「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を吐きながら、ジュードは地に伏した兵士を見下ろしていた。肩で息をしているのは疲労のためではなく、むしろ緊張から解き放たれた安堵のようで、自分の手で倒した――その事実に、ジュードはまだ現実感を抱けずにいるようだった。
「何やってんだろう……僕……」
自分に言い聞かせるような独白。握った拳がじんじんと痛む。
守りたくて動いたことに後悔はないはずなのに、それでも果たしてこれは正しい行為だったのかと、彼の心に残っているのは誇らしさではなく、不安と戸惑いだけだった。
「重ね重ねすまない。助かったよ、少年」
隣で涼しげに立つ女性の声に、ジュードは顔を上げた
「……いえ。どういたしまして。それより、急いでイル・ファンを離れた方がいいと思います。もう、あなたの事はバレちゃってるみたいですし」
「そうだな。……しかし、良かったのか? 私を助けるなど……」
視線が、倒れた兵士へと向けられる。
ジュードはその意味を理解し言葉に詰まる。なにせ、自分がしたことは、この国から見れば明確に「裏切り」であり、罪だったのだからと。
「それは……」
言葉を継げずに、視線を地面へ落とす。
未熟で、ただ流されるように行動してきただけの自分。答えなど出せるはずもない。
「……たぶん、ダメなんだと思います。こんなこと……」
「ならば……」
「だけど、ラフォート研究所で見たあの機械や、国家反逆罪だって言われたこと。それに――ハウス教授のことを含めたら、もう何を信用していいのかもわからなくなって……」
吐き出された言葉には、怯えや迷いが混じっていた。
研究所で失われた命。突然言い渡された罪人の裁定。そして、その奥底に潜んでいるであろう不穏な影。おかげでジュードは、もう何が正義で、何が悪なのか分からなくなっていたと、こんなことをしてしまっていた。
――だが。
それでも、その胸の奥に、小さな灯火のような意志が確かに揺れていた。
「でも、それでも一つだけ分かることがあります」
「分かる事?」
「はい。……あなたがやろうとしていることは、きっと正しいんだろうなってことです」
真剣な眼差し。そこに女性のような自信はなかった。
けれど、その未熟さを押し隠さずに、まっすぐ差し出した言葉は、むしろ強い響きを持っていたと、女性の眉がわずかに動いた。
「四大精霊を助けようと無茶しようとしたこともそうですけど、ハウス教授をあんな風にした機械を止めようとしているんですから。だから僕は、そんなあなたの力にって……その……」
言い切る前に言葉が濁る。
力になる、と胸を張って言えるほどの自信が自分にはない。けれど――それでも放ってはおけない。
その少年らしい危うさを含んだ決意を前に、ミラはふっと微笑んだ。
「そうか……。君はお節介だな」
「よく言われます」
恥ずかしそうに笑う顔は、ある意味では未熟さの象徴だったが、同時にその真っ直ぐさこそが彼の武器でもあるのだろうと女性。
「フフッ。だが感謝しよう。そして、約束しよう。私は必ずなすべきことをなすと。そして、君の住むこの世界を必ず守ると」
ジュードに向かって決意新たに言葉を紡ぐと、ジュードもホッとしたように、而してやはり物言いのスケールが大きいなと困惑しつつ、そういえばまだ彼女の名前をちゃんと聞いていなかったと尋ねることに。
「あ、ありがとうございます……えっと……」
「ミラだ。ミラ=マクスウェル」
「本当にあの、マクスウェルなんですね」
「最初からそう言っているだろう?」
「あはは……そうですよね。ごめんなさい。僕はジュード。ジュード・マティスです」
「ジュードか。今日は本当に助かったぞ」
「いえ、どういたしまして。それはそうと、船着き場の場所、分かりますか? 良ければ人目に付かないで行けるルートを案内しますけど……」
「そうだな。ではよろしく頼む」
「はい。分かりました」
「そう畏まらずともいい」
「はい……じゃなくて、分かったよ」
差し出された手と手が、強く握り合わされる。
温かく、確かな握手。それは、互いの信頼を結びつける小さな誓いのようでもあった。
しかし、握った自身の手にはまだ少し震えがあったとジュード。けれど、ミラと名乗った女性の震えのない手に励まされるように、次第に震えを克服していった彼は、彼女を先導するためと、手を離した後に、兵士に見つからぬよう足早に街を抜け、海停を目指して歩き出すのだった。
お聞きしたいのですが、1話何文字ぐらいが読みやすいでしょうか?
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