――暫しの後。
ディラックたちの足音が遠ざかり、気配が完全に消えた頃。まるでそれを見計らったかのように、病室の扉がそっと開かれた。
「ん……? ジュード?」
身を起こそうとしたミラに、すぐさま両脇から声が飛ぶ。
「「しっ!」」
ジュードとレイアが揃って指を唇に当てていた。
「父さんに見つかりたくないんだ」
「なぜだ?」
「今から、ミラに医療ジンテクスの施術をするから」
ミラは目を瞬かせ、先ほどの会話を思い返す。
「だが、さっき無理だと言われたぞ」
「わかってる。でも、ミラはどうせ諦めてないんでしょ?」
真剣な眼差しを向けるジュードに、ミラは小さく笑った。
「うむ、そうだな。確かにこれからどうするべきかを考えてはいたな」
「でしょ。だから、それを手伝うために来たんだ」
そう言って、ジュードは懐から慎重に取り出した。
医療ジンテクス――あの異様な器具が、部屋の電灯を浴びて不気味に輝く。その場の空気が張り詰め、レイアも息を呑んだ。
「レイア、手伝ってよ」
「あ、うん」
頷きながらも、彼女の指先はかすかに震えていた。だが、ジュードの真剣な横顔を見た瞬間、覚悟を決めるようにミラのもとへ歩み寄った。
「静かにしてね、ミラ。さ、横になって」
レイアの言葉に従い、ミラは無造作にベッドへ体を預けた。硬いシーツの感触が背に広がる中、ジュードは医療ジンテクスを慎重に取り出す。
冷たい器具をミラの足に当てると、部屋の空気は一層張り詰めた。
「これでいいはずだけど……どう、ミラ? 痛くない?」
ジュードの声はかすかに震えていた。
「痛みどころか、何も感じないな。足もぴくりともしないぞ」
ミラの平然とした声が返ってきた瞬間、ジュードの胸に冷たい失望が走る。
「そんな……どうして機能しないんだろう」
首を傾げるジュードを見つめながら、ミラは器具に視線を落とし、静かに告げた。
「この石からはマナを感じない。君の父親が、医療ジンテクスには精霊の化石を使うと言っていたぞ?」
「精霊の化石って……やっぱり実在してるんだ」
呟くジュードの横で、レイアもまたハッとしたように息を呑む。
「そっか。カルテにあった特殊な石って、精霊の化石だったんだ……」
「それに、うまく扱わないとすぐにマナを失うとも言っていたからな。精霊の化石がある場所で治療しなければという話しでもあったぞ?」
「それじゃあ、なおさら治療するなんて……」
ジュードの声には焦燥が滲む。その時、レイアが小首を傾げながらぽつりと口にした。
「あれ……でも、フェルガナ鉱山で昔、採れたって聞いたことがあるような……」
「本当、レイア!?」
ジュードの目が輝き、思わず声が大きくなる。
「ちょ、もう~、静かに。お父さんだったかお爺ちゃんだったかに聞いたことがあるだけで、本当かどうかはわからないけど……」
「どうする、ミラ?」
問いかけるジュードに、ミラは迷わず頷いた。
「無論、行くさ。世話をかけるが……頼めるか?」
「勿論」
その一言に、レイアは目を見開く。心のどこかでミラが『諦めるだろう』と思っていたのかもしれない。けれど、彼女は決して折れなかった。その姿に、驚きとわずかな誇らしさが入り交じっていた。
「本当に諦めないんだね」
「ん? なんだ」
「あ、ううん。何でも」
慌ててごまかすように、レイアは部屋の隅に置かれた車いすを押し出す。
「さぁ、ミラ。こっちに座って」
「すまないな」
「さ、準備は万全! 閉山した山だから、気合いいれて、行こー!」
思わず大声を張り上げてしまい、すぐさまジュードに制される。
「レイア。しー!」
「……あ。えへへ」
小さく舌を出して笑うレイア。その無邪気さが一瞬、重い空気を和らげた。
こうして三人は静かに治療院を抜け出した。
◇ ◇ ◇
外で彼らを待っていた仲間たちと出会う。柔らかな潮風が肌を撫でる中に、緊張と期待が入り交じっている。
「よ。どうだった? ……ってのはまぁ、ジャンヌから聞いて、だいたい知ってるんだけどな」
気安く声を掛けてきたアルヴィンに、ミラは車いすの上から堂々と答える。
「今から精霊の化石を取りに、フェルガナ鉱山に行くことになった」
「鉱山、ですか?」と首をかしげるマシュ。
「ああ」
「どういうことだ? ディラック――ジュードの親父さんに見てもらうんじゃなかったのか?」
アルヴィンの問いに、ジュードは言葉を詰まらせた。
「それは……」
代わりにレイアが口を挟む。
「まぁ、大先生はミラの体を考えて、ジュードはミラの想いを優先したってことだよ」
「そうかい。ま、何にせよ、行くってんならさっさと行こうぜ。コソコソしてるところを見るに、見つかったら面倒なんだろ?」
「う、うん」
「それなら、早速参りましょう」と静かに告げるX。
「……ああ」
ミラが力強く頷いた瞬間、一行の視線は同じ方向を向いていた。閉山した場所――フェルガナ鉱山。その先に待つのは危険か、希望か。
彼らの小さな影が、石畳に並んで伸びていった。
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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