フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

66 / 116
復活のミラ 後編

「やった、今のうちに精霊の化石を!」

 

 激しい戦闘の後、巨躯が崩れ落ちた隙を見逃さず、レイアは駆けだした。

「待って、僕が――!」ジュードの声が背後から飛ぶ。だが、彼女は振り返らない。

 

「わたしだってできるよ!」

 

 跳ね上がる心臓の鼓動を押さえ込み、彼女はモンスターの頭部に手を伸ばす。額に埋まっていた光が、不意にポロリと零れ落ちた。

 

「やった……!」両手で掴み上げたそれは、確かに精霊の化石だった。振り返ったレイアは、誇らしげに笑みを浮かべ、ジュードへと掲げてみせる。「ほら!」

 

 だがその時、地響きが再び洞窟を揺らした。

 

「……っ!?」

 

 倒れ伏したはずの魔物の巨体が、呻き声と共にのたうち始める。

 

「レイア! 危ない!」

 

 ジュードが駆け寄り、彼女を庇おうとする。しかし、次の瞬間、暴れ狂う体躯が襲い掛かり、二人はまとめて吹き飛ばされた。

 

「きゃっ!」

「ぐっ……!」

 

 岩壁に叩きつけられ、砂埃の中で二人は崩れ落ちる。

 

「ジュード! レイア!」ミラが声を張り上げる。

 

「マシュ、あいつらのフォローを! 俺とXが引きつける!」アルヴィンが即座に指示を飛ばす。

 

「了解」マシュは短く答え、弓を構えた。

 

「派手に行きますよ~!」Xが楽しげに叫び、魔物の眼前へと飛び込んでいく。

 

 しかし、現実は厳しい。

 

「か~。図体デカいくせによく動き回りやがる!」アルヴィンの額には汗が滲む。

 

「しかも、これ以上動き回られると、この空間が崩壊する危険性があります」マシュは盾をつがえ、気を失ったジュードたちを庇いながら事実を口にする。

 

「うわ~。そしたら私たち、ペシャンコですね。人間の化石の出来上がり~……みたいな?」

 

 Xが飄々と口にすると、「嫌な事言うなよ、おたく」とアルヴィンが軽口を叩く。

 

「失礼。私はペシャンコになっても問題なかったので、つい……」

 

 混乱の戦場。

 車椅子のミラは、その様を見て唇を噛む。

 

「ジャンヌ、お前も行け」

 すると、ミラは背後を見るようにジャンヌに声をかける。

 

「よろしいのですか?」

 

 不意に声をかけられたジャンヌはミラの体を気遣うように問いかけるも、「私は大丈夫だ。それより……」と、ミラの視線の先に居たのは倒れたジュードとレイア。

 

 その視線の意図に気付きジャンヌは頭を下げる。

「……承知いたしました」

 

「頼む」

 

 その言葉と共に、彼女は鋭く剣を抜き放ち、魔物の側面へと飛び込んだ。

 

 だが状況はなおも膠着している。暴れる巨体の圧力に押され、空洞の天井から嫌な軋みが響き始める。

 崩落は、すぐそこまで迫っていた。

 

 その時――ミラの視線がふと地面に落ちる。砂にまみれて転がる一片の光。レイアが掴み取った精霊の化石。

 

「……! あれは……!」

 

 ミラの紫紺の瞳に、確かな決意の光が宿る。

 

 ――目的は、ただひとつ。

 

 ミラの瞳がぎらりと光を宿す。

 車椅子から転げ落ち、土埃にまみれながらも、彼女は躊躇なく這い進んだ。爪が砕けようとも、膝が擦り切れようとも構わない。ただ前へ、光へ――転がる精霊の化石へと。

 

 指先がそれに触れた瞬間、冷たいはずの石からは熱を帯びた鼓動のようなものが伝わってきた。

 

「今、助けるぞ……! ……ぐぅっっ!!」

 

 叫びと共に、ミラはその化石を先程ジュードが施したままの医療ジンテクスに無造作に組み込む。

 

 瞬間、稲妻のような衝撃が全身を駆け抜けた。

 

 失われていた右足――その空白に、光が奔流となって形を与える。肉でも金属でもない、眩しく透き通った「精霊の足」が彼女の身体の一部として現れた。

 

 だが。

 

「う、ううぅっ……!」

 

 尋常ではない痛みが骨の髄を焼くように走り、ミラの顔は苦悶に歪む。ディラックの警告が、現実のものとなって襲いかかってきたのだ。

 

「だ、だが……これ以上好き勝手をさせるつもりは、ない!」

 

 血の気を失った唇から、なおも毅然とした声が響く。

 

 その声に戦闘中の各々が反応する。

 

「……!? ミラ様!」ジャンヌは息を呑み、旗を構える手が震えた。

「おいおいおい! マジかよ!」アルヴィンが呻きながら後ずさる。

「立って、いらっしゃいますね」流石のマシュも少しばかり驚いていた。

 

「へぇ~」一方のXはにやりと笑みを浮かべる。「死した精霊に宿るマナを使って代わりの足を生み出す技術、ですか。凄いこと考えますね、人間って」

 

 立ち上がるミラの姿は、痛みに喘ぎながらも気高く、精霊の主に相応しい威容を放っていた。土埃の中、光を帯びた片足が空気を震わせ、その姿は誰もが目を奪われるほど神々しかった。

 

 だが、魔物はなおも暴れ、空洞の天井を揺らし続ける。このままでは崩落は必至。

 

 ミラは息を吸い込み、皆を奮い立たせるように叫んだ。

 

「行くぞ!」

 

 声が反響し、岩壁が震える。彼女にとっては初めての、皆にとっては再びの魔物との決戦が始まった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 荒れ果てた戦場。

 沈黙した巨体を前に、ジュードがようやく意識を取り戻す。

 

「ん……あ、あれ……? 僕……」

 

 隣ではレイアも呻きながら目を覚まし、周囲を見回して――その姿を見て声を張り上げた。

 

「あれ!? ミ、ミラ!?」

 

 レイアの言葉にジュードも顔を上げる。そこには――

 

「良かった。二人とも、無事のようだな」

 

 両足で大地を踏みしめるミラの姿があった。片足は光を纏い、尚も眩く輝いている。

 

「ミラ、使えたんだね。医療ジンテクス……」ジュードが驚愕と安堵の入り混じった声を漏らす。

 

「ああ。まぁな……ぐぅっっ!!」

 

 次の瞬間、鋭い痛みが再び彼女を襲い、ミラは四つん這いになってしまった。

 

「ミラ……!」

「ミラ!!」

 

 駆け寄るジュードとレイア。だが、ミラは苦悶の笑みを浮かべて彼らに向き直った。

 

「まったく……よくも、こんなモノを考えてくれたな……」

 

 その言葉は苦言でありながらも、仲間への信頼と感謝が滲んでいた。

 

 戦いの余韻は、まだ空気に重く残っていた。岩肌の裂け目からは細かな砂や石片がぱらぱらと落ち、地下空洞全体が息をひそめたように不気味な軋みを響かせている。

 

「ミラ、痛みはどう?」

 ジュードが問いかける声には、張り詰めた心配が滲んでいた。

 

「はぁ……はぁ……想像以上ではないが……なかなか堪える」

 ミラは額に汗を浮かべ、荒い息の合間に答える。光の足はまだ輝きを放っていたが、その眩さはむしろ彼女の苦悶を強調しているようでもあった。

 

「そっか……」

 ジュードは小さく頷きながらも、その眼差しは彼女から離れなかった。

 

「とりあえず、目的のもんは手に入ったし、さっさとこんな所、おさらばしようぜ」

 アルヴィンが肩をすくめ、洞窟の天井を見上げる。今にも崩れてきそうな音が絶え間なく響いている。

 

「同意します。先程の魔物との戦闘で、この空間の崩壊の危険性が高まっておりますので」

 冷静なマシュの指摘に、皆が自然と足を速めた。

 

「わかったよ」

 ジュードは頷き、仲間を促す。

 

「では、我が主よ。こちらへ」

 ジャンヌが押し殺したような声で呼びかけ、車いすに座るよう求める。

 

「うむ、すまない」

 ミラはジュードやレイアの手を借りながらも、必死に体を起こすと、どしんと全体重を車いすに預けるようにして座る。

 

 こうして一行は、崩壊の兆しを見せる空洞を後にすることになった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 最後尾を歩いていたレイアは、ふと隣に並ぶジュードの姿に目をやり、小さく頭を下げた。

 

「……ごめん、ジュード」

 

「ん? レイア?」

 ジュードが見ると、レイアは眉尻を下げたまま、消え入りそうな声で続ける。

 

「わたしがドジったから……ジュードまで怪我を……」

 

 その言葉に促されるように、ジュードは自分の頭を摩っている。

 

「平気だよ、これくらい」ジュードは笑顔で軽く言い切ると、逆にレイアを心配する。「それより、レイアこそ平気? 怪我してない? 昔の怪我が再発してたりなんかしたら……」

 

 不安げな問いかけに、レイアは慌てて両腕を曲げて力こぶを作ってみせた。

 

「う、ううん! 大丈夫大丈夫! 私はジュードのおかげで、ほら! この通り!」

 

 ぎこちない笑顔と仕草。しかし、その顔色の影に隠れる罪悪感までは誤魔化せていない。

 

「そう。それならいいけど……何かあったら必ず言ってね」

 ジュードの優しい言葉に、レイアは一瞬だけ胸が詰まり、視線を逸らした。

 

「う、うん……」

 

 ジュードはそれ以上追及せず、前を歩く仲間たちの背に視線を向け直した。

 残されたレイアは、その背中を見つめながら小さく息を吐く。

 

「……ハァ。またやっちゃったな~」

 

 自分の未熟さへの後悔が、ため息と共に漏れ出す。

 トボトボとした足取りで、それでも彼女は仲間の背を追いかけていった。

 

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

  • 1000文字以内
  • 1~2000文字以内
  • 2~3000文字以内
  • 3~4000文字以内
  • 4~5000文字以内
  • 5000文字以上
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。