呪帯の輝きがじわじわと視界に焼きつき、ジュードの胸に冷たい圧迫感を与えていた。助けたい気持ちと、突破の困難さ。その狭間で息が詰まりそうになる。

 

「参ったな。つーことは、まずはその拘束具を外すための鍵みたいなのを見つけねぇとダメってことか」

 アルヴィンがぼやくように呟く。だがその声音に漂うのは、苛立ちよりも現実を冷静に測る職業人の響きだった。

 

「いえ、解除キーを持つ者を探すのは非効率です」ローエンが、あくまで落ち着いた声音で切り返す。その眼差しはまるで迷宮の地図を俯瞰しているかのようだった。「この手の拘束具は大規模な精霊術によって一括で制御していたはず。ですから、それを操作している制御装置を押さえる方がいいでしょう」

 

「ホント、詳しいのな。おたく」

 いつもの調子でアルヴィンが肩をすくめると、それには兵士がアルヴィンたちに疑問を抱く。

 

「あれ? 皆様はその方のこと、知らないのですか?」

 

「ローエンのこと? それって――」

 まるでローエンが有名人かの物言いに、ジュードは首を傾げるもすぐさまローエンが割って入る。

「私の話は今は良いでしょう。それより、制御装置の場所に目星は付いておりますか?」

 

「申し訳ありません。時間があまり無かったもので、制御装置の場所までは調べられていません」

 内通者の言葉は悔恨に満ちていた。

 

「そうかい。となりゃ結局、虱潰しに探すっきゃなさそうだな」

 アルヴィンの言葉は簡単に聞こえたが、ジュードはその現実の重さをひしひしと感じていた。要塞の奥がどんな状況なのか。そもそも、先程やりあった兵士たちが居るのは確実というのだから、ひとつの手がかりを探すだけでも命懸けになるだろうと。

 

「お役に立てずにすいません」

「いえ、ここまで手配してくださっただけで十分です」

 而して、内通者たる彼のせいではないとジュードは必死に笑みを作り、兵士を安心させようとした。自分自身の不安を覆い隠すとでもいうように。

 

「探すのはいいにしても、何かあってもいいように脱出用の足は確保しておくべきだろうな」

 アルヴィンの提案に、ローエンはすぐさま兵士へ視線を向けた。

「お願いできますか?」

 

「わかりました。外へと通じる扉の辺りに馬車を用意しておきます」

「ありがとうございます」

 

 そして兵士は、懐から鉄製の小さな鍵を取り出す。

「それからこれを。エレベータを作動させる鍵です」

 

 ローエンがそれを受け取り、静かに頷いた。その手つきには迷いがなく、まるでこの閉ざされた砦の中に、確かな突破口を見いだしたかのようだった。

 

 ──かくして彼らは、ミラたち救出のため、鋼鉄の迷宮をさまようことになる。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 要塞内は冷たい石と鉄の匂いに満ち、どの通路も同じように見えた。厚い壁が音を吸い込み、わずかな足音さえ響いては反響する。ジュードの胸には次第に圧迫感が募っていく。

 

 やがて兵士たちと遭遇し、剣戟と精霊術が交錯する短い戦いが繰り広げられた。息を荒げつつも勝利を収めた三人は、兵士の腰に揺れる鍵束を手に入れる。

 

「……どうやら、これが制御室の鍵のようですね。おそらく、これで制御室に入れます」

 ローエンが鍵を掲げると、冷たい光が差し込み、それがただの鉄片以上の重みを持っているように見えた。

 

「結局、別の鍵を探し回るはめになったな」

 アルヴィンが苦笑する。

 

「人生とはそんなものです」

「……口の減らないジイサンだ」

 ローエンの柔らかな笑みが、重苦しい空気をほんの一瞬だけ和らげた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 再び通路を進み、ミラたちの行方を探す。どこまでも無機質で、何かが潜んでいそうな静けさが続く。鉄の要塞が造り出す閉塞感が、ジュードの心をじわじわと削っていった。

 

 そんな中、ようやく制御室と思しき扉の前に辿り着く三人が目を合わせ、慎重に扉を押し開けたその瞬間。

 

「こ、これは……!?」

 

 息を呑んだジュードたちの視線の先には、予想だにしない光景が広がっていた。

 

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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