P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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ドラクエⅠ、Ⅱ、Ⅲの繋がりを知った時は驚いたなぁ。
そう来たか!と。うーん、やっぱ凄い。


幼馴染共のごちゃまぜヤミ鍋定食Ⅲ ~そして酢豚へ~

友とのささやかな安らぎの一時を過ごした一夏であったが、当然別れが来る。一夏は少し重い気分で自らが今現在住んでいる、正確には強制的に住まされているIS学園という魔境への帰り道をだらだら歩いていた。

 

「はぁ……」

日曜のサザエさんを見るサラリーマンのようなため息を吐き出す一夏。

 

長い休みでも入らない限り、弾や数馬など中学の友達とはそう滅多に会えるものではない。会えばアホらしい話と愚痴しか言ってないような気もするが、それでも気兼ねなくそんな話が出来る友達としばらく会えなくなることに、どこか虚無感が襲った。

 

……ラーメン美味かったなぁ。

舌に弾が作ってくれた味噌ラーメンの味が残っていて、一夏は小さく舌なめずりした。弾があんなに上手にラーメンを作れるとは思わなかった。伊達に食堂の息子をやっている訳ではないのかもしれない、一夏はそうして愛すべきアホの友人を切なげに思い浮かべた。

 

旧友と遊んで思わぬラーメンに出会ったものだ。

一夏は一人小さく笑うと、立ち止まって空を仰いだ。そしてそのまま暫し目を瞑る。頬を撫でる風が心地よかった。

 

「あー!」

「むっ!」

 

聞き慣れた声に彼のシックスセンスが警告を鳴らした、ような気がして一夏は恐る恐る目を開けた。前方にはこちらを指差す酢豚こと鈴ちゃんと、モッピーこと箒さんの、幼馴染ーズの姿。

 

「げっ」

思わず心境がそのまま言葉となる。

 

こちらに猛然とダッシュしてくる幼馴染ーズを目に捉え、一夏はため息を吐く他なかった。

帰り道に思わぬ酢豚に出会ったものだ。つーか今はノーサンキュー、ノースブタだってのに。

一夏は独り引きつった笑みを浮かべると、あきらめたように再度空を仰いだ。

 

 

 

 

「一夏!アンタこんなとこで何してんのよ!」

「千冬さんの用事はどうしたんだ?」

 

幼馴染ーズの問いに一夏は黙り込む。正確には瞬時に言い訳が思い浮かばなかった。

 

「……ねぇ一夏。今日ホントに千冬さんの用事だったの?」

 

黙り込んだ一夏を見て、怪訝そうに鈴が尋ねる。

ヤバイ、一夏の額に冷や汗が滲んだ。

 

「一夏?あたし質問してんだけどー?」

「答えろ一夏!」

 

箒も恐い顔で追随し、一夏のライフが更に削られる。

 

「いちかぁー?」

「二人ともせっかくだから少しお茶しないか?まだ時間あるだろ?」

 

迫ってくる鈴をかわし、一夏は逆にお誘いをする。

どうすれば女性の機嫌が直るのか、どのようにすれば上手く危険を逸らせるのか、それは魔境で過ごす内に鈍感の一夏君が、自ずと少しずつ学んできた生き残る為の術であった。

 

「こうやって幼馴染三人で過ごすのも久しぶりだからさ。なんか嬉しいし。いいだろ?」

 

主人公補正がプラスされた、天下のイケメンスマイルで言う一夏。

それに対する幼馴染の二人はというと……。

 

「しょ、しょうがないわね。アンタがそこまで言うなら付きやってあげてもいいわ!」

「全く仕方ない奴だ。私もヒマじゃないんだがな!」

 

お決まりのチョロインぶりである。

 

うわぁ、相変わらずツンデレって面倒くせー。

一夏はその様子を見て、弾との会話を思い出し、少し辟易する。

 

「そう。良かった。じゃあそこのファミレスにでも入ろうか?俺が奢るよ」

 

しかしそんな思いは顔に出さず、イケメンスマイルのままでお姫様二人をエスコートする一夏。

世のモテる男性はそうやって人知れず苦労を重ねているのである……。

 

 

 

 

「ふーん。弾と会ってたんだ」

「ああ。千冬姉の用事が思いのほか早く済んだんでな。それで少しだけ会って話してたんだ。誤解させて悪かったな」

 

ファミレスに入り、彼女達の機嫌が上昇したのを見計らい、一夏はここに至るまでの現状を話し始めた。勿論馬鹿正直にありのまま話すのではなく、ウソも交えながら。

完全に話をでっちあげるのではなく、真実の中に自分にとって都合のいい嘘を交えて話すこと。それが浮気がばれた際に熟練者が用いる言い訳の極意なのである。

 

「お前らの方こそずっと一緒にいたのか」

「まぁね。このストーカーさんが何かと絡んできてさぁ」

「ぶっとばすぞ酢豚」

 

ガンをつける箒の迫力に、近くに座っていたカップルがそっと席を立つ。

本当にすみません。一夏は心の中で謝罪し、小さく頭を下げた。

 

「アンタさぁ。そうやって凄む癖、止めた方がいいわよ?」

「うるさい」

「せっかく元はいいのにさー。いつもムスッとしてるから敵を作るのよ」

「つまらない奴らのことなんて知ったことか。勝手に好きに言ってればいい」

「そうやってアンチ作って、結局傷ついてんのは誰よ?全く……」

「一夏の前で変なことを言うな!」

 

箒がいつもの怒鳴り声を響かせ、騒がしかった周りが一瞬沈黙に包まれる。

その後「修羅場だ修羅場」「あの男が浮気したみたいよ?」など謂れのない中傷が聞こえ、一夏は絶望した。

 

弾よ、お前はこれでも俺の境遇が羨ましいと思うのか?

一夏はここに居ない友にそっと心で問いかける。それでも一夏は心で泣きながらも、表面上は引きつった笑みを浮かべ「まぁまぁ」とファースト幼馴染を諌めた。

 

主人公ってやっぱ気苦労しかねぇよ……。

そんな思いを噛み締めながら。

 

 

 

 

「TOLOVEるだって?」

ようやく箒の怒りが少し収まったのを見計らい、別れてからの二人の行動を鈴から聞いていた一夏は思わず声を上げた。

 

「そう。さっき箒と話してたの。というよりリトさんについて」

「マジかよ……」

「なによ一夏。どうかした?」

「え?いや何でもない」

 

まさか自分たちもTOLOVEるのアニメで盛り上がっていたとは言えない。

偶然って怖いなぁ。一夏は幼馴染同士の妙な繋がりを不思議に思った。

 

「しかし、なんでまたそんな話題になったんだ?」

「……まぁ色々あったのよ」

 

鈴が箒をチラ見して答える。

箒はムスッとしたまま動じず、黙り込んでいる。

 

「一夏はあの作品どう思う?」

「はい?その、えっと、嫌いではない。さほど好きでもないけどな」

「そうなんだ。じゃあ特にヒロインで好きなのとかないんだ?」

 

「まぁ特には……だが敢えて言うならやっぱ春菜ちゃんが一番と言わざるを得ないだろう。元祖ヒロインだし。でも元祖ヒロインと言えば、もう一人のララもダークネスに入ってから魅力が急上昇だよ。出番自体は減ったけどお姉さんな所が出て来て凄くいい、素晴らしい。ディ・モールト!でも残念な所はルンがより一層目立たなくなったことだ。それだけがダークネスの不満だな。くそっ!なんで皆ルンちゃんをdisりやがるんだ!誰も分かっちゃいない、あの子がどんなに魅力的かを。それにさ……」

「オーケー。もういいオタク野郎」

 

一夏の熱き想いに引きまくった鈴が止めに入る。

何が「さほど好きでもない」だ?このバカは。

 

「すまん。つい……。べ、別にそんなに好きな訳じゃないんだが……」

「どの口で言うの?今のアンタ、最高にキモイわよ」

 

鈴が冷めた目で冷たい言葉を吐き捨てる。

 

 

 

これに限らずオタクというのは、普段無口の癖に何故好きなアニメ、マンガなど得意な分野のことになると熱く早口に語り始めるのだろうか?これは世の一般人が思うオタクへの七不思議の一つであるらしい。

 

人は好きなことについて誰しもその話題を共有したいと思うものである。ただそれは内容によるというのを常に考えなければならない。例えば新郎が花嫁の自慢をするのと、オタクが二次嫁の自慢をするのとでは、当然のことながら受け取り方の印象は天と地ほどの差が有る。

 

「○○君って得意な話題になると急に滑舌良くなるんだね」

ってことを言われないようにする為にも、見に覚えのある方は、好きな話題に触れた時でも常に冷静に自分を省みることを大切にしましょう。

 

 

 

「まぁ一夏がキモイのは分かったとして、要はアンタってあの春菜みたいな子が好きなんだ。ふーん……」

「いやその、俺は」

「何よ?」

「……何でもない。もうそれでいいよ」

「あの子のどこがいいの?」

「お前なぁ。……どこって別に。ただ、大和撫子みたいな子、だからかな?」

「ほ、本当か一夏!」

 

そこでずっと黙って聞き耳を立てていた箒が勢いよく立ち上がった。

 

「お前の好みは、ナンだ、日本古来の良き女性、即ち大和撫子みたいな娘なのか?」

「え?は、はぁ。まぁ……」

「そうかそうか!やはりそうだろうな!大和撫子、いいじゃないか!」

「あのー。箒さん?」

 

一人ドヤ顔でうんうん納得する箒に一夏が少し引く。そんな彼女に蔑みの視線をプレゼントしながら鈴は思った。

お前じゃねーから。大和撫子というポジにオメーの席はねーから。

 

「なんだ鈴その顔は。文句があるのか?」

「おめでたいなぁ、と思って」

「何だと!」

「何よ」

 

そこでまた睨み合う二人を見て一夏が頭を抱える。

いい加減にしろよ、どうしてTOLOVEるのようにヒロイン同士仲良く出来ないんだ。

 

「箒ちゃーん。さっきまでアンタの愚痴を聞いてあげてたのは誰ですかねー?」

「なっ……!ふん、押し付けがましいな!流石何もかもが中途半端な人間は器量も小さいようだ」

「何ですって!」

「ISにしてもそうだ。近距離、遠距離とも決め手がなく中途半端。そんなんだからお前はよく二軍行きと陰口を叩かれるんだ」

「このモップ!調子に乗って!」

 

鈴ちゃん遂に大激怒。密かに気にしていたことを言われ爆発する。

 

「接近戦オンリーのイノシシが何を言うっての!」

「ほう」

「近づいて剣を振るしか能のないクセして!芸がないのよアンタの戦いは!」

 

それは俺のことも暗に馬鹿にしているのだろうか?

接近戦しか出来ない男、織斑一夏はセカンドさんのお言葉に軽く落ち込んだ。

 

「接近戦しか出来ない?いいじゃないか。結構なことだ」

しかし箒は余裕の表情を浮かべる。

 

「はぁ?何言ってんの箒。負け惜しみ?」

「日本には古来よりこんな言葉がある『レベルを上げて物理で殴ればいい』」

「あれ?箒それって2010年のクソゲーオブ……」

「つまり単純な物理攻撃も極めればそれだけで充分なのだ。どこぞの尻のような遠距離からのちまちました魔法、即ちビーム攻撃なぞ必要ない。近づいて強烈な一撃を喰らわせる!それでいいんだ」

 

一夏の疑問を無視して箒が熱く語る。

無視された形の一夏であったが心は軽やかだった。そうか、俺の戦い方は間違ってないのか!

 

「戯言を……!」

「じゃあお前の方はどうだ?接近しては適当に青龍刀をぶん回し、距離をとれば、あのパチモンをぶっ放すだけの戦い方だろうが」

「パチモンじゃない!龍咆!」

「そうそう龍咆だったな。確かアニメではより煌びやかな感じだったなぁ?うらやましいぞ鈴」

 

このアマ……!

箒の皮肉に鈴は屈辱に襲われる。アニメでは演出の都合上、見えない砲撃であるはずの龍咆がただのビームにしか映らなかった苦い記憶が蘇ったからだ。

 

「ほうきぃ……!」

「フフフ」

 

鈴が震え、箒は嘲笑う。

一夏は胃が痛くなる。

 

 

 

IS学園が誇る幼馴染ーズ御一行に、今不穏の空気が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





Q 賢者に転職したいんですけど、現実でのダーマの神殿って何処にありますか?
A ハロワです。


Q 魔法使いに転職したいんですけど、どうすればいいですか?
A 今のままを貫いてください。オタクが30を超えれば大抵の方は立派な魔法使いになれますよ。



もはや純粋にゲームを楽しんでいた、ピュアなあの頃の自分には戻れない……。

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