ようやく辿り着いたフェルガナ鉱山は、暗闇に包まれ、静寂が支配している。
かすかな光源が、岩壁に薄く反射し、周囲の不気味な静けさを引き立てる。狭い通路は曲がりくねり、先に進むにつれてますます暗くなっていく。通路の壁には煤けたランプが取り付けられており、その灯りはかすかに揺れながら道を照らし、その先には、見上げるほどの大きな洞窟が広がっており、何かがひっそりと潜んでいるような気配を感じてしまう。
「あ、あったあった! ここが採掘場だよ」
レイアがぱっと声を上げる。無邪気なその調子が、ひんやりとした空気をわずかに明るく照らすようだった。
「えっとねー、確か精霊の化石って色が付いてて音がするんだって」
「へえ、そうなんだ」ジュードが感心したように目を瞬かせると、「よくご存じで」と横にいたXもまたよく知っているなと頷いた。
それにレイアは胸を張って答える。
「お姉ちゃんの言葉で思い出したけど、昔お爺ちゃんから聞いたことがあったんだよ、私」
「なるほど」ジャンヌはその説明に納得の色を示した。
だが、ミラは鋭い眼差しを周囲に向け、短く言う。
「妙だな。作業途中で打ち捨てられているように見える」
確かに、坑道の入口付近には石を割りかけた跡や、半ば埋もれたままの採掘道具が散乱している。まるで突然、全ての作業が放棄されたかのようだった。
「昔からこうだっけ? レイア、何か知ってる?」ジュードが問いかける。
「ううん。私もこの辺、ほとんど来たことないから」
レイアの返答は短く、彼女自身も少し不安げに辺りを見回していた。
「面倒なことが起こりそうな予感」アルヴィンが肩をすくめる。
それでもレイアは、きゅっと拳を握って明るい声を張った。
「でもね、やるしかないんだよ。うん!」
「気合い入ってるね……」ジュードが苦笑する。
「だって、こう燃えてくるものがあるじゃない! どっちが早く見つけられるか勝負だよね、もちろん!」
「はぁ……注意してね。レイアに何かあったら……」
ジュードの声音には、どうしても消せない心配の色が滲んでいた。
「ジュードは昔からすぐにそうやって言うんだから」
レイアは半ば呆れ顔で笑ってみせるが、その頬はほんのり赤い。
「……」
ジュードは言葉を失い、視線を落とした。幼い日の記憶が脳裏をよぎったとでもいうように。
「何かMs.レイアにおありで?」
マシュが首を傾げる。
「レイアでいいよ、マシュ。昔、ちょっと大怪我したことがあるだけ」
「へぇ。今は大丈夫な訳?」アルヴィンが興味深げに問う。
「勿論! とっくの昔に治ってるってのに、ジュードってばず~っと心配してさ」
「とっくの昔って。あれからまだ10年も経ってな――」
「あ~! あ~! 聞こえませ~ん!」
レイアは耳を塞いで誤魔化し、ジュードは深いため息をついた。
「大丈夫でしょう。何かあっても我々でフォローが可能です」マシュが落ち着いた声で告げる。
「ま、私の聖剣の冴えさえあれば、どんな敵もイチコロですしね。……今、聖剣持ってませんけど」Xが胸を張って言えば――
「じゃあ言うなよ……」アルヴィンが容赦なく突っ込む。
そんなやり取りに、レイアは思わず笑顔をこぼした。
「ありがと、みんな。それにわたしの心配よりも、今はミラの心配でしょ」
そう言って彼女は、背から下ろしていたつるはしを差し出す。マルタから預かった、古びた鉄の輝きを宿す道具。その重みには、ただの採掘具以上の責任と絆が込められているように思えた。
「……わかったよ。ジャンヌ、ミラをよろしく」
ジュードが振り返りながら言うと、ジャンヌは静かに頷いた。
「承知いたしました」
彼女は滑らかな動きで車椅子の取っ手を握り、代わりにミラを押す役目を引き受ける。
坑道の空気は湿り気を帯び、土と鉄の匂いが鼻をつく。暗闇を裂くのは、光るキノコと、岩肌に微かに滲む不思議な輝きだけ。そんな暗闇への不安をかき消すようにレイアは元気よく声を出す。
「それじゃあ、頑張って探そう!」
「お~!」とXが大げさに右手を挙げて応えた。
「ほら、マシュも」
「私もですか?」
「そうそう!」
「お、お~……」
控えめに声を出すマシュ。そのぎこちなさに、場の空気がわずかに和む。
「無理してやらなくてもいいぜ」アルヴィンが肩をすくめる。
「ははは……」ジュードは苦笑しながらつるはしを握り直した。
◇ ◇ ◇
岩肌に打ち込むたび、乾いた衝撃音が坑道にこだまし、粉塵が白い霧のように舞った。冷たい石の壁に火花が散り、時折まばゆい光を反射する。やがて、キノコの灯りとは異なる自然の輝きが、ひときわ鮮烈に視界を照らした。
「これって……」
ジュードが掘り出した欠片を手に取る。
「ジュード! 見つけたの? ……わ。何これ」
駆け寄ったレイアの目が驚きに丸くなる。
淡い光を宿した結晶は、掌に乗せると小さな鈴のような音を奏でた。どこか懐かしい旋律にも似て、耳を澄ませれば風のざわめきや水の滴る音と重なって響いてくる。
「それは……精霊の化石のようだ。この色、間違いないだろう」
ミラの声音は確信に満ちていた。
「けど……こんな細かくちゃ……」レイアが不安げに呟く。
「もっと大きいのが必要なのか?」アルヴィンが眉を寄せた。
「たぶんだけど……」ジュードも頷く。
その時、マシュが顔を上げた。
「奥から風が吹いているようです」
実際、湿った坑道の空気に混じって、ひんやりとした風が頬を撫でていく。まだ奥に通路が続いている証だ。
「まだ先があるってことだね」
「んじゃ、そっちも行ってみるか」アルヴィンが前を指す。
「むふふ。ジュードには負けないよ」レイアが拳を握る。
「競争じゃないってば……」ジュードは思わずため息を漏らしたが、その顔にはどこか安心した色も浮かんでいた。
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