P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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「年収○○以下はお呼びじゃないわ」
「月○○万とってこない男はクズね」

こんなことをほざく相手には、心情的にドロップキックをブチかましてやりたくなります。








山田真耶は憂鬱 そのご

山田は誘惑に抗えぬままゆっくりと魔法の水に手を伸ばす。

そしてそれに正に触れようとした瞬間……。

 

「それでいいんですか?」

正面の少年がキツイ声を発した。

 

「そうやってまた酒に逃げるんですか?」

唖然とする山田に眼光鋭く少年は続ける。

 

「逃げるのか?逃げ続けるのか?そしてアルコールが頭に回るのを待つのか?その酔っ払ったもう一人の自分が代わりに現実と闘ってくれるのか?」

「あの……」

「そんな都合のいい話は何処にもありはしないぜ真耶。いや、センセー!」

 

どこぞの(21)のような台詞をほざき続ける一夏に、山田は逆に冷静になった。

 

何言ってんだよ、ついさっきまで飲め飲め言ってたのはそっちだろ。

山田はツッコミを入れることで自分を取り戻す。やはり酒でコヤツのような支離滅裂野郎になるのはマズイ。彼女は魔法の水へ向かっていた手を止めて、大きく息を吐いて深呼吸をした。

 

とはいえ一夏の急な『真耶』呼びにドキっとしたのは秘密にしとこう。本当にイケメンって卑怯だと思う。

 

「誰もが辛い事情を抱えてるんスよ。センセ……」

「それでも織斑くんには分かりませんよ。私の、女の苦労なんて」

 

尚ドヤ顔でほざく一夏を遮るように、山田がやるせなく呟く。

乳における苦労、男なぞに分かってたまるものか。

 

「町に出ても、何もしてないのに歩いているだけで性的な目を向けられる。その辱めが分かりますか?」

「そう思うなら、普段からそう感じさせない服でも着ればいいじゃないスか」

 

しかし鬼畜王は動じない。

 

「センセも何やかんや言いつつ、夏なんて胸を強調した服着てたし」

「そ、そんなこと……!」

「ありますよ。胸の谷間が強調された服装。全く意識してなかったとは言わせませんよ」

「うっ、それはファッションの一環というもので……!」

「出たよファッション。女はそれさえ口にすれば何でも許されると思ってません?ざけんな!」

 

ガン!

一夏が急に憤るように両手をテーブルに振り下ろした。

 

「授業でも身体のラインがはっきり出る、ふざけたエロレオタードみたいなモン着やがって」

「し、仕方ないじゃですか!あれは決められた正装ですよ!」

「ISなんて絶対防御があるっつっても、その用途はどうしようもない兵器じゃないスか。あのにあんな痴女みたいなカッコで戦うなんてアホじゃねーの?」

「そんなこと私に言われても……」

「俺にしてもなんで腹出したあんな恥ずいカッコしなきゃならねーんだよ……。男は宇宙服のようなゴツゴツに憧れても、あんなピチピチスーツなんてお呼びじゃねーんだよ!男のロマン勘違いしてんじゃねーよ!こっちにもコスチューム選べる権利くらいくれたっていいだろうが!」

 

そもそもISは男性操縦者なんて想定していなかったんだから仕方ない。山田は苦い顔で思った。

オンリーワンなYOUが異常なんですよ。

 

「あんなトンデモ技術なら、別に普通の動きやすい服とかの上からでも装着出来るだろ……」

「あの、わたしたちだって皆がみな好きであのカッコしている訳じゃないんですよ?胸とかだって窮屈だし」

「胸が窮屈?ふざけんなっての。こちとら股間がどんなに窮屈か分かりますか?あんなピチピチスーツじゃ、はっきりと形に出ちまうから勃○も出来ない不自由さを。なのにクラスメートのあんな卑猥な格好を、強制的に見せられる男の気持ちがセンセに分かりますか?ええ?」

「……えっと」

「なのに奴らはあからさまに身体を密着してきやがる!あまつさえ距離を置こうとする俺に向かって「ホモ」だの「不感症」だの陰口言いやがるんだ……。ふざけんなよ、鋼の精神力で必死に耐え抜いてるんだよ本当は!おかげで自室のトイレはいつもこの店の名前と同じ臭いだよクソッタレが!」

 

聞きたくなかったなぁそういうの。

山田は今は過ぎ去りし青き果実な年頃の叫びを何ともいえない気持ちで聞いた。

 

「そもそも何だよあの学校。エリート学校気取ってんなら格好からきちんとしとけよ。服装を以ってわが身を省みるという常識を知らねぇのかよ」

「へ?服装?」

「あの制服ですよ。制服!」

「は、はぁ」

 

一夏は怒りを鎮めるように額に手をやり、そして一息ついてから語りだす。

 

「休みに入る前も、学園で偶然楯無さんのパンツを見ちまったことで、いつもの面子に、エロ夏呼ばわりされた挙句の集団リンチですよ……。じゃあ見られないような制服着ろってんだよ。セシリアのロングや、ラウラのズボンタイプが許されているんなら、それは充分可能だろうが。なんで俺だけ、男だけがこんな目に……せめて簡単には見えないような丈のスカート履けっての」

「それはその、生徒の自主性を重んじると言いますか、ファッショ……って、ヤバッ」

「ほーらファッションでしょ?それさえ出せば男が受ける二次被害なんて忘却の彼方だ」

 

一夏がそれ見たことかと言う風に冷笑する。

 

「屈んだだけでパンツ見えるようなミニ履いといて、見られたら男の責任オンリーってどうよ?」

「そんな一方的に男性を責めたりなんてことはしませんよ……」

「あんたバカ?この腐った世界になって冤罪事件がどんだけ増えたと思ってンだ。このうしちち」

「酷い言い方しないで下さい!」

「電車ではどんなに揺れが激しくても、男はずっとホールドアップしてなきゃ訴えられてブタ箱行きなんだぞ!こんな理不尽があるかよ、ちきしょう……」

 

そもそも女尊男卑の世界は自分の責任じゃないやい!山田は切に思った。

 

「IS学園にしても、クソみたいな決まりごとあるにも関わらず風紀は変なとこで緩い。何なのあの学園?」

「それは……他国の異なる文化、考え方、人種、そういった世界各地からの人が集まる学園ですし。風紀に関しては一様には……」

「あんだけスカート短くする学校なんて世界見渡しても日本だけだっつーの」

「ま、まぁ生徒の風紀に関しては、これはおそらくどこの学校も永遠のテーマでありましてですね」

「何が風紀委員だよ。生徒の素行を風紀する前に、自分らのスカートの丈でも風紀しとけよ」

 

一夏はやるせなく呟くと、一気にグラスを煽る。

まるで世の「最近の若い女性はなっとらん!」と不満タラタラのオッサンの愚痴じゃないか。山田は教え子の心に巣くう闇に戦慄した。

 

「ところでお見合いがダメになった要因に心当たりあるんですか?」

「へ?」

 

急に話が変わったことに間の抜けた声を出す山田。しかし話の移り変わりは酔っ払いの十八番である。

 

例えば「あれだから景気が回復しないんだ!」とテレビを見ながら政権についての政治批判を行っていたと思ったら、いきなり「あの店の○○ちゃん最高ー!」と何の脈絡もなく店で知り合ったねーちゃんの話題をしてくる。おそらく本人も何言っているのか分かってないのではないだろうか?それがTHE酔っ払い!

 

とはいえこれは渡りに船。これ以上愚痴られて自分に飛び火する前に、話を変えるチャンスかもしれない。

 

「そう言われても特に思い浮かびませんよぉ」

「マジで?天然ぶりっ子の先生がアホな失言以外で、男にお断りされるなんて考えにくいんですが」

 

この野郎……。

やっぱ一発殴ってやろうかな。

 

「何か変なこと聞いたんじゃないスか?女性歴とか性癖とか」

「そんなこと聞いていませんよ!……そこまで行く前に終わっちゃいましたし」

「ありゃりゃ。で?じゃあ相手とはどんなこと話したんです?」

「一般的なことだけです。えーと……年齢に職業、学歴に趣味とか。……あ、それと年収……」

「年収?年収ねぇ……。あのさセンセー」

「はい?」

「先生の年収ってどんだけなんですか?」

「は?……って、そんなの言えるわけないじゃないですか!」

 

山田が大慌てで手を振る。

 

「大丈夫ですよ。誰にも言いませんから」

「無理ですよ!何言ってるんですか!」

「そこを何とか」

「言えません!」

「ふーん。ところで俺誰かさんに酒を強要されたっけなー?誰だろー?これって外部にバレたら大問題だよなー。山田先生もそう思いません?」

 

ジーサス。

神は死んだ。

 

「さ、センセ。キリキリ吐いちゃってください」

「ううっ」

「さーて電話どこにあったかな?」

「……世の同年代の一般年収と同じくらいですよ」

「ウソはいけませんね」

「ウソじゃないです!私はただの公務員ですよ!」

「俺の姉は何か忘れてません?大体見当ついてるんですから」

「くっ……!」

 

ビールを手にニタニタ笑う鬼畜の姿が憎らしい。

 

「ホラ先生~。誰にも言いませんって。言える訳ないのは俺も同じですから~」

「……」

「センセー」

「……だいたい『禁則事項』くらいです」

「ぶほっ!」

 

一夏が飲んでいたビールを吐き出す。

 

「きゃっ!服にかかったじゃないですか!」

「『禁則事項』?年収『禁則事項』?先生そんなに貰ってんの?ウソでしょ?」

「いや、あの……」

「カマかけただけだったのに……マジかよ」

 

おい今なんて言った?

 

「織斑くん私を騙したんですか!」

「んなことどーでもいい。ってかなんでそんな貰えんの?公務員でしょ?」

「そりゃ表向きはそうなってますけど……。やっぱり色々な『手当て』が付くわけでして……」

「なんだよそれ……」

「でも!世界で唯一のIS専門学園の教員ですよ私?それに一応元日本代表候補ですし、多少はお給料に色が付いても、それは仕方ないと……」

 

何言い訳してるんだろう?

山田は自分にツッコむ。別に犯罪なんかじゃないのに。

 

一夏は答えず黙って俯く。

その様子に山田は急に不安になった。

 

「で、でも別にそんな天文額的な数字でもないでしょ?年収『禁則事項』なんて」

山田が取り繕った笑顔で言う。

 

「世の中には私の年代でこれより貰っている女性がゴマンといますよ!」

更に続ける。

 

「えっと……ISの国家代表クラスの人でしょ?それに芸能人に一流モデルさん。スポーツ選手に、そうそう、起業して成功した人なんかも凄いらしいですよ?それに……何だろ?とにかく沢山いるんですよ!」

 

沈黙する一夏に必死に弁明を続ける。

彼の表情が見えなくて、山田の変な不安は大きくなる。

 

「そもそも普通の会社員だって、一流企業ならくれくらい貰ってますよ織斑くん。きっとね」

「……ハァ?」

「ですから別におかしくないんです。だから最低でもそれと同等の年収を相手方に求めるのは至って当然ですよね?大人なんていつまでも夢見る少女じゃいられないんですから。私もそんな理想高くはないと思いますが、経済的にやっぱりある程度の……」

「FUCK YOU……ぶちのめすぞ先公」

「お、おりむらくん?」

 

一夏の豹変に山田が目をむく。

 

「アンタさぁ、世の男たちが額を汗に金を稼ぐその辛さを分かって言ってんのか?」

「え?」

「年収『禁則事項』だと?ざけんなよ!そこまで貰うのに普通は何年勤めればいいと思ってんだ!」

「そ、そんなこと言われても」

「アンタみたいに『ぬるま湯』に浸かった女には、世の働く男の苦労なんて分からねぇだろうよ」

「なっ、ふざけないで下さい!私は社会人です!働く辛さは織斑くんの何倍も分かってますよ!」

 

山田がここで声を大に否定する。さすがにお気楽な身分の学生にそこまで言われる筋合いはない。

 

「この女尊男卑のご時世で何言ってんのやら」

「うっ、確かに女性に有利な社会情勢になったのは否定できませんが、それでも……!」

「アンタが望む年収稼ぐのに男はどんな苦労してるのか知ってんのか?」

 

一夏がやるせなく頭を振る。

 

「周りがゲームやら遊びやらに現を抜かしている中、毎日必死にお勉強。受験戦争に勝ち抜き一流大学に入学も、そこは断じてゴールなんかじゃない。そこで資格の取得や社会に出るための準備に備え、入って3年も経てば早就職活動。毎日足を棒にして会社を回り頭を下げ続ける日々が実り、やっと掴んだ上場企業の内定。でもホッとするのもつかの間、ここからが本当の地獄……!」

 

「会社に入れば否が応にもすぐ気付く同期との出世戦争。まだまだ自制しなければならない!ギャンブルにも、酒にも女にも溺れず、仕事を第一に考え、ゲスな上司にへつらい、得意先にはおべっか。接待の場では飲めない酒でも胃に流し込み、笑顔を振りまかせる。遅れず、サボらず、ミスもせず、毎日朝から深夜まで家畜のように働き続ける日々……!」

 

「そんな生活を続けて十余年。気が付けばもう若くない……。そんな失った己が青春に時に黄昏ながらも、同期、先輩後輩との出世戦争を勝ち抜き、部下と責任を携えるようになって、初めて到達する年収が『禁則事項』なんだ!」

 

一夏は一気に語り終えると、手に持った酒をグッと飲み干す。

 

「分かるか……?年収『禁則事項』は大金……途方もない大金なんだ……!」

「あ、あの」

「そんな『禁則事項』の年収を、相手にも当然のものとして求めるなんて、アンタは身の程知らないアラフォーかっての。顔を洗ってクソして寝とけよマジで。どんだけ望む男の偏差値高いんだよ」

 

何なのこの子?もう嫌……。

山田は目の前の少年が遠くなっていく感覚と、築き上げてきた常識が崩れていく錯覚を覚える。そして不意に襲ってきた頭痛と共に、現実逃避という願望に再度支配されるのを感じていた。

 

目の前には酒。全てを忘れさせてくれる魔法の水。

 

酒!飲まずにはいられない!

全てをかなぐり捨てた山田には、もう心が魔法の水へと向かうのを止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで誰の受け売りですか?さっきの」

「ん?先週の日曜の朝にやってた『中間管理職利根川さんの主張』ってテレビ番組」

「ああそう……」

 

人間、人それぞれです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これは私だけかもですが、私はマンガやアニメでの「もはやスカートの役割果たしてねーだろ!」というくらいのミニスカートは好きではありません。
しかも真面目な委員長体質の子が、こういう制服をその身に、風紀を語ったりするのを見ると、一言言いたくなります。「君らのスカートは風紀的にどうなんだ?」

T○ L○VEるの小手○さんとか、リ○バスの佳○多さんとかを見ると思ってしまいます。
風紀って何だろう?


あと年収って何だろう?


……世の中には分からないものが多すぎますよ……。


ただ1つ。男性に言いたいことがあるように。
女性側にも言い分があるのです……。


さて、当初の予定より長くなりましたが
次回で山田編は終了の予定です。  


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