坑道の奥はさらに暗く、さらに冷たく――何かが待ち構えている気配を孕んでいた。
奥へと進んだ坑道は、外界の光が届かない闇に沈み、足音と呼吸音だけが響いていた。壁には湿り気があり、ところどころに空からの明かりが漏れる場所があり、唯一の外との繋がりだと心を少し明るくしてくれる。
「ねぇ、ところで精霊の化石って、結局なんなの?」
レイアが首をかしげながら問いかける。
それにはアルヴィンが苦笑交じりに肩を竦める。
「知らずに探してたのかよ、おたく」
「マナを失った精霊がこちらの世界に定着し、石になったものだ」
ミラの声は低く、響くように坑道へ溶け込む。
「そう言われておりますね」ジャンヌが静かに続ける。「私自身は拝見したことはありませんが」
「マナを失うって……まあ、言ってみれば死んじゃうみたいな感じでしょ。?」レイアが眉を寄せた。「でも、精霊が死ぬなんてあんまり聞かないよ。都会じゃよくあるの?」
「う~ん、無いとは言い難いことはあったけど……」ジュードは言葉を選ぶように答える。
「確かにな。とはいえ、それ以外ではなかなかないことではある」ミラも頷いた。
「そうなんだ~」レイアは腕を組んで唇を尖らせる。「だとすると、ここの精霊たちも大昔からちょっとずつ死んじゃってたから、ここで精霊の化石が採掘できるようになったってことかな?」
「いや」ミラの目が細められた。「遥か昔、とある理由で精霊が大量に死んだことがあった訳だが……そうか。そう考えると今の私は、その死に救われようとしているわけか」
その声音は淡々としていたが、含まれた意味は重かった。
「なるほどなるほど」Xが腕を組んでおどけて見せる。「つまりは巡り巡ったあなたへの皮肉ってやつですか~。超ウケますね~」
その言葉にはミラへの嘲笑が多分に含まれていたのだが……
「ウケるとはなんだ?」どうやら当人には響かなかったようだ。
「……そこからかぁ~」
「どういうこと?」とレイアが問い返すが、ジュードは苦笑して首を振った。
「あ~、うん。何となくわかるような気もするけど……僕もよく分からない部分もあるかも」
「なにそれ?」
「……まぁ、あとで話すよ」
そう言い残してジュードは歩を早めた。
「なにあれ。感じ悪ー!」レイアは舌を出し、子供っぽくべーっとする。
その時だった。ジュードが唐突に足を止める。
「わ、ちょっと……これぐらいで怒らないでよ」レイアが慌てて言う。
しかしジュードは険しい顔で耳を澄ませていた。
「今……何か聞こえなかった?」
「え?」レイアが目を瞬く。
「何かって?」アルヴィンが眉を寄せる。
「音がされましたか?」とマシュ。
「うん。何か今までに聞いたことがないような……ほら、やっぱり! 何か鳴ってる。この音……どこから……」
ジュードの声には確信があった。
坑道の奥、黒々とした岩の隙間から、鈴を転がしたような微かな音が響いていた。風の流れとも違う、不思議な律動。
ジュードは息を呑み、指を伸ばした。「あった……精霊の化石だ!」
その視線の先、暗がりの中でひときわ強い光が脈動していた。
「やったね、ジュード! 早く向こう側に行こっ」
レイアの弾んだ声が坑道に響く。
「これで辛気臭いこことはおさらばってか」アルヴィンが肩を鳴らすように言い、薄暗い通路を見回した。
「我が主のためにも、早く手に入れましょう」ジャンヌは毅然とした声で頷く。
「お~」
不意に上がったマシュの声に、皆の視線が集まった。
「……マシュ?」ジュードが思わず問い返すと、「……違いましたか?」とマシュは冷静な顔で返答する。
「いやいや、バッチリだよ! それじゃあ行こう!」レイアが笑ってその背を押し、先へと駆け出していった。
「ホント、明るい幼馴染だこと」アルヴィンが苦笑しながら腕を組む。
「僕に言わないでよ……」ジュードはため息をつきながらも、自然とその後を追っていた。
◇ ◇ ◇
やがて、先程ジュードが精霊の化石を目にした場所へと辿り着く。
しかしそこにあったはずの輝きは、影も形も残していなかった。
「……あれ?」レイアが立ち止まり、きょろきょろと周囲を見回す。「さっきはあったよね……」
「場所は間違っていないはずだ」ミラが断言する。その眼差しは冷静だが、奥底にはわずかな苛立ちが滲んでいた。
「確かにそうですね」マシュも頷く。
「でも無いってことは、どういうことだ?」アルヴィンが眉をひそめ、壁際の岩を蹴る。乾いた音が坑道に反響した。
「……もしかして、動いて……る?」レイアがぽつりと呟く。その声は小さかったが、静まり返った坑道にはよく響いた。
「死んだ精霊の化石が動いているとは、生きているのか死んでいるのかわかりませんね」
Xが軽い調子で言う。だが、その冗談じみた響きに誰も笑わなかった。
「おたくならではのブラックジョークだな」アルヴィンが吐き捨てるように言う。
レイアは首を傾げたまま「?」と困惑の表情を浮かべる。
そんなやり取りをよそに、ジュードは膝をつき、手で岩肌をなぞっていた。土の温もりを確かめ、残った微かな痕跡を追うように。彼の瞳は暗がりの奥を真剣に見据え、何かを必死に探し求めていた。
ジュードは地面に散らばった小さな破片を拾い上げ、掌に転がした。淡く光るその欠片は、ほんの一瞬だけ生きていたかのように脈動しているように見える。
「精霊の化石の欠片だ……。ということは、さっきのはこの奥に……」
「でも、石が勝手に移動するなんてある?」レイアが目を丸くする。
「ありえないことでも、他に可能性がないなら、真実になり得る」ジュードは小さく息を吐いた。
「『ハオの卵理論』だったか?」ミラが低く呟く。「おそらく、そういうことになるんだろうな」紫紺の瞳には緊張と、どこか遠い記憶の影が浮かんでいた。
「ま~た、ジュードが頭良さそうなこと言ってる~」レイアは軽口を叩いてみせるが、その声にも僅かな不安が滲んでいた。
「頭良さそうって……」ジュードは苦笑するしかない。
「ハッハッハッ。どうやらジュード君は昔と何も変わってないようで」アルヴィンが大げさに肩をすくめる。
「もう……アルヴィンまで」
「ともかく、行ける所を虱潰しに捜索するしかありませんね」ジャンヌが真面目な声で言う。
「だね! よ~し、奥へゴー!」レイアが勢いよく駆け出す。
「ちょっと待ってよ、レイア! 一人で行ったら危ないってば!」ジュードは慌てて後を追った。
◇ ◇ ◇
通路の先に広がっていたのは、思いもよらぬ光景だった。
暗闇を打破するように、青白い光が空間を満たし、まるで星空が地下深くに広がっているかのようだ。岩壁には微かな光点が散らばり、その輝きが幻想的な雰囲気を醸し出している。空気はひんやりとしていて、冷たさが背筋を走るが、その美しさに思わず息を呑んでしまう。
「わぁ……何、ここ……不思議な場所……」レイアは目を輝かせ、無防備に一歩二歩と奥へ進んでいく。
「音が大きくなったり、小さくなったりしてる」ジュードは耳を澄ませた。鼓膜を震わせるその響きは、精霊の声にも似ている。
「ということは……」マシュが小声で呟く。
「この辺りに精霊の化石が……」ジャンヌの視線は鋭く辺りを探る。
「……ん? 気をつけろ、何かいるぞ」ミラが低く警告を発した。
「何か?」アルヴィンの眉がぴくりと動く。
「すごい……」レイアは危険を忘れ、ただ眼前の光景に心を奪われていた。
「……待て! 下がれ、レイア!」ミラの声が鋭く響く。
「え?」
その瞬間、地面が大きく揺れた。岩壁が軋み、床が盛り上がり、地の底から何かが突き破る。
轟音とともに姿を現したのは、巨大な岩のような体に、鋭く尖った牙が並び、その額にはまるで宝石のような青い輝きが宿っているというミミズとも蛇ともつかない化け物だった。
何本もの太くて無機質な触手が体側から揺れ、こちらを威圧するように目の無い顔をこちらに向けて、円状に生えた鋭い歯を見せてくる。
「危ない!」ジュードが叫び、反射的にレイアに飛びついた。二人は転がるようにして辛うじて攻撃をかわす。砂煙が舞い上がり、喉にざらりとした土の味が広がった。
「ジュード……!」レイアは驚きと安堵の入り混じった瞳で彼を見上げた。
立ち上がるや否や、仲間たちはそれぞれに武器を構える。
「あ~りゃりゃ。嫌な予感的中ってか?」アルヴィンが口を歪める。
「なるほど。Ms.マルタの仰ったように、長い間放置されているような場所であれば、このような巨大な魔物の生息域としては適しているでしょう」マシュが冷静に分析する。
「呑気に見てる場合じゃないと思いますけどね~」Xが肩を竦める。
「ジュード、やつの頭だ!」ミラの声が鋭く響く。
「頭?」ジュードは魔物の巨体を凝視する。
そして気づいた――頭部に貼りつくようにして、キラキラと輝く鉱石が輝いていることに。
「もしかして……あれが、精霊の化石!?」
レイアは息を呑み、拳をぎゅっと握りしめた。
その言葉にレイアが一歩前へと踏み出した。握りしめた武器が光を反射し、決意の炎がその瞳に宿っている。
「レイア、出過ぎないで!」ジュードの叫びが響く。
「大丈夫。わたしだって、出来るんだから!」
振り抜かれた一撃が空気を裂き、モンスターの巨体を揺るがした。
その瞬間、戦いの幕は切って落とされた。
昨日もまた体調不良で……( ;∀;)
本当、この一週間大変でした(-_-;)
とはいえ、暫くは大丈夫かと思われますので、引き続きのご愛顧よろしくお願いいたしますm(__)m
……フラグじゃないといいな~w
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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1000文字以内
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1~2000文字以内
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2~3000文字以内
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3~4000文字以内
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4~5000文字以内
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5000文字以上