フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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黒匣の真相?

 海風を背にして北へと進む一行は、湿った潮の香りが次第に薄れ始めたのを感じながら、代わりに荒涼とした大地を目にし始める。

 

 黄昏色の空の下、岩壁に囲まれた乾いた大地が広がっているその場所こそはラコルム街道。

 

 道は赤茶けた土に覆われ、両側には風化した崖がそびえ立ち、遠くには起伏のある岩山が連なり、その間を縫うように道が続いている。風は砂埃を巻き上げ、乾いた空気はわずかに渇きの匂いを運んでくるようで、あちこちに棘を持つ灌木や奇妙な形の岩が散在しており、荒涼とした景色にわずかな生命の気配を与えている。

 

 そんな道を歩む折、鋭い羽音が空を裂いた。影が一筋、頭上を横切る。

 

「……あ、アルヴィンの鳥だ。また連絡?」

 ジュードが立ち止まり、空に視線を移す。見慣れた伝書鳥が舞い降り、真っ直ぐにアルヴィンの肩へと止まった。

 

「あぁ、悪いな」アルヴィンは肩を竦め、鳥の足に括り付けられた筒を外す。「すぐ終わるからちょっと休んでてくれよ」

 

「いいだろう。少し休憩と行こう」

 ミラが静かに頷く。その声に仲間たちはほっとしたように腰を下ろし、しばしの安らぎを得た。

 

「やったね」

 レイアは嬉しそうに伸びをする。

 

「つ~か~れ~た~」

 ティポが地面に転がるように声をあげる。

 

「ティポさんは空を飛んでいるだけでは?」

 マシュが小首を傾げると、ティポはむくれ顔で反論した。

 

「僕はセンサイだからねー」

 

「なるほど」

 マシュは真顔で受け止め、場の空気が少しだけ和んだ。

 

「おや? 今の言葉のどこに納得要素が?」

 Xが苦笑混じりに首を振り、笑い声がちらほらと漏れた。

 

 すると、マシュの盾の中から現れたフォウが、ため息交じりに声を出す。

「フォウフォウ……」

 

 フォウの発言にマシュはフォウの言葉を代弁するが、「マシュは君と違って純粋だからとフォウさんは……って、おや? 私、今、フォウさんにも呆れられましたか?」と、どこか様子がおかしいと首を傾げる。

 

「フォウフォウ」

 

「それは君が気にしなくていいことさ、と、そちらの獣さんは言っているようですね」とはXの代弁。

 

「?」

 

 そんな賑やかな輪の中で、アルヴィンは一人、膝の上に紙を広げていた。手早く、しかし丁寧に文字を綴るその姿は、普段の軽薄な態度からは想像できないほど真剣で、彼の背中からは誰にも触れさせぬ気配が漂っていた。

 

「アルヴィンさんはいつもあのように手紙を?」

 ローエンが穏やかな声でジュードたちに問いかける。

 

「うん。前にもあの鳥で手紙のやり取りしてたよ」

 ジュードは声を潜め、ローエンの耳元に顔を寄せた。

「相手は女の人みたい」

 

「なるほど」

 ローエンは少し眉根を上げたが、それ以上は深く追及しなかった。

 

 ジュードはふと、以前から気になっていたことを思い出す。せっかくの休憩だ、と思い切って側にいたミラに尋ねてみた。

 

「ねえ、ミラ。前にイバルに預けたものがあったでしょ。あれって、研究所から持ってきた物?」

 

 ミラの瞳がわずかに細められる。

「イバルが見せたのか?」

 

「うん。信頼の証だとか何とか言って」

 

「全く……」ミラは小さく息を吐いた。「誰の手にも渡らぬようにと言ったはずなのだがな。……いや、自慢するなとは言わなかった私の落ち度か」

 

「ん?」ジュードは首をかしげる。

 

「何でもない」ミラは小さく首を振り、視線を街道の彼方へ向けた。「確かにあれは、クルスニクの槍を動かすための黒匣(ジン)だ。奴らは『カギ』と言っていたがな」

 

 ジュードの胸がざわついた。

「やっぱり……。でも、そんな物、ミラが持ってなくてよかったの?」

 

「むしろ、あの『カギ』を持ったままクルスニクの槍に近づく方が危険だろう」

 淡々と返すミラの言葉に理屈として正しいとジュード。

 

「それもそっか」

 

 ミラは空を見上げながら言葉を続ける。

「ただし、困った問題もある。四大を捕らえた捕縛魔法陣からあいつらを救うには、同じ強度をもつ解放魔法陣を展開させなくてはならない。しかし、それは今の私には不可能だ」

 

 ジュードの目が大きく見開かれる。

「それって……つまり、四大精霊を助けるには、あの『カギ』が必要ってこと?」

 

「そうだ。だが『カギ』を使えば、今度はクルスニクの槍を起動させてしまう。無論、あれを破壊するとなると四大の力は必要不可欠だ。もっとも、今以上に我らが力を付けたのであれば、それも可能だろうが……」

 

 言葉を濁すミラの横顔には、普段の揺るぎなさとは違う影があった。

 

 おかげでジュードは首を傾げる。

 

「ミラ?」

 

 自分言葉を振り払うように、首を振るミラ。

「……いや、何でもない。そうとなると、『カギ』の受け渡しのタイミングが重要となる訳だが、そうなると……」

 

「なるほど。すごい悩ましい問題だね。」ジュードは唇を噛んだ。「……それにしても、黒匣(ジン)って結局何なの?」

 

 ミラは一度空を仰いだ。青い空には雲がゆるやかに流れている。だが彼女の声には、その穏やかな景色にそぐわぬ硬さが宿っていた。

「ふむ、そうだな……例えばイル・ファンにある街路灯。人間はあれを精霊術で灯している。この程度であれば誰にでもできる。だが、もっと強力な精霊術が必要になったらどうする?」

 

「そりゃ、僕たちが精霊術を使うには、もって生まれた霊力野(ゲート)の素質に左右されるから……無理な人には無理だよね。どれだけ霊力野(ゲート)からマナを出せるかで決まっちゃうし」

 

「そう。それがこの世界の理のひとつだ」ミラの瞳が、まるで真実そのものを映すかのように澄んでいた。「だが黒匣は人を選ばない。クルスニクの槍のような巨大なものを動かすのにも、黒匣があれば済んでしまう。街路灯も、槍も、誰かの術に頼らずとも動かせてしまうんだ」

 

 ジュードは息を呑む。

「だから、マナを吸収する機能があるんだ……。でも、それってすごく便利じゃない?」

 

「便利だから恐ろしいのだ」ミラの声は低く、決して笑みを含まなかった。「誰でも四大を捕らえるほどの術を操り、その力を人殺しに利用できる。クルスニクの槍のように、な」

 

 その言葉に、ジュードは返す言葉を失った。胸の奥に重い鉛を落とされたようで、彼女の真意を掴みかねたまま視線をさまよわせる。

 

 ――その時、

「悪い、待たせたな」

 アルヴィンが鳥を空に放ち、手紙のやり取りを終えたと歩み寄ってきた。空気を変えるように、ミラは短く告げる。

 

「そろそろ行こう」

 

 話はそれで打ち切られた。

 

 仲間たちが再び歩き始める中、ジュードだけがしばらくミラの背中に目を留めていた。

 

「クルスニクの槍みたいな兵器は絶対に壊さなきゃだけど……黒匣ってそんなに悪いモノなのかな?」

 

 少年の胸に生まれた小さな疑問は、街道に吹く風とともに揺れ続けていた。

 

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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