未だ空の明るいル・ロンドは、穏やかな光に包まれていた。遠くから漂う草花の香りと、家々や道すがらに聞こえる明るい声が、鉱山での死闘をまるで幻のように思わせる。
「ジュード……!」
そんな平和的な喧騒の中、ジュードたちがようやく村へと戻ってくると、彼らに真っ先に駆け寄ってきたのは、母エリンだった。胸に手を当て、安堵と焦りの入り混じった瞳で息子を見つめる。
「母さん」
ジュードの声はかすかに震えていた。
「大丈夫? どこかケガはない? マルタちゃんから聞いたわよ。鉱山に行ったのよね? どうして黙って行ったの」
母の言葉は優しさに満ちていたが、その裏に潜む心配と怒りは痛いほど伝わる。ジュードは胸の奥に重しを抱えたように俯いた。
「母さん……ごめ……」
「ジュード!」
その謝罪を遮るように、鋭い声が響いた。ディラックだった。
次の瞬間、強烈な音と共にジュードの頬が弾かれる。
「あなた!」
思わず声を上げるエリン。
「患者に何かあったらどうするつもりだ。最悪の事態を考えなかったのか?」
父の叱責は冷徹な怒りというより、必死に抑え込まれた恐怖の裏返しに聞こえた。
「……できることをしないなんて……。僕は父さんと一緒じゃないから……」
ジュードの言葉は震えながらも、確固たる意志を含んでいた。
「お前はっ!」
再び手が振り上げられたその瞬間——
「もう許してやってほしい。ジュードはやり遂げたのだから」
ミラが間に割って入った。
立ち上がったその姿に、ディラックの目が大きく見開かれる。
「な……立てる……のか?」
「ああ。ジュードたちのおかげだ」
ミラの声音は静かだったが、その背には確かな誇りが漂っていた。
ディラックの視線がジュードへと移る。だが、ジュードは頬を押さえ、決して父の目を見ようとしなかった。
「ムリしちゃダメだよ。もう~、早く座って!」
「うむ」
レイアが慌てて声をかけ、立ち上がったミラを再び車いすに戻す。その仕草には仲間を思う優しさが溢れていた。
「あなた」
エリンの低い呼びかけに、ディラックは短く頷く。
「……レイア、すぐに治療院へ来なさい」
「はーい」
返事をしたレイアを伴い、夫妻は足早にその場を後にした。
「さてと、しばらくはリハビリだね」
レイアは気持ちを切り替えるように明るい声を上げる。
「ふむ。世話になるな、レイア」
「全然おっけー! 任せてよ!」
その笑顔を受けてミラもわずかに口元を緩めたが、ふと視線を横に流すと、頬を押さえたまま歩くジュードの姿が映った。
「ジュード、痛むのか?」
「ううん……大丈夫」
短い返答。しかし、赤らんだ頬は嘘を隠しきれていなかった。
「おやおや。親子喧嘩ってやつか? 青春だね~」
軽口を叩くアルヴィンに、場の空気が少しだけ和らぐ。
「え~? 青春って、同い年の者同士がするべきものでは? ……って、お2人とも、今まで姿を見せませんでしたね? どこへ行ってたのです?」
Xが目を丸くすると、アルヴィンは悪びれず笑った。
「あ~。ちょっとな。何となく一波乱ありそうだったんで隠れてた」
マシュは黙したまま、無表情の視線を送っている。
「もう~、ちゃっかりしてるな~」
「ハッハッハッ。危機管理能力が高いと言ってくれたまえ」
「とりあえず治療院へ参りましょう。我が主の介抱をして頂きませんと」
ジャンヌが静かに告げ、ミラを押す手に力を込める。
「そうだな。それでいいか? ジュード」
「う、うん……」
彼の声はか細く、それでも歩みを止めることはなかった。
こうして一行は、ル・ロンドの街並みを抜け、治療院へと向かっていった。
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