フェイトオブエクシリア   作:シュキヨ

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新たな問題?

 ──翌日。

 

 高い天井から吊り下げられた複数のランプが、温かな光を放ち、宿屋のロビー全体を柔らかく包んでいた。大理石の床には、彩り豊かな絨毯が敷かれ、重厚な柱や装飾の施された手すりが建物の格式を感じさせる。二階へと続く吹き抜けの構造が開放感を与え、静かな空気の中にもどこか旅人たちの気配が漂っていた。

 

 壁際には長椅子や小さな机が配置され、談話や休憩のための空間が整えられている。中央には装飾の施された欄干が囲む吹き抜けのスペースがあり、その奥にあるカウンターでは宿屋のスタッフが出入りしている様子が垣間見える。

 

 落ち着いた木目と温かな光に彩られたロビーは、旅の疲れを癒すには十分すぎるほどの安らぎを提供していたが……而して、その場に居るジュードたちの空気は決して穏やかではなかった。

 

「いた?」

 ジュードが他の仲間たちの顔を見ながら、焦りを含んだ声をあげる。

 

「ううん……」

 レイアが首を振り、眉尻を下げた。

 

「どこにも姿はありませんね」

 ジャンヌもまた、落ち着いた声ながら不安を隠せない。

 

 普段なら眠い目をこすりながら、あくびの一つでもしているであろう早朝の時間帯で、彼らはなぜか慌ただしく動き回っていた。

 

「ミラ、どこにいっちゃったんだろう?」

 ジュードの声には、胸の奥に広がる不安が滲む。

 

 従業員に聞き込みをしたローエンが、腕を組んで報告した。

「従業員の話によれば、朝早くに一人で出て行ったそうです」

 

「昨日の様子じゃ、一人で無茶はしないと思うけど……」

 レイアは唇を尖らせ、心配そうに視線を泳がせる。

 

「でも、ミラだから……」

 エリーゼは小さく声を落とした。その言葉に込められたのは、尊敬と同時に拭えない不安だった。

 

「心配だよね……」

 ジュードの胸にも、嫌な予感が広がっていく。

 

 しかし、そんな不安を払拭するように、ジャンヌがきっぱりと口を開いた。

「とにかく、色々見て回りましょう。流石にひとりでイル・ファンに向かったということは無いでしょうし」

 

「だね」

 ジュードが頷くと、全員の視線が自然と扉の方に向いた。

 

 こうして、彼らは慌ただしくミラを捜索に出ることにした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 人々の喧騒で賑わう通り。朝市の屋台からは焼きたてのパンの香りが漂い、道端では子供たちが遊んでいる。しかし、そんな平和な風景の中で、ジュードたちの胸はざわついたままだった。

 

「あ、イスラさん。おはようございます」

 レイアが声をかけると、通りの角から現れた女性──イスラが微笑みを浮かべて近づいてきた。

 

「おはよう。昨日は大変だったわね」

 イスラは軽い調子でそう言ったが、その次の言葉が妙に不自然に響いた。

「でも、あなたたちは運がいいわ」

 

「は、はぁ……。でも、たくさんの人が亡くなったから……」

 ジュードは胸の奥に重苦しさを抱えたまま、慎重に言葉を返す。

 

「そ、そうよね。失言だったわ。ごめんなさい」

 イスラは小さく肩を竦め、表情を取り繕う。だが、その仕草はどこかぎこちなかった。

 

「あ、あの……ミラ、見ていませんか?」

 エリーゼがおずおずと問いかける。

 

「ミラさん、一緒じゃないの?」

 イスラの言葉に、エリーゼは小さく首を横に振った。

 

 レイアが補足する。

「一人でどっか行っちゃったみたいで」

 

「そう……あの人が……」

 そう呟いた瞬間、イスラの顔に一瞬だけ影が差した。黒い翳り──それは、隠しきれない何かの感情だった。

 

「イスラさん?」

 ジュードが訝しむように問いかけると、イスラはすぐさま、不自然なほど明るい声を作った。

「……あ! ご、ごめんなさい。残念だけど、私は見てないわね」

 

「そうですか……」

 ジャンヌが短く答え、空気にわずかな緊張が走る。

 

 その沈黙を切り裂いたのは、唐突に弾けるようなティポの声だった。

「思い出したー!!」

 

 おかげで「うわっ!?」とレイアが肩を震わせ、「な、なに?!」とエリーゼも目を丸くする。

 

「どうされたのですか? 急に」

 一方、努めて冷静だったローエンがティポに声をかけると、ティポは跳ね上がるようにイスラを見つめて声を出す。

「この人、エリーが初めて研究所に行った時にいた人だよー!」

 

 ティポの声はいつになく真剣で、その言葉に周囲の空気が一変する。

 

「研究所に行ったって……イスラさんと一緒に、ってこと?」

 

 ジュードが眉をひそめると、「えっ、何それ? 何の話し?」とレイアがジュードに食い下がる。

 

「実は昨日、エリーゼがどこかの研究所に居たって話を聞いたんだけど……」

 ジュードは言葉を選びながら説明すると、ローエンが顎に手を当て、静かに続ける。

「今のティポさんの発言で、それにイスラさんが関わっているのではないかということです」

 

 その言葉を皮切りに、一斉にイスラへと注がれる視線。

 市場のざわめきや遠くで響く商人の声が、妙に遠ざかって感じられるほどの圧迫感が漂った。

 

「え……? いったい、何の話を……」

 イスラは困惑したように視線を泳がせる。

 だが、改めてエリーゼの顔を見つめたその瞬間、瞳が大きく見開かれた。

「……まさか!?」

 

 誰もが息を呑む。

 

「何か、心当たりがおありで?」

 ジャンヌが冷静に問いかける。

 

「え!? い、いえその……」

 イスラは声を上ずらせ、露骨に動揺していた。

 その様子は、後ろめたいものを抱え込んでいると告白しているようなものだった。

「い、いえ、違うのよ。その……ごめんなさい。私、ちょっと用事があるから、これで失礼するわね」

 

 言葉を畳み掛けるように吐き出すと、イスラは顔を逸らし、慌ただしく踵を返す。

 

「あ、ちょっと!」

 ジュードが手を伸ばすが、すでに人混みの中にその背中は消えかけていた。

 

「行っちゃった……イスラさん、どうしたんだろう?」

 レイアが呟く。

 

 理由のわからぬ逃避。だが、それは確かに「逃げた」としか思えない早さだった。

 

「……」

 ジュードは沈黙しながら、その背中を最後まで目で追っていた。胸の奥に、言葉にならない確信が芽生えていく。

 

「なにやら、エリーゼのことを知っていたような振る舞いでしたが……」

 ジャンヌが静かに言う。

 

 ローエンもまた、意味深に目を細めた。

「ジュードさん……」

 

「……もしかして、ローエンも?」

 ジュードが小声で問いかける。

 

「はい」

 ローエンは即座に頷いた。だがその声音は抑えられており、他の仲間に聞かせたくない意図が透けて見える。

 

 女子たちが首をかしげる中、二人は自然と距離を寄せ、声を潜めて話し始めた。

 

「昨日、エリーゼが言ってた“研究所”って言葉……」

 ジュードの瞳はどこか鋭さを帯びていた。

 

「そして、何故か親元を離れ、こうして我々と共に旅をしている現状を考えるに……」

 ローエンは一度視線を落とし、低い声で続ける。

 

「……この事は、エリーゼ抜きで話した方がいいかもね」

 ジュードの言葉に、ローエンも同意するように頷く。

「はい。あの年頃の子に聞かせるには、少し刺激が強すぎるかと」

 

 その時、不意にレイアが首を突っ込んできた。

「……ん? 何コソコソ話してるの?」

 

「えっ……! あ、いや、その……」

 慌てるジュードの言葉が空を切りそうになった瞬間、ローエンが間に入る。

「後ほど、改めてお話しいたします。それよりも──まずはミラさんとの合流を急ぎましょう」

 

「そういえば……本来の目的は我が主を探すことでしたね」

 ジャンヌが真面目な声で頷くことで、ローエンの冷静な一言に助けられたと、ジュードは息をついた。

 

 

「そうだったそうだった!」レイアが手を打つ。「私たちの知らない所でアルクノアに襲われてたら大変だもんね!」

 

「そこはレイアじゃないんだから、大丈夫だよー」ティポが口を尖らせる。「ミラ君はおっちょこちょいじゃないもんねー」

 

「な、何言うのよ、ティポ―!」レイアが頬を膨らませて叫ぶ。

 

「もう……遊んでないで、早く捜そう」

 ジュードは溜め息をつきつつも、笑みを堪えきれなかった。

 

「わ、分かってるって」

 レイアが肩をすくめ、軽く頭を掻いた。

 

 一方で、エリーゼは小さな影を落としたような表情を浮かべていた。仲間たちの笑い声を遠く感じるほど、胸の奥に重たいものが渦巻いている。

 

「……」

 

 そんな彼女の沈黙を、ジャンヌが優しい声で破った。

「エリーゼ、気になる気持ちはわかります。ですが、今は合流を優先しましょう。気になる話はその後にでも」

 

「は、はい……」

 エリーゼは唇を噛み、うなずくしかなかった。

 

 こうして、まだ答えを得られぬ疑念を胸に抱えながらも──ジュードたちは再び、ミラを探して町の喧騒の中へと歩みを進めた。

 

お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?

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