フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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大会当日闘技場にて

 シャン・ドゥの街を急いで駆け抜け、ようやく闘技場へとたどり着いたジュード。観客たちのざわめきがすでに建物の奥から響いてきて、胸の奥をじわじわと高揚させる。

 

 入口前に立つと、そこにはすでに仲間たちが揃っていた。

 

「遅いよ、ジュード」

 レイアが両手を腰に当て、少し不満そうに眉を吊り上げている。

 

「ごめんごめん」

 苦笑しながら謝るジュードに、ユルゲンスが優しく微笑みながら応じた。

「大丈夫。まだ時間はあるよ」

 

 そのやり取りに割って入ったのは、Xだった。

「でも、ビックリですよね~。たまたま会ったあのお医者さんが、ユルゲンスさんの婚約者だったとは」

 

「レイアから聞いたの?」

 ジュードが視線を向けると、レイアは「えへへ」と少し照れ笑いを浮かべて肩を竦める。

「うん。つい皆に話しちゃったよ」

 

「ははっ。まぁ、そんなに大きな街って訳でもないからね。いつかは出会うこともあっただろうさ」

 ユルゲンスは照れたように笑いながら言葉を続ける。

 

「ですが、確率的に言っても、なかなか珍しいのも確かです」

 マシュが真面目な調子で補足する。

 

「うむ、そうだな」ミラが腕を組みながら、どこか満足そうに頷いた。「これも何かの縁というやつだろう。お前もその縁を大事にして、ネズミのようにたくさん子どもをつくるのだぞ」

 

「ネズミのように?」

 ユルゲンスの声が思わず裏返る。

 

「ミ、ミラ……!」

 レイアが顔を赤くすると、慌ててアルヴィンがフォローを入れる。

「あ~、あんま気にすんなよ。うちの大将、ちょっと変わってるんだ」

 

「む~。その言い方、聞き捨てなりませんね」

 

 おかげでジャンヌがむっと頬を膨らませるも、当の本人であるミラは「ん?」と首を傾げるばかりで、周囲は苦笑とため息に包まれる。

 

「あはは……」

 ジュードもつられて曖昧に笑う。気がつけば、重苦しくなりがちな空気は少し和らいでいた。

 

 そんな中、ユルゲンスは顔を引き締め声を張った。

「……まぁいいさ。それより、そろそろ始まるから、準備ができたら受付をしてくれ」

 

 周囲で待ち構えていた以前の男女の一人たる女性が声を飛ばす。

「期待しているわよ!」

 

「がんばってくれよ!」

 もう一人の男性が拳を掲げる。

 

「はい」

 ジュードは思わず背筋を正し、真っ直ぐに答えていた。

 

「では、行こう」

 ミラの静かな言葉に導かれるように、一行は闘技場の中へと歩を進めていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 受付を済ませたジュードたちは、運営係の案内に従って昨日も足を踏み入れた闘技場の内部へと歩を進めた。石造りの通路は熱気に満ち、すでに観客の歓声が壁越しに響いてくる。

 

「続いて登場するのは、キタル族代表だ!」

 実況の甲高い声が木霊し、歓声がさらに大きく膨れ上がった。

 

 まぶしい光の射し込む扉を抜けると、目の前に広がるのは円形の大舞台。容赦なく照りつける空の明かりと、観客の無数の視線と声援。その圧力は、ひとりの青年にはあまりに強烈だった。

 

「こんなに大勢……」

 ジュードの喉が自然と鳴り、足が一瞬止まりかける。

 

 すぐ横に立つミラが、静かに言い聞かせるように口を開いた。

「過度の緊張は、本来の能力を低下させるという。気楽にだ、ジュード」

 

「う、うん……」

 必死に返事をするものの、胸の鼓動は高鳴る一方だった。

 

「登録選手の中で、魔物を操らない選手は彼らだけです。その実力はまったくの未知数。いかほどのものなのか!」

 実況の謎の発言に周囲が沸き立つが、レイアは思わず声をあげる。

「え、魔物?」

 

「おっと、ここで相手選手の登場だ!」

 

 巨大な檻の鉄格子が軋む音とともに開かれる。その暗がりの奥から、唸り声とともに姿を現したのは、明らかに人ではない。毛並みの逆立つ獣、爪を煌めかせる魔物。

 

「うわ~! 本当に魔物だ~!?」

 ティポの驚きの声が響く。

 

「うむ。それにしても、あの衣装……どこかで見たような……」

 ミラが目を細め、相手選手たちを観察する。

 

「なるほど。魔物を操る部族。更には似たような洋服の意匠と……どうやら、Mr.ジャオと関係がありそうですね。ここは彼と出会ったア・ジュールです」

 マシュが冷静に分析するとミラが短く同意を返す。

「やはりそうか」

 

「それが誰かは知りませんが、少なくともその分析は今じゃないと思いますよ~?」

 Xが肩をすくめ、軽口を挟む。

 

「だな」

 アルヴィンが頷く。

 

「それもそうだな」

 ミラは軽く息を吐くと、真っ直ぐに前を見据えた。

「だが、魔物の相手などいつも通りでしかない。問題は無い!」

 

「だね。やろう、ミラ!」

 ジュードも拳を握りしめ、観客の熱気に飲まれぬよう自分を奮い立たせた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 死闘の余韻を残したまま、ジュードたちは闘技場を後にしていた。背後から響くのは実況席の高らかな声。

「キタルブロック決勝進出は、キタル族代表に決定だ!」

 

 観客席の大歓声の中、ジュードたちはユルゲンスたちが待つ闘技場の入口に向かっていく。

 

「……」

 

 おかげで彼らを見つめる怪しい一団に、ミラですら気付くことはできなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「やったー! わたしたち勝ったんだね!」

 緊張から解き放たれたレイアが、子どものようにはしゃいだ。

 

「なんとかって感じだったけどね」

 ジュードは苦笑しながら肩をすくめる。

 

「なっさけないなぁ、優等生は。楽勝だっただろ」

 アルヴィンは相変わらず強がってみせるが──

 

「いえいえ。なかなか、厳しいものでしたよ」

 ローエンは肩を落とし、老獪な微笑を浮かべた。

 

「アルヴィン君はウソツキ~。ね、エリー」

 

「うん……ウソツキ……です」

 ティポとエリーゼに畳みかけられ、「お前らまで……」とアルヴィンは顔を引きつらせていた。

 

 そんな他愛ないやり取りに笑みがこぼれる一方で──

 

「ふふんっ。自業自得ってやつだね……って、うわっ!?」

 

 得意げに鼻を鳴らしたレイアが、後ろ向きに階段を下りていたせいで、棍が石段に引っかかり、そのまま派手に転がり落ちてしまう。

 

「ちょっ!? レイア!?」

 ジュードが青ざめて駆け寄る。

 

「おいおい、大丈夫かよ」

 アルヴィンの声も思わず真剣味を帯びた。

 

「……あ痛たたた~。ビックリした~」

 階段下でレイアは頭を押さえつつも、どうにか無事だったようだ。

 

「ビックリしたはこっちの台詞だよ。もう~。……怪我はない?」

 ジュードが息を整えながら尋ねると、レイアは「うん、大丈夫」と笑ってみせる。

 

「ちゃんと前を見て降りないと危ないですよ? レイア」

 ジャンヌがきっちりと諭すと──

 

「そうですね~。ただでさえレイアさんはドジっ子属性モリモリのようですし」

 Xが楽しげに追い打ちをかける。

 

「ドジっ子属性!?」

 

「ふふ、確かに」

 

「レイアはドジっ子、です」

 

「ドジっ子~!」

 ローエン、エリーゼ、ティポの頷きに、流石のレイアも「ティポまでぇっ!」と抗議する。

 

 こうして生まれた笑いの中、一歩離れた位置で、ミラだけは黙然と皆を見ていた。

「……確実に、力がついてきている。この調子ならこの足でも……」

 

 自らの足にかかる重みと痛みを思い出し、無意識に拳を握りしめる。仲間たちが笑い合うその輪の中に入りながらも、胸の奥にはまだ陰りがあった。

 

 やがて階段を下り切ったところで、待っていたユルゲンスたちと合流する。

 

「やったな! 見事な戦いだったよ」

 ユルゲンスが目を細めて称賛する。

 

「決勝は、食事休憩をはさんでから始まるわ。他の参加者も一緒だから、落ち着かないかもしれないけど、食事にしておきましょう」

 共に居た女性の声に、レイアの目が輝いた。

 

「やった~! ご飯~!」

 

「どんな料理が出るのかな~?」

 

「楽しみ、です」

 

「ええ、そうですね」

 

「ではでは~、早く行きましょう~!」

 

 そうしてXの言葉を皮切りに、ユルゲンスに導かれて皆が歩き出す。

 

 しかし、ただひとり、ミラだけはその場に立ち止まっていた。

 

「……ミラ?」

 それに気付いたジュードが振り返る。

 

「……む? すまない。今行く」

 

 何事もなかったかのように答えて歩き出すミラ。しかしその背中に、どこか思案の影が差しているのをジュードは見逃さなかった。

 

 一瞬不安が胸をよぎったが、仲間の声に押されるようにジュードも足を速め、ユルゲンスの背を追っていった。

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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